表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/16

13

「身体は大丈夫ですか、レイモンド?」

 風で舞い上がりそうになる外套のフードを押さえつけながら、レイモンドはセイルの問いにこくりと頷いた。

「君にもらった聖水のおかげか、ここ暫くで一番元気だよ」

「そう、ですか。それは良かった」

 後ろにいるセイルの顔をこっそりと見上げれば、その顔はほんのりと赤い。レイモンドもそれを見て、つられるように頬に熱が灯る。

 聖水――、苦しさで夢現のレイモンドが、セイルに口移しで飲まされた液体がそれだった。

 聖女の力が籠められた水を聖水と呼ぶらしいが、アンの作ったそれは、類稀な治癒力を持っていた。それによって今のレイモンドの身体には、何の不調も無い。

 ジェインによると、これから先急激に起こるであろう身体の成長により、痛みが出るかもしれない、とのことだったが、今のところそれもなかった。

 聖水のことを思い出せば。自然とあの日の口付けまで想起させられる。レイモンドはなんと言えば良いのか分からず、無言になる。

 事故、というには、その記憶はあまりに鮮明で、「もっと」と自分からねだった事まではっきりと記憶にあった。

 お互い無言になれば、馬の足音だけがはっきりと聞こえる。

 今レイモンドは、セイルと共に、大聖堂を目指して馬上の人となっていた。

 一度は逃げてきてしまった。だが、あの場所に愛する妹を独りきりで置いておくなど、レイモンドにはとてもできることではなかった。そして何よりも――

「決着を、つけなければ」

 レイモンドの囁くような声が聞こえたのか、そうではなかったのか、セイルの手綱を握る手にも力が籠る。

「レイモンド、もうすぐです」

 目指すは大聖堂前の広場。その前にはもう既に人だかりができている。

 その中でも一段高い場所に経っているのはレニールは、聴衆を前に口を開く。

「――ここに今、新たな聖女が降臨された」

 手を広げ、謳うように告げるレニールの傍には見知らぬ少女がいる。その額には聖女の証である花模様が刻まれている。

「――っ」

 レイモンドが反射的に反論を口にしようとした時、ふとレニールと視線が合った気がした。彼はニヤリと笑う。

「いや、真なる聖女は長きに渡り妨害を受け、顕現できなかったのである。その障害こそ――」

 レニールがスッとレイモンドを指差した。その指に人々の視線がこちらへと向く。その瞬間、風のいたずらか、強い風が吹いて、フードが隠していたレイモンドの顔が露わになり、長い銀髪が空に舞う。

「そこの男――、十年に渡り聖女を騙った罪人である!」

「っ!」

 長い銀髪に青い瞳。それは誰もが知っている、今代の聖女が持つ色である。

 それが露わになった以上、もう決して言い訳はできない。

 さあどうする。

 そう言いたげに、レニールが嘲笑を浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ