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「お兄さま、それに触っちゃダメ!!」
幼い妹の叫び声が聞こえた時には、全てが遅かった。
ああ、なんて迂闊なことをしたのだろう。
動きの鈍い身体を引きずるように床を這って、倒れたまま動かない妹の手を僕は掴んだ。
「アン……」
部屋のテーブルの上に置かれていた壮麗な装飾の施された箱は、なにか良くないものだったらしい。
それに触れようとしていた僕の手を、彼女は叩き落として箱に触れてしまった。
「アン、目を覚まして……」
きっと僕もその「良くないもの」の影響を受けているのだろう。身体を蝕むような、だるさが襲ってくる。
意識を保っている僕でさえこうなのだから、妹はこのままでは死んでしまうのではないだろうか。
ピクリとも動かぬ彼女の手を握りしめる。
どうか神様、僕はどうなったっていいから、妹だけでも助けて――。
その願いは届いたのか、それとも届かなかったのか。
その真偽はわからぬまま、僕は意識を失った。