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明け方の自宅で三島さんは自殺したそうです。
事情を聞いてみると、遺体が不可解な状態だったことが判明しました。
三島さんは、口から生きた金魚を溢れさせて窒息死していました。
胃の中では数十匹の金魚が泳いでいました。
ようするに金魚を丸呑みしすぎて亡くなったのです。
私は遺体を直接見たわけではないですが、これが異様な死であることは間違いないでしょう。
ディレクターの加藤さんは怯え切っていました。
彼は心霊番組を収録したことをひどく後悔していました。
メンタルも病んでしまい、連絡が取れなくなりました。
その二日後、加藤さんは死亡しました。
頭部を郵便ポストに突っ込んだ状態で餓死したのです。
あの隙間にどうやって頭部を収めたのでしょうか。
物理的に再現不可能な状況に加え、目撃者が多数いたことで加藤さんの死は大きな事件として取り沙汰されました。
発端とも言える番組についても協議され、放送延期が決まりました。
ただ、このままだとお蔵入りになるでしょう。
プロデューサーとディレクターが相次いで亡くなったのですから仕方ありません。
偶然で片付けるには不審な点が多すぎました。
そして、これ以降も被害は止まりませんでした。
お笑い芸人を演じた石原さんの遺体は、都内マンションの下水道から折り畳まれた状態で発見されました。
彼は数時間前、九州地方の居酒屋にいたそうです。
グラビアアイドルを演じた桃田さんの遺体は、ゴミ収集車の中から発見されました。
ただし右手と肝臓だけ自宅のベッドにあったそうです。
死因は凍死でした。
大学教授を演じた地井さんの遺体は、満員電車の座席で発見されました。
地井さんは眼球と歯が綺麗に抜き取られていたそうです。
死因は老衰。
まだ三十四歳でした。
出演者の他にも、番組スタッフが次々とありえない死に方をしていました。
ここまで来たら原因は明白です。
私はこの悪夢の連鎖を断ち切るために調査を始めましたが、すぐさま難航してしまいました。
諸悪の根源である呪物が行方知らずなのです。
亡くなった番組スタッフの誰かが処分したらしく、調べようがありませんでした。
困った私は、燐源さんの自宅を伺うことにしました。
この状況を解決できるのは彼しかいません。
オーディション時の資料から住所を突き止めて急行しました。
移動中に訪問の旨をメールし、何度か電話もしましたが、燐源さんから応答はありませんでした。
既に手遅れかもしれない。
そんな予感を抱きつつ、他に何もできないので移動をやめませんでした。
燐源さんは近畿地方の小さな民家に住んでいました。
インターホンを鳴らしても誰も出てきません。
しばらく待ってから玄関を確認すると、扉の鍵が開いていました。
私は挨拶をしてから家の中に入りました。
燐源さんは寝室にいました。
ぐずぐずに濡れた布団から顔だけ出しています。
布団の膨らみが異様に小さく、まるで手足がないように思えました。
私を見た燐源さんは単刀直入に助言を与えてくれました。
数分の会話の後、彼は寝息を立て始めました。
それ以上は収穫もないと悟り、私は家を出ました。
燐源さんの訃報を聞いたのは、一週間後の夜でした。