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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
宮廷追放

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4 人生いろいろ

有休休暇0日目

 人は死ぬ間際、五つ後悔すると言われている。


 凡人のわたしはやっぱり後悔することがありました。


 一つ目は身体を大切にすれば良かった。

 身体は資本というけれど、もっと健康的な生き方をすれば良かった。

 趣味やグループ活動、興味のあることはいっぱいあるのに今は仕事優先と思ってきた。

 定年退職するくらいには、落ちついて出来るだろと。でもそれより先に死んだら元も子もないってことに転生してから気がついた。

 無理がたたった後悔。

 心身ともに健やかに保つには、休める時は休む。

 今世こそは心身の健康管理をちゃんとすると決心した。


 二つ目は働き過ぎなければ良かった。

 有休休暇はまともにとれず、全て捨ててきた。

 土日曜日も学会資料を読み漁る毎日。

 臨床で箔をつけるため認定医をとり、専門医をとるためにまた試験。

 気づけば仕事と職員寮を往復する毎日だった。

 ワークライフバランスはやっぱり大事だったんだと転生してから悟った。

 今世こそ有休休暇は完全消化をすると心に誓った。


 三つ目は幸せを諦めなければ良かった。

 彼氏に思い切って自分の気持ちを伝えれば、仕事だけじゃない結婚生活という別の人生を歩めたかもしれない。

 受け持ち患者が急変ともなればデート中でも電話で呼ばれ、そのまま彼氏とはお別れしたこともありました。

 女としてだけじゃない。妻や母としての幸せがあったかもしれない。

 好きな人にはちゃんと気持ちを打ち明けて、どんな結果でも後悔しないと決めた。


 四つ目は旅行にもっと行けばよかった。

 温泉にご当地の食べ物、観光地はもちろん、その土地にしかない伝統文化や癒しを満喫したかった。

 海外旅行に行くにもまとまった休みが必要で、休みの日を調整するのも一苦労だったりして、行きたい所へ行けなかった未練がある。

 今世こそはいろんな所に行って、ご当地料理を食べて温泉入って、癒し旅をしたい。


 五つ目友人と連絡を取り続ければ良かった。

 仕事ばかりの毎日で、気づけば職場の人との連絡ばかり。高校や大学時代の友達とは気づけば疎遠になっていた。ましてや友達が結婚したら尚更声をかけ辛い。

 おひとり様ライフも悪くはない。一人になるのは好きだけど、ふいに襲いかかる孤独感。こまめに連絡していたら、メール一つで繋がっていたんじゃないかと思うと、寂しい気持ちは違ったんじゃないかと思う。

 今世こそは友人との連絡はこまめにしようと心に決めた。


 そんな後悔を胸にもっと自分を大切にできたなら、それも叶えられたかもしれない⋯⋯。

 

 それが前世、日本人の女医として働いていた頃の前世の記憶があるわたしの後悔。


 

 思い起こせば色々大変は人生だった。

 社会人になって理不尽だと思うことだって何度も経験しました。


 日中も仕事をして、手術に入って、そのまま当直の仕事になった時も、酔っ払いでセクハラしてくるオジサマ。処置したくてもできないし、暴れるし、暴言はとんでくるし。

 あれは救急外来の夜勤看護師さんも大変だった。結局、警察よんだけどね。


 幻覚作用のある野草を食べて処置室の天井みて「お星さまキラキラ〜」なんて言うオバササマ。処置はしたけど、入院する科は誤食だから消化器内科?薬物扱いで精神科?でもこの病院精神科病棟なかった…、幻覚あるから脳神経?と判断に悩んでみたり。とりあえず、病棟管理の看護師長に丸投げしましたよ。


 救急搬送された車の事故で全身大怪我の血塗れの同年齢の青年。逝くには早いだろう!なんて心で叫びながら、頭が真っ白になりながら目の前の処置をこなすのに必死だったのよ。


 勤務時間なんて人の命の前では関係ない。

 寝不足が精神を削って。

 手術になれば何時間も立ち仕事をして。

 外来では毎日何十人もの人を相手して。

 神経をすり減らす毎日に疲れちゃいました。

 

 病院の職員寮に帰ったところまでは覚えているのに、目を開けたら真っ白な世界にいました。


 そしてさっきの五つの後悔が頭を過った。


 三十五歳の若さで天に召されるなんて、思ってもみないじゃない。

 命がいつ尽きるかなんてわからない。

 でも平均寿命くらいはまっとうしたかった。

 今まで勉強してお金かけて研修に行って頑張ってきたことが、この若さで死んだら何も報われない。


 神様はひどい。

 やりたいこともいっぱいあったの。

 趣味もおしゃれも学生の頃から我慢してきたのよ。


 チャンスも失敗からのやり直しも人生が続いていたらいっぱいできたのに。

 まだ自分はやれたはずなの⋯⋯。

 思わず涙ぐんでしまった。


『じゃぁ、今回はその後悔がない人生を歩んでね』


 子どものような声が聞こえたと思ったら、今のエイルと名付けられた赤ちゃんに生まれ変わっていた。


 現代日本の知識はそのままに、クルディア帝国という中世ヨーロッパのような別世界に来たので、子どもの頃はパニックだった。

 

 でも今世の目標は決まっていた。

 後悔していたことを全てクリアする。


 自分に正直な人生を生きるために、自分の本当にやりたいことを軸に生きる事にした。

 好きなこと嫌いなこと、苦手なことをピックアップして今の自分に必要なことをやっていった。

 結局、前世の医師業をやりきりたかったこともあり、今世での医師、神殿が管轄する医術師の仕事に就けた。

 問題は野戦病院よりもひどい設備なんだけどね。


 現代日本ならいざ知らず、この世界の衛生や治療の概念が違う。

 


 幸せを諦めたくはない。

 だからこの人生では前世で後悔したことを踏まえて人生を謳歌するって決めたのよ。

 仕事が中心の生活はもういい。

 悠々自適の生活を送ろうって。


 でもカイルとのお付き合いは失敗だったわ。

 帝都に来て知らない人ばかりだった。

 ちょっと寂しかったということもあり『付き合って欲しい』と言われて『お友達から』付き合っただけ。


 幸せ彼氏計画はもうちょっと慎重にすべきね。

 反省だわ。


***


「うずくまって大丈夫?」


 見上げると南方神殿長フォルツァ様がしゃがんで声をかけてくれた。


「君は確か⋯⋯西方の平民出身のちょっと奇抜な子!」

「エイル・オーデルハイヴです」

 わたしの特徴が西方神殿出身というのは、まぁいいとして。平民出身で奇抜なってどういう意味よ。

 ちょっと傷つくわ。


「どうしたんだい?気分が悪い?もしやひどく怒られたの?」

 あなたの言動に戸惑っていますともいえない。

 わたしは思わず苦笑いする。


「いえ、体調が優れなくて」

 先ほど、休暇に浮かれて旅行プランを考えていたら思わず柱にぶつかってしまった。

 恥ずかしくて正直に言えない。


「立てる?神癒院しんゆいんまで運ぼうか?」

「いえ!大丈夫です!」

「それならいいんだけど。何か悩んでいることがあったら何でも言うんだよ」


 何でも?

 遠慮ばかりせずもっと自由にできたなら⋯⋯。

 わたしは前世で後悔した。

 だから今世では少し図々しく生きるって決めたんだ。

 今この出会いを逃す手はない。

 チャンスに変えなくちゃ。

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