3 有休休暇
有休休暇0日目
今回の宮廷召喚は医術師みんなが色めき立っていた。
皇帝陛下の命の恩人ともなれば出世街道の道が開け、新しい神殿が立つ位の献金が保証され、更には不死の病を治した名医だ神の手だと称えられ、皇帝十指という名誉ある地位が得られると言われている。
今このチャンスを掴み取ろうと、どの神殿長も地位と名誉のために必死だという。
ただ、糖尿病は死の病。今の技術では患ったら最期だ。
「ゲニウス神殿長!西方神殿の名誉を高め莫大な献金をちょうだいし、他の神殿長たちをぎゃふんと言わせる絶好のチャンスを逃す手はありません!わたし、ゲニウス神殿長を応援しています!お役に立てず申し訳ありません」
皇帝陛下の治療にはもう口を出せないし、今のわたしの力でも限界がある。
「声が大きい!!だが、これはチャンスなんだ!西の医術は古いだとか食事療法ばかりだとか言われ続け苦渋を舐めてきた!だが今が見返す好機!北は皇女殿下の体調があり人員をさくのが大変なようだし、南は不死の妙薬に不具合があったとかで準備をやり直す必要があるらしい。東は器材の搬入が大変だときいた」
ゲニウス神殿長、熱心に他の神殿の情報収集して。
余程、悔しかった思い出があるんだろうなぁ。
どこの世界でも我こそは最先端技術をもっているって言いたいから、一歩出遅れるとその治療法は古いだとか色々言われちゃうのよね。
神殿長の立場なら尚更プライドが傷つくわよね。
ゲニウス神殿長は拳を握りしめ、ギラギラした目でわたしをみた。
「我が西方がいま一歩リードしなければならんのだ!君はもう少しまともな治療がないか故郷の神殿で探してくるんだ。でないと神殿医術師としての居場所はないぞ。君は食堂で働かせろという意見の方が多いんだからな」
いや、その治療が邪道と言われれば、手の打ちようがないんですが。
現代日本と違っていろんな技術も知識もなさすぎるのよ。
大体、食堂業務は新人教育の一貫よ。どれだけ下働きをさせたいのよ。パワハラもいい所じゃない。
ちょっとわたしも疲れたわ⋯⋯。
「分かりました。これも医神ケイローンの御導き。早々に荷物をまとめます」
ゆっくり立ち上がり、退室しようとドアノブに手をかける。
いや、待てわたし。
そもそも、わたしには休みが必要よ。
西方神殿にいたら、休みの日も料理番をして休みが休みじゃなかったのよ!?
わたしの人権!休みに仕事をしないのは普通よね。
気持ちを切り替えたい。
今まで行ったことのない土地に行こう。
ふいにそんな思いが頭に過った。
「最後にゲニウス神殿長。とても大切なことを忘れておりました」
「急に神妙な顔でどうした。新たな治療法を思い出したのか?」
「いえ、わたし十二歳の頃から神殿で働いていたんです」
「そうだな。あの頃から変わった治療を知っていたな」
ゲニウス神殿長は遠い目をしてからわたしを見る。
「わたし、ずっと働き詰めなんです。休んでないんです」
「貴族出身なら休暇も手厚いが君は平民だからな」
わたしは握る拳にグッと力をこめた。
「ですからこの度、有休休暇を頂きます!わたしの故郷では福利厚生をそれは大切にしていたんです。いい仕事をするには休みも大切なんですよ!心と身体をリフレッシュするからこそ、また頑張って仕事ができるんです!勤続八年なんで二十日ほど!」
現代日本の基準だから、問題ないでしょう。
貴族の同僚なんか一か月くらいバカンスと言って休みをとっていたんです。
当然の権利でしょう。
故郷へ帰るついでに、せっかくなんだもの。
異世界旅行を満喫して、有休休暇を完全消化してやる。
「⋯⋯⋯⋯」
ゲニウス神殿長は眉間に皺を寄せて考え込んだ。
反応が悪いわね。
「もしかしたら⋯⋯、旅行をして気分転換したら故郷の治療法を新たに思い出すかもしれません」
しゅんとした顔をして上目遣いをする。
ちゃんとウルウルした目になっているかしら?
「まぁ⋯⋯、今までの経験から⋯⋯、いい手立てが思い出せるなら⋯⋯」
ゲニウス神殿長の顔色が少し明るくなった。
神殿長、故郷の治療って言うと弱いのよね。
「ありがとうございます!あっ今日付けのお給料とその有休休暇分のお給料はちゃんと明日の出立までにご用意下さいね♡」
うっかり語尾がハートになってしまった。
ビバ!きな臭い宮廷生活とおさらば。
ここで稼いだお金は癒し旅の軍資金に充てるんだ。
ワクワクする気持ちを悟られないよう、ニヤけそうな唇にグッと力をいれ、表情筋はヒクヒク引きつりながら無表情を貫く。
わたしは法衣の裾を少し上げ、今にもスキップして退室したいのを堪える。
いかんいかん、舞い上がっていると思われる。
ここは宮廷を去るのがとっても残念という雰囲気を醸し出さないと。
きっと傷ついただろう、だから気分転換に暇を出してやってもいいかと思ってくれないと。
『旅行する位なら早く治療法を探せ!』なんて言われかねない。
焦らず慌てずあるがままを自制して、ゆっくりと優雅で気品のある一礼をした。
ドアを閉め、ふぅっと深呼吸をする。
夕暮れの空が高い。
解放感が半端ない。
やばい。どうしよう!休暇とれちゃったよ!
前世でも今世でもまともに休みとれなかったからね!
よし、行きたい所は決まっている。
南に六日、東に十日、北に四日の配分で反時計回りに周って西へ帰ればいいかな。
そしてグルメに温泉に目の保養!
潤いを求めて楽しむぞ!
わたしのスローツーリズム計画は始まったばかり!
うふふっ!
でもそんな休みなんて、あってないに等しいことをこの時のわたしはまだ知らなかった。
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