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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
南方神殿

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15 南方神殿⑧

有休休暇4日目

〜ヴォン・ヴォニエール視点〜


 掛け物がふわりと身体全体を覆ったのがわかる。身体がピクリと反射的に反応した。

 カチャカチャと茶器を重ねる音がして、パタンとドアが閉まる音で目を覚ました。


 エイルが部屋を出たのだと気づき、ゆっくり起き上がる。


 エイルのおかげで仮眠がとれた。

 頭がすっきりして、心の余裕すらある。

 

 確かに足の浮腫と痺れはあったのだろう。

 足の浮腫の圧痕は強かった。


 だが、しかし。

 エイルは無防備が過ぎる。

 ぼくがいるのに、素足を投げ出したりするなんて。大胆がすぎるだろう。

 見て見ぬふりというのも難しい。

 見ないように気を付けたが、浮腫が強いというのでつい足元を見てしまった。


 大体、女性はもう少し恥らうものだろう。

 

 まったく西方神殿の教育はどうなっているんだ。ゲニウス神殿長に会ったら話しておかねば。


 いや、そもそも男としてぼくは見られていないのではないか?

 患者扱いなのか?

 下手をしたら子ども扱いだった。


 未だかつて、こんな扱いをされたことなど一度もない。

 逆にそれが新鮮でもあるのだが⋯⋯。


 余韻に浸っている場合ではない。


 ぼくには行かないといけない場所がある。

 名残り惜しいがエイルの部屋を後にする。


「台下、少しお眠りに?」

 背後から声が聞こえた。


レイヴンか。あぁ⋯⋯。五分も眠れば十分だ」


 短い仮眠マイクロナップをしたおかげで、先ほどより身体が軽い。

 ぼくの気分転換にエイルの様子を見に行って正解だった。


 あの要点を得ない話しばかりを聞いて余計に疲れたせいもあるが、連日の移動と雑事の疲れもあり、ゆっくりしたかった。



「エイル殿は逃げるように出て行かれましたが⋯⋯。念のためオウルを監視につけております」

 

 後ろをみるとレイヴンは黒いローブごしに漆黒の瞳はじとりとぼくをみていた。


 如何にも非難をするような目だ。

 

 

「何もやましいことなどしていませんよ」

 

「左様で」

 落ち着き払っているが、じっとぼくの目を見てくる。黒髪の三つ編みが肩にかかり、指で髪の結び目をピンッと弾く。


「疑っているのか!?」


「冗談でございます。顔を見たら分かります。楽しい一時をお過ごしだったのですね。冷血台下にも笑顔ですね」


 『楽しい一時』という言葉がなぜか意味深に聞こえるのはぼくだけだろうか。


「おい!」

 鬼の目にも涙とか言いたいのか?

 どういう意味だ。


 まっすぐフォルツァ神殿長の執務室に入る。

 そこには褐色の肌に黒髪のダヴと二人の神殿騎士が先ほどと変わらない姿勢で待っていた。


 ぼくは本来の主人が座るであろう椅子にゆっくり腰かける。

 


 床には剣を置いて膝をつき、俯いたままの神殿騎士二人がわなわなと震えていた。



「さて、リナイド副神殿長、トルア神官長。少し休憩できましたか?記憶の整理をして頂けたら、一つずつ詳しくお話しを聞かせて頂きたいのですが」


 リナイド副神殿長はごくりと生唾を飲み込んだ。

「噂に聞く白衣のガーディアンがまさかあなた様だったとは⋯⋯」


「台下におかれましては⋯⋯その、何と申しあげて良いやら」

 トルア神官長も同じことを繰り返すばかりだ。


 ぶるぶる震えるばかりの二人が思考停止状態では困るので、一度休憩をとったというのに。 

 まだ話す気にはならないようだ。


「ぼくの問いは三つ。一つはメリロット殿のお見舞いに行きたいので、所在を教えて欲しい。二つ目はカレノール卿のご息女の行方を捜している。協力をして欲しい。三つ目はエイル・オーデルハイヴをどうするつもりなのかを教えて欲しい」


 そんなに難しい質問をしているわけではない。


「近くにいた神殿騎士にメリロット殿の部屋を案内させたが無人でしたよ。まるで生活感もない。ご病気だというのに、ぼくは心配で。果たしてどちらにいらっしゃるのか?」


 二人の様子は明らかに何かを隠している。

 ぼくの読みが正しければ、この者達は神殿の禁忌を犯している。


「そういえば、ここへ来る途中で野盗共に会いまして。野盗共が言うには南方神殿の方から人攫いの依頼があり、その代わりに怪我人の手当てをすると約束したんだとか?それは本当ですか?」


「それは、どうでしたでしょうな⋯⋯」

 リナイド副神殿長は汗をプルプルかきながら言葉を濁す。


 またのらりくらりと言い逃れするのだろうな。


「時にトルア神官長、あなたは神殿騎士だ。エイルに野盗共が攫われた女の子を知らないと言っていたそうだが、果たして本当でしょうか。野盗共は攫った女の子を引き渡したところで神殿騎士に襲われたと言っている。神殿騎士を動かすのは神官長の役割だ。知らないというのはおかしな話し。本当に知らないのであれば末端神殿騎士の独断行動だ。君には管理責任を問う必要がある」

 

「そっ⋯⋯それは⋯⋯」


 知っていると言えば、令嬢のことも言わなければならない。

 知らないと言えば、管理責任能力を問われ罷免。

 どう答えても、出る目は決まっている。

 ならば、始めから全て話せばいいのに。


 トルア神官長は言うべきか迷いがあるのか口を開けては閉じ、ぼくを見上げては俯くという動作を繰り返していた。


「そして、なぜエイルの護衛を神官長自ら?エイルは平民出身。それを王族や高位貴族並の待遇で接するということは、彼女に何をさせたいんでしょうね」


「台下⋯⋯」


 トルア神官長の顔は真っ青だった。

 ぼくの見解が正しければ、エイル以外は既に亡くなっている。


 少しトルア神官長を揺さぶるか。


「トルア神官長、あなたがメリロット殿とカレノール卿の御息女とメイドを手にかけたのですか?」


「ちが⋯⋯!!」


「野盗共と取り引きし、野盗共が用済みになれば殺害しようと?」


「違うんです!それは!!神殿を守ろうと!!」


「やはり、野盗共は知っていますね?」


 トルア神官長は絶句した。

 野盗共と面識があると認めたようなものだ。


「トルア神官長、ぼくは真実を知りたいだけなのです。話してくれますね?」



「クソッ!!台下がなぜ、なぜこんな所に来たんだ!!全て上手くいくはずだったんだ!!」


 リナイド副神殿長が急に叫んだかと思うと、床に置いた剣を掴み、ぼくに向かって剣を振り下ろした。


「何も知らずにあの世へ逝け!!死ね――!!」


 まぁいい。これでリナイド副神殿長はぼくの暗殺未遂として罪状がとれる。

 あとはゆっくり自供して貰えばいい。

 

 振り下ろされた剣はダヴが剣で弾き返し、リナイド副神殿長をドンッと激しい音を立てて壁に押し付ける。 

 

 その拍子にダヴはリナイド副神殿長の足の骨を砕き床に身体を押し付けた。

 凄まじい悲鳴が部屋に木霊す。

 小柄な体躯のダヴだが、身のこなしも素早く相変わらず手際がいい。


 トルア神官長は剣を片手で掴んだ所をレイヴンが剣の柄を足で踏みつけ、トルア神官長の喉元に剣を当て首筋には血が一筋垂れていた。


 南方神殿の神殿騎士の実力も大したことはないな。

 ぼくは手を挙げ、二人を無言で静止させる。


 いけない。あわや血まみれの大惨事になるところだった。


 ふとなぜか野盗共と対峙した時のエイルの怒鳴り声が脳裏に浮かんで、つい笑ってしまった。


 野盗共の時も瞬殺で制圧できたものを――。


 ぼくは床に倒れ込んだ二人を一瞥する。

 怪我をさせたらまたエイルに怒られそうだな。

 いや、一人は既に骨折確定、とき既に遅しか⋯⋯。

 まぁ南方神殿の人間に治療をさせればいいな。


 ぼくは椅子から立ち上がり、床にひれ伏すリナイド副神殿長とトルア神官長を見据える。


「我々は人が死ぬギリギリのラインを知っているんですよ。あまりお話し頂けないのなら、ぼくの暗殺未遂として連行し拷問させて頂きます」


 リナイド副神殿は痛みが強いのか苦悶の表情でうめき声をあげるばかりだ。


「さて、リナイド副神殿長、トルア神官長はどこまで耐えられますかね?」

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