11 南方神殿④
有休休暇4日目
右よし!左よし!
よし!誰もいない!
今の内に部屋を出ましょう!!
わたしは逃げるように部屋を出た。
だってわたしの部屋に男の人が寝ている、この状況はまずい!
見る人が見たら、そういう関係!?とか蜜か事をいたしちゃった後なの!?なんて言われかねない!!
断じて違うし!
奥さんが悲しむようなことはしていないし!
風評被害にあわないためにも、離脱に限る。
わたしは逃げるように部屋を出た。
「せっかくだから神殿散策でもしようかな」
ヴォン・ヴォニエールはそのまま寝入ってしまったので布団をかけ、茶器を片付けておいた。
平気そうな顔をしていたけど、ツボ押し効果で寝ちゃうなんて、やっぱり疲れてるじゃない。
今度から背中トントンよりツボ押し効果を狙って寝かしつけてあげよう。
子ども扱いされたくなかったみたいだし。
無事、寝かしつけられて良かった!
また一人、中央神殿の神殿騎士を救ったわ!
なんてね。
でも暇なのよね。
今まで忙しかったのに、何もしなくていいって。
どうしましょう。
何かしていないと落ち着かないんですけど!?
わたしワーカホリックかしら!?
バリバリ働いていた人が定年退職した途端、何もすることがなくて戸惑う人の気分だわ。
急に呆けていきそうな脱力感がくる。
休むことに罪悪感があるなんて。
せめて本が読めたら落ち着くんだけど、図書室の場所を聞いていなかった。
みんな仕事中なのか、神殿で出会う人もいないし。
困ったわ。
仕方がない。
外は夕陽が少し傾いてきている。
足の痺れも落ち着いたし、おやつでも作ってお風呂に入って今夜はゆっくりしましょう。
畑にはラズベリーがたくさんなっていた。
クッキーかパイでも作ろうかしら。
トマトもあるしパスタとか軽食を作ってもいいかもしれない。
小麦は食堂から貰って、手作りでパスタを作ろうかしら。
ふと、誰かの視線を感じて振り返るが、誰もいない。
おかしいな⋯⋯。
もしかしたら余所者が珍しくて見られていただけかしら。
ぐるりと見回すが人影もない。
ちょっと不気味に感じる位だ。
気の所為かしら⋯⋯。
渡り廊下の先から医術師と思われる集団が歩いて来た。
「メリロット元神殿長の容体ってどうなんだ?」
わたしは思わず茂みに隠れる。
ポマンダーもあるから、隠れる必要はないんだけど、相手にしたら余所者。
不審者扱いされては困る。
しかも西方神殿から来たとあっては、良い顔はされないだろう。
わたしは息を殺して、通り過ぎる五人の男達を見届ける。
「それがあの隔離棟に入ってから姿を見ていないんだ。リナイド副神殿長やペルキア神官長が隔離棟を管理するから、特別な人しかいけないし。ご病気が悪くなっていないか心配だよ」
わたしは息を殺し会話に集中し聞き耳を立てる。
「隔離棟と研究所の神殿は同じ敷地だから、お見舞いに行くんだけど入れなくて。お世話係に聞くとお食事もとれていないのか、下膳したらそのまま残ってるって」
「噂じゃ病気を苦に失踪したんじゃないかって。掃除に入った医術師が部屋に誰もいなかったって」
「森の中で儚くなられたってこと?」
「いやいや、自死はない!医神ケイローンの身許にいけないから。きっとお手洗いだったんじゃないか?」
「それもそうだな。そういえば今日、あの研究所で例の集会があるらしいな」
「不死の妙薬作り、またするんだな」
「それが聞いて驚け!今度は聖女の秘薬だそうだ」
聖女の秘薬?何それ?
「聖女の秘薬って万病を治す奇跡の秘薬だろう?本当に?」
「集会で作り方を披露するってさ」
畑からは研究所の屋根がよく見えた。
明日には研究所に行けるけど、探りに行けるかしら。
だって今日作るってことは、わたしには作る工程を見せてもらえないってことでしょう?
やはり余所者への壁はあるわよね。
聖女の秘薬とか何か効果ありそうな響き!
これは下見であり見学ってことで調合から見てみたい。
大体、もし女の子がそこで働いていたとして、研究って結構、専門知識がないと出来ないことも多いんですよ!?
若い女の子を集めて助手にしようとかだったら、ちょっと物申したい。
わたしは研究所の建物の窓を覗きみる。
誰もいないし、ひっそりしている。
本当に女の子がいるのかしら。
少し進むと渡り廊下が目についた。
そこから建物内に入ってみる。人気はないのにキレイに掃除されている。
部屋を一つ開けてみる。薬草ばかりが並んだ部屋だった。調合用のすり鉢や臼などがある。
次の部屋は動物の剥製が置いてあった。
小動物から大型の動物まである。
今にも動きだしそうな迫力がある。
最奥の部屋は棺が四つ並んでいた。蓋は開いており、中をみると各棺に人のミイラが三体、空の棺が一つだった。
何で神殿にミイラがあるんだろう。
西方神殿にはない慣習かしら。
研究所だから何かの研究に使うということ?
ミイラの骨格からは男性一体、女性二体だった。
ミイラは白衣の法衣を着て胸の前で両手を組んでいた。胸には赤いリボンのかかったポマンダーが飾られていた。
男性のミイラは高身長の成人男性だ。
女性のミイラの身長はわたしと同じかそれより低い。骨格から若い子のご遺体みたいね。
うら若き乙女が病気で亡くなったのかしら。
残念だわ。
まだやりたいこともいっぱいあったでしょうに。
両手を合わせ目を瞑り、お祈りを捧げる。
男性のミイラは足がちゃんとミイラ化せず腐ってグズグズだった。腐臭がすごく、ポマンダーでも臭いを消しきれていない。
他の女性ニ体のミイラは最近作られたのか皮膚がまだウェットで完全に乾ききっていなかった。
これは⋯⋯。
「あなた、ここは関係者以外立ち入り禁止よ」
わたしはピクッと反応した。
背後から殺気に近い視線に晒されている。
そう自覚した。
喉が異様に渇いた。
心臓がドクン、ドクンと痛いくらい脈打っている。
わたしはゆっくり振り返り、声の主を見据えた。
さて、何と言い訳して乗り切ろうかしら。




