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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
南方神殿

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9 南方神殿②

有休休暇4日目

 南方神殿は乾燥地に配置された要所だ。湿度は低く、空気はカラッと乾燥しているが、建物の中に入るとひんやりして気持ちいい。

 南方神殿は門番をする神殿騎士に取り付いで貰う。

 案内された神殿内の天井はハーブの束が所狭しと吊り下げられていた。


 果物のオレンジに丁子を何個も埋め込ませたポマンダーもあちこちに飾られていてオシャレだ。

 丁子には防腐剤、虫除け効果があり、オレンジは腐らずに乾燥しそのまま芳香剤になる。

 うまく作らないとカビが生えたりするのだが、どのポマンダーもキレイにオレンジが乾燥して干からびている。


 さすが南方神殿は薬草などの扱いに長けているだけある。


「どうぞこちらでお待ち下さい」

 案内してくれた神殿騎士に指示されるまま、神殿の広間で持たせて貰う。


 身近な生活の中に常に薬草が使われている。 

 いろんな草花の香りが降り注いで、まるで森林浴をしているかのようだ。

 思わず大きく深呼吸をする。

 

 暫く広間で待っていると三人の神官がやってきた。


「これはようこそ。副神殿長を務めるリナイドだ」

 リナイド副神殿長は黒髪に白髪混じりの五十代位だった。

 他の二人は神殿騎士と神殿医術師だった。

 副神殿長と一緒ということは神官長かしら。


「お初にお目にかかります。エイル・オーデルハイヴです」


「フォルツァ神殿長のお手紙から事情はわかりました。副神殿長のリナイドと申します。エイルさんは南方神殿のことを勉強したいとか」

 

 優しそうな笑顔をみせ歓迎ムードだったので安心した。

 でも油断はできない。


「はい、どうぞよろしくお願い致します」


 野盗による人攫いを依頼したのは南方神殿の誰かだ。

 誰が何のために若い子を狙ったのか。

 攫われた子は今どうしているのか探る必要がある。


 ヴォン・ヴォニエールは情報収集をすると言って南方神殿の町の雑踏に消えていった。

 

 何か考えがあるらしい。

 わたしは何も知らないという顔で南方神殿へ行けばいいと言われたけれど。やはり気になる。

 

「それはいい人が来てくださいました。ロートリエールの町長の書状もありがとうございます。まるで聖女のようなご活躍だったと書いてあります。神殿長にかわってお礼申し上げる。ロートリエールへは早々に神殿医術師を派遣しましょう」

 

「ありがとうございます。ロートリエールの皆さまもお喜びになることでしょう」


 とりあえずミッションが一段落ついて力が抜けていくのが分かる。


「お疲れでしょう。今日はこの神殿でゆっくりして下さい。部屋へ案内しよう」


 リナイド副神殿長は神殿の隣にある宿舎へと案内してくれた。


「ありがとうございます。あの、こちらでは不死の妙薬を作っていらっしゃるとか。本当にそんなものがこの世にあるんですか?」

 

 わたしは半信半疑だった。

 異世界といえど、草木も鉱物も日本でみてきたものと変わらない。

 それで不死の妙薬なんて果たして作れるのだろうか。


「不死の妙薬は実在するのですよ。我々はそれを研究しております。すぐ近くの神殿で作っています。また案内しましょう」


 もし、仮に不死の妙薬があったなら。

 わたしがその製造法を理解して、また万が一転生して現代日本に生まれ変わったら、病気克服に協力できるんじゃないか!?ノーベル賞も夢じゃなかったりして。うふふ⋯⋯。


「でも、皇帝陛下へ献上される分に不具合があったとか」


「素材はやはり新鮮さも大切ですから、今度は素材からこだわって薬を作ることになりましたから、期待できるかと」



「この前の薬はどうなったのですか?」

 わたしは興味本位に聞いた。

 薬というからには調合過程で不具合があったのか。


「この前の妙薬は残念なことに腐らせてしまいました。あと少しで完成だったのに」


「わたしもお手伝い出来ることがあれば何なりとお申し付け下さい」


 現代日本ですら不死の妙薬なんて見たことがない。

 伝説的なおとぎ話なら人魚の肉を食べたとか、水銀を不老不死の薬にしたとか、薬効なんてない代物ばかりだし。


「不死の妙薬に興味があるとは、なかなか殊勝な方だ。あなたなら、大いに貢献できますよ」


「ありがとうございます。頑張ります!」

 

 知識はいくらあっても荷物にならないからね。

 勉強できるタイミングを逃さないのが、わたしの処世術なので。

 今から楽しみ。


***


「簡易キッチンはこちらです。食器などは使ったら元に戻す」


 キッチンは手狭で必要最低限な設備だった。 

 それでも包丁にまな板、かまどまでありちょっとした料理くらいなら作れそうだ。


「食材は食堂の台所で見習い神殿騎士と医術師が担当しているので声をかけて下さい。もしくは畑から適当にとって貰っても大丈夫ですよ」


「畑があるんですか!?」


「行ってみますか?」


 リナイド副神殿長の付き人の一人、トルア神官長が神殿の案内をしてくれていた。

 トルア神官長は紺色の髪に青い瞳、法衣の上から甲冑をつけた三十代位の気さくな神殿騎士だ。


「青い屋根が迎賓館です。今日は客人がお見えになっているので、あの周辺の者は皆ピリピリしています。エイルさんはあまり立ち入らないようにお願いします」

 

「お忙しいタイミングにきてしまいすみません」

「いえ、大丈夫ですよ」

 他神殿のことはよく分からないから、粗相をしないように気を付けないと。


 神殿から離れた所に赤レンガの建物が見えてきた。


「トルア神官長、あちらの建物は何ですか?」


「あれが、先ほど話していた不死の妙薬を作っている研究所だよ。勝手に入ってはいけないよ。明日には案内できるから」


「ありがとうございます。今から楽しみです」

 やっと旅行の目的の一つが達成できる。

 明日が待ち遠しいわ。

 

「こちらが我が神殿の畑になります」

 畑はハーブやスパイスの植物がところ狭しと植えられていた。

 生垣は月桂樹や柑橘の木が並び、花壇にはミントやローズマリーなど料理などに使えるものばかり。

 畑も季節野菜だけじゃない。

 香味野菜も植えられていた。

 長く西方神殿で料理番をしていたせいか、料理に使える珍しいスパイスがいっぱいで、つい高揚感が高まる。同時に疲れがいっきに吹き飛んだ。


「すごいですね!さすが南は気候が暑いだけあって貴重なスパイスまで育てられているんですね!」

「自慢のポタジェなんですよ」

 ポタジェとは畑でありながら花壇でもある。


 食べられる野菜も花壇の中に植えられている。

 さすが南方神殿は気候に恵まれているだけあって品種も多い。


 西方神殿だと植えても栽培が難しくて枯れたり、市場では高値で取り引きされているから宝の山にしか見れない。

 後で乾燥ハーブを作らせて貰おう。

 

「では、こちらのポマンダーをどうぞ」

 渡されたのはミカンサイズのオレンジに丁子がびっしりついていた。オレンジは十字にリボンがかけられ赤色の房がついていた。


「ありがとうございます」

「こちらは一人一つ身につけています。肌身離さずなくさないようにして下さい」


 トルア神官長をよく見るとベルトに房のついた小さなオレンジが腰に下げられていた。


 西方神殿にはない習慣なので興味深い。

 ベルトに付けたらいいのね。貰ったポマンダーを付けるが思ったより軽くて助かった。


「こちらはなぜ身につけるんですか?お守り的な感じですか?」


 

「そうですね。識別という意味があるのですが」

「識別ですか?」

「あっ、その、そう。房の色とかで客人かどうかなんかがわかるようになっていて。必ず肌身離さず持っていて下さい」


 よく見るとトルア神官長は藤色の房だった。


 ただ案内されてすれ違う神殿騎士や医術師には持たされていなかった。

 あくまで来訪者の名札変わりみたいなものかしら。不審者だと困るからって言う。


 面識がない人の目印になると。


「あぁ⋯⋯あと臭い消しに」


 臭いですか?

 わたし、そんなに臭ってますか?

 この二日、お湯に浸した布で身体を拭き取る位だったので、言われてみると確かにそうかもしれません。


「体臭⋯⋯そんなにヤバイですか?」

 気まずい空気が流れた。


「あっいや、そうではなく!!あっそうそう、浴場は中庭を通り抜けた先にあります。夕方から夜の就寝の鐘が鳴るまでは入れるので、いつでも使って下さい」


 さすがのわたしたも、今日は何もせずゆっくりしたい。この三日間、ずっと働いている気がする。


「ありがとうございます」


 そうだ、働くと言えばもう一つ臨時バイトをしているんだったわ。


「あと別件なのですが、ご存知でしたら教えて頂きたいことが」


「何かな?」


 ヴォン・ヴォニエールから給金を貰って人探しを手伝っているんだもの。

 対価に見合う働きをするのも忘れない。

 なんて律儀なわたし。


「わたしの友人が南方神殿へ行くと言ってそれから音信不通になってしまいまして」


 アリステア・カレノール、十六歳。

 女の子はお忍びで南方神殿の町に繰り出していたが、連れのメイドと共に行方不明となっている。


「ほう、それはそれは」


 目立たないようお忍びで平民姿で街散策をしていた可能性がある。しかも私生児で、養女となる前は市井で生活していた。

 平民のふりをするなど造作もない。


 となると、南方神殿は平民の若い女性を連れて来るよう言われていた。

 アリステア嬢が祭りを散策している時に他国の野盗が八騎伯の令嬢と知らずばったり出会っていたなら。


 少しカマをかけてみるか。


「アリステアとは良き友人でした。親子喧嘩で家出して帰ってきていないそうで、親御様も心配しておいででして」


 野盗が誘拐した人物が令嬢ではなくても、連れ去られた若い女の子がこの神殿のどこかにいるはず。


「家に帰って来るよう親御様から頼まれまして、困っております。こちらに遊びに来ていないか、もしご存知でしたらご教示頂きたく」



 南方神殿のトルア神官長は柔和な笑顔を向けてくるのだった。

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