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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
南方神殿

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22/32

8 南方神殿①

有休休暇4日目

「――エイル、着いたよ」

 

 乗合馬車の中でわたしは爆睡していた。

 見上げた先の空は雲ひとつない晴天だった。

 太陽がお空の真上に昇っている。

 そうか、もうお昼ご飯ね!


「おはようございます」

 ヴォン・ヴォニエールはなぜかわたしの顔を覗きこむ。

 どうしてわたしは天を仰いで寝ているんだろう。


 はて?

 寝る前は三角座りして寝たはずなのに。

 わたしは横になっていた身体を起こそうとした。


 あれ?


 

 彼は剣を腰から外し剣を支えにしながら、もたれかかっていた。片足は立膝をつき、もう片足は⋯⋯。

 よく見るとわたしの頭はヴォン・ヴォニエールの太腿の上に安置されていた。


 ただでさえ起床時血圧は低血圧、身体を起こすのも一苦労する身。

 でもこの時ばかりはスイッチが入って飛び起きた。


 

「やだ!重かったですよね!?」


 わたしは血の気が引く思いだ。


 昨日の夜診は患者が絶え間なくやって来た。

 結局明け方までひっきりなしだった。

 おかげで馬車で仮眠をとったのだけど、爆睡して揺れすらも心地よかった。

 心地よかった理由は枕があったからだ。

 しかもお貴族様の!仮にも雇い主の!!

 普通は雇い主の頭を支えないといけないのに!!


「ヴォンさんはちゃんと寝れました?」

 恐る恐る上目遣いで聞いてみた。


「エイルが隣で寝ているから、あまりよくは寝れていない」

 

 ですよね。頭って重いですし。

 身動きとれませんよね。

 足とか痺れていませんか?痺れていますよね?


「ごめんなさい!隣で爆睡しちゃって、ご迷惑でしたよね」



「いや、少しは寝れたから気にするな。理性を保つのが大変だっただけ」


 理性って。

 それって⋯⋯、怒っているってことですよね。

 またよだれ垂らしてました?

 それとも、わたしのいびき?歯ぎしり?寝言?

 睡眠時無呼吸症候群ほどのいびきはかいていないと思うけど、疲れている時っていろんな音が出ちゃいますし。


 寝相の悪さも相まって?

 色々やらかして気が気じゃなかったから寝れていないと?

 


「一人旅ではなかなか出来ない経験だったよ」

 

 それは相当お怒りってことですよね?

 寝られずご迷惑でしたよね!?

 騒音問題、安眠妨害ってやつですよね??


 嫁入り前の身だし、淑女としてまぬけな寝顔を晒していた自分に今更ながら恥ずかしくなってしまった。


「何だか色々お恥ずかしい所をお見せしました」


「いや、一緒に過ごせて良かったよ」

 にこやかなヴォン・ヴォニエールの顔をみると、嫌味ではなさそうだ。


 きっと野盗の皆さんとロートリエールの治療もしていたから、疲れているだろうという情状酌量の余地があって許されたのね。

 きっと。

 八騎伯の方と渡り合うような御仁だ。

 懐が深いのだろう。


「今度は特大カボチャプリンでも作らせていただきます」


 前に作ったら絶賛してくれたし、お詫びに。

 ヴォン・ヴォニエールは首を傾ける。


「可愛すぎる」


 などと意味の分からないことを呟いた。


 重症だ。

 睡眠不足による朦朧状態なのだろう。

 思考力が落ちているのね。

 


 思わず手首の脈拍をとる。

 脈拍数が百回毎分で拍動している。

 明らかに頻脈ね。


 可哀想に。

 わたしのせいで、ちゃんと眠れなかったのが原因ね。


 睡眠不足による動悸、疲労とストレスなんだわ。

 心臓にまで負荷をかけてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


 大丈夫ですよ。

 お昼休憩をとったら、ちゃんとお昼寝時間をとって貰いましょう。


 ここはわたしが身体をはって責任を取らなければなりませんね。


***


〜ヴォン・ヴォニエール視点〜


 乗合馬車は満員だった。

 乗ってすぐにエイルは三角座りをして、うつらうつらと舟をこぎだした。

 エイルは明け方まで診察していたのだ。

 相当疲れたに違いない。

 かくいうぼくもかなり疲れた。

 診察だけじゃない。

 野盗の身柄と報告書類、エイルが敵国の人間と分かって治療した処理をしなければいけなかった。


 とはいえ、ロートリエールの町に医術師を派遣出来るよう、野盗は捕らえたしエイルのことを聖女だと崇めている。

 親しげにしている様子を見ると忌々しく思うが、不遇だったエイルが生き生きと治療をしているのだから黙認することにした。


 町長の書状を南方神殿に届ければ、医術師の派遣は今まで通り出来るだろう。

 あとはなぜ、南方神殿が野盗が出て医術師を派遣出来ないことを中央神殿に報告しなかったかだ。


 南方神殿は野盗を使って若い女を集めていたという証言もある。

 カレノール卿の娘とそのメイドもこの野盗共に連れ去られた可能性がある。

 捜し人がもし南方神殿に引き渡されていたとして、どうしようというのか、さっぱり分からない。


 馬車の車輪が石に乗り上げ、大きく揺れた。

 エイルの身体がゆっくり倒れ、わたしの肩に頭がのる。

 耳元で微かな吐息が聞こえる。

 間近でみるエイルの顔は純真無垢な子どものようだ。

 クソッ可愛すぎるだろう。

 徹夜で仕事を頑張ったぼくへのご褒美か?

 野盗共を治療していた時は鬼気迫る顔をしていただけに、思わぬギャップに心を奪われてしまう。


 また馬車がガタンと大きく揺れた。


 エイルは肩からずり落ち、今度は胡座をかいたぼくの膝の上に頭が落ちていった。


 エイルは余程疲れているんだろう。

 大きな揺れでも全く起きない。

 神殿騎士ならば訓練で敵襲に備えなければいけないため、すぐに起き上がる所だが。

 彼女は医術師だから、仕方ない。

 仕方ないから膝枕も甘んじて対応しよう。

 ぼくも医術師の端くれ。

 睡眠不足の女性を起こすなど、野暮なことをしてはいけない。

 これは騎士としても当然のことだ。

 

 それにしても無防備な顔だな。

 見ているだけで心が和む。

 ついエイルの頭、髪を触ってよしよししてしまう。

 先日、エイルがやってくれたように、肌を撫でると幸せホルモンが出るのだそうだ。


 撫でているぼくの方が幸せなのは気の所為じゃないな。


 同じ乗り合い馬車の乗客も興味深く見ている。

 まるで愛玩動物でも撫でているかのようだと思われたのだろう。

 他人の視線は気にしない。

 眺めていると時間はあっという間に過ぎていく。

 

 南方神殿が見えてきた。


「あんたら夫婦かい?」

 突如、向かい側に座る中年女性が声をかけてきた。

 前にもどこかで同じようなことを聞かれたな。


「いや、お似合いだと思ってずっと見ていたのよ」


 何と声をかけたものか迷った。


「⋯⋯まぁ⋯⋯」

 夫婦ではないが、関係を否定するような間柄ではない。

 あまり詮索されても困るが、お似合いだと言われ悪い気はしない。


「やっぱりそうね!こちらには旅行で?」

 興味津々なようだ。


「⋯⋯まぁ⋯⋯」

 旅をする意味は人それぞれだ。

 ぼくは仕事、エイルは有休休暇での癒やし旅だ。


 南方神殿前の広場に馬車が着いた。


「そう!新婚旅行かしら?末永くお幸せにね」


 その女性は足早に市場の方へと消えていった。


 周りからは新婚夫婦と見られていたようだ。

 どんな顔をしていいのか分からないな。


「お客さん、終点だよ。降りてください」

 

「あぁ、すまない。エイル、着いたよ」

 

 エイルを起こすとまだ眠り足りないような、まどろんだぼんやりとした顔をしていた。


「おはようございます」


 ぼくは顔を覗きこむ。

 まだ顔色が冴えないな。

 昨日はさすがに身体にこたえただろう。

 先に南方神殿へ向かわせ、休ませようか。

 南方神殿には色々思う所はあるが、フォルツァ神殿長の紹介状をもつエイルを無下に扱うことはないだろう。

 

「やだ!重かったですよね!?」


 エイルは急に飛び上がるようにして跳ね起きた。

 膝の上に乗っていた頭を急に外した。

 もう少しこの体勢でも良かっただけに名残り惜しい。


「ヴォンさんはちゃんと寝れました?」

 なぜか上目遣いで聞いくるが、寝起きのせいかやたらと色気がある。

 気遣ってくれるのは嬉しいが、誰にでもそういう顔をするのかと思うと言いようもない嫉妬にかられる。



「エイルが隣で寝ているから、あまりよくは寝れていない」


 クソッ!エイルを愛でていたら、あっという間に時間が過ぎていったとは。

 もっと肩でも膝でも貸して眺めていたかったというのに。

 でも真正面からそんなこと言えないだろう。

 平静を装わねば。


「ごめんなさい!隣で爆睡しちゃって、ご迷惑でしたよね」


「いや、少しは寝れたから気にするな。理性を保つのが大変だっただけ」


 うるりと艶のある唇を奪いたい衝動をグッと堪えたと言えばひいてしまうだろう。

 二人きりだったら危なかった。


「一人旅ではなかなか出来ない経験だったよ」

 

 エイルがいなかったら、こんなふうに人を愛おしいと思いふけることはなかっただろう。


「何だか色々お恥ずかしい所をお見せしました」


 エイルが恥じらうようにもじもじしだした。

 なんだその可愛い仕草は!

 無性に庇護欲を刺激されるではないか!

 平常心だ。

 こんな真っ昼間から抱きしめたい衝動に駆り立てられるなんて!!

 落ち着け!!普段通りに接するんだ。


「いや、一緒に過ごせて良かったよ」

 にこりと笑ってみせるが、エイルはなぜか顔をひきつらせていた。

 何か変なことを言っただろうか。

 勝手に頭や髪を触ったのがまずかったか。



「今度は特大カボチャプリンでも作らせていただきます」


 寝起きだから何を言っているのか自覚がないのか?


 ぼくは思わずは首を傾ける。

 なぜカボチャプリン?

 前に作ってくれたのは大変美味しかったが。

 それよりいただけないのが、ウルウルした瞳で上目遣いをしてくるところだ。


「可愛すぎる」


 鋼の自制心を壊しにかかって来ている!!

 たがが外れたらどうしてくれるんだ!!


 何だ?何かの罠だろうか!?

 

 するとエイルはぼくの手首の脈拍をとりだした。

「明らかに頻脈ね」


 ボソリと言ってくれるが、誰のせいだ、だ・れ・の!!

 ぼくの動悸を誘うようなことをしておいて。

 エイルのせいで心臓が早鐘を打っているんだよ。

 病気をつくりにかかっているのか、エイル!?

 


 そして急に真面目な顔になったかと思うと、エイルはとんでもないことを言い出した。


「ここはわたしが身体をはって責任を取らなければなりませんね」 


 寝ぼけて何を言っているのか分からないんだな。

 エイル、男にそういうことを安易に口にしてはいけないと思うんですよ。

 この葛藤、どうしてくれるんでしょうかね。

 西方神殿はどういう教育をしているんだ。

 まったく⋯⋯。

同じ会話をしていても、人それぞれ見解の違いってありますよね。

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