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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
南方神殿

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7 野盗⑤

有休休暇3日目

 ロートリエールの町に戻り、町長のいる屋敷にいき事の次第を報告できた時には、日はすっかり落ちていた。


「野盗は無事に捕らえました。怪我人ばかりなので、治療ができる人間がいた方がいいでしょう。我が中央神殿が身柄を預かります」

 ヴォン・ヴォニエールは淡々と報告する。

 


「それは助かります!牢に入れるだけなら出来ますが、治療ともなると我々では対応が難しいので」

 白髪の柔和な町長は手放しで喜んでいた。


「それではさっそく手配致しましょう。それと、南方神殿には事の次第を町長から一筆書いて頂けませんか?南方神殿に医術師を派遣できる状況になったと。我々が明日、南方神殿に行って町長の書状を渡して要請致しましょう」


「それはありがたい」


「なぜ南方神殿は野盗が出て医術師を派遣出来ないことを中央神殿に報告しなかったんだろう」

 ヴォン・ヴォニエールは訝しむ。


「すみません。我々が中央神殿に要請すれば良かったのです。いやはや、あなた方はロートリエールの恩人です。本当にありがとうございます!」


 わたしとヴォン・ヴォニエールは顔を見合わせる。

 衛兵長は「ご協力感謝します」と一礼してくれた。


「無事に解決ですね。ヴォンさん、この後も臨時で診療できますか?」

 わたしは今夜のことを考えていた。


「いや、お疲れでしょう?晩餐をご用意致します。あと宿の手配も。お二人はお休み下さい」

 町長が心配してくれる。


 野盗は捕まえられたけど、南方神殿からの医術師はまだ来られない。

 

 それまでは医術師の誰かが診察しないといけないのよね。



「困っている人がいるんだから放っておけませんからね。エイルこそ休んだらどうです?」


 夜診業務ならこれからが本番。

 現代日本でも日勤業務からの夜診業務はやってましたから。

 体力には自信があるのでね。


「これくらいは大丈夫です。でもとりあえず腹ごしらえですね」


「なら、晩餐はお言葉に甘えましょうか」


「ではご用意致します。それまで、応接室でお待ち下さい」

 わたしはこの時ようやく地に足がついたような気がした。


 

***


 晩餐の用意が整うまで応接室ではセティに寝転び、足を投げだして寛いでいた。

 

 やっぱりちょっと疲れたかもしれない。


 向かい合わせでセティに座るヴォン・ヴォニエールに尋ねる。


「野盗の皆さんを何のコンタクトもなしに中央神殿に移送するのって大丈夫なんですか?」


 さすがに手紙とかでやり取りしてからの方がいいんじゃないかしら?


「大丈夫ですよ。皇帝陛下ばかりが患者ではないんです。早馬をとばして事の次第は伝えています。すぐに許可は出ますよ」


 何その自信。

 早馬をとばしても、あの関西弁の副神殿長とか門前払いにしそうだけど。


 ぼんやりした頭の中で、ふと思うことがあった。


「ヴォンさん。神殿憲章に触れたらわたしって今度は神殿追放とかなっちゃいますか?」


 敵国の人間を治療するなんてとヴォン・ヴォニエールは否定的だった。

 多分、他の医術師からしたら、狂気の沙汰だとまた言われていただろう。


 神殿憲章に触れたら法に触れるのと同義だ。

 管理するゲニウス神殿長にも責任をとらされたら迷惑をかけてしまう。


「神殿追放っていうか、国外追放でしょう」


 あっやっぱり追放されちゃうんだ。

 

「でもぼくがついているのでそこは大丈夫です。状況が状況でしたし、それに特別措置という扱いにする」


 特別措置扱いになるんじゃなくて、するってことはヴォン・ヴォニエールが何か働きかけるってこと?


 でも野盗狩りをするっていいだしたのがヴォン・ヴォニエールだから、庇ってくれるという解釈でいいのかしらね。


「良かった」


「行く行くは神殿憲章を改定するから、先駆けとしてはいいんじゃないかな?」


 あれ?

 ヴォン・ヴォニエールの様子ではこの国って他国とか敵国でも患者の治療を快く思っていなかったはずじゃ⋯⋯⋯⋯。

 なんだか前向きなご意見ですよ!


「神殿憲章って改定できるものなんですか?」

 あまり聞いたことがないけど。


「鶴の一声で」

 

「それって」


「他国の人間でも許可証がなくても難民扱いにして丁重に保護できるようにしていこうかと」


 なんだかいきなり話しが進展してる!

 これは鶴の一声というお貴族様ね!

 もしやロートリエールの町長が神殿に物申したのかしら?

 どちらのお貴族様か存じませんが、ありがとうございます。

 有力者様が難民救済に力を入れてくださるだけで、わたしのやった治療も否定されずに済みます。


「本当に!じゃ西方神殿に帰っても怒られないわね」


 ゲニウス神殿長の胃にまた風穴を開けるところだったわ。

 うん、ストレスって怖いですよね〜。

 オホホホ。


 なぜか不貞腐れた顔をするヴォン・ヴォニエールがわたしをじっと見ていた。

「何で西方神殿に帰るって話になるとムスッとするんですか?」

 

 明らかに不快そうに眉根を寄せている。


「わたしの顔に何かついてます?」


 そんなヴォン・ヴォニエールも可愛らしいお顔ですけど。


「いや、なんでもない。なぜエイルは西方に帰りたがるんだ⋯⋯」


 ブツブツ言ってますが、西方神殿出身の人間なんで、そりゃ西方神殿に帰るでしょう。

 ゲニウス神殿長にも帰るように言われたし。


「エイル」

「何ですか?」

「その⋯⋯、野盗共にやっていたゲートコントロールとやらを試してくれませんか?」


 あれですか?


『痛いの痛いのとんでいけ』をするの?

 というか見てたの?

 突入するタイミングを見計らって潜んでたのね!?

 もう恥ずかしいことこの上ないじゃない!!


 今日はいろんなことをこの人に晒した気がするわ。


 大体、怪我人にするから効果があるんであってヴォン・ヴォニエールにするのはおかしくないかしら。


「ヴォンさんは怪我人じゃないんで、やっても何も効果はないですよ」


 それに、あの即効性は薬のタイミングも相まってですね。


「いいから。あいつらに聖女様と言われた効果を知りたい。その⋯⋯医術師として!!」


 やけに熱心ですね。しかも頬を赤らめて。

 お願いするのに慣れていないのかしら。

 効果も何もないですよ。


「拍子抜けしても知りませんよ」


 かといって痛みも何もない人にするのもなぁ。


 よしここは、とりあえず無難にいくか。


「今日は助けて頂きありがとうございました」


 頭をよしよし撫で、ギュッと身体をハグして背中をさする。

 ちょっと子どもをあやしている呈になっちゃった。

 さすがに怒られちゃうかな。


「ほら、子どもだましみたいでしょう?」


 ヴォン・ヴォニエールはまんざらでもないのか、頭を撫でれば目を瞑り、安心したような顔をする。


「悪くない――」


 え?

 ヴォン・ヴォニエールはギュッと抱きしめ返してきた。

 いや、わたしには必要ないし!

 赤面してしまうし!!

 鼓膜にまで心音が鳴り響いてるんですけど!?


「ちょっと!ヴォンさん!?」


 これはあれね!

 タッチング効果ね!?

 皮膚は第三の脳って言うしね!?

 皮膚を通して心地いいと思える刺激は脳のストレスを鎮めてくれて、ホッとしたり落ち着いたり安心する効果があるからね!!


 でも、今のわたしには不要ですよ!?


 ヴォン・ヴォニエールが抱きしめ返したのは何の意味もないはず⋯⋯。


「ちょっと羨ましかったんだろうな」

 何が?

「もう少しだけ⋯⋯」


 寂しんぼう!?かまってちゃんなの?

 何?そんなにストレス過剰な一日だったの?


 そりゃ優しくタッチングすると愛情ホルモンのオキシトシンや幸せホルモンのセロトニンが出るからね!?

 リラックス効果がでるのよね。というか出たんでしょうね!?

 ストレスや不安を落ち着かせるには、効果があるかもしれないけど。


 まずい。

 段々わたしの方が緊張しすぎて、うまく息できない。

 低酸素症に陥りそう!酸素が足りんのですよ!!

 ここは富士山山頂並みに気圧が低いのかしらね!?

 早く、ここを脱出しなければ!


「ちょっと!!ヴォンさん」

 もう罷り間違ったらセクハラですよ!?

 奥さんにしなさいっていうのよ。


「あぁ、すまない。エイルを危険に晒した後悔と無事だった安心感が押し寄せてきて、つい」


 そうね、そうよね。

 心配してくれたのよね。

 心配してくれて嬉しいんだけど、二人っきりなんですよね。


「あぁ⋯⋯、あの!自分でこう撫でるだけでもセロトニンって幸せホルモンが出るんで、お風呂とか寝る前に自分で自分を撫でてあげて下さい。気持ちが和らぎますよ」


 もうセルフサービスでお願いします!


「分かりました。ただ、自分でするよりもエイルにして貰った方が効果がありそうですね」


 なんじゃい、その殺し文句!

 本当に危ないよ、この人!!危険よ!!

 そういうのは人を誤解させてしまうわ!!

 家庭があるんじゃないの!?

 無自覚に気を持たせるようなことをいうのは控えないと、いつかどこかの女性から恨みを買っちゃいますよ!?

 

「今日の件を踏まえて、あの野盗共にはエイルのために馬車馬のごとく働いて貰わないと割に合いませんね」


 ヴォン・ヴォニエールさん?

 急に険しい顔になって、なに不穏なことを言ってくれてるんですか?

 もしやハルマンのことを言ってます?


「別に野盗の皆さんは治療なんで」

 そんなこと求めていません、不要ですと言っても、ヴォン・ヴォニエールの耳には入っていないようだった。

 何で野盗の皆さんには手厳しいんでしょうね、まったく。


「エイル、君には護衛をつける」


「また何を言い出すかと思えば。平民出身のわたしには不要です。お貴族様じゃあるまいし」


「いや、野盗共を捕まえる時に思い知ったんだ」


 何を?

 やっぱり囮役はまずかったと反省してくれてるのかしら?

 そうでしょうとも。

 効率が悪いし。

 わたしが診察して、ヴォン・ヴォニエールが囮役になっていれば、夕方は自由時間だったのに。


「君を失うんじゃないかと思って怖かったんだ」


 え?何しおらしいこと言ってるんですか?

 何だかむず痒いセリフなんですけど。


「君を守ると誓ったのに」

 さらりとわたしの髪を一房とり唇を落とすではないか!


 いかん、持病の発作がまた出るじゃない。

 というか既婚者よね?

 やたら距離が近いんですけど!?


 これは反省なのよね?

 反省猿と同じなのよね!?

 お猿さんが人の肩に手を置いて頭を下げる反省ポーズなのよね!?

 きっと。きっとそう!そうであって下さい!!


「だから、エイル専属の護衛を」


 そりゃ誰しも失敗したと感じて後悔することはあるわよ。   


 反省だけじゃなく次に活かせるよう、次の行動で上書きして成長に繋げるのは大事よ。


 原因を分析して具体的に改善策をだして、実践してからまた検証っていう四ステップを積むのよね。


 失敗からのプロセスとして、過去のミスを俯瞰して行動を変えて成功体験に持っていって記憶を塗り替える!


 これで失敗を前向きに捉えられるものね!


 医術師目線でいうなら彼の成長にはいいのかもしれない。


 でも――。


「あれ位のこと、わたしは気にしていないんで。護衛とかいらないです!!なんならその人件費をわたしの食費に当てて下さい」


 まさに改善策を提示してくれてるんだろうけど、わたしはあなたにとって何なのでしょう?

 いや、護衛っておかしいでしょう?

 旅友でしょう、わたし達。

 

「しかし――」


 わたしは断固反対で押し切った。

 将来、過保護な親バカになりそうだな、この人。

 そういうのは、本当に大切な人にやってあげて下さい!


***


 この後、ロートリエールの町では夜診治療をした。

 町でも敵国の野盗の治療と更生をしたと噂になっていたらしい。

 結果、わたしのことを『ロートリエールの聖女』と言われることになるなんて、この時のわたしはまだ知る由もありませんでした。


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