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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
南方神殿

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20/32

6 野盗④

有休休暇3日目

「そこまでだ」

 しじみを抱えたレシオの後ろからロートリエールの衛兵がどやどやと入って来た。


「野盗共、医術師誘拐の現行犯、行商人の急襲、不法入国の罪で全員捕らえる!!」


 衛兵長と思われる甲冑姿の男が怒声をあげる。

 その後ろからヴォン・ヴォニエールが入って来た。

 しかも今まで見たことがない憤怒の形相だ。

 負のオーラまで纏っているし、怖すぎるんですけど!!

 助っ人とかいう銀髪の青年が隣でヴォン・ヴォニエールを羽交い締めにしてるし。

 いつもの冷静な様子が一変している。


「レシオ、お前つけられたな」

 やはり、窓から見えた煙は狼煙だったのね。


「すんません」

 レシオはそのまま両手を後ろ手にされ捕らえられた。


「こいつらを全員捕らえる。大人しくしていろ!!」


 衛兵達は今にも全員捕らえようとズカズカと小屋に入ってくる。

 野盗の皆さんは、スラリと剣を抜いて応戦しようと腰をあげている。

 

「ちょっと!」

 わたしは声をあげるも、誰一人聞いていない。

 ハルマンはわたしを一番奥の壁にまで追いやる。

 この小屋で一戦交える気だ。


「ちょっと待って!!」


 ヴォン・ヴォニエールが私服の助っ人数人に耳打ちをして、わたしと視線が合う。

 もしかしたら、救出しようという算段なのかもしれない。

 ヴォン・ヴォニエールもすらりと剣を抜いた。


「野盗共!!抵抗するなら斬り捨てる!!」


 まずい。まずいわよ。

 一触即発の緊張感に生唾をのみ込んだ。


 野盗の皆さんは処置したとは言え、戦えるような傷ではない。

 かといって元傭兵だから、簡単に捕まるなんてプライドが許さないのだろう。

 

 罪状を読み上げられたからには、投獄やら捕虜という扱いになる。

 最悪、死罪かもしれない。

 いや、今この状況でも下手をしたら死人が出るかもしれない。


 こちとら医術師として治療をしたのよ。

 また一からやり直しとか、新しい傷ができたとか、やめてよね。

 死人が出るなんてまっぴらごめん。

 このまま巻き込まれて今死んだとして、死んでも死にきれないじゃない。


 衛兵達がじりじりと詰め寄る。

「ちょっと待ってよ!!」

 思わず静止の声を張り上げた。


「構え!!」


 ちょっと人の話し聞いてくれるかな?

 わたしの中でプツンと頭の中の糸が切れた。

 

「ちょっと待たんかい!!!!おのれら!!!!」


 わたしは持っていたメスを持って近くのテーブルの上に飛び乗る。

 


「これ以上わたしの仕事を増やすんじゃねぇぞ!!男共!!」


 わたしは頭に血がのぼっていた。


 大体、斬りあいになって、後で治療するのは誰よ?

 わたしでしょう?

 ヴォン・ヴォニエールもいるけど、剣抜いてるし。

 医術師じゃなくて神殿騎士の役割に徹してるじゃない。

 ヴォン・ヴォニエールが怪我をしたら、その治療もわたしがするのよね?


 え?この場は誰得よ。

 確実に言えるのは、わたしの仕事が増えるってことよ。

 しかも有休休暇中なのよ!!


「誰の許可があって処置中に入ってんじゃ!!ここはまだ清潔野!!医術師の聖域!!全員剣をおろさんかい!!怪我人じゃない奴は外で待機!!患者を引っ張り出したかったら、手洗い二回やって手垢・爪垢・常在菌、しっかり落としてから入って来んかい!!ついでにキャップとガウン着てから入って貰おうかのぉ!?」


 衛兵もヴォン・ヴォニエールもヴォン・ヴォニエールが呼んだ助っ人も口をあんぐりと開けていた。


「こちとら縫うのも大変なんやぞ!!これ以上、怪我人出してみろ!!ただじゃすまさんからな!!」


 痛い視線がわたしの一挙手一投足に注目が集まる。

 静まりかえったその場に、わたしは冷や汗がふき出た。


 我にかえり、やってしまった!という恥ずかしさが一番にきた。

 頭に血がのぼるって怖いですよね。

 前頭葉がちょっとバグってましたね。

 自制心なくなってましたよね。

 ある意味、ピンチだった所をタイミングみて突入してくれたのかもしれないのにね。

 

「え〜っとその、勝手に怪我人を運び出さないで下さいね♡」


 テヘペロをした所で、気まずい空気は拭えない。

 みんなが唖然とした中、声を発したのはやはりこの人だった。


「エイル、この野盗は見た所ゴルストフ国の人間だろう?敵国の人間に治療の許可証はないはずだ。神殿憲章に触れているぞ!敵国の人間を治療して、君まで罰せられるんですよ」


 ヴォン・ヴォニエールが前に一歩踏み出す。


「お願いします。わたしが指示するまでロートリエールの方は全員待機ということで!」


「しかしだな」


「怪我がグズグズなんですよ。早く処置しないと。待てないなら、その間に護送車の手配して下さい。出来れば馬車で。この小屋だと衛生的にもよくないし。医術師としての本分を全うさせて下さい!」 


 ヴォン・ヴォニエールと睨み合う。

 ここで目を逸らしたら負ける気がする。

 何だろう。動物の本能みたいな。

 

「いいでしょう。護送車の手配が済むまでです。これ以上の譲歩はありません」


 どうしよう。怒らせたかな?

 でも制圧がミッションじゃないから、いいよね?


「ありがとう!ヴォンさん!野盗の皆さんも、大人しくしていて下さい。怪我の傷は深いんで、今動いたらもう治療しませんから」


 既にわたしは涙目だった。


「あっあぁ。聖女様がいうなら――」


 野盗の皆さん。

 定着してますが、聖女でもなんでもありませんよ。

 ぐすん。


「あと、ヴォンさん、野盗の皆さんにも事情があるみたいです。ちゃんと話しを聞いてあげて下さい」


「エイルがそういうなら」

 ヴォン・ヴォニエールはわたしの顔を見ずに返事だけして外に出た。

 他の衛兵達も一緒に外へ出ていく。


 静けさが小屋の中を覆った。


 小屋は包囲されているし、逃げられない。

 こんな狭い小屋で戦闘になれば、傷は開くし治療が台無しになる。


「聖女様、ありがとうございます。全滅も覚悟したんで助かりました」


 ハルマンは衛兵達が外に出てからボソリと呟いた。

 いや、一番焦ったのはわたしかもしれない。

 これって仲裁できたのかな?

 もう怖かったよ〜。


 みんな殺気放つんだもん。

 いきなり最前線の只中に放り込まれた気分だし。

 普段ここまで声を荒げることがないので、わたしもへなへなと座り込んでしまった。


「聖女様、大丈夫ですか!?」


 お互い冷静になる時間がちょっと必要よね。


***


 わたしは小屋に置いてあった鍋を使ってしじみ粥を作っていた。

 しじみには傷の修復に必要なタンパク質や亜鉛と鉄分がある。オルニチンには疲労回復効果もあるから、まさにもってこいだ。


「おい、エイル」

 

 淡水湖が近くにあったから良かった。

 しじみは水で蒸して口があいたら実を取り出し身を取り出す。

 しじみは良い出汁がでるし調味料の持ち合わせがなくても、十分美味しい。


「ヴォンさん何ですか?」


 キノコは刻んで一緒にいれる。

 携帯用の押し麦があったので、お米と一緒に雑炊にする。

 野菜がないし、小屋の周りをみると野生のニラがあった。これも刻んで煮込む。

 ニラには血液を固めて止血を促すビタミンKの他にβ-カロテン、ビタミンCにアリシンがある。

 何もないよりはいいでしょう。


「大丈夫だったのか?」


 野盗の皆さんの治療が落ち着き、炊き出しのしじみ粥を作っていた。


 だって、緊張した後は無性にお腹が空くのよね。


「おかげ様で、無傷ですよ。野盗の皆さんの治療も一通りできたし、ちょっと食べさせてあげて下さい。話しを聞いていたらなんだか可哀想で。あっ奥の人にお椀を持って行って頂けますか?」

 

 味見をすると、貝出汁がよくきいてアッサリとして食べやすい。しじみの身も大きくて旨味がしっかり感じられる。身体に優しい味がした。

 我ながら上出来!


 野盗の皆さんに抵抗の意思はなかった。

 起きている人は素直に配膳されたお粥をゆっくり味わうように食べていた。


「そもそも何故、炊き出し?しかも何で治療してるんですか。薬を飲ませるだけで良かったんですよ?あろうことか敵国の元傭兵を」

 

 今、ヴォン・ヴォニエールとはお粥をかき混ぜながら、反省会をしていた。


 ヴォン・ヴォニエールの作戦では、鎮静剤を飲ませて野盗達が抵抗しない状態になれば捕縛するという算段だった。


「怪我人なら誰でも一緒、治療くらいするでしょう」


 敵国だけど、別の国に敗戦して逃れてきた人達だから行く当てがないんだし。


「許可証もない他国の人間を治療するのは感心しません。敵国の人間なら尚更」

 ヴォン・ヴォニエールの顔が冴えない。


 え?ダメなの?

 現代日本じゃジュネーブ条約があるから、敵味方に関わらず、治療を受ける権利があるって教えられてるから普通じゃないの?

 異世界とはやっぱり考え方がちょっと違うのかしら。


「いやいや、怪我していたら誰でも治療するのが医術師の信念でしょう。昨日の敵は今日の味方、ねぇ?」


 ハルマンに同意を求める。

「あっあぁ⋯⋯」

 ヴォン・ヴォニエールが鋭い視線でハルマンを射殺す。

 瞳の眼光が紅く光ったように見えた。


 やだ、怖いよ。

 わたしも大概だって言われるけど、ヴォン・ヴォニエールも怖いよ。

 さっき剣抜いた時と同じ殺気を放ってるよ。


 へなへなと座りこむハルマンを見てわたしも、ちょっとまずいことをしたかと背筋が凍った。 

 今まで見たことがない冷たい眼差し。

 思わず生唾をを飲み込み、底しれない怖さを感じた。


「エイル、あなたに何があったら、どうするんです」


 わたしに視線をくれた時は優しい朗らか眼差しに戻ったので、ホッとした。


「でもヴォンさんが守ってくれるんですよね?まぁとりあえず一杯どうぞ」


 とりあえず、懐柔作戦。

 お腹が空くと苛立つしね。ちょっと食べて貰ってお互い落ち着きましょう。

 そうしましょう。


 熱々のしじみ粥を渡す。


 そりゃ、ちょっと怖かったけど。

 親から貰った身体は財産であり資本なんだから。

 人の命は一つなんだし、手遅れになる前に治療した方がいいじゃない?

 助かるなら助けたいじゃない?

 ちゃんとキレイに治してあげるのが信条じゃない!?



「そう言う言い方はずるいですよ。そもそも我が神殿憲章でも許可なく治療するのは許されていないのですよ」


「かたいこと言わない。ヴォンさんは見なかった。それでいいじゃない。奉仕活動!ほら、有休休暇中にたまたま通りがかりの人が怪我したら治すのと一緒」


 そうそう、中央広場で怪我して治療した女の子と変わらない扱いでいいじゃない?

 だから法には触れていない、慈善活動よ。


「エイルに何かあったらと思うと気が気じゃなかったんですよ」

 ガバっと抱きつかれて思わず赤面してしまった。


「やだ、ちょっと!ヴォンさん!?」


 あんまりにもギュッと強く抱きしめられて、戸惑いを隠せない。

 わたしはどうしたらいいの!?

 これはアメリカンなハグと一緒の意味よね?

 お友達の安否が大丈夫だと知った時の喜び的な。

 わたしじゃなかったら変に勘違いしちゃうわよ!

 既婚者なのに自覚あるのかしらね!?

 この人!!


「そんなことより!ヴォンさんの探し人、もしかしたら南方神殿にいそうなんですよ」


「なに!?」


 そこでハルマンの事情聴取と共にヴォン・ヴォニエールの探し人について尋ねた。


「なんでてめえに言わねぇといけねぇんだ」


 ハルマンはヴォン・ヴォニエールに明らかな敵意を向けていた。

 ここは信頼関係を築かないと、話してなんてくれないわよ。

 敵国出身で南方神殿に嵌められたとか言う相手に。


「ハルマンさん、すみません。今人探しをしていて、その攫った女の人の中にもしかしたらいるかもしれないんで教えてくれませんか?」


「聖女様の知り合いか?」


「知り合いというか、探すのを手伝っていると言いますか。あと聖女ではないです」


「攫ったのは十五か六位の若い子と二十代の女だ。神殿の近くの森をほっつき歩いていた所を捕まえた。南方神殿に連れて行ったが、身柄を渡してすぐに神殿騎士が出てきてこの有様だ。嵌められたんだクソッ。若い子を攫えば治療すると言ってな。平民の女の子であれば誰でも良いと言うから、捕まえて連れていったに過ぎない。名前は知らん」


「その女の子はどうなりました?」


「知らないな。俺たちは神殿騎士に襲われて命からがら逃げてきたんでな」


「ヴォンさん⋯⋯」


「えぇ、ぼくも南方神殿まで直接伺った方が早そうですね」


 南方神殿が人を攫うなんて、前代未聞の事件じゃないの。


「おい、そこの男!ハルマンと言ったか?」

「あぁ」

「エイルに少しでも恩義を感じているなら、この先言う通りにしろ」

 ハルマンは苦い顔をする。


「いいか?エイルは医術師としての道を棒に振ろうとしている。だが、ぼくはそうさせないように対応する。お前達が協力してくれるなら、丸くおさまるよう善処する」


「お前の言う通りにするのは癪だが、俺たちで出来ることなら何でもする。聖女様は命の恩人だからな」


「いいだろう。あとぼくの許可なくエイルに近付くな」


「へぇ、聖女様はエイルって言うのかい」

 二人はただならぬ雰囲気を醸し出していた。


「首と胴を切り離されたいらしいな」

「切り離されたら聖女様は俺のために泣いてくれるかな?」

 

 やだ、何よこの二人。お互い何を牽制しあってるのよ。

 わたし何かしました!?


 ヴォン・ヴォニエールは苛立ちを押し隠すようにして、近くにいた衛兵に野盗の皆さんを護送車に乗せるよう指示をする。


「あの野盗の方々はどうするんですか?」


 こわごわとヴォン・ヴォニエールに聞いてみる。


「まずは中央神殿で身柄を預かります。野盗とはいえ怪我人なので。今後、治療の度に誘拐まがいなことをされては敵いません」


「ヴォンさんって何者なんですか?」


「ぼくは普通の神殿騎士ですよ」


 普通ねぇ。

 護送車をすぐに用意したり、衛兵に指示を出したりするあたり、神殿騎士でも上の方の人なんだろうな。

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