4 野盗②
有休休暇3日目
こんにちは。エイル・オーデルハイヴです。
有休休暇は既に三日目となりました。
休みの日って何でこんなに日が経つのが早いんでしょうか。
今日こそは南方神殿まで進むつもりでいたのに――。
今日も行けそうにありません。
この有休休暇中、旅行らしい旅行イベントといえばご当地のご飯を食べることくらい。
食べるのが楽しみの一つなんで、いいんですけどね。
観光名所?イベント体験?療養温泉?
えっ何それ。どこかの旅行会社の宣伝文句ですか?
そういえば、行きたいと思って計画こそしましたが有休休暇三日目にしてまだ行っていません。
現代日本なら二泊三日で良い感じに旅行を満喫できるんですけどね。
計画は初日から破綻してましたからね。
むしろ奉仕活動に精を出しましたよ。
有休休暇中なんですけどねぇ。
うふふ⋯⋯⋯⋯はぁ(ため息)⋯⋯。
スローツーリズム計画にはよくあることだと本で読みました。
流れに身を任せる旅もいいものだと。
その時その時の出会いも大切なのだと。
旅は道連れ世は情けって言いますし。
当初の予定とちょっと違うくらい普通なんだと。
それも醍醐味ってやつなんだと。
ただ旅の道連れ相手がちょっと今まずいんです。
「ちょっと、どこに連れて行くつもりですか!!」
そしてなんということでしょう。
「うっせぇな。ギャーギャーほざくなら殺すぞ」
案の定、野盗に誘拐されてしまいました。
南方神殿へ行く?
そんなこと、言ってましたね。
つい昨日まで。
しかし、それどころではなくなりました。
もしや命の危機ってやつでしょうか。
「死が二人を分かつまで」
ヴォン・ヴォニエールはそんなことを言っていました。
でも今、まさに死ぬんじゃないかと思うんです。
死ぬ時は意外に呆気なく死んじゃうんですよ。
前世のわたしみたいに。
天国に一番近い切符を持っているようです。
せめて不死の妙薬とやらの調合やら配合を勉強してから、死なせて頂きたい。
そうしたら、次の転生先で不死の妙薬を調合して治療すれば、生活安泰!社会貢献!人生謳歌!
できるはずなんですよ。
何より食いっぱぐれない!
現代日本でも見つけられていない代物なんだもの。
どこでもやっていける気がする。
馬上の大男はわたしを小脇に抱えて森の中を疾走です。他にも数人お仲間が後ろからついてきていました。
「ちょっ!誰か助けて!!ヴォンさん!!早く!!」
あまりに揺れがひどくて舌を噛みそう。
なんなら頭が揺れてちょっと酔いそうだし。
せっかくの有休休暇をゆっくりしたかったのに。
そもそも毎日、仕事をしている気がする。
わたしって休んではいけない運勢なの?
インスリン作りの材料すらまだ揃えられていない。
インスリンが作れていたら世界は変わっただろうに。
***
ヴォン・ヴォニエールの作戦は九時の鐘の音と共に決行された。
「え?野盗の本拠地を見つけるまで静観してる?」
「あぁ」
「知り合いにサポートを頼むから安心?」
「あぁ」
これは作戦とは言えないですよね?
アジトまで着かずに斬り殺されたら詰みなんですよ?
その知り合いってどちら様ですか?
神殿騎士仲間ですか?
町の広場には剣を携えた私服の若い男性が数人いた。
「神殿騎士繋がりで助けて貰えるなら、町長が最初から動けばいいのに」
「いや町長では神殿騎士は動かせない。町長には衛兵を借りるよう手配した」
「衛兵の人が居てくれたら安心です。じゃヴォンさんの言う助っ人はどこから引っ張って来たんですか?」
「ちょっと言えない所」
それは神殿騎士仲間ではないと?
きっとお貴族様のツテやらがあるのでしょうね。
もしや八騎伯の関係者?
衛兵が野盗狩りをして失敗したから、更に助っ人を用意してくれるのはありがたいんだけど。
「でも取越苦労になると思いますけどね」
そんなタイミングよくホイホイと野盗が出てくるわけないのに。
西方神殿はいい意味で長閑な地域だったから、野盗なんて遭遇したことがない。
南方神殿に行く目的は果たされるし、野盗が出なくてもロートリエールの状況を南方神殿には伝えられるから、今日こそは順調に進めるでしょう。
いや、進めてみせる!
そう。わたしはタカを括っていた。
白昼堂々と人を誘拐するなんてね。
「すみません、足を怪我したんだが薬か何か持ってませんかね?」
街道の山道を歩いていた時だ。
ふいに後ろから声をかける男がいた。
「あっはい。良かったら診ましょうか?」
振り向き様にみたのはわたしの身長より高い大男だ。髭も無精髭だし、この国ではみない服。
もしや他の国の人?
甲冑を着けているし、洋服はボロボロだし、まるで落ち武者のような痛々しい身なりだった。
馬の手綱を片手に持ち、足に怪我をしていた。
「それはお困りですね。すぐ処置をしましょう。」
「それはありがたい。だが、俺以外に診て貰えませんかね?」
え?
それが何ということでしょう。
返事をする間もなく、ひょいと担がれてしまうではないか。
こうもあっさり人って抱えられるものなんですね。
一瞬、すごいと思ったけれど、ちょっと待って!?
いきなり馬に飛び乗られて、またたく間に疾走するではないか!!
わたしまだ返事してないよ!?
これって誘拐!?拉致!?野盗の戦利品!?
ヴォン・ヴォニエールの言う通り、一人で街道を歩いていたら野盗が本当に出てきたじゃないの!!
現代日本なら防犯ブザーを押すところだが、そんなものはない。
ホイッスルもない。
「ちょっと、離して下さい!!誰か!!」
叫んでみたが、誰もいない。
というか、ヴォン・ヴォニエールはどこにいるのよ!!
この引きの強さ!
人生何が起こるか分からないものです。
どうせなら宝くじ当選とかなら良かったのに。
まさか本当にこの街道で野盗が出没するとは。
医術師を狙った人攫いがあるなんて噂がありましたからね。
しかもよりによって、なんでわたし!?
ツテの助っ人と町の衛兵と一緒に待機しているとは言ってたけど、まかれないでよね!?
「わたしなんか攫ってもいいことないですよ!!」
「医術師に用があるんでな」
「言っておきますが、身代金払えるような家柄でもないですよ!!」
「構わんぞ」
「あれですか?他国に売り飛ばそうってことでしょうかね?」
「そういえば、医術師は金になるそうだな」
「残念ですが、高値では売れませんよ。西方神殿じゃ料理番扱いだし。宮廷では狂気の医術師扱いされてるんで」
「宮廷に居たなら尚更、いいじゃねぇか。医術師としては大成してるだろ。俺たちは医術師がいるんだ!!」
「そんな⋯⋯」
医術師として必要ということは何?怪我人?
それじゃなかったら、わたしより、別の人を紹介したいんですけど。
中央神殿出身のヴォン・ヴォニエールなら貴族だし身代金も他国への人身売買も色々成立しそう。
あの美貌なら、医術師・神殿騎士以外にも引き取り手はありそうよね。
やっぱり色々人選ミスなんじゃ?
そんなこと言っても聞き入れてくれなさそうだし。
「安心しな。大人しくしていれば、死ぬことはない」
ひとまず大人しくしていれば危害を加えないと言うんだし、従うのが得策か。
それにしても⋯⋯。
ヴォン・ヴォニエール氏!
絶対助けに来てよね!信じてるからね!?
不死の妙薬を見ずに、ここでわたしが死んだら末代まで祟ってやるんだから!!




