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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
宮廷追放

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13/32

【閑話】 筆頭神殿長

エイルの有休休暇1日目

中央神殿では

 皇帝陛下に帰還の挨拶と皇女殿下の近況報告を終え、執務室にようやく帰って来た頃には夜になっていた。


「おかえりなさいませ。ヘルメス神殿長」


 出迎えてくれたのは神殿騎士の神官長クラウディオだ。

あらかじめ帰る日を伝えていたので、ずっと待っていてくれたのだろう。


 しかし、神殿で筆頭というトップの立場、その仕事は多岐に渡る。

 先代の筆頭が急逝したため、仕事の引き継ぎなどなかったから把握するだけでも一苦労だ。


 ただでさえ中央神殿は曲者揃いだと言うのに更に国内の地方神殿の医術師・騎士の力量、神殿の運営状況、感染症の有無や病人の人数、死亡数など全ての状況把握をするというのも楽ではない。

 

「変わりはなかったっすか?」


「あぁ。皇女殿下はだいぶ落ち着いたよ」


「ヘルメス、やっと帰ってきたな。えらい遅かったやん。夕方には帰ってくると思とったんやけど」


 副神殿長レティリウスが隣の部屋から早足で入ってきた。

 ずっと待っていなくても明日に報告すればいいのに、律儀な奴だ。


「ちょっと野暮用が入ってな」


「おやつ食べるん待っとったのに」

「ほら、あれが北方神殿から持たされた土産」


 専属の護衛騎士が二人がかりで木箱を運んでくれていた。


「おぉっ!!さすが!!なんやヘルメス、えらいご機嫌やな。ええことでもあったんか?顔が珍しく穏やかやん。飯は?」


 機嫌がいいのか?

 疲れた身体だというのに、そんな余裕が自分にあったのか。言われて初めて気づいた。


「夕飯はとってきた。機嫌がいいというわけではないんだが」


 機嫌がいいと言うなら、ちょっと変わった奴に会ったからだろう。


 まったく、皇女殿下にも困ったものだ。

 少し我儘がすぎる。

 情緒不安定になるのは仕方ないとして、ついでにとばかりに自分の夫の愚痴を言うのに呼びつけられても困る。

 報告書をまとめるのにも、何とかいたらよいやら。

 


「ふ〜ん、いつも自炊やのに外で食べるとか珍しいこともあるもんやな。なんや明日は季節外れの雪が降るな」


 どういう意味だ?

 長い付き合いのこいつとは腐れ縁ということもあり、ズケズケと言ってくれる。


「そんなことより、皇帝陛下の治療状況は?先ほど伺った時に拝見したが脈は乱れているし、肌は黒ずみ足は炎症を起こしている。目も見えにくくなっていると言われたぞ」


 症状が進行しているのが分かった。

 皇帝陛下の寿命も永くはないのかもしれない。


「今の所、他の神殿からは特効薬は見つからんわ」


 難しいか。

 やはり南方神殿の不死の妙薬頼みか。

 でき次第、陛下に献上しなければ。


「各神殿の進捗状況も地方の神殿医術師が診てくれとるんやけど、東はなんや器械がいる言うて帰ってしもて、南は不死の妙薬を用意したみたいやけど不具合が見つかった言うて作り直しやわ。北は皇女殿下の方で大変みたいやな」


「北はまぁ、今は落ち着いたからしばらく様子見だな。ただ北方神殿の者が来た所で皇帝陛下の治療の糸口はなさそうだ」


「打つ手なしって状況なんやわ」


「西は?」


 レティリウスはポリポリと頬をかいた。


「西はちょっと大変やったんや。えらい変わったべっぴんさんが飢餓療法はやめとけって治療のストップを言い出したんや。しかも豚の内臓を使って治療したいだの、食べて運動して薬使ったら症状がマシになるとか言い出してな。挙句に陛下の腕に針刺そうとかするし、みんなドン引きやったで」


「豚の内臓?試したのか?」


「そんなん試されへん。それに足の赤みにうじ虫をくっつけようとするし」


「⋯⋯」


「挙句にネズミの頸動脈縫える者おるかとか聞くからビックリすんで。もうあだ名が狂気マッド医術師ドクターとかついてしもた」


「そのべっぴんさんは今どうしてる?」


「あぁ、西方神殿長に怒られたんか故郷に帰るよう言われたみたいやで。最後に食堂で会った時は南方神殿長となんや話しとったから、西方がいやで南方に行くんかもしれんな」


 南⋯⋯。なるほどな。


「その者の名前は?」


「エイル・オーデルハイヴって言う子やわ。歳は二十代、緑の髪に金目の目立った子やわ。資料いるなら西方神殿長に聞いたら早いで」


「⋯⋯そうか」


 特徴的な容姿には心当たりがある。

 平民出身だと言う変わった女性だ。


「せや、別件やねんけどな。皇太子殿下もちょっと体調悪いみたいなんや」


 皇太子の侍医は神官長のネフィラか。


「ネフィラは何と?」


「それが精神的に滅入っとるような感じらしい」


「何か思い詰めるようなトラブルは?毒を盛られたとか?フィアナ様のこととか?」


「いや、まぁ、例のべっぴんさんがおらんようなったし、すぐ治る病気やからヘルメスは心配せんでもええ」


「どういう意味だ?」


「いや、その心当たりの原因を取り除いとるって話しや。多分皇太子殿下も持ち直すやろ」


 そのエイルが病気の源という言い方だな。

 宮廷追放して治るような病気ならいいんだが。


「そうか。なら良い。ネフィラに任せよう。サルヴィアーティ卿からは?何か動きは?」


「今の所、精悍しとるわ」


「そうか」


「せや、マスリア卿が面会したいって伝えといてくれ言うてたわ」


 またあの話しか。

 皇太子殿下の具合が悪いと聞いて動きが活発になってきたな。

 サルヴィアーティ卿も少しずつ退路を断ってくるし、宮廷に長居をするのは大人の思惑に巻き込まれかねない。


「なんや大変そうやな」


 にやりと笑うレティリウスに舌打ちする。

 派閥に板挟みになるこちらの身にもなって貰いたいものだ。


「明日にはまた出立する。あまりここに長居をしてサルヴィアーティ卿とマスリア卿に見つかったら面倒だ。皆には有休を使って一か月ほど皇帝陛下の治療を模索すると言っておいてくれ」


「その方が身のためやけど、とんだバカンスやな。まぁ最近忙しかったし、地方の神殿長も息巻いて皇帝陛下の治療に当たっとるし、行くなら今やな。ゆっくりしといで」


「皇帝陛下が元気になれば何ら問題ない」


「まぁな。なんかあったらみんなでフォローするさかい」


「報告はしてくれよ。何かあれば手紙か人を寄越してくれ」


「あとは、例の白衣のガーディアン様宛に依頼状が届いとるわ」


 カレノール卿からか。

 一通の依頼状の封を開ける。


「分かった」


「ヘルメスは気兼ねなく、旅行楽しんどいで。ちなみにどこ行くん?」


「そうだな⋯⋯」

 

 依頼状を一読する。人探しの依頼か。

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