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召しませ神殿医術師  作者: てるてる坊主
宮廷追放

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12/32

12 氷を求める令嬢⑦

「何であんな約束したんです?」

 ヴォン・ヴォニエールは心配そうに覗きむ。


 ダンレイル卿の家から中央広場まで馬車で送って貰っていた。

 皆で夕飯の試食会をして、ロリス料理長とも意気投合した。今ある食材で相性を考えなから作ることを意識して貰う。それたけで効果は変わってくる。


 テンションが上がったこともあり、疲れがどっと出てまどろんでいた。


「振られた相手をいつまでも引きずるより、新しい目標を立ててあげた方がいいんですって。復讐を糧に幸せになる努力をして貰う方が健全でしょう。来たるお披露目会が楽しみですね」


 ふふっ思わず笑みがこぼれる。

 ヴィクトリア嬢は美しいというより可愛らしいお顔立ちだ。あの若さで標準体重にまで持っていけば、体型に関して侮られるようなことはない。


 あとはファッションセンスやお化粧の類を極めて貰う。


 ヴィクトリア嬢とは一緒に周りを見返そうと約束した。

 ヴィクトリア嬢と料理長にはそれぞれ、献立と運動メニューを書いた一覧表を渡した。

 わたしが西方神殿に帰ってからも、何かあれば手紙を書いて貰うように伝えた。


「そちらではなく、皇帝陛下の病を治す方だ」


 あっわたしの方ですね。


「わたしの中では活路は見えているんです」


 ただ、技術がないだけ。理論は分かっている。

 この旅行で使えそうな資材を集めて西方神殿で研究ね。

 現代日本でだって無から薬を作っていたのよ。

 インスリンだってなんとかできるはず。

 

「とりあえず、ヴィクトリア様の気持ちが上向いただけでも今回は良しとして下さい」



 ヴィクトリア嬢は精神的に追い詰められていた。

 食事療法で鉄強化と体重が戻れば、まずは健康美を手に入れられる。

 土台が整ったら、あとは磨きに磨きをかけて、婚約破棄した男にぎゃふんと言わせるまで。



 ヴィクトリア嬢には食事改善と運動、流行のファッションとお化粧のチェック、自分の特技を見つけて貰う事を宿題にした。


 一人ではダレてしまうことでも、誰かと一緒なら頑張れることもある。

 

 今世のわたしなんて未だ平民と言われて蔑む人もいるけど、医術師になって見る目を変える人はいた。


 入ったら入ったで蔑む人もいるけど、わたしメンタル強めなので。

 わたしには密かな野望がある。実力で見返して『ざまぁ』してやるという野望がね。


 だから、お互い野望を持つ者同士、支えあえると力になる。


「自分の非力さが悔しいんです。宮廷では何もできなかったし、させて貰えなかった。だから自分の力を人に認められて役立てられるようパワーアップしてから神殿長に進言しようかと。そうすれば家柄や出身なんて関係なく、採用して貰えるかと思いまして」

 

 ヴォン・ヴォニエールは目を丸くした。

 何か腑に落ちたような、そんな顔だった。


「あぁ、そうだな」


 ヴォン・ヴォニエールは優しく微笑んだ。

 何か思う所があるのか、ツッコミは入らなかった。


「ヴィクトリア様の一件で思ったんですが、幸せ彼氏計画において」


「彼氏がいるのか?」


「彼氏はいません。ヴォン・ヴォニエールさんは好きな人って何を重視します?わたし、好きな人を見る時は」


「「人間は中身が大事」」


 ヴォン・ヴォニエールと意見があった。


「内臓がね」

「性格でしょう」


「「⋯⋯⋯⋯!?」」


 わたしとヴォン・ヴォニエールは顔を見合わせた。

 やっぱり意見が合わない!

 

「そこは中身といえば性格じゃないのか!?打算や裏表のない性格とか、優しさとか。顔だ地位だとかに左右されない」


 ヴォン・ヴォニエールはやけに熱心に説き伏せてくる。モテ男はきっと美貌よりも相性重視なのだろう。それは一理ある。



 だけど……。


「いやいやいや、もちろん性格も大事ですが、そこは内臓でしょう!心の乱れは内臓の乱れ!更には生活習慣の乱れも内臓の乱れ。ストレスがかかると胃に穴があいたり、食習慣がよくないと腸内フローラが死滅した大腸は荒地も同然なんですよ!」


「腸内⋯⋯フローラ?」


 ヴォン・ヴォニエールがキョトンとした顔をする。

 しまった!大腸ファイバースコープで大腸の中を見たことがない人にしたら想像できないですよね。


「あっ。大腸の中には善玉菌やら細菌がいまして。これがキレイな大腸の人は細菌がお花畑のような幻想的に見えるんです」


 腸内フローラのバランスの理想は善玉菌が2割、悪玉菌が1割、日和見菌が7割といわれている。

 食事や運動、睡眠にストレスで簡単にバランスが崩れる。規則正しい生活が大切だとはよく言ったもので、腸活をしていたら病気にもかかりにくくなるし、お肌の調子もよくなる。


「⋯⋯ほぅ」


「あっでもヴォンさんはお肌とかキレイなんで内臓もキレイそうですね」

「じゃぼくは彼氏候補になれるのかな?」


 既婚者がとんだ笑えない冗談を言ってくる。

 本気にしてはダメ。お貴族様の社交辞令よ。

 ここは大人の女らしくサラリとかわすのが上策。


「ご冗談を」


 にこりと笑い話題を変える。


「まぁ、何というか病気の人の腸内はそれなりに炎症もあって、このお花畑が死んでしまうんです。これが持病による病気ならいざ知らず、生活環境を整えさえすれば良くなる人ならば、毎日の心がけがなってないんです。つまり、内臓がキレイな人は毎日の生活にも意識高め!自己管理ができている!と言いたいのです」


 それに脳腸相関なんて言われている。

 幸せホルモン『セロトニン』の多くは腸で出来ている。

 脳と腸はつながっているので、腸内細菌が多いと幸せホルモンを脳に十分送ることができる。

 寝不足や鬱っぽい、気分が沈みがちな人には、腸内環境を整えることから始めるといい。


 過労死したわたしが言っても説得力はないんだけど。

 だって⋯⋯、だって医者の不養生って言うじゃない。

 自分はちょっと無理しても大丈夫、不調は出てないから健康!って思っちゃったのが運の尽きだったのよね。

 今思えば⋯⋯。

 ほとんどの人がそうやって自分を過信して具合が悪くなっていく。


「何にせよ、自分を大切に出来ない人に他人を大切にするのは難しいはずです」


「分からなくもないが⋯⋯」


 ヴォン・ヴォニエールは困惑した顔をする。


「大体、君はどうやって腸の中身をみたりできるんだ?」


 しまった!うっかりしてた。

 この異世界にはまだ大腸ファイバースコープないからね。


「それは⋯⋯、故郷にはそんなものがあったんです。この国ではちょっと無理なんですが」


「君は何者なんだ?カロリーの話しもだが、僕たちが知らないことをよく知っているな」


 あんまり深堀りされると、現代日本なんて国はどこだよって突っ込まれるから勢いで話題をそらそう。


「えっと、その、異文化交流で知りまして」 

 嘘ではない。転生という名の異文化交流だからね。


「とりあえず、人の価値は外見ばかりではないということです。愛嬌も雰囲気も自分の軸もみんな大切!だからまずは自分を愛して大切にして欲しいんです」


 内臓のキレイな人がタイプってコアなことを言う人間もそう多くないか。


「権力や特権は?」


「ない方が自由でしょう。特別扱いしてくれるのは恋人で十分。地べたを地で行く人生の方が生きている実感があって好きなんです。自分らしく生きていられるので」


 わたしには前世で後悔した人生を今やり直している。

 この異世界は魔法も特別なスキルもない。

 不便だし不自由だし大変だけど、充実しているのだけは確かだった。

 わたしはにこりと笑った。

 幸せなんだと言いたかった。


 ヴォン・ヴォニエールは押し黙ってしまった。


 また変わり者だと思われただろう。

 この異世界、お貴族様や特権が幅を利かせている。

 貴族社会に憧れや興味がない人間は負け惜しみと思われても仕方ない。

 でも⋯⋯。

 これがわたしの生き方。

 異世界アナザーワールドスカイなのだ。


「あ〜っしまった!!」

 

「どうしました?」


「乗合馬車の時間、とっくに過ぎてる!」

 一日に一回しか出ていない乗合馬車が。


「もう夕方ですね。急ぎの用が?」

 ヴォン・ヴォニエールは心配そうな目を向ける。


「わたしの貴重な有休休暇が!スケジュールが!一日目にして破綻!本当なら帝都を出て南方神殿近くの有名な郷土料理を食べて、宿屋見つけてマーケットを散策するつもりだったのに」

 

 初日から予定が頓挫しちゃった。


「明日いけばいいでしょう。そもそも君は西方神殿出身なのに、どうして南に行くんです?」


「わたしの有休休暇が〜」

 あぁ、貴重な休み。

 茜色の夕陽が目にしみるぜ。


「聞いてないな。とりあえず、今日の宿を探しなさい。良かったら手伝ってあげますよ」


 打ちひしがれるわたしを横目にヴォン・ヴォニエールは歩きだした。


 仕方ない。充実した一日だったと頭を切り替えよう。

 転んでもただでは起きないのがエイル・オーデルハイヴでしょう。

 人助けできたんだし良かった。無料奉仕バンザイ。

 夕飯は自炊したんだと思おう。

 なんなら材料費なしでありつけたと思えば無料ただ飯なんてラッキーよ。

 その分、旅費が節約できた。

 

 うん、そうしよう。何事もプラス思考が肝心よ。


「今日は手伝って頂きありがとうございました。宿屋は一人で探せますんで」


「また会えるかな?」


「多分もう会えないかと。宮廷追放だから、出禁でしょうし」

 中央神殿は宮廷と隣接しているから今回のようによほどの用事がない限り、まず行くことはない。


「そうか。それは残念だな。西方に会いに行っても?」

 何か用事があるんだろうか?


「御縁があれば」


「君の料理、どれも美味しかったよ」

「西方神殿に来て貰えたらごちそうしますよ」


 ヴォン・ヴォニエールとは中央広場で別れた。


「ではまた」


 彼の背中を見ながら、少し淋しい気持ちに気づく。

 なんで物悲しく感じるんだろう。

 おかしいな。

 お貴族様やら神殿医術師に辟易してたのに。

 宮廷をでられてせいせいしたとか思ったのに。

 なんだろう。

 彼と別れるこの気持ち。

 なんだかモヤモヤする。


「また御縁があれば」

 わたしはそう言うので精一杯だった。


 やだ、しんみりしちゃったじゃない。

 えぇい、辛気臭い。

 こういう一期一会も旅の醍醐味よ。

 せっかくの有休休暇!

 せめて帝都散策だけでもするわよ!


 モヤモヤする気持ちを振り切るかのように別のことを考える。


 こうしてわたしの有休休暇一日目は新しい出会いと共に終わっていった。

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