83.淳/欄干
83.淳/欄干
遠くに港が見えた。その視線上に跳開橋がある。
(跳ね橋……)
どこをどう歩いたのか、淳に記憶になかった。
気づけば橋の袂だった。
船が通るたびに上に開き、そして閉じる。
雪が降っていた。止みそうにない。
足下が泥濘んでいるのに気づかず倒れてしまう。雪と泥とがいっしょになっていた。頭に手をやる。
打ったのか痛い。
手を見ると血が出ていた。
橋に肘をかけ川の流れを見ていた。
(頭が痛い……)
ぼーっとしていた。
(このまま死ぬのかな)
転んで死ぬとは考えていなかった。
(事故死? でも死ななかったら? ……後遺症とかで生き残ってしまったら? ……お金も返せず生きていくとしたら? ……そうまでして生きたくないな……。……生命保険でお金は支払えるだろう……)
川は水嵩を増していた。木や石までが流れていく。
(この川の水はどこから来たんだろう……そしてどこに行くんだろう……海に流れた川の水はどうなるんだろう……川になる水はどこから来たんだろう……)
淳には何が何か分からなかった。
自転車が流れていた。川はさきほどより増している。
(これだけの水なら溺れそうだ……)
自分が溺れるのを想像してみた。
(ちょうどよかった……。死ぬにはちょうどいい)
苦しまずに済むかもしれなかった。
天上を見上げた。
(ん?)
雪の雲間から、はたはたと煌めく流れ星を見た。
目を擦る。気のせいだった。
淳は欄干に手をかけた。




