8.英雄宇一(2)
8.英雄宇一(2)
第一手術室の「手術中」のランプはついたままだった。
石田医師が出てくる。
「先生!」
忠が歩みよった。
「ピアノは! 弾けますか?」
混乱している平悟郎も続く。
(生きるかそうでないかの時に……)
「お父さん、ご家族の方から輸血できますか? ――今はまだ必要ありませんが、用心のため確認しておきたいのです」
父親がどちらかぐらい見れば分かる。
「大丈夫です」
「O型です! O型は誰にでもあげられます!」
誰にもあげたことがない平悟郎が誇らしげに言った。
「それと皮膚移植も。本人のものも利用したいのですが、女性だけに大きく取ると……」
相手にしていない石田医師が忠に続けた。
「私は構いません」
忠が先を急がせた。
「O型ですから……」
平悟郎は名誉挽回したいようだ。
「静かにしろ」
たまらず平悟郎を黙らせる。
「他には……家内も早くに……」
「僕だよ」
満身創痍の戦士が廊下に立っていた。
「君は……」
宇一だ。
「たぶん僕のが合うはずだから」
「坊ちゃん……」
運転手が心配そうだ。
「こうなる運命なんだ。受け入れなければ先に進まない。それだけだよ」
「宇一くん、君にそこまでしてもらう訳には……」
「ちょっと助けたぐらいでイイ気になってんじゃ――グッ!」
忠に蹴られ、一瞬で黙る。弁慶の泣き所とはよく言ったものだ。
「私には頼めない」
忠が言った。
「必要だからする。それだけです」
「では、こちらに」
石田医師が案内した。