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5.宇一のカン
5.宇一のカン
ベージュのVWベントレーが音もなく走る。
「……何か……変」
やや強めに張った特注のコノリーレザーの左後席の少年が呟いた。
胸騒ぎだ。
「やっぱり戻って」
「えっ? 戻るんですか?」
濃紺の制服の運転手が聞いた。後写鏡で後続を確認した。
「何かあるんだ……何か」
「でももうお時間が……」
「お勉強より大事みたいだね」
「例のカンですか」
優しく少年を気遣っている。
「うん。僕にも関わる何か重要な事みたい。何だか分からないけれど」
「はい」
交差点から脇道に入り、Uターンした。
ベントレーが半回転したが、揺れはない。
「うん。やっぱり近づく感覚」#ワクワク
「宇一坊っちゃんにはいつも驚かされます」
「本で読んだよ。こんな感覚があるのは危険が隣にあるからなんだってさ」
「必ず守って差しあげます」
優しく微笑んでいるのが宇一にも分かった。