4.春女ポラロイド/茶泉が口論
4.春女ポラロイド/茶泉が口論
ブルー・メタリックのメルセデスE200カブリオレ・スポーツ(BSG)が、グリーンのフォードジャガーを抜き去った。四気筒エンジンのターボチャージャーの音が響く。
首にブルー・ダイヤモンドが光るチョーカーの美女だ。
右の座席からパンフレットが流れ動く。挟んでいたポラロイド写真がこぼれ落ちた。
E200が青い線になる。
*
投げられた高速の線がダーツボードに向かう。が、OBだ。
白い書斎の壁に突き刺さる。
「(チッ!)そんなことを言っているんじゃあないんだ!」
容認発音(RP)の英国英語で声を上げたのは白衣の男性だった。
ネクタイを緩めると、小剣の糸が切れた。かなり興奮している。
名札に「茶泉一王/Kimikazu SAIZUMI」とある。外科主任だ。
「いいですかあんなこと許されると――」
コードレスの電話を見ると、緑の内線がコールされている。
「ええそうですね、盗聴されているかも」
冷静に戻る茶泉医師だった。
「後で話しましょう。後で」
叩き切る。受話器を持っていた手が白い。
「盗聴されてなくても聞こえるな」
呟いた。
一本手にとり、投げた。四点だ。
深呼吸。
内線ボタンを押す。
「はい」
視線は水平で、いたって冷静だった。
「……私が行く。――石田医師に連絡は?」
ネクタイを整える。
戦闘態勢だ。
投げる。
中央のブルズアイにヒットする。
「感情を制御しなければ。勝てるものも勝てない。感情を消去すれば勝てない。抑圧する必要はないが調整は必要だ」
静かにダーツを抜く。
「三十六計か……」
こちらは中国語だった。
投げる。十二のトリプル。