第十四話
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
馬車で移動すること三日目、やっと鉱山に到着することが出来た。
鉱脈が見つかり鉱物が取れるようになると、それはもう一大産業となる。この鉱山周辺も山と森しかない土地だったのが今ではひとつの街を形成しつつあった。
現在のサイデューム王国は高度な文明を築きつつある。とはいえ、情報網はまだまだ整っていない。だが、鉱脈が見つかったことをどうやってか聞き付けた商売人と、そのおこぼれをねらう人々とで、鉱山周囲は活気に溢れていた。
貴族の馬車がきたと見るや、原石を売り込もうと馬車の周辺に業者が群がる。中にはどう考えてもここで取れた物ではない鉱物も含まれていたりする。そんな彼らから逃れるように、リアトリスの小屋へと馬車は向かった。
アザレアは自分の発言でこの状況をもたらしたのだと考えると、少し怖くなった。
前世の物語の話通りにことが進んだとしても、きっとこの鉱山が見つかったかもしれない。
それでも、この鉱山を所有するのが国王かケルヘール家か、では大きな違いがある。この結果がのちにどのように影響がでるか、それは未知数だ。
ただ一つ言えることは、ケルヘール家はしぼらくは安泰だと言うことだろう。
そんなことを考えていると、シラーが声をかけてきた。
「お嬢様、小屋が見えてきましたわ」
言われて窓の外を見ると、粗末な小屋の横にやけに豪奢な建物が建っている。まるでどこかの神殿を縮小したような、やたら外壁や柱に装飾が施された建物だ。
「お父様の小屋ってあの悪趣味で豪奢な建物かしら? それにしても小屋とは言えないわね」
いぶかしんでいると、馬車は豪奢な建物の前で止まる。
「確認してまいりますので、お嬢様はもう少々お待ちくださいませ」
シラーは元気良く走っていき、まもなく戻ってくると馬車を覗き込み申し訳なさそうな顔をした。
「お嬢様、あの悪しゅ……豪華な建物は、旦那様がお嬢様のために建設なさったそうなのです」
アザレアは心の中でつぶやく。
寝泊りするところはどこでも良いのです。あの建物は、ここでは目立ち過ぎだと思いますお父様。
やれやれと思いながらも、これもリアトリスの思いやりなのだと受け止めた。
馬車を降りると使用人たちが、アザレアの荷物を建物に運び入れ、室内ではメイド達が慌ただしく荷解きをしはじめた。
アザレアはどこになにを運ぶのか指示を出していたが、そのとき後方から雄叫びが聞こえた。
「アジャレェェエェエ~!!」
アザレアが振り向いて見るとそこには、リアトリスが砂ぼこりを上げながら突進してくる姿が見えた。久々に会うので少々暴走してしまっているようだった。
両手を広げ、思い切りアザレアに抱きつこうと直進してきている。アザレアはリアトリスが面前まで来るのを待ち、抱きつかれる直前でスルリと横へ体をかわしリアトリスの顔面に掌底を入れた。
「ぶふぁ!」
リアトリスは、言葉にならないうめき声をあげうずくまった。
やり過ぎたかしら?
そう思っていると、すぐにスックとたちあがると、何事もなかったかのように両手を後ろに組んで澄まし顔をしている。
「アザレは強くて素敵な女性になったね」
そう言って笑ったが、良く見ると涙目になっている。アザレアは優雅に一礼してから笑顔で答える。
「お父様はおかわりなく」
リアトリスは頷くと、咳払いをして続けた。
「ところでアザレ、久々に会ったのだからゆっくり夕食を共に取ろう。あまり新鮮な物はないがここならではの物もある。楽しみにしていなさい」
そう言って、左肘を差し出した。アザレアはその左肘にそっと手を添えてた。
「それは楽しみですわ」
リアトリスはそのままアザレアをエスコートし、小屋の内部を案内した。小屋の中は、見た目こそ簡素だが内部は頑丈に出来ており、質素ながらも必要な物は全て揃っていた。
「むさ苦しいところだが、なかなか快適だ。それにアザレには専用の別棟を用意したから、不自由なく過ごせると思うぞ」
知っております。あの悪趣味で豪奢な建物ですよね?
そう心のなかでつぶやくと、アザレアは内心呆れつつも平静を装って答えた。
「はい、ありがとうございます」
突っ込みどころは多いが、この父親にそれらを突っ込んでいるとキリがないことは十五年間生きてきて十分学習済みだったので、何も言わないことにした。
夕食を共にしたあと、本題を切り出すことにした。有りがたいことに屋敷と違いここは最低限の信用できる者しかいないので、人払いする必要もなく大切な話をするにはもってこいの場所だった。
「お父様、お話があります」
するとリアトリスは手に持っていたティーカップをもう片方の手に持っているソーサーに置いた。
「なんだい? アザレ。お父様はお前の話ならなんでも聞きたいぞ」
そう答えると笑顔を見せた。アザレアも微笑み返すと口を開いた。
「以前、私はお父様に先見の力が覚醒したと話しました。ですが、あれは時空属性の力だったようなのです」
それを聞いてもリアトリスは眉ひとつ動かさずに、こう答えた。
「やっと気がついたのか、私のアザレ」
気がついた? なんのこと?
混乱しているアザレアにリアトリスは話を続ける。
「先月の謁見の際に、お前は王宮で意識を失ったであろう? 実はあのとき屋敷まで瞬間移動していたのだよ。場所が王宮だったのでな、王宮の関係者が何人か見ていて、すぐに国王の耳にも入った。それで屋敷へ駆けつけてきた王宮の神官が、お前が寝込んでいる間に確認した」
衝撃的だった。アザレア自身が、自分は時空魔法を使えるということに気が付いていないうちから、リアトリスや、更には国王陛下までもがすでに事態を把握していたのである。
「ならばなぜ教えてくれなかったのですか?」
リアトリスは右手の肘をテーブルにつき、人差し指をこめかみにあて、しばらく沈黙すると言った。
「アザレ、お前は突然他の者から自分自身のことを知らされたいか?」
アザレアは少し考え、確かに突然言われても戸惑ってしまっていたかもしれないと思った。そしてリアトリスは続けて言う。
「お父様もな、混乱のないようにできればアザレが自分で力に気づき、自ら私にそのことを話してくれるのを待ちたかったのだ。それに聡明なアザレならばすぐに気がつくと分かっていたしな。事実、こうして報告してくれているではないか」
アザレアは、だからお父様は私が先見の力が目覚めたと話したとき、あんなにあっさり話を聞き入れたのだ、と気づいた。
そこでふと、カルもこの事を知っていたのか気になった。
「王太子殿下もこの事は御存じなのでしょうか?」
リアトリスは、一瞬なぜそんなことを訊く? と言いたげな顔をしたが、すぐに答えた。
「お前が王宮で瞬間移動したとき、あのキエフの小倅、王太子殿下の腰巾着の、うーん名前をなんと言ったか……」
アザレアは答える。
「フランツ様のことですわね?」
リアトリスは頷いた。
「そう、そうだ、その小倅の目の前で瞬間魔法を使ったのでな、小倅から王太子殿下の耳にも話がいっているということは考えられる。だが、正式には聞いていないはずだ」
カルはなぜ、アザレアが突然現れるのを不思議に思わないのだろう? と、常々思っていたので納得した。
正式に国王からこの話を聞いていないなら、次に会ったときに私が時空魔法を使えると、ちゃんと自分の口からカルに伝えよう。そう思った。
今日はもう遅かったので、明日ゆっくり話そうとリアトリスに言われ、アザレアは自室に戻った。信頼できる相手に隠し事がなくなったので、肩の荷が下りた気がした。
誤字脱字報告ありがとうございます。