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第十二話

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 リアトリスに頼まれた絵師は、どうやらアザレアがロングピークを発つまでの間に肖像画を仕上げろと、とんでもない無茶ぶりをされたようだった。


 おかげでアザレアは、日中肖像画を描いてもらうためにずっとモデルをしなければならず、あちらこちらに出かけたかったのだが、諦めることにした。


 そんな中でも、夜は王宮図書室へ出かけることはできたので、それが唯一の息抜きとなっていた。


 最初こそ、王太子殿下と話をするということでやはり幾分緊張していた。だが、先日城下町で一緒に買い物をしたこともあって、二人の距離がぐっと縮んだ。


 図書室では本を読むアザレアの横で、カルも静かに本を読んですごし、読書日以外の日は、お茶を飲みながらお互いに日々のことや、趣味の話をした。


 一週間のうち四日もおしゃべりや一緒に読書をして過ごしているうちに、カルと図書室で過ごす時間が、日常のようになりつつあった。


「カル、こんばんは」


 今日も約束をしていたので、図書室へ訪問すると、カルは本棚の前に置いた脚立に座り、先日アザレアがすすめた『カイの国の物語』という本を読んでいた。その本から視線を上げ、アザレアを見て微笑む。


「やあ、来たね。待ってたよ」


 こんなやり取りを、もう何回行っただろうか。そんなことを考えながら、アザレアはカルの持っている本を見て言った。


「その本面白かったでしょうか?」


 『カイの国の物語』は、基本恋愛小説なのだが、大筋は国を立て直す物語だ。王様と王妃が結ばれ、国を立て直すために奔走する国王を健気に王妃が支え、最終的に大団円になる話しだ。


 昔読んだ時は王妃と自分を重ね合わせて読んだものだった。最近読み直したら恋愛エピソードよりも、国の立て直しの内容の方が面白かったし、今後きっとカルが誰かと国を支えてゆくのだろうと思いすすめた。


 正直に言えば、カルの隣に自分ではない誰かが並ぶ、と考えると少し胸が痛んだ。でも、今の自分は、本の中の王妃のように陰になり日向になり国王を支える、なんてことはできそうにはない。なので婚約者候補を辞退したことは良かったことなのだと、自分を納得させていた。


「面白いよ。これ、君は読んで自分に重ね合わせたりした?」


 アザレアは少し照れながら答える。


「恥ずかしいことですけれど、昔はそのように思ったこともありました」


 カルは首を傾げた。


「昔ってことは、今はそうは思わない?」


 アザレアは頷いた。


「今の(わたくし)ではカイの国の王妃のようにはできないことがわかりますもの。それに国を立て直すなら、もっとお互いに支え合いながらでないと。カイの国の王様は少し王妃に冷たいですわ。魅力に欠けます」


 別にカルのことを批判している訳ではないのだが、カルはカイの国の国王に似ているところがある。直接的ではないにしろカルを批判してしまうことになったので、怒ったかもしれないと少し不安に思った。だが、カルは少し思案したのち


「私もその通りだと思う」


 と笑顔で答えた。その返答に少し驚いていると


「そんな顔で見ないでくれ、私も昔はカイの国の国王のように考えていたことがあった。でも今は違う。君と色々話していて、考えが変わったんだ」


 そう言って、恥ずかしそうに咳払いをすると


「そういえば、肖像画はもう描きあがったかい?」


 と、話を変えた。


「そうなんですの、絵師の方には申し訳ないのですけれど、やっとあの苦行から解放されると思うとほっとしますわ。向こう十年は肖像画のお願いはしたくありません。お父様も半年に一度肖像画を変えようなんて、どうかしてますわ」


 カルは声を出して笑った。


「確かにケルヘール公爵は君のことになると見境がないな。でもそれだけ君が大切なんだろう? 気持ちはわかるよ」


 と、したり顔で言った。なので


「そんなこと言って、カルにもそういう大切な人がいますの?」


 と逆に質問した。すると、腕を組んで少し考え言葉を選びながら話す。


「前は、そうだね前は居なかったと思う。だって、私はいずれ国王になるだろう?」


 言っている意味が分からなかった。国王になることと大切な人がいることと、どう関係があるのか。


「どうして国王になると、大切な人がいないことになりますの?」


 アザレアはカルの言っている意味が全く理解できなかった。すると、カルは真面目な顔になった。


「国王になったら、国民を第一に考えなくてはいけない。自分のことは二の次だ」


 驚いてアザレアはフリーズした。こんな考え方を持つ王子がいまだにいるとは。かくいうアザレアも、記憶を思い出す前までは同じような考え方だったのだが。


 そしてふと以前カルがアザレアに『今後は、国母となりうることを自覚し行動して欲しい』と言い放ったことがあったのを思い出す。黙っているアザレアを見てカルが微笑む。


「勘違いしないで欲しい。これは以前の話だよ。もちろん、今はそんな考え方はしていない。そもそも誰かを愛することもできない人間が、国民が第一だなんておかしな話だ」


 アザレアは安堵した。


(わたくし)も、自分を大切にできず、愛する人、守りたい人がいない人間に、その他大勢を救うことはできないのではないかと思います。良かったですわ、同じ考えでとても嬉しいです」


 カルに微笑みかけると、カルは眩しそうにアザレアを見つめていた。アザレアはその視線に、なんとなく恥ずかしくなった。


「あの違うのです。(わたくし)は友達としてカルに幸せになってもらいたくて、意見を言ってみただけなのです。それが同じ意見だったので、気持ちが共有できたような気がして。ごめんなさい、変なことを言いました」


 カルは軽く頷く。


「変なことなんかじゃないよ、言いたいことは十分伝わっているよ」


 と言った。しばらくお互いを見つめあった。カルは立ち上がるとアザレアに近づき、頬を撫でた。


「私のことを思ってくれてありがとう」


 アザレアはどうしたら良いのかわからなくなり、黙っていた。


「すまない、このままここにいたら歯止めが利かなさそうだ。今日はもう帰った方が良いだろう」


 アザレアは頷きいつものように、図書室の死角になるところから自室へ戻ろうとした。が、ふと明日から鉱山へ行かなければならず、日程によっては来られるかどうかわからないことを伝えなければと思い、振り返った。


「あの、言っておかなければならないことがあるのです」


 カルは微笑んだ。


「なんだい?」


 温かい、優しい眼差しでドキリとする。


「あの、(わたくし)、事情があってしばらく来れないかもしれませんの。カルが嫌いとか、ここに来るのが嫌とかではありません」


 カルは少し残念そうな顔をしながら言った。


「わかった。でも、時間ができたらまた必ず来て欲しい。約束の曜日には必ず待っているから」





 自室に戻ってから、ベッドにもぐるとまだ胸がどきどきしていた。


 改めて今のカルを気にし始めているのか、それとも、好意を寄せられていると感じてどきどきしているのか、正直自分でもわからなかった。


 だが、アザレアはカルに頬を撫でられても、嫌な気分にはならなかった。


 別れ際に見た、今まで見たことのない温かい、優しいカルの眼差しが脳裏から離れなかった。


 これからは友達としてそばに居ようと思っていたのに。と、その日はなかなか眠ることができなかった。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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