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第十一話

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 アザレアが食事代を自分で払おうとすると、すでに会計済みだった。いつの間に会計されていたのか、さっぱりわからなかった。食堂を出たところで


「贈りたいものがある」


 と、カルがポケットから小さな箱を取り出した。蓋を開けてみると、直径2センチほどのプラチナでできている細工の施された、三日月モチーフのイヤリングだった。


 三日月の下の部分に、アレキサンドライトをペアシェイプにカットしたものがついていて、まるで月から雫が落ちているように見える。それに何かしらかの魔力が注入されているようだ。


「今度から外に出る時はこのイヤリングをつけてくれないか? 目立たなくなる魔力を付与してある」


 嬉しいが、こんなものをもらってしまっても良いものなのか少し受け取るのを躊躇した。


「受け取って」


 と、手を取り手のひらに載せられたので、受け取ることにして頷いた。カルは笑顔で言った。


「今俺が着けても?」


 え? カルが自分に? (わたくし)にプレゼントじゃなかったの? 美少年だから似合わなくもないけど。などと、考え混乱しつつカルを見つめ返した。


 それが肯定ととられたようで、カルはイヤリングをアザレアの耳に着けた。そしてまじまじと見つめると、満足そうに頷いた。


「うん良かった、思った通り似合っている」


 カルがアザレアにイヤリングを着ける時に、少しカルの指が触れどきどきした。


 アレキサンドライトはかなり希少な鉱物だ。更にこれだけのクラリティのものとなると、めったにお目にかかることがない。それに凄くかわいらしいデザインとカットで職人の技巧が光っていて、とても気に入った。


「ありがとう、凄く嬉しい。大切にするね」


 アザレア自身、そんなに目立つ外見ではないし、今は時空魔法があるので、危険を回避することができる。なのでそんなに心配する必要はないのだが、カルはアザレアが時空魔法を使えるのを知らないのだから、心配するのも当然だろう。


 耳に着けてもらったイヤリングをくすぐったく思いながら触った。そんな姿を眩しそうに見つめながら、カルは嬉しそうに言った。


「渡せないかと思っていたから、渡せて良かった」


 もしかして婚約者候補には全員こういったものを準備していたのだろうか。だとしたら、王室ってなんと太っ腹なのだろうと、驚愕した。


 アザレアは、これがいつから準備されていたものなのだろうと不思議に思った。そしてなぜ今持ち歩いていたのだろうか? と余計なことを考えていると、カルが何かを察したかのように苦笑して言った。


「実は、以前に注文していて、今日取りに来たところだったんだよ。腕の良い職人がいてね、どうしてもその職人にお願いしたかったんだ」


 と、早口で言った。アザレアはそれでカルが城下町にいたのか、と納得した。


 午後は少しカルと一緒に商店街を見て回り、鉱物も見るために露天商にも行った。何件かのお店ではカルと鉱物の露天商の業者が顔見知りらしく、欲しい鉱物を安く譲ってもらうことができた。


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、気がつけば日が傾き始めていた。


 あまりに長い時間外出していると、アザレアが不在なことを、シラーにばれてしまう恐れがあった。なので、後ろ髪を引かれながらも切り上げることにした。


「なんだか、今日は付き合わせてしまったみたいでごめんなさい。カルは他に見たいものがあったんでしょう?」


 と、カルに謝る。


「今日は楽しかったからいいんだ。楽しくなければ一緒にいたりしないだろう? アズは遠慮しすぎだよ」


 カルは優しく笑った。なるほど、以前は楽しくなかったから、謁見に行っても会ってくださらなかったことがあったのかしら? と、ひねくれた考えが脳裏をよぎる。


 考えすぎなのはわかっているが、こうも立場が変わったとたんに態度を変えられると、戸惑い色々と下卑た考えをしてしまう。


 だが、カル本人も言っている通り、現在その事について贖罪中らしいので、今後のカルの行動を見ていこうと思った。それに今日は、アザレアも楽しかったのも確かだった。


「じゃあ、友達としてまた一緒にお買い物に行きましょう」


 と、微笑んだ。


「うーん」


 カルは一瞬考えた顔をしたのち苦笑した。


「まぁ、そうだね。今のところは友達でもかまわないよ。君が一緒に買い物に行ってくれるならね」


 そう言うと、悲しげな笑顔を浮かべた。




 その後、アザレアを邸宅まで送ろうとするカルに、アザレアは幻覚なのでその必要はないと必死に説明し、中央通りの端で別れた。


 今日はカルと楽しく買い物もできたし、なんだか素敵なプレゼントもいただけたし。思い付きの行動だったが、予想以上に楽しい一日になった。


 またお忍びでこのドレスを着るかもしれないので、ドレスはロングピークに持って帰った。自室に帰った時も特に何の騒ぎになっておらず、不在だったことがばれなかったことに安堵した。夕食を食べると疲れもあって、この日はすぐに眠ってしまった。


 次の日の朝、朝食後のお茶を飲みながら、昨日は楽しかった。さて、今日はなにをしようかと考えていると、シラーがやってきて申し訳なさそうに言った。


「お嬢様、あの、応接間に肖像画の絵師の方がお見えになっているんですが……」


 その言葉に、アザレアは思わずお茶を吹いたのだった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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