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第九話

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 鉱山へ出発するのは余裕をもって一週間後としていたので、それまで何も予定がなかった。


 アザレアは表向き、ロングピークへ療養の名目できている。先月王宮で倒れ、三日間寝込んだ際に体調を崩し虚弱体質になったため、婚約者候補の辞退をするという話になっていた。その流れでロングピークへの療養が決まったことになっている。


 だが、社交界でも口さがない者は、現段階で婚約者候補の辞退を申し出るなんて、傷物になったからに違いない。などと噂していた。


 他の貴族たちも触らぬ神に祟りなしとばかりに、アザレアに接触してくる者はいなかったので、そのせいもあってか誰からのお茶のお誘いもない。



 ということで、アザレアは思う存分花の品種改良と、読書をして過ごしていた。だが、それだけに没頭するのも流石に飽きてきていた。


 有り余る時間をどう過ごすか考えていたとき、せっかく何処へでも行けるのだから、王都の城下町に行こうと思い立った。 




 貴族はそれだけで誘拐や強盗の犯罪に巻き込まれやすい。なので、特に女性は城下町へ行くことはほとんどない。


 だが、アザレアは以前シラーにお願いして城下町へ連れて行ってもらったことがあった。そのときに、懇意にしている商人が持ってきた品物の中から好きなものを選ぶより、自分であちらこちら見て選べる楽しさを知った。


 だから城下町へ行くのは好きだった。それに素敵な小物があったりと、掘り出し物を見つけるのも自分で買い物をする楽しみの一つだ。


 それに今のアザレアは時空魔法を使えるので、誘拐などの犯罪に巻き込まれるという危険もなく、安心して買い物ができる。




 そうと決まればと、シラーを呼び、今日は疲れがたまっているため一日ゆっくり休むから、誰も部屋へ入れないようにとお願いした。そしてロングピークを後にした。


 王都の屋敷にこっそり戻ると、ごそごそと自室のクローゼットの中を漁る。以前お忍びで着たドレスがまだ残っていたはずだ。


 昔辞めていったメイドが若者むけで着られないので誰かにあげて欲しい。と、残していったドレスだった。そのときは、まさか自分で着ることになるとは思いもしなかったが。


 ドレスはハンドメイドなので、よっぽどでない限りは着回しする。なので古着でも着れるものなら取っておくのが普通だ。いらなくなったものは、誰かにあげてしまうか、古着屋に売るのが一般的で、捨てることはほとんどない。


 貴族もよほどのお金もちでない限りは、使いまわすことが多く、また上位の貴族が一度着た払い下げを安く購入することもある。


 少し探していると、チェストの奥の底の方に畳んであるのを発見した。ハイネックで胸の中央に縦にタックが入っており、ウエストで切り返しになっている、ちょっと流行遅れの、レースもついていない素朴なドレスだった。


 そのドレスのみではシンプルすぎるので、レースのつけ襟をつけてもよかったが、アザレアが持っているようなレースのつけ襟は、見た目で高級品とばれてしまうので、何もつけない方が良さそうだった。


 アザレアはそのドレスに着替えると、髪の毛を後ろで三つ編みにしてアップにした。野暮ったい格好だが、目立ちたくないのでちょうど良い。そして職人通りへ出発した。



 王都は王宮から放射状に道が伸びている。王宮の裏側には兵舎や騎士団の詰め所などあがあり、王宮に向かって左側に居住区、右側が商業区と別れていて、その商業区の最も左側が職人通りになっていた。


 職人通りには、物づくりの作家や宝石の加工研磨の職人が店を構えている。貴族の邸宅はやや郊外に位置しているので、中央の大通りから順番に王宮向かって右方向へ、端から中心に、中心から端へと歩いて城下の商店や露天を見てまわることにした。


 まずは中央の大通りの雑貨屋を見て回る。生活雑貨ですらおしゃれで可愛い。当然ハンドメイドなので、気に入ったものがあったら作家を覚えておけば、直接本人のところへ行って欲しいものを注文することもできる。その後、鉱物の露店にも寄った。


 我がヘルケール家の領土は、主にトルマリンとガーネットが取れる。人気のある鉱物だが、トルマリンは弱点があり、硬度は七~七・五とまずまず高いのに劈開(へきかい)が弱い。


 劈開というのは、簡単に言うと、結晶のある一方の方向に力を入れると簡単に割れてしまうことをいう。


 トルマリンはどちらかというと縦に長い結晶なのだが、横方向に力を入れると簡単に割れてしまう。なので魔力を封じる時にうまく入れないと割れてしまうのだ。


 アクセサリーにする際は劈開に沿ってスライスして、その見た目からウォーターメロンと言う名で売っていることが多かった。


 対してガーネットには劈開はない。ところが結晶が小さいものが多い。どちらも大好きな鉱物なのだが、時空魔法の魔石を作るには難しかった。


 と、いうわけで、魔石を作るための手ごろで安い掘り出し物の鉱物を探しに来たのだ。もちろん邸宅にも鉱物業者はくる。ところが貴族相手なので値段を吹っかけてくる業者が多かった。


 だが、こういった町の露天商には凄い鉱物がお手頃価格で売っていたりと掘り出し物が存在する。なので一見の価値ありだった。そう言えば前世でもミネラルショーに出かけ、掘り出し物を探したり、業者に直接値段交渉したりして、カラーストーンの原石を買い漁ったものだった。


 できればルース、所謂カットされたものではなく、原石のままが良い。そんなことを考えながら、にぎわう露店の中を一つ一つ見ていると、耳元で声がした。


「やあ、君はなぜここにいるんだ?」


 びくっとしてのけぞって横を見ると、カルが立っていた。こんなところで会うなんて思いもせず、アザレアは物凄く驚いてしまった。対してカルは余裕の表情を浮かべていた。全身をよく見ると、タイのないブラウスに、襟の大きなコート、パンツにロングブーツといういで立ちで、見事に市井に溶け込んでいる。


「カルこそ、なぜこのような場所にいらしたんです?」


 驚いてしまい、口調が貴族のままになってしまった。カルは自分の口元に指をあてると


「アズ、ここではそんな話し方してはだめだよ」


 アザレアは頷いた。お互い庶民としてきている、口調は崩した方がよいだろう。


「それにしても、カルとここで会えるとはおもっておりませんで...わ」


 無理に口調を変えるので、どうもぎこちなくなってしまった。これが他の人相手ならもっと上手にできたかもしれないが、相手は王太子殿下である。自然に敬語になりそうになる。


「俺もこんなところでまさか、アズに会えるなんてびっくりした。嬉しいよ。今日は何の用でここに来たんだい?」


 カルは口調を崩すのが上手だった。流石王太子殿下、なんでもパーフェクトですのね。と思いつつ、アザレアは前世での生活を思い出しながら話すことにした。


 考えてみれば、前世では日常崩した言葉でしか話していなかったのだから、できるはずである。頭をフル回転させて記憶を取り出す。


「退屈してたから、買い物しに来たの。カルもお買い物?」


 うまくできた。カルは満面の笑みを浮かべて、嬉しそうに答える。


「俺も。鉱物を見たくて」


 嬉しそうなカルを見て、アザレアもつられて笑顔になって答えた。


「実際に露店に来た方が、いい鉱物が手ごろなお値段で手に入るわよね」


 カルは頷いた。


「そうだよな、俺も自分の目と足で掘り出し物の鉱物を探す方が好きだな。でも、しかし、まさかアズが、一人でこんなところまで買い物に来ているとは驚かされた。しかも俺と同じ理由とはね」


 確かに普通の令嬢はこのようなことはしないだろう。だが、今のアザレアには前世の記憶と時空魔法がある。一人で買い物に出ることにさほど抵抗はない。


「そう? 慣れてしまえば買い物ほど楽しいものはないと思うけれど?」


 カルは感心したような表情になった。


「そうなのか。ところでアズはお昼まだ? 立ち話もなんだし、食べてないならご飯の美味しいところ知ってるから一緒に行かないか?」


 夢中になって店を覗いていたので気がつかなかったが、もうお昼をまわっていた。


 それにしても城下町の美味しいご飯のお店まで知っているとは、本当に抜け目がない王子だと感心しつつ、 断る理由もないので快諾すると、カルとそのお店に向かった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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