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8.運命の出会い

翌日、ソフィアとエマはお目当ての国立図書館へと向かうべく、宿泊先から馬車を走らせると、やがて建物が見えてきた。ディヴォア帝国のそれと比べると、大きく感じた。


(たくさんの書物がありそうね。良いものが見つかるといいわね)


図書館の前に停まると、ソフィアとエマは馬車から降りた。


「夕刻には迎えにくる。それまで読書を堪能しておくれ。エマ、よろしく頼む」


「かしこまりました、旦那様」


早速、中に入ると、上着をエマに預け、司書に予め用意していた手紙を渡した。


『聴覚障がい者や発声障がい者についての書物や、手話について書かれている書物についての案内をお願いいたします』


司書は、手紙とその内容から、ソフィアが聴覚もしくは発声に障害があることを悟った。


「お待ちくださいませ」

筆談と口頭で返事をすると、書物を探して選んでくれた。


司書が戻ると、書物とともに手紙を渡してくれた。

『何かございましたら、お気軽にお声かけください。お手伝い致します』


司書の迅速で親切な仕事っぷりに感謝し、ソフィアは閲覧室に向かった。


閲覧室は大きな窓があり、そこから光が差し込み、とても明るかった。


ふと、ソフィアの目が止まる場所があった。

そこには、窓枠に腰かけ、書物を読む青年の姿があった。窓からの陽の光が反射し煌めくプラチナブロンドに、透き通るような肌、とおった鼻筋が美しい横顔であった。その青年のまわりだけ、高貴な雰囲気が漂っていた。


(…。とても、美しい人…、絵画のようね…)


ソフィアがつい見とれていると、視線に気がついたのか、顔を上げた青年と目があった。


ソフィアは慌てたが、目があってしまったので、小さくカーテシーをした。


すると、青年はこちらを見つめたまま固まってしまった。


(!?…あれ?作法、どこか間違っていたかしら?恥ずかしい…)


ソフィアは、かぁっと顔が赤くなるのを感じ、顔を背けると、その青年より少しでも離れた場所で腰かけた。


閲覧室にいる者は皆、テーブルのある席で読書をしているが、その青年だけが気楽に窓際で読書を楽しんでいる。


(アルフレッド皇子も美しい人だったけど、あの方もとても美しいわね)


青年のことを気にしつつ、ソフィアは書物に目を通し始めた。


それから、小一時間程、読書を堪能した。


(手話、奥が深いわね。大体のものは単語を形で表現してるんだわ。わかりやすいものはジェスチャーのようで伝わりやすいし覚えやすいけど、複雑なものはよほど使いこなしている人でなければ理解は難しいわね)


ふと、外の明るさを確認しようと窓を見ると、そこにはまだ、読書をする青年の姿があった。


(…、本当に美しい。男性に使っていい表現かわからないけど…)


はっと、また青年に見とれている自分に驚きつつ、再び書物に目を通し始めた。


夕暮れも近づいてきた頃、そろそろ帰る準備をしようと書物を整え始めた。


(手話は手で形を表現しているものが多い。形ということは、絵を準備しておくのはどうだろう。家での使用人に伝えるのに、文字ではなくて絵を。紅茶、湯浴み、食事、ドレス、メイク、ベッド…。何をしたいかの絵を見せるだけでも伝わるかもしれない!ついでにその下に文字も添えておけば、単語を覚えることが出来るかもしれないわ!絵札を作ってみようかしら?でも、絵の才能なんてないわ。どうしよう)


すると、クスクスと笑い声が聞こえた。

そちらの方に目を向けると、先ほどの青年がソフィアを見て笑っている。


ソフィアは知らず知らずのうちに、閃いて喜んだり、難題に悩んだりと、一喜一憂が顔に出ていたようだ。


(…!なんてこと。笑われてる!恥ずかしいわ…。つい夢中になってしまって…、油断したわ)


顔が熱くなるのを感じ、顔を隠すように背けると、ちょうど夕刻を知らせに来たエマと共に退室した。


司書に借りていた書物と手紙を渡すと、一礼してエントランスに向かった。


手紙には、自分は発声できないだけで耳は聞こえること、明日も書物の用意をお願いしたい旨を記した。


エントランスは閲覧室より涼しく、火照った頬を冷ますのにちょうど良かった。


「お嬢様、外は寒いですので、上着をどうぞ。…、あれ?お部屋寒かったですか?お熱でしょうか。お顔が赤いようですが…」


上着を羽織らせる為に近づいたエマは、火照ったソフィアに気がついたが、エマに気づかれたことに恥ずかしくて、更に顔が赤くなってしまった。


「あらあら、大変。早く宿泊先に向かいましょう」


そういうと、到着していた馬車に乗り込んだ。


「やぁ、ソフィー。お待たせ。良い収穫はあったかな?」


アドルフに問われ、ソフィアは手で◯を作った。


「そうか、そうか、それは良かった」


ソフィアがとある出会いを果たしていたことを、この時は、誰も知らなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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