32.結婚披露宴
オルヴェンヌ公国の建国から3か月後。
ブランシュール王国王太子アドリアンとフランソワーズ嬢の結婚披露宴が行われた。
ブランシュール王国の未来へと繋がる、二人の結婚に国民は喜んだ。
そこからさらに2ヶ月後、オルヴェンヌ公国女大公ソフィアと、ブランシュール王国第一王子シルヴァンの結婚披露宴が行われた。
からっと晴れた爽やかな日であったが、寒さが残る時期であったため、ソフィアのドレスはかつてないほどの厚着となった。もちろんこの日の衣装も、オルヴェンヌの職人による傑作品だ。そして、それは、オルヴェンヌのファッションブランド価値をさらに上げることとなる。ドレスの上に身につけたコートは、雪国ブランシュールの夜会へと出かける令嬢やご婦人の心を射止めたのだ。
美しい君主のおかげで、オルヴェンヌの服飾産業はさらに発展することになる。
また、この日も公邸を一般解放し、バルコニーにてお披露目を行った。美しき女大公の伴侶となったシルヴァン大公は、これまた麗しかった。隣国ブランシュールの王子であったこともあり、関係国来賓や国民は政略結婚であると思っていたが、2人の仲睦まじすぎる様子から、そんな浅はかな考えはすぐに消えた。
見目麗しい2人の姿は、永遠と語り継がれることとなる。
「ソフィア様、とても、とてもお美しいです!この日を迎えられたこと、本当に嬉しく思います。おめでとうございます」
体調も安定したエマが、この日は侍女としてソフィアの側にいた。
『ありがとう、エマ。忙しいからと、そんな薄着では、今日は寒いわ。きちんと温かくしていてね』
「お気遣いありがとうございます」
お腹も目立ってきただろうか。この日も側にいるエマを心配ってくれる優しいソフィアの対応にも、エマは嬉しさと喜びで気が昂っていた。
(今日は危なっかしいわ。ここまで喜んでくれるエマも愛おしく大好きなのだけれど)
もう一人の侍女ルネは、エマに上着を羽織らせ対応している。
ちらっとフレデリックを見、目を合わせると、困ったような顔をしていた。
「すみません、ソフィア様。今日だけはご勘弁を。あなたの幸せがエマの幸せでもありまして。私も注意深く見ていますから」
この優しい夫婦に、これからもたくさんお世話になるのだと思うと、ソフィアの心もとても温かくなった。
「ソフィー、今日は本当に美しいよ。ジョゼットにそっくりだ!本当にそっくりだっ…」
アドルフは涙を滲ませ、ソフィアを見つめた。
『お父様…』
愛を持って自分を育ててくれていることは感じてはいたが、辺境伯として仕事をしていた時期には感じなかった、深い愛と人間らしいアドルフの様子に、ソフィアは感動した。
『お父様、私をこのように導いてくださり、ありがとうございます。とても幸せにございます』
「ソフィー!!!」
アドルフの涙腺は崩壊した。
ソフィアは、シルヴァンを見つけると、歩み寄った。
『シルヴァン様。これで私たちは夫婦になりましたね。私はとても幸せにございます』
その言葉を聞き、シルヴァンは一歩下がると、ソフィアの前に跪いた。
『ソフィア、私を迎えてくれてありがとう。私も幸せだ。君に出会えて、本当に良かった。これからは君を支え続けるよ。何があっても、君への愛も忠誠も変わらず、君の為に全てを捧げる』
すると、シルヴァンはソフィアの手をとり甲に口づけると、立ち上がり、ソフィアを抱き寄せた。
そして、ソフィアの耳元に顔を近づけると、囁いたのだ。
「ソフィア、あいしてる」
ソフィアは喜びで胸がいっぱいだったが、この言葉には涙腺が崩壊し、力一杯シルヴァンに抱きついた。
(私も、私もです、シルヴァン様!!)
2人はいつものように見つめ合うと微笑み合ったが、この日はこれでは終わらなかった。
素晴らしい門出のこの日、2人は出会って初めての口づけを交わしたのだった。
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次回完結となります。