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31.戦術の奇才アドルフ

食堂では、アドルフがそわそわと待っていた。

次いで現れたのはシルヴァンであった。


『アドルフ様、ご無沙汰しておりました。これからこちらにお世話になります』


『これは、シルヴァン殿下。いや、こちらこそ。それに、私もお世話になってる身ですよ』


アドルフは通訳なしに、シルヴァンと会話した。


『アドルフ様、手話が達者ですね!』


『いやはや、時間はたっぷりありますから。私の話し相手であるセバスがメキメキと上達してくれたおかげで、自然と覚えることができました。ソフィアとも会話が楽しめていますよ』


すると、着飾ったソフィアが入ってきた。


『お待たせしました』


着飾ったとはいっても、晩餐用にいつもより上質なドレスに、髪を編み込んだだけなのだが、宝飾品がなくても、十分に輝きを放っていた。


『ああ、ソフィア、待つのは紳士の嗜みだ。今日もまた一段と美しいね』


アドルフも女性の扱いは甘い。


シルヴァンは、美しいソフィアに見惚れていた。


『シルヴァン様、どうかされまして?あなたは今日も素敵ですね』


『いや、美しい君に見とれてしまったんだ。ああ、なんて美しいんだろう。今日も素敵だよ、ソフィー』


スラッと背の高いシルヴァンは、立ち姿がまた一段と絵になるのだ。その横にソフィアが立つと、シルヴァンを見上げて微笑んだ。


(!!!なんて可愛いんだ…。心臓が持たないよ!結婚するまで、私の理性は耐えられるだろうか)


結婚式は2か月後を予定していた。


晩餐が始まると、アドルフがシルヴァンに話しかけた。


『シルヴァン殿下、あなたに見てもらいたいものがあるのですが』


セバスチャンを通じて、1つの懐中時計が渡された。時計といっても、中には時を刻む部分はなかった。


『まだ模型の状態といったら良いのかな?時計を作る技術はまだ習得中なのですが、蓋の銀細工を見てもらいたいのです。どうですかな?装飾品としては、需要はありますでしょうか?』


パッと見ただけでも高級感があり、細部まで確認すると、良い仕事をしているのが見てとれる。


『これは素晴らしい。同じ時計を持つにしても、こちらの方が格が上がりますね。今は時計職人を育てている所ですか?』


『ああ、これからを担う若者で、手先が器用だった者を募り、技術を習得中です。鉄鋼山からも採掘を始め、部品を作るための材料を揃えています』


『順調ですし、これからが楽しみですね』


『ああ。私が今行ってる仕事は、こちらの状況把握だけなのですよ。あとは、隠居生活を満喫中です』


『それでは、毎日何をなさっているのですか?』


『今日は、庭師と土いじりをして、花を愛でましたよ』


『アドルフ様が花ですか!?』


結び付かない2つに、シルヴァンは驚いた。


『ああ、妻のジョゼットは花が大好きだったんです。彼女は床に臥せてる時間が長かったですからね。彼女が堪能できなかった分を、今、私が楽しんでおりますよ』


アドルフの土いじりの理由にソフィアは驚いたが、父は母を愛していたのだと知り、嬉しかった。


『ちなみに、昨日は、乗馬をしましたよ。軍馬には久しぶりに乗りました』


その言葉に、シルヴァンは前から気になっていたことを質問した。


『たしか、辺境伯を継がれる前は、騎士団を指揮される将軍様でいらっしゃったとお聞きしましたが、今、この国の軍はどちらに?』


それには、アドルフとソフィアは顔を見合せ、シルヴァンに向き直った。


『うーん、ございませんよ?』


『ない!?軍隊がないのですか!?』


アドルフの返事に、シルヴァンは驚愕した。


『これには、いろいろ経緯がございましてなぁ…』


今度は、アドルフとセバスチャンが顔を見合せた。


そして順を追って説明した。


アドルフの父は帝国内の有名な騎士で、大きな軍隊を率いていた。それを追うようにアドルフも騎士となった。アドルフの父は功績が認められ、辺境伯の爵位とこの領地をもらった。騎士団も2軍ほど所属していた。ディヴォア帝国は巨大帝国となり一帯に君臨していたため、情勢が安定していった。アドルフの父が逝去すると、アドルフが辺境伯を継ぎ、騎士団もそのまま引き継ぎ所属させる予定だったが、北よりも西の情勢が不安定であったため、騎士団を1つ異動させることになった。オルヴェンヌの軍事力が縮小されることにより危機を感じたアドルフは、隣国ブランシュールと友好関係を築き、争いにならぬよう努めた。関係を確信した後に、残っていた騎士団は、一旦解体し、彼らには有事の際に備え、日々の体力づくりと鍛練は怠らないようにだけ指示し、銀山採掘や農業など力仕事に人力を回した。団長のみ指揮官としての感覚維持のため、ブランシュール王国の騎士団に所属させてもらい、オルヴェンヌの有事の時には、その団長を長とし、ブランシュールの軍事力を借りることになっている。


アドルフの説明に、セバスチャンも頷いている。


『なんと!?軍事力を借りる?いつの間に安全保障条約を結んでおられたのですか!?』


『まあ、私が辺境伯を継いでからは、オルヴェンヌも経済的な発展に力を注いだし、平和ボケしてしまっていたし、オルヴェンヌを公国にする際も、改めて軍事力を持とうとする動きは、この情勢も考えるとできないと判断したのですよ』


アドルフが答えると、これにはフレデリックが頷いた。


『ソフィアは、このことは知っていたのかい?』


『いえ、結末だけです。騎士団は存在していないけれど、ブランシュールとの条約があるから、軍事力は助けてもらうようにと』


危なっかしいようだが、抜かりないと言って良いのだろうか。


『では、私がソフィアと婚約したことは、オルヴェンヌにとってはかなり重要だったのでは?ある意味、私はブランシュールからの人質です』


『結果的にはそうなりますね』


アドルフはうんうんと頷いている。


アドルフの策略なのか。大国ブランシュール側が優位に立っているかと思っていたが、シルヴァンは自分が1つの駒として動かされてるように感じ、意外とオルヴェンヌが陰で操っているとすら思えてきた。


(父上!味方につけたのは正解かもしれません!おそるべし、アドルフ·オルヴェンヌ!)


『でも、2人の婚約は、国王陛下も想定外だったと思いますよ?あの日あの時の思いつきですな』


『思いつきですか?』


『まさか、既に2人が知り合っていたとは。あの時の国王陛下のお顔は忘れられません。とはいえ、私も寝耳に水。私もすごい顔をしていたと思いますが』


「はっはっはっ!」


アドルフは思い出し、大笑いした。


これには、ソフィアとシルヴァンは顔を見合せ、アドルフを敵には回すまいと誓ったのであった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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