28.オルヴェンヌ公国誕生
いよいよ、オルヴェンヌ領を公国として、建国する運びとなった。
半年の月日をかけ、公国の君主となる女大公の発表に相応しい王冠とマントをオルヴェンヌの産業で造り上げた。王冠は銀製で、宝飾を付けずに、細工で華やかさを飾った。1ヶ所だけ、戴冠の時にその君主の瞳の色の石を入れられるようにし、今回は蜂蜜色の宝石シトリンを填めてある。マントは清潔感のある青を基調とし、最上級の糸でオルヴェンヌ柄の刺繍を施した。
『こんなに素晴らしい衣装!もったいなくて着れないわっ!!』
目を輝かせてソフィアは喜んだ。
その様子に、製作にあたった職人たちは、安堵と喜びを噛み締めた。
ソフィアが女辺境伯となって一年後、ようやくこの日を迎えた。
この日は辺境伯邸改め公邸を一般解放し、国民には、君主の姿をバルコニーよりお披露目と挨拶をした。若く美しく輝く君主に国民は期待と敬意を表した。この日述べたソフィア·オルヴェンヌ女大公のお言葉は同時通訳も行ったが、文書にも書き起こして、国民に配布した。
『この領地を守るため、私、ソフィア·オルヴェンヌ女大公は、ここにオルヴェンヌ公国を建国し、治めていく所存にございます。私は若くまだまだ未熟な上、国民の皆様には助けていただくことも多いかと思いますが、皆様で良い国を作り上げて参りましょう』
国民は拍手をもって、新しい国の誕生と、美しい君主を歓迎した。
国民への披露を終えると、招いた関係国の来賓と、記念パーティーを行った。パーティーには公国建国に協力をくれた関係国のみを招待した。ごく小さいパーティーとすると発表し、ディヴォア帝国や特に協力を賜らなかった国には文書にて建国の報告とした。
「オルヴェンヌ女大公、この度はおめでとうございます」
『ありがとうございます』
ソフィアの発言の通訳は、公務中はフレデリックが行うこととなった。男性社会であるが故、ソフィアが周囲からなめられぬ様、父アドルフの侍従だったフレデリックを、側近として帯同させている。フレデリックは辺境伯の執務も手伝っていたため、適任であった。公では隠居扱いとなっているアドルフには、新たな専属侍従を配置した。
「女大公陛下はとても麗しいですね。改めて敬意を表します」
『ありがとうございます』
「女大公陛下のおかげで、我が国も領土拡大の運びとなりました。きっかけとなりましたオルヴェンヌには頭が上がりませぬ」
『領地拡大おめでとうございます。いえ、こちらこそ、建国にご支援いただきありがとうございました。互いに良い国となりますよう、今後ともよろしくお願い申し上げますわ』
関係国に挨拶まわりをし、一段落すると、ブランシュール王家の元へと足を運んだ。
『一番始めにご挨拶しなければなりませんでしたが、遅くなり申し訳ございません』
『はっはっは。良いのだよ。両国は最早身内のようなもの。気を遣わずとも結構だよ』
ブランシュール国王は父のようであった。
『ソフィア陛下、とても美しいですね。言葉で表現するのは難しいほどにございます』
『ありがとうございます。シルヴァン殿下も今日もとてもお美しいですわ』
2人は見つめ合い、微笑み合った。
いつ見ても美しい二人の姿はまるで絵画のようだった。
『無事オルヴェンヌの公国建国となって、良かったよ。次は、アドリアンの結婚披露宴を行うから、招待するので、是非ともブランシュールに来ておくれ』
『ええ。もちろんにございます』
両国の思惑通りに事が運び、満足げに笑顔を交わした。
『ここまで、シルヴァンには第一王子としてブランシュールに大きく貢献してもらった。アドリアンも力をつけてきたし、そろそろオルヴェンヌに向かわせるが、いかがかな?』
『こちらは、いつでも大歓迎にございます。シルヴァン殿下を迎え入れる準備は整っておりますよ』
『では、ブランシュール側のシルヴァン婿入りの準備が整い次第、送り出すとしよう』
『お待ちしております』
若い女大公の門出と、未来に期待が高まる1日となった。
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