25.第二王子の立太子
天候に恵まれたよき日に、ブランシュール王国第二王子が成人を迎えた。記念式典及び立太子を行うため、近隣諸国や関係国から来賓と、国内の貴族らが参加していた。
ソフィアは、アドルフにエスコートされ、パーティーへとやってきた。
本来であれば、婚約者のシルヴァンがエスコートするところではあるが、主催者である王家の人間であるし、麗し過ぎて目立つシルヴァンは、お披露目までは部屋で控えることになっていた。
各国の渦中の令嬢であるソフィアと知ってか知らずにか、ソフィアに目を向けるものは多かった。
「なんだか、視線が痛いなぁ、ソフィー」
『いつもよりも多い気がいたしますわね』
それもそのはずで、内から出る美しさなのだろうか。この日のソフィアは、どのご令嬢よりも輝きを放っていた。もともと美しい為、視線を浴びることには慣れてはいるものの、この日の注目は異常であった。
すると、両陛下が入場し、玉座へと向かった。
国王は場内を見渡し、一呼吸おくと、挨拶をした。
「本日は、お集まりいただき、感謝する。我がブランシュール王国第二王子が成人を迎えた。よって、本日第二王子を立太子し、アドリアン王太子となる。皆様にお披露目したい。アドリアン、こちらへ」
正装し着飾った、こちらもまた美しいアドリアンがいた。さすがシルヴァンの弟である。
「本日、立太子し、王太子となりました。今後は、その名に恥じぬよう、国民の為に努めていく所存です。関係国、及び、我等が国民の皆様にご挨拶申し上げます」
誠実で、立派な挨拶であった。
「また、王太子の婚約についても発表する。アドリアン王太子は、フランソワーズ·シャレット公爵令嬢と正式に婚約するとともに、今後時期をみて、結婚する運びとなる。周知のことお願いする」
場内からはお祝いの拍手が沸き上がった。
「さて、皆様にご歓談いただく前に、もう一つお披露目したい」
国王の一言に、何事かと静まりかえった。
「我がブランシュール王国第一王子についても皆様に披露したい。彼のことは今まで社交の場には出さずにいたが、アドリアンの立太子を受け、今日のこの日に合わせて披露したいと思う。『シルヴァンよ、前に』」
国王は手話を交えた。一同、何だろうと探っていた瞬間、正装をした麗しき青年が現れた。場内は色めき立ち、婦人や令嬢からはため息が漏れた。
中には、図書館の麗人であると理解したものもおり、歓声も沸き起こった。
国王は、シルヴァンが近くに来たのを確認すると、手話を交え話をした。
『第一王子シルヴァンは、生まれながらに聴覚障がいを持っている。よって、王家は第二王子のアドリアンを立太子した。今後は、シルヴァンにも出来る限り、王太子を支えてもらい、王室の運営をしていく所存だ。こちらも周知願いたい』
場内から、拍手が沸き上がった。
国王自らが聴覚障がいを持つシルヴァンと手話で会話が出来るほど良い関係を築いていることに、これからの、王室に期待が膨らんだ。
関係国らは、隠されていた第一王子の存在に驚きと、焦りを覚え、この先の出方を窺おうとした。ところが…。
『さて、このシルヴァン·ブランシュール第一王子も婚約を発表する。お相手は、隣国のソフィア·オルヴェンヌ女辺境伯である。こちらも周知願いたい』
これには、関係国らは唖然とした。この数週間の間に、ソフィア·オルヴェンヌ嬢が領主となっていた。懸念していたことがもうすでに起こっている。さらに、渦中の令嬢ソフィアと隠されていた第一王子シルヴァンにとりつく島もなく、深い繋がりが出来ていることに、絶望すら生まれた。
そこで、ここに来賓としているであろう、ディヴォア帝国皇帝皇后両陛下に目を向けた。二人は驚いているものの、焦っている様子もなく、純粋にめでたいと祝っている様子であった。
それには、まだ機会は残されていると言わんばかりに、ディヴォア帝国以外の国の来賓は、ブランシュール国王にしっかりと挨拶を済ませ、帰路へとついていた。
ブランシュール王国の貴族ら国民は、美しい二人の王子の門出と、祝いの宴に酔いしれた。
シルヴァンは、アドルフとソフィアを見つけると、近づいた。
『オルヴェンヌ女辺境伯、お越しくださりありがとう。なんと言ったら良いのか、とても美しいよ、ソフィー』
『本日はおめでとうございます。無事お披露目が終わり、何よりです。殿下、あなたもとてもお美しいです』
二人は笑顔で見つめ合った。
まもなく、シルヴァンはアドルフに向き合った。
『アドルフ様、本日はお越しくださり、ありがとうございます』
ソフィアは筆談で通訳をした。
「これはシルヴァン殿下。男性に言う言葉ではないとわかってはいますが、大変麗しいですね。お披露目、無事終わり、良かったです」
ソフィアはシルヴァンに手話で通訳をした。
『随分と手話が上手くなったね。前回よりも仕草がなめらかだ』
『日々練習しておりますの。あなたがこちらに来る時には、驚かれると思いますよ』
美しい二人の、静かなやり取りに、周囲は息を飲んだ。
「美しいあなた方のおかげで、今日1日、私は視線が痛いですよ。穴が開いてしまいそうです」
アドルフの言葉に、2人はくすくすと笑った。
外交しようにも、ディヴォア帝国の皇帝ら以外は帰ってしまったため、歓談の相手がおらず、手持ち無沙汰となってしまった。さらにアドルフは、爵位をソフィアに継がせたため、ソフィアがいないと何も出来ずにいた。シルヴァンとソフィアが並ぶとさらに注目を集めてしまうため、アドルフは居心地悪そうにしていた。
『お父様、外交は出来そうにありませんから、国王陛下にご挨拶したら、本日は戻りましょうか?』
「そうするとしようか」
『その前に、アドリアン殿下の婚約者でいらっしゃいます、フランソワーズ嬢にご挨拶して参ります』
「ああ、それが良い」
さっそく、ソフィアとフランソワーズは挨拶を交わし、同い年ということもあり、すぐに打ち解けていた。そのうち二人は義理の姉妹となる。短い時間だが、有意義に過ごした。
国王陛下に挨拶も済ませると、また後日今後について話し合おうと約束し、この日は帰路へとついた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。