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21.運命の再会

アドルフ·オルヴェンヌ辺境伯は、令嬢ソフィアを連れ、ブランシュール王国の王城にやってきた。


「いよいよだな、ソフィア。ソフィアが全てを握っていると言って良い。相手は王国だが、少し強気でいるくらいでも良いぞ」


『かしこまりました。このような場は初めてですので緊張しますが、善処します』



案内された部屋で、アドルフとソフィアは待機した。


「ところで、ソフィア。先程図書館を気にしていたが、まだ読みたい書物があるのかい?」


道中、王城から近い位置に存在する図書館を見つめていたソフィアに気づいていたアドルフは確認した。


『いえ、読みたい書物があるわけではございません』


何か思い悩んでいる様子のソフィアに、アドルフは思い当たる節について尋ねた。


「文通のお相手がそこにいるのかい?」


(!!!!!、お父様!?)


驚いてアドルフに向き直ると、アドルフが続けた。


「すまんな、ソフィー。フレデリックに問い詰めてしまった。でも、フレデリックは幸せそうな君の姿しかわからず、今の君の姿に困惑していたぞ。もしよければ、話し合いが終わったら図書館に寄ってみるかい?」


また会えるのかもしれない期待に、ソフィアは感情が揺さぶられ、涙が浮かんだ。


「ああ、ソフィー。こんなに悩んでたのかい?」


アドルフはソフィアの肩を抱き、慰めた。


(会って、きちんとお話して、終わりにするほうが誠実でしょうね…)




そうこうしていると、国王と王妃が入室してきた。


お互い挨拶を交わすと、早速話を始めた。


「早い対応に感謝する、オルヴェンヌ辺境伯、そしてソフィア嬢」


「こちらこそ、感謝いたします。ソフィアも同道しました。しかし、ご承知の通り、ソフィアは発声障害がありますので、ソフィアの発言は筆談となることをご了承願いたい」


「なに、気にするでない。ソフィア嬢が発言するための立派な手段だ。遠慮せず、発言しておくれ」


ソフィアは国王に目を合わせて、感謝を伝えるべくお辞儀した。


「ソフィア嬢、この度は大変でしたね。お体に無理はありませんか?」


王妃はソフィアのことを案じてくれた。


『ありがとうございます。お天気が悪いと、少し傷が痛むこともございますが、痛みはもうほとんどありません』


その言葉に、王妃はほっとした様子を見せた。


「では、早速話を始めたい所なのだが、以前案内を送ったように、もうすぐ第二王子が立太子する。ここに同席させてよろしいかな?」


「もちろんです。未来を担うお方ですから、こちらこそお願いしたいです」


では、と、国王はアドリアンを呼ぶよう侍従に声をかけた。


アドリアンも交え、話し合いが始まった。


「まず、私は帝国側の対応に、情勢が動き出す危機感を持ったが、そなたはどのように考えている?」


「私も同じです。今後はソフィアの去就で情勢が変わると考えております」


「うむ。私も同感だ。私としてはぜひ、オルヴェンヌ領とは友好関係を確固たるものにしたい。互いに土地や風土、気候、産業など類似点も多い。支え合えると考えておる」


「私も同感にございます」


「しかし、こんなに広大で利益のある地を、なぜ帝国は簡単に手放すのだ?」


「辺境過ぎて興味がないのです。厳しい環境でもあるが故に、貴族も少ない。この地に利益があることをご理解なさってないのだと思います」


「ということは、この巨大な帝国だ。他の辺境も危ういな。アドリアンの立太子には各国要人も招待しておる。そこまでには基盤を築きたいと考えておる。協力いただけるか?」


「それは、たしかにお日にちがあまりございませんね。こちらも協力願います。おそらく、ソフィアに取り入ろうとする輩が増えるでしょうから、信頼のおける大国であるブランシュールには、ソフィアを守る手助けをしていただきたいと思うのです」


お互い、利害が一致した。またさらに話を進める。


「オルヴェンヌ辺境伯、そなたは今後、オルヴェンヌ領を、どのようにしていくと考えておるのだ?差し支えなければお教え願いたい」


「信頼のおける大国ブランシュールには、誠実にお話したい。今もほぼ帝国から離れてはおりますが、今後は名実ともに独立を考えております。ソフィアが辺境伯を継げば、それは容易であると考えるのです」


「独立か。我が国との合併については考えたか?」


「ええ。しかしながら、ソフィアがいるからオルヴェンヌが守られている現状もあります。そして、オルヴェンヌは広大な領地を持っています。この広大な領地が他国に移るとなると、争いが起きるのではと懸念しております」


「私も同感だ。こちらも、合併するのは困難であると考えておる。となると、オルヴェンヌ領を独立させるのが良いな。…公国にでもするか?」


「!おっしゃる通りにございます。ソフィアを君主に公国とするのはいかがかと考えているのです」


「それは名案だな。我々が2つの国となれば、さらなる友好条約も結べよう」


これまた利害が一致した。


「さて、ソフィア嬢。ここまで静観されておるが、当の本人は、どうお考えであるか?」


話を振られたソフィアは、覚悟を持って話し始めた。


『私は、オルヴェンヌ辺境伯の一人娘にございます。領地に戻ってきた以上、オルヴェンヌ領を守るために人生を捧げる所存にございます。これからの情勢を鑑み私はオルヴェンヌ領から出ることはないでしょう。父からの提案である、辺境伯を継ぎ、公国として独立し、国を治めることには、前向きに検討していく所存です』


「そうか。若いながら、しっかりと考えをお持ちだ、覚悟も持っておる。同じ年齢だぞ、アドリアン。ソフィア嬢を見習うと良い」


「はい。今もとても良い刺激を受けております。私の覚悟はまだまだ生ぬるいですね」


それには皆の笑い声が響き渡った。


国王は少しの時間考えを巡らせると、何やら思い付いたようで、一つ決心した。


「よし。では、お二人には、アドリアンの立太子を待たずに、第一王子を披露したい。紹介したいのだ」


王妃とアドリアンはお互い目配せた。


「第一王子ですか?たしか、病弱で臥せているとお聞きしましたが?」


「それは表向きでな。彼はとても賢い。力になってくれよう」


アドルフは了承した。

それを確認し、国王は第一王子を呼ぶよう侍従に告げた。


「それで、表向きというのは?」


アドルフは国王に向き直り尋ねた。


「うむ、病弱で臥せているわけではないのだよ。実は生まれつき聴力を持たないのだ。王太子となるには不利であり難しいと考えた私たちは、第二王子を王太子とする計画をたてた。可愛い息子たちには大人の勝手な権力争いに巻き込まれて欲しくなくてな。第一王子には身を隠してもらっていたのだ」


王室といい、帝国の皇室といい、権力があるのも大変なのだなと、アドルフとソフィアは感心した。



そこに、侍従が声をかけてきた。


「第一王子がお見えになりました」


その言葉を聞き、第一王子に挨拶をするためアドルフとソフィアは席を立ち、身なりを整えた。




扉が開き、入室してきたのは、上質な王族の衣装に身を包んだ"シルヴァン"だった。




その姿を目にしたとたん、ソフィアは挨拶も漫ろに、その場に崩れ落ちた。両手で口元を抑え、大粒の涙を溢した。


突然の出来事に、一同何事かと慌てたが、静かに1人動く男性がいた。


シルヴァンはソフィアの前に来ると、目線に合わせて跪き、ソフィアの両手を手に取ると、ソフィアを見つめ目を合わせた。ソフィアが自分の姿を確認したのを見届けると、優しく抱き寄せた。

ソフィアもまた、シルヴァンの胸にしがみついた。


両陛下とアドルフは愕然としたが、アドリアンは熱くなった胸を抑えながらも、自分が知っている情報を伝えた。


「お二人は、国立図書館で出会い、互いの身分も知らぬまま、文通をしていらしたそうです」


これには、アドルフは合点がいき、国王は予期せぬ幸運に、心を弾ませた。まさか、自分の知らぬのところで、知り合うどころか、お互い惹かれ合っていることがよくわかる様子に、満足そうな笑みを浮かべた。


国王が何を目論んでいたか悟ったアドルフは、国王と目配せると、二人はニンマリと笑みを浮かべた。


『さて、オルヴェンヌ辺境伯、そなたは、ソフィア嬢の結婚についてはどのようなお考えで?』


ここからはシルヴァンにもわかるように、手話を交えながら話し始めた。


シルヴァンは驚きのあまり目を見開き、ソフィアも国王の言葉に驚き、顔を上げた。


「辺境伯を継ぐ条件として、私はソフィアには命令をしないと約束しています。ソフィアの将来は、ソフィア自身に決断を委ねてます」


アドルフの発言は、シルヴァンがわかるようにアドリアンが通訳した。


『さて、ソフィア嬢、あなたはご自身の結婚についてはどのように考えておられるか?』


ソフィアはゆっくり立ち上がると、身なりを整え、筆談の為に席に戻った。


『私は、皇太子殿下と婚約破棄し、さらに障害があることから、嫁ぐことはもうないだろうこと、さらにはオルヴェンヌを守るために、領地からも出ない覚悟でおります。また、これから私に近づくお方は、何か魂胆をお持ちであろうことを考えますと、誰かと添い遂げる訳でもなく、領地を守り続ける覚悟にございました』


それには、アドルフもシルヴァンも、そこまでの覚悟であったのかと言葉を失った。


『そうであったか。それは並々ならぬ覚悟であるな』


国王は続けた。


『それならば、次に、シルヴァン。私は先日、第一王子として政略結婚も受け入れるよう話をした。もし、私が、ソフィア·オルヴェンヌ辺境伯令嬢に、シルヴァンを婿入りする形の結婚を提示するとしたら、お前はどう考える?』


国王は、領地を守る覚悟のソフィアに合わせた提案をした。


ソフィアは驚き、国王とシルヴァンの顔を見比べた。


シルヴァンはアドルフにもわかるよう、ソフィアのペンを借り、第一王子としての顔つきで、覚悟を持って筆談した。


『私は先日、政略結婚に理解を示しました。そのお相手が、ソフィア·オルヴェンヌ辺境伯令嬢であると言うのであれば、私は異議なく、喜んでお受けいたします』


その言葉に、ソフィアは涙し、アドルフも父の顔を見せ、感動していた。


すると、国王は今度はソフィアに向き合った。


『ソフィア·オルヴェンヌ辺境伯令嬢、私は、ブランシュールとオルヴェンヌの友好を強固なものとするため、そなたと、我が国第一王子シルヴァンの婚約を提示したい。そなたは、生涯一人でいる覚悟でおられたが、我が国を後ろ楯にするべく、第一王子シルヴァンを婿に迎え入れる結婚についてはいかがであろうか?』


ソフィアは、こんなことがあるのかと、驚きを隠せずに、涙を流し固まっていた。そして、アドルフに促され、ようやく返事をした。


『私は、政略であろうとなかろうと、生涯添い遂げるのであれば、シルヴァン様が良いです』


そして、涙を止め、毅然とした態度で再度発言した。


『私、オルヴェンヌ辺境伯が長女ソフィアは、ブランシュール王国第一王子シルヴァン·ブランシュール殿下との婚約を、喜んでお受けいたします』


国王とアドルフは思惑どおり事が進み、満面の笑みを浮かべた。


王妃は、曇りかけていた息子の目に光が戻り輝いていることに、涙して喜んだ。


アドリアンは、大好きな兄の、これ以上なく幸せな様子に、男泣きした。


シルヴァンとソフィアは、もう二度と会うことはないと思っていた相手との再会と未来に、喜びが溢れ止まらなかった。2人は手を重ね、しばらくの時を、見つめ合い微笑み合って過ごした。



この幸せな雰囲気に、国王は和やかに話しかけた。


『さて、このあとは、少し話を詰めて、今宵は晩餐としようか』

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても素敵なシーンで、目頭が熱くなりました。諦めてしまった2人の運命の再会。本当に感動しました。
[良い点] ・ソフィアとシルヴァンが再会。二人の最後の手紙は届くことなく。よかった… [一言] 目から水が…
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