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2.障害

目が覚めると、ソフィアは見知らぬ部屋にいた。


(?)


ソフィアが目をぱちくりさせていると、


「お嬢様!!お気付きになられましたか!?」


声のする方に目を向けると、侍女のエマがいた。


「…お嬢様…、よかった…、本当によかった…」


エマは涙を浮かべるどころじゃなく、溢れ出させて、座り込んでしまった。


(…エマ…、どうしたというの…)


「…  …、        …」


!!!!?


ソフィアは驚いた。言葉を発することが出来なかったのだ。


(喉が渇いてるのかしら?それにしても、ジンジンと痛む…)


ソフィアはゆっくりと起き上がった。


それに慌てたエマは、急いでソフィアの横に行き、背中に手を添えて支えた。


「お嬢様、私は先生を呼んでまいりますね。お待ちください」


「… 、   …」


またも声が出せず、ソフィアは首をかしげた。


まもなく、医師がやってきた。


「ソフィア様、お加減はいかがでしょうか?喉元にお怪我をされました。傷は縫合し、出血も止まっております。丸一日眠っておられました。熱はなさそうですね。痛みはありますでしょうか?」


(…喉元に怪我。そうか、ナイフで刺されたのは喉だったのね)


「…」


痛みがあることを伝えようとしたが、やはり声にならない。

そこで、ソフィアは、医師の目をまっすぐに見つめ、喉元に手を持ってきた。口を動かすことで、声が出ないことをアピールした。


「!!!!なんと!?お声が出せませぬか。場所が場所でしたから、もしかしたらとは思いましたが、どうやら声帯が傷ついてしまったようですね。医療は進歩はしておりますが、声帯を修復する技術は…ありませんので、…お声を失ってしまわれたようです」


(もう、声を発することはできないということ?)


ソフィアは大きく息を吐くと、少し考えた後、エマを見つめた。


「お嬢様、いかがなさいましたか?」


エマが気づいてくれたので、ソフィアはものを書く仕草をした。


「…!かしこまりました。ペンと紙をお持ちいたします」


その応えに、ソフィアは頷いた。

そして、医師も、なるほどと呟き、

「…ソフィア様、もう、受け入れてらっしゃるのですか…、そして、とても聡明なお方です…」

と涙ぐまれた。



エマが戻ると、早速、筆談を始めた。


『喉の痛みがあります』


「左様でございますね。では痛み止を処方致します。他には何かございますか?」


『どの状態まで回復すれば、馬車に乗り移動できますか?』


「傷が塞がるのが一週間程かかるかと思います。そうすれば、揺られてもまた裂けるということは防げましょう。他の体調不良がなければ、傷が塞がれば良いでしょうといった所かと」


『ありがとう。いつまでもお世話になるわけにもいきませんし、早めに家に戻りたいと思いますから、良き頃に許可をお願い致します』


「かしこまりました。判断出来ましたら、お伝え致します」


医師との筆談はうまくいった。

不自由な点は会話に時間がかかること。しかし、相手が文字を読める人であれば、ソフィアの手間だけで、問題はない。

ちらりとエマを見ると、眉根を下げて困惑しているように見受けられた。

エマは辺境伯邸に仕えて長いが、平民出身のため読み書きが出来ない。


(私の側にずっと居てくれたエマ…。これからも側に居て欲しいけど、どうしたらいいかしら…)


ソフィアは、現実を受け入れるのが早かった。もう、頭の中は、これからをどう過ごすかでいっぱいになっていた。


医師が退室し、しばらくすると、父、アドルフが入ってきた。


「ソフィー、目覚めて良かった!体調はどうだい?」


『喉が痛いですが、痛み止を処方してくださいましたので、徐々に楽になってきました』


ソフィアが筆談をする姿に、アドルフは涙をこぼした。


「…痛みが楽になったのなら良かった。声を失ってしまったことはショックであっただろう。あんなものの為に我が娘が犠牲になるなんて…。しかし、人のために行動した娘を、私は誇りに思うぞ!」


父からのその言葉に、ソフィアは漸く泣くことができた。


(私は頑張ってきた。辛い皇太子妃教育を受ける日々。社交や外交にも出向いた。私的な時間なんてなかった。そのせいで年頃の友人なんていない。それでも頑張ってきたのは、帝国の為、皇太子の為と思っていたのに。必要とされなかった所か、理解すらされてなかった。そんな人のために声を失うなんて!悔しい!!…でも、支えてくれた父に誇りに思ってもらえたならば、…良かった。本当にそれだけでも救われた…)


アドルフは泣きじゃくるソフィアを抱き締めた。

それを見守っているエマも涙が止まらない。

オルヴェンヌ家にとっては、こんなに屈辱的なことはなかった。



それから1週間。医師の見立て通り、傷は塞がり、食欲もあるし、体力も問題ない。そろそろ移動も良いだろうということだった。


少しでも早くこの王宮を去りたかったソフィアは、エマと荷造りを始めていた。


そこにアドルフとともに現れたのは、皇帝と皇后であった。

ソフィアは驚いたが、すぐに完璧なカーテシーを見せた。


「ソフィアよ、顔を上げよ。少しだけ話をさせてもらってもいいだろうか」


皇帝とのお話に、許可も何もないが、ソフィアは頷き、皇帝に促され、ソファーに腰かけた。


「この度は、本当にすまなかった。息子の不義理、長い時間皇室に拘束してしまったこと、そして、今回の事件が起きたことで、君には障害を残してしまった。謝って済む問題ではないが、直接話をしたかった」


ソフィアはペンを手に取り、筆談を始めた。


『丁寧に、ありがとうございます。こちらこそ、長きに渡り皇室に関わったことで、たくさんの学びを得ることになりました。このことに関しては、感謝致します』


うむ、と、皇帝は頷き、ソフィアの気持ちを理解したことを示した。

皇后からも何か、と皇帝が促した。


「ソフィア、これまで本当によく尽くしてくれました。そして、あんな息子でも、我が子を救ってくれたこと、感謝します。あなたと過ごした時間も長かったですね。時に娘のように、時に友人のように過ごしたことは、私にとって宝物です」


皇后の優しい言葉に、ソフィアは目頭も胸も熱くなった。


『私も皇后様には感謝しています。厳しい教育の中で、皇后様の存在は、私に癒しや安らぎを与えてくださいました。私も時に母のように、時に友人のように思っておりました。皇后様は今、ご懐妊なされていると伺いました。お体をお大事にしてください』


皇后は、肩を震わせながら、読み終えた。


「…、あぁ…、ソフィア。あなたの声がもう聞けないなんて…」


皇后は、本当の娘が傷付いたかの如く、嘆き悲しんだ。

そして立ち上がると、ソフィアの横に行き、抱き締めた。

ソフィアは驚いたが、自分も皇后を抱き締め返した。

7年の間に、2人の間には、良き関係が築けていたようだ。


最後に、皇帝はソフィアに質問を投げかけた。


「さて。私からは最後に1つ確認をしたい。これからオルヴェンヌ辺境伯と、アルフレッドとソフィアの婚約について話を詰める予定だ。…ソフィア、アルフレッドから婚約破棄を宣言されたが、君の考えはまだ聞けてないように思う。君はどのように考える?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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