18.ディヴォア帝国皇帝誕生祝賀会
祝賀会前日、皇帝はアルフレッド皇子を呼び出した。
「たっぷり時間を与えてやった。どちらにするか決まったか」
アルフレッドの処遇を最終決定する期日となった。
「はい。ソフィア嬢と婚約破棄をし、皇子の立場を放棄します」
「そちらを選んだか。本当に良いのだな?」
「はい」
(…、もし、カトリーヌと結婚し、男爵家に入るとなると、俺の立場は、男爵もしくは男爵令嬢の配偶者だ。であれば、皇子の立場を放棄し、一代限りでも子爵爵位と領地をもらって、カトリーヌを迎え入れた方が、彼女も男爵令嬢ではなく子爵夫人になる。こちらの方が良いではないか)
アルフレッドは相変わらず、己の利を考えていた。
「わかった。では、明日の祝賀会にて、国民、ならびに、隣国の来賓方に正式に発表する。それ以降は、もうここには戻れない。今日は出ていく準備を整える時間としてやる。良いな」
「はい」
こうして、アルフレッドは退室した。
(準備って、何を?とりあえず、資金がないから、宝飾品は持っていくようにしておくか)
祝賀会当日となった。隣国·関係国要人、帝国貴族も参加している。
もちろん、辺境伯である、アドルフ·オルヴェンヌも侍従フレデリックを携え参加している。
アドルフは遠くに、ある方たちを見かけて、急いでそこへと向かった。
近くまで行くと、向こうもこちらに気付いた。
「これは久しいな。ここでお会いできるとは」
「ご無沙汰しております。ブランシュール国王陛下、王妃陛下。ディヴォア帝国オルヴェンヌ領のアドルフ·オルヴェンヌ辺境伯にございます」
「おや?伯爵お一人か?ご令嬢はお連れではないのか?」
ソフィアが皇太子の婚約者であることを知っている国王は質問した。
「それにはいろいろ事情がございまして…」
するとそこに、静粛に!!と皇帝が入室してきた。玉座につくと、挨拶を始めた。
「関係国並びに、お集まりいただいた皆様方。この度は我が誕生祝賀会にお集まりいただき、礼を言う。祝賀会の前に、正式に発表しなければならないことがあるので、聞いてほしい」
何事かと隣国や関係国の来賓は警戒していたが、国民の高位貴族らは先月の帝国の建国記念日の一件をある程度知っているため、静観していた。
「先月の帝国の建国記念日では、我が息子が大変失礼した。今回は、その件についての処遇が決まったので、この場を借りて正式に発表させていただきたい」
「まず、会に乱入し皇太子を狙った男、シモン·ロレーヌ子爵令息は、反逆罪とし処刑とする」
会場はざわめいた。
「次に、先月の会で廃太子したアルフレッド·ディヴォア皇子は、ソフィア·オルヴェンヌ辺境伯令嬢と婚約破棄とし、皇子の立場を放棄した。元皇族としての品位を鑑み、一代限りの子爵爵位と領地を与える」
さらにざわめいた。
「ちなみに、ソフィア嬢は、皇太子を狙った男から、皇太子を庇い負った怪我により、発声が二度と出来ない障害を残すこととなった」
それには悲鳴もあがった。
(なんてことでしょう!!)
(あの傷では、仕方ないか…)
(人の命を守ってくれた、彼女に、神はなんて仕打ちを…)
「この事件の経緯を踏まえ、アルフレッド·ディヴォア及び帝国側は責任をとる意味を込め、ソフィア·オルヴェンヌ辺境伯令嬢及びソフィア嬢がいるオルヴェンヌ領には関与しないとする」
(!!!!!?)
これには、関連諸国の来賓は驚愕した。
アドルフの横にいるブランシュール国王は目を見開き、驚いた様子をみせていた。
それもそのはず、帝国側も関与しないということは、ソフィア次第では、オルヴェンヌ領は実質帝国の手から離れたことになる。帝国の中で最も広大な面積を誇るオルヴェンヌ領を手放したと公表した皇帝にも驚いたが、そもそも領地を手放す意味を深く考えていない帝国側にも驚いた。
特に、オルヴェンヌ領に接している、隣国ブランシュールにとっては、重大な問題である。
来賓のざわめきには耳を傾けることなく話は続く。
「そして、最後に、皇太子の婚約破棄の一因となり、皇太子襲撃の一因ともなった、カトリーヌ·ボルドー男爵令嬢は不敬罪とし、生涯、修道院にて奉仕活動を行うとする。以上だ」
これに反応したのが、アルフレッドだった。
「皇帝陛下!カトリーヌが修道院とはどういうことですか!!」
アルフレッドは衛兵に取り押さえられながらも唱えた。
「勝手に発言するとは何事か!馬鹿者、お前も不敬罪とするぞ!」
「しかし、カトリーヌの処遇がそのようなものとは聞いておりません!」
「何を言っておる!私ははじめにお前に伝えたぞ!カトリーヌ嬢の処遇は、お前の処遇次第であると。詳しく述べようか。私は2つの選択肢を与えた。ソフィア嬢との婚約破棄は当然のものであるが、その後、愛のある結婚がしたいと言うお前の願い通り、カトリーヌ嬢と結婚し男爵家に入るか、一連の責任をとり皇子の立場を放棄するのか。この選択により、カトリーヌ嬢の処遇は決まると。カトリーヌ嬢との愛ゆえに引き起こった一連の事件だったはず。お前はカトリーヌ嬢との結婚ではなく、爵位を選んだ。カトリーヌ嬢がお前の婚約者なのであれば、皇帝や皇太子への不敬は教育不足とし見逃す所ではあったが、ただの男爵令嬢となれば話は別。わかればもう下がれ」
なおもアルフレッドは足掻く。
「しかし、私は、子爵として生活が軌道に乗れば、カトリーヌを迎え入れようとしていたのです」
やはり愚息めと、皇帝は落胆した。
「お前はこの1ヶ月何をしていた?何もしていなかったであろう?選択肢を提示したのは、建国記念日の一週間後。そこから約1ヶ月、処遇は自分の手にかかっていたわけだから、人脈を作るなり、カトリーヌと愛を確認するなりすれば良かったのではないか?この1ヶ月の間に、カトリーヌは城の使用人を誘惑しておったぞ。そのカトリーヌを迎え入れるのか?お前の愛はすごいのだな。私には考えられん」
アルフレッドは膝から崩れ落ちた。
「もう、よい。これ以上帝国の醜態はさらしたくない。この男を城から出せ。出ていく準備をしておくよう、昨日伝えてあるからな。すぐに出せ」
会場は騒然となった。
「お騒がせしたが、以上だ。ディヴォア帝国の皇太子はいなくなったが、今、皇后は懐妊しておる。この子が、男女どちらでも立太子させ、次期皇帝となるよう教育していく所存だ。さて、ここからは我が誕生祝賀会としよう。皆のもの、今宵はお集まりいただき感謝する」
皇帝からの挨拶は終わった。
ブランシュール国王は横にいたオルヴェンヌ辺境伯に静かに告げた。
「国に戻ったらすぐに我が国に招待をする。そこで詳しく話をしよう」
「かしこまりました」
するとブランシュール国王は王妃とともに玉座に向かい、挨拶を交わすと、すぐに退室していった。
オルヴェンヌ辺境伯は、挨拶することなく、ブランシュール国王に続くように退室していった。
各国の要人も、自国で戦略を練るため、早々と引き上げていった。
アドルフが予測していたとおり、皇太子の将来が決まった日、情勢が動くこととなった。
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