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15.一通の手紙(11部分シルヴァン視点)

翌朝、シルヴァンはこの日も早く目覚めた。緊張のあまり、深くは眠れなかった。


(今日も、もし、彼女に会えたなら…、…どうしよう。できるだろうか、自分に)


ラファエルが部屋に入ってくると、身支度と朝食を準備してくれた。


『あまり、眠れませんでしたか?少し、クマが目立ちますね』


『ひどい顔をしているか?』


『いえ、それを補うだけの美しさがおありですので、問題はないです』


朝食が終わると、図書館へと向かった。離宮から図書館へは、シルヴァン用の隠し通路が存在する。派閥争いから避けるために隔離しているシルヴァンを、要人や権力がある貴族の視界に入らぬようにする為である。社交界にも出ていない為、図書館内でシルヴァンの身分を知るものは、館長のみである。


シルヴァンは今日もいつもの窓枠に腰かけ、読書を始めた。


しばらくすると、あの令嬢が侍女とともに現れた。こまめに入り口を確認していたシルヴァンは、彼女を見つけると、微笑んだ。令嬢もそれに気付き、微笑みを返してくれた。令嬢の侍女は、彼女の手を引き、シルヴァンに最も近い席に彼女を案内した。何か話をしているが、シルヴァンにはわからない。この日は陽射しが柔らかく暖かいから、この場所が心地良い。シルヴァンは今までにない近さで彼女を見ることができることに喜んだ。


(今日の彼女は、耳まで真っ赤だ)


2人で読書を堪能しているような距離感に、安らぎを感じ、シルヴァンはまどろんだ。


この日、令嬢はせっせと、絵を描き写している。


(絵の練習?それとも何かを作っているのか?)


彼女はペンも紙も持っている。ということは、自分が勇気を出せば、いつでも筆談をすることができる。しかし、シルヴァンにはその一歩は踏み出せなかった。この日も彼女と目が合うと微笑み合い、穏やかな時を過ごしていたからだ。


(彼女の笑顔が消えてしまうことが怖い…。やはり、しばらくはこのままでいたい)


結局、シルヴァンは書物と彼女と、交互に目を向けて過ごした。


ラファエルはこの日、何度かシルヴァンの様子を伺った。いつもは入室と退室を確認するだけなのだが、まずは令嬢を確認しなければならなかった。シルヴァンが見つめる先にはハニーブロンドが煌めく所作の美しい令嬢がいた。


(あのお方で間違いないだろう。今日もお見えになって良かった。たしかにお見かけしない顔だ)


2人が並んでいる光景は、絵画のように美しく、穏やかで温かな空間となっている。


(…、あんなに幸せそうなシルヴァン様、見たことない)


つい、笑みを浮かべながら見届けていると、視線を感じた。そこにはこちらを見て驚いている女性がいた。


(恥ずかしいところを見られたな)


照れたラファエルは、女性に会釈し、その場を立ち去った。

引き続き目を配っていると、先程の女性があのご令嬢の侍女であることがわかった。女性も2人の様子を遠くから伺っている。2人が想い合い、幸せを感じているのは今日の様子で感じ取れた。彼女の侍女も心配であったのだろう。

彼女の手には、令嬢のコートがあった。


(良質なものだが、この国ではあまり見かけないように思うが…)


令嬢の身分がわかるのではと、注視したが、他の情報は得られなかった。


夕刻を迎え、令嬢の元に侍女が来ると、何かを確認し、退室の準備をした。この日もお互い微笑んで別れを告げた。


シルヴァンが、令嬢が出ていった先を名残惜しく眺めていると、ラファエルが慌てた様子で現れた。


『シルヴァン様!彼女がここに来るのは今日が最後です!!今、司書様に挨拶しているのが聞こえました!どうやらお住まいはこの国では無く、戻られるようですよ!』


焦ったシルヴァンは、ラファエルが携帯しているペンと紙を借りて、急いで1通の手紙を書き上げた。


『彼女に渡してくれ!!』


ラファエルは、急いで外に出ると、あの令嬢を探した。


馬車に乗り込もうする令嬢を見つけると駆けつけ声をかけた。


「突然申し訳ございません、お嬢様方。我が主から、こちらをお嬢様にお願いしたいと申し付かっております。よろしければお受け取りくださいませ」


シルヴァンから託された1通の手紙を差し出した。


差出人を探るように令嬢と侍女は手紙から顔をあげると、こちらの様子を伺っているシルヴァンを見つけたようだった。


「!お嬢様、あのお方ではないですか!?」

シルヴァンから視線を移した侍女とラファエルは目が合い、肯定するために頷いた。


「…、お嬢様…」

侍女は令嬢を促すと、令嬢は手紙を受け取り、胸に抱き止めた。


(良かった!彼女にシルヴァン様のお手紙が渡った!)


「では、失礼致します」

令嬢と侍女は馬車に乗り、この場を去っていった。



ラファエルはシルヴァンの元に戻ると、シルヴァンから感謝された。


『ありがとう、ラファエル。君がいて良かった』


『間に合って良かったです!ほんとうに良かったです!』


2人の青年の目には、涙が潤んでいた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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