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炎の騎士伝 外伝  作者: ラヴィ
災厄の魔女と炎の騎士
2/2

災厄の魔女と炎の騎士 Ⅱ

帝歴403年11月8日


 引っ越しを終え、俺は新たに新居に住む同居人の世話係を同時に引き受ける事になった。

 同居人の名は、ルヴィラ・フリク。

 赤髪のショートヘアが特徴的な女性で…北のセプテント出身で交換留学という目的でこのオキデンスに来ているそうだ。

 彼女は生活支援が必要な程に私生活が破綻しているそうだが、学院ではそこそこ名のしれた秀才でもあるらしい。


 新居となる寮そのものを学生の身分ながら個人で買収し、市有地と化してる程なのだ。

 それなりに凄い人物なのだろうとは思う……。

 

 そして今日は休日という事もあって、俺は彼女と同じく交換留学として訪れているヤマト王国の王女かつヤマト流の剣術の師でもあるシグレと近くの公園に訪れ共に鍛錬をすることになっていた。


 そして、暇なのかどんな意図があるか分からないがルヴィラも俺達の鍛錬に付いて来ていた。


 「っ……!!」


 「はっ!!せい!!」


 俺とシグレが並んで剣を振るう中、ルヴィラは暇そうにこちらを眺めている。

 特に何かをしているという事もなく、少し眠そうにこちらの鍛錬の行方を静かに見守っていた。

 そして、俺とシグレはお互いにキリの良いところで鍛錬を終えるとルヴィラの居る場所まで向かい、彼女の両脇に置いている水筒に手を付けていた。


 「そんなに疲れてまで、身体を動かすのが楽しいの?」


 「ルヴィラさん、私達の鍛錬に何か疑問でも?」


 ルヴィラの疑問に対してシグレが応答すると、彼女は俺達の行動に納得いかないのか、そのまま言葉を続けた。


 「わざわざ疲れる事を進んで行うなんて非効率でおかしいでしょう?

 よくそんな事を毎日続けていられるわね?」 

 

 彼女の質問に対しての返答にシグレが困っているので、俺が代わりに言葉を返す事にする。


 「まぁ、俺はやってて当然って事だと思ってましたがね……。

 一応、サリア王国の騎士ですし。

 その立場上、身体は鍛えてあった方が役に立つので……。

 それにほら、身体を動かすと健康にも良いですよ」

  

 俺がそんな事を彼女に言うと、眠そうな彼女は何処かつまらなそうに答えた。


 「そこまで動かさなくても、私は健康よ。

 私はやっぱり辞めておくわ。

 シラフ、先に戻ってるから食事が出来たら私を呼んで。

 シグレさんも、程々にした方がいいわ。

 あなたいつも、曇ってるもの……」


 彼女はそう告げると一人この場を去った。

 何とも重い空気になってしまったが、その沈黙を破るかのようにシグレが口を開いた。

  

 「勘の鋭い人ですね、あの人……」


 「曇ってるという言葉がですか?」


 「ええ、その通り……。

 御免なさいね、師匠がまだまだ未熟で」


 「いや、そんな事は……。

 シグレの剣技は凄いと思うよ、異国独特の剣技の動き以上にシグレの重ねた努力から現れる一振り一振りの強さは俺には到底真似できないからな。

 まだまだ俺もシグレを見習わないといけないよ」


 「でも、曇ってるのが事実。

 私の心が未熟というか、迷ってるのよ。

 だから、下手に気遣うのは逆に失礼よ?」


 「……、じゃあ何か悩みでもあるのか?」


 「私はね、交換留学を使って逃げてきたの。

 現実から、いや私自身の弱さから……。

 受け止めなきゃって思ってるのに、でも出来なくてね」


 「シグレにもあるんだな、そういう悩みが……」


 「私だって、一人の人間よ。

 あなたと同じ、この世界で生きる人間。

 誰しも悩みくらいあるわ、私も、あなたも、あなたの主も、そして多分ルヴィラさんもね……」


 「ルヴィラさんが悩んでると?」


 「私の予想だけどね、あの人も多分訳ありだと思う。

 私が言えた事じゃないけど、色々と思い詰めたりしてるんだと思うよ。

 彼女あんな性格だし、自分と向き合ってくれた人って私やあなたくらいしか居ないんじゃないかしら?」


 「俺に、ソレを解決出来ると?」


 「さぁ、今すぐには出来ないと思う。

 でも、交換留学中に友人として悩みを聞いてあげるくらいは出来るんじゃないの?

 解決出来るかは置いてさ……さてと」


 そう言って彼女はゆっくりと立ち上がり、練習用の木刀をその手で強く握った。


 「練習再開。

 彼女の夕食作りに間に合うように、さっさとこの鍛錬を終わらせましょうシラフ」


 「そうだな、今日も相手を宜しく頼むよ」


 彼女達の抱く悩みが気になるが、今はソレを振り払い目の前の剣に意識を変えた。

 理由がどうあれ、俺は俺のやるべきことを続けるしか無いのだから。


 帝歴403年11月10日


 少し前に、姉さんが連絡も無く俺の方へと訪れて来ると、その隣には懐かしい人物の姿があった……。


 「相変わらず、まだ私より小さいようだねシラフ」


 俺より僅かに背の高い茶髪の青年、いや正確に言えば青年に見える女性である彼女の名はテナ・アークス。

 サリア王国にて、ルーシャと同じくらい時間を共有していたもう一人の幼馴染的な存在。

 以前に顔を合わせたのが確か2年程前だ。

 始めてアレが女である事を知ってしまったという衝撃の事件を今でも鮮明に覚えているからである。


 「どうしてお前がここに……。本当にテナなのか?」


 俺と身長を比べて、自分が勝っていると分かるとぽんぽんと頭を軽く叩いてくる。


 「ひどい事を言うね、シラフ。

 サリアの時も、家族以外に話す人と言えば、ルーシャか私くらいなのにさ……」

 

 「それが悪いのかよ。

 お前こそ男に混ざって剣を磨く内に騎士団の人達の立場を崩していただろう。

 てか、頭ぽんぽんはやめろ!!」


 「あはは……ごめんごめん、つい癖でね。

 でも、あの人達が弱いからだよ。

 僕とシラフより鍛錬すらまともにこなせない人達にわざわざ僕が負ける訳がないだろう?」

 「だからって……まあいい。

 それより、どうしてお前がここにいるんだよ?

 お前も編入するんなら、一度こっちに連絡くらいすれば良かっただろう?」


 「それは、シラフもだろう?

 全くさ、僕には何も伝えずに、気付けば学院に編入したって父さんから聞いた時は驚いたよ?

 王女の護衛なら、本来は僕が呼ばれてもおかしくは無かっただろうに……」


 「それはまあ、契約上は俺が王女の護衛だからな。

 まぁそれでも、王女の世話をするんなら一応女のお前の方が都合が良かったかもしれないが……」


 「確かに、そうなんだよねぇ……。

 でも、今の君はヤマトの王女の護衛だろう?

 騎士たる者が、二人の女性に仕えるなんて浮気者のすることだろう、浮気者」


 「いやそれは仕方ないだろ。

 そもそも、俺があのまま同棲する訳にもいかなかった訳だし。

 それも、陛下からの直々の命令となれば、受けざるを得ないからさ」

 「まあ、確かにそうかもね。

 それで、さっきから私達を見ている、そこの女性は?」


 テナの方を部屋の角から覗くように見ている、赤毛の女性について、俺に尋ねる。

 

 「ルヴィラ・フリク。

 俺の今のルームメイトかつ、現在俺が介護に近しい生活保護をしている方だ」


 「生活保護は余計ね……」


 テナの方を見てばかりで、なかなか俺達の方へ近づかないルヴィラの珍しい様子に俺は少し疑問に思った。


 「どうして、こっちに来ないんだよ?」


 「……私がいたら、二人の邪魔になるでしょう?

 それに、こういう事には慣れていないものだからどうすればいいのか分からない」


 「いつも通りでいいよ。

 テナも、その方が話しやすいだろう?」


 「そうだね。

 ですから、ルヴィラさんもこっちに来て少し話しましょうよ」


 「……そうね……」


 テナにそう言われると、俺の隣に静かに座る。

 すると、先程まで口を閉じていた姉さんが二人へと話し掛けた。

 「そっちでは、もう新しい生活には慣れたようだね」


 「まあな。

 最初だけはそれなりに苦労したよ。

 それで、姉さん達の方はどうなんだ?」


 「私は相変わらずだよ。

 シンちゃんが居なくなって家事を一人でこなさないといけないけどさ。

 ちょっと大変でね……」


 「食事はどうしているんだよ?

 姉さん、簡単な奴ですら全く料理出来ないんだろ?」


 「ええとね……、ラウとシンちゃんが毎日お弁当とか作ってくれるからなんとかなっているんだ……。

 本当は一人でなんとか出来るようにはしているんだけどね……。

 この前、やっと食べられそうなくらいの出来には作れたけど……」


 「食べれそうって……」


 「見た目は良かったんだけど、砂糖と塩を間違ったんだ……。

 だから、見た目こそ良くても味は…ね……。

 口にした瞬間駄目だったなぁ……あはは……」


 「そうですか、無理はしないで下さいよ」


 「わかってる。

 私はそろそろ帰るけど、テナはどうする?」


 「そうですね……。じゃあシラフ、良かったら私と試合をしない?

 久しぶりにお互いがどれだけ成長したか確かめたいしさ、いいよね?」


 「別に構わないよ。

 俺もお前の成長を見たかったところだし。

 姉さん、時間があるなら審判頼めるか?」


 「そういう事なら、仕方ないな。

 いいよ、だったら近くの公園とかでいいよね」


 

 近くの公園に訪れた俺とテナは互いに間合いをとり剣を構える。


 「あれ……その剣……。

 いつものとは違うよね?」


 テナの言葉に、俺は僅かに微笑み答える。


 「ああ。

 陛下から直々に授かった物だよ。

 前まで使っていた剣は、この前の戦いで砕かれたからさ」

 「砕かれた?一体誰に?」

 

 「ヤマトの王女様だよ。

 あの人、俺と同じくらい剣を鍛えているからな。

 単純な剣技だけなら俺より強い」


 「ふーん……なるほどね。

 でも、その人には一応勝ったんだろう?」


 「一応はな……。

 神器を使ってどうにかやっとだったけど」


 「神器か……。

 どうやら、君が使えるようになったって噂は本当のようだね?」


 「まぁそうかもな。

 でも、この試合では使わないよ」


 「じゃあ、使わせるまで追い込んで見せようかな?」


 姉さんが俺達の様子を見て、右手を降ろす。

 その瞬間、両者が一気に間合いを詰め辺りに金属音が鳴り響いた。


 「っ!」


 テナの高速の刺突を俺は小慣れたように確実にいなしていく。

 時間が過ぎる度に加速する両者の剣技にシファも思わず驚きを見せた。


 「ハイド、もっと攻める。

 テナも、ラウとの試合から何も変わってないよ」


 二人の試合にシファはそう両者に話し掛けると、二人は一瞬彼女に視線を向けるとつばぜり合いをやめ、後ろに飛び退くと間合いを取り直した。


 「テナ、あいつに会ったのか?」


 「ラウさんの事?」


 「ああ。」


 「シラフに会う前に、公園でね。

 それに、彼と鍛錬をしていたシルビア王女にも会えたよ。

 シルビア王女も鍛錬をしているなんて、誰の真似をしているのかな?」


 「シルビア様は、自分の意思で鍛錬をしているよ。

 俺の知る限りではな。」


 「そう。」


 「驚いているのは、あいつと試合をした事だよ。」


 「まあ、彼がクラウス様を打ち破った噂は本当らしいね。

 私も、あっさり負けたよ。

 結構本気て挑んだつもりなんだけどさ。」


 「……。」


 「シラフはラウさんの事が嫌いなの?」


 「少し気に食わない程度だよ。」


 「十分嫌っているようだね、シラフが嫌うなんてよほどの人物なのかい?」


 「色々、事情がある。」


 「そう。」


 「試合を再開しないのか?」


 「もちろんするよ。今度はお互い少し本気でね。」


 テナが剣を構え直し、僅かに笑みを浮かべると彼女の周りの魔力が上昇する。彼女の変化に、俺も同じく剣を構え直すと応じるように目の前の彼女も自身の魔力を高めた。


 「いくよ、シラフ……。」


 テナがそう呟くと、両者の姿が忽然と消えその刹那すさまじい衝撃が響き渡った。

 


 (速い……そして一撃一撃が鋭い。)


 俺がテナと剣を交えて感じたのは異常な程の速さと威力だった。


 テナの剣はレイピア状の剣による刺突を主とした剣技。

 対して俺の剣は僅かな細身の両刃の剣。

 そして、速さをある程度軸とした姉さん譲りの攻守のバランスの取れた剣技。

 

 俺が攻守のバランスに優れているとすれば、テナの剣は攻撃に特化したモノ……。

 攻めの決定打に欠けている俺は防戦一方に追われていた。


 成長……やっぱりテナは強いよ。

 でも、俺だって負ける訳にはいかない。


 俺がテナの剣を辛うじて弾き返し、攻撃へと移る。

 僅かな隙を見逃さず、俺はは斬り込むが彼女はそれに瞬時に反応……。

 そして、完璧にその攻撃をその細身の剣でいなして見せた。


 「っ!!」


 俺がが僅かな驚きの表情を浮かべる時、テナは勝ちを確信した僅かな笑みを浮かべる。


 勝敗は明確かに思えたその時……。


 「っ……。」


 刹那、背後から斬り込む俺の剣を受け止めてみせた。

 響き渡る金属音の衝撃に思わずテナの華奢な手が震えていた。

 「一体、何をしたの……?」


 「まあ、ちょっとした技術だよ。

 ヤマトの王女に、この前教わったものだけどさ。」


 「なるほど、やっぱり凄いねハイドは……。

 昔からいつも僕の予想より上にいる」


 「お前もだろう、テナ。

 俺の鍛錬にいつも負けず嫌いで食い付いてさ……」


 「そうだね……。

 僕達は似ているよ、だって結局はサリアの為に強くなろうとしているんだからさ」


 「目指す物が同じだからな、俺達は……。」


 「騎士。

 それが僕達の目指す物だからね、

 でもこの勝負は負けないよシラフ!」


 「俺だって、お前には負けられない。

 全力で来いよ、テナ!」


 互いの剣が交錯し、甲高い金属音が鳴り響いた。


 帝歴403年10月11日


 学院へと向かう登校の最中、私を待ち伏せしていたかのように、校門前にて曰く付きの彼女ことシファ・ラーニルはこちらの姿が自身の視界に入った瞬間に駆け寄って来ては話し掛けてきた。

 

 「おはよー、ラウ。

 相変わらずいつも不機嫌な顔ばかりしてるよね」


 「お前がいちいち関わってくるのが面倒なんだが……」


 「酷いなぁ、一応交際相手って形式なんだから。

 もう少し親しみを込めて接してくれてもいいでしょう?」


 「毎日、お前の弁当を用意しているどころか要望に答えて作ってやるだけ親しみは込めているだろう」


 「そういう話じゃないんだけど……。

 まぁ毎日お弁当作ってくれてるのは感謝してるよ、本当に……」

  

 「それで?

 待ち伏せしていたのは何が目的だ?

 何も用が無い訳では無いのだろう?」


 「いや、特に何もないよ。

 ただ一緒に登校したかっただけ」


 「こちらは常に忙しいのに、お前は随分と呑気な事だな」


 「そう言われても……。

 私からしたら20年近く動きが見えない相手と駆け引きしてる訳だしさ。

 今から急いだところでどうにかなる訳じゃないと思うんだよね。

 数百年単位で、ようやく向こうの尖兵達と一戦交えられたってところだし……」


 「生憎、こちらはお前と違って数百年も気長に生きて居られる身体ではない。

 故に、それだけ常に敵を見据えての対策や準備を進めなければならない」


 「まぁ、私としても早いに越した事は無いんだけどね。

 ラウがアレを倒すのは何の為?

 今も、自身の存在意義ってだけなの?」


 「それ以外に何がある?

 私の生まれた理由の一つに、カオスを倒す目的がある以上私やシンはその使命を果たすまでだ。

 そういう、お前はどうなんだ?

 昔の因縁というだけで、数百年以上もアレを求めて来た訳では無いだろう?」


 「あー、まぁ確かにそうだね。

 昔の因縁は勿論だけど、私がカオスを倒さなきゃならない理由は別にあるから」


 「別の理由だと?」


 「ええとね……。

 私、死ねないの。

 アレが生きている限り、私の命は決して尽きない。

 だからアレを殺すの」

 

 「どういう意味だ?」


 「そのままの意味だけど?

 全ての神器はカオスの管理下にある。

 管理者であるカオスが殺された場合、神器はその効力を失いただの鉄屑同然になるの。

 そして、私は神器の力によって生かされているような魔力の塊みたいな存在なんだ。

 単純に言うなら私の本体はこの右腕に嵌めている腕輪そのものって認識で良いかもね?

 まぁ、例え神器が壊されてもまたすぐに替えの神器が現れて私の身体は蘇ってしまうけど」


 「つまり、カオスを殺せば全ての神器が無くなると共にお前が死ぬと?」


 「まぁ、そういう事だね。

 結構大変なんだよ、長く生き続けるっていうのはさぁ……。

 特に、昔の私は手段とか選ばなかったからね。

 元は私もカオス側の一人だったけど、1000年くらい経った辺りからかなぁ?

 もう色々と耐えられなくなっててね……。

 私、その時カオスに直談判までして殺してくれって懇願したくらいなんだ。

 でもね、アイツは人を殺せないのよ。

 私達を直接害する行為を禁じられているからね。

 だから、わざわざ私やラグナロクって人達を使って回りくどいやり方してる訳だし……。

 あっ、これはまだ説明してないところだったよね?」


 「ああ……、そうだな」

 

 「まぁ後で説明はするけど……。

 とにかく私は、死ねなかった訳なんだ……。

 それに私は本気で怒って、当時私の管轄下であった国々をこの手で全部滅ぼしたの。

 民間人の犠牲もお構いなしに沢山沢山殺し尽くしたの。

 以来、私は向こうを当然のように辞めさせられて、アレと今も尚対立してる訳なんだ。

 現サリア王国及び、十剣の原型となったヴァルキュリアを創設してからは色々とやっては見たんだけど、当時のあの子達なんかさ……。

 その最後なんて、全員が私に歯向かってそのほとんどをこの手で殺したくらいだし。

 それからもう色々とやっけになって、自分で作ったヴァルキュリアからも逃げ出してしまって、あとは現在のサリアのお屋敷に籠もってたって感じ。

 その後の事については、サリア王国の文献を追っていけば私が何をしていたかはお察しの通りだけど」


 「敢えて生かし続ける事。

 それがお前の償いになると、向こうが判断した可能性でもあるんじゃないのか?」


 「あはは……、確かにアレならそういうことするかもね。

 それでも結局、神器の力を求めたのは私の意思だからね。

 生き残る為に、あの戦争で私達が勝つ為に必要だった、ただそれだけ……。

 その結果として、私は老いる事も死ぬ事も出来なくなってしまった。

 私達は人類の勝利の為に命懸けで戦った、その結果として私は人類のやり方に酷く絶望した。

 私達の戦いが何の為にあったのか、ただの無駄死にしただけなんじゃないかって……」


 「今更悔いたところで、過去の事はどうにもならない」


 「確かにそうだね、今更考えてもしょうがないか……」


 彼女はそう言って笑っていると、不意に彼女は呟いた。


 「私、あとどれくらい殺せばいいのかな……。

 いっそ、この世界や神様も何もかもを私が全て殺しちゃえばいいのかも……。

 なんてね……、早く私達も行こっか」


 流石に、何かの冗談にも聞こえる言葉だった。

 しかし、ほんの僅かだが危険な何かの揺らぎのような物を私は感じた。

 しかし、揺らぎはすぐに消え去った。

 そして、彼女は私の前をゆっくりと歩き進んでいく。

 

 何もなければ、遠目から見る分には彼女は普通の少女そのものにしか見えない。

 しかし、当然の如く無視できない程の大きな闇が存在しているのが事実。


 その片燐に触れてしまった私自身は、彼女に対して一種の危機感を感じていた。

 

 命を刈り取られてもおかしくない、恐怖を。


 しかし、今はまだ味方である事に安堵している自分が何処かにある。

 

 しかし、いずれは……


 「ほら、ラウ。

 早くしないと、私達遅刻しちゃうよ!」


 こちらに向ける笑顔と、その裏に潜むナニカ……。


 シファは自身の死の為にカオスを殺す。


 その目的の為に、彼女は世界を人質に取ろうとする。


 カオスの目的がどうあれ、目の前の彼女もアレと同類、もしくはそれ以上の巨悪なのかもしれない、と。


 彼女の催促に応じつつ、不意に以前読み込んだサリア王国の歴史に関連する文献で出てきた、とある一項が頭に過ぎった。


 

 この国には、魔女が居ると噂されていた。

 煌めく銀の長髪を持つ、この世の者とは思えない程の美しい姿をした魔女が居ると。

 この国の何処かにある森の中の屋敷に住んでおり、多くの災いを運んできたらしい。

 古くは国を滅ぼし、更にはこの世界に混沌を招いた卑劣極まりない存在であると。

 近年では国中へと疫病を招き、支配下にある魔女の一派が原因とされた事で国を挙げて魔女狩りを行ったが疫病の収まるまでに長い年月を必要としてしまった。 

 故に、あの魔女はいずれ殺さなければならない。

 いずれ、この国を滅ぼし兼ねない危険な存在であるからだ。

 その美しい姿で王家を惑わし媚入る毒牙のソレに、いずれは再び世界に混沌を運び兼ねないだろう。

 しかし、我々にアレに抗える力などあるはずが無かった。

 

 その魔女の名は、シファ・ラーニル。


 「………別名、災厄の魔女」


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