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大賢者の魔法喪失  作者: 夜見風花
呪われた大賢者編
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消えた灯火【マリーナ視点】

「とりあえず、王国へ報告に──」


 

 言葉が詰まったのは、アンリの背後に信じられないものが見えたからに他ならない。



 ──全身を真紅に染めた、ゴブリンが。



 奴らは普通、緑色で、魔力を持つものの、その低い知能故に魔法を扱うことができない。しかし私の目には見えていた。奴の手に揺らめく炎、そして散る火花によって、足元の草が瞬間に灰と化すのを。



 そしてその直後、爆発によって私の『障壁』は破られ……。殺すことができず、必死に逃げたはずが、気付けば私は森に独り、ただ立ち尽くしていた。


 眼前、アンリがいたはずの虚空を見つめて。




「──様、ヘラル様?」


 

 魔法局受付、ラミスの呼ぶ声で我に返る。



「あっ、はい……」


「局長とご対面されたいとのことでよろしかったでしょうか?」


  

 私は頷いた。局長に、彼に直接報告しなくてはならないことがある。


 ……アンリの……ことを。



「ではこちらへどうぞ」



 受付横の廊下を、彼女は進んだ。後ろをついていけば良いのかな。廊下の両脇にはたくさんの部屋が並び、その中で局員がそれぞれの業務を行っている。


 ……ああ、自分がまともではないと感じる。そんなことを気にしている場合ではないのに、何かを考えていないと気が、おかしくなってしまいそう。


 そして私は何度か階段を上り、廊下の最奥にある部屋、その扉の前に立った。



「中に、いらっしゃいます。では、ここで」



 彼女は礼をして、そそくさと扉の前を後にした。重々しい雰囲気を感じたのだろうか、そんなことはどうでもいいのだけれど。


   

 私は少し息を吸って、小さなノック音を廊下に響かせた。


 

「失礼します」



 扉を開けるとそこは、こぢんまりとしていて、本棚や正面の仕事机が散らかっていた。そして奥に、局長が扉と向かい合うように座っている。



「久しぶり、グリッド」



「……そのやつれた顔から話題は予想できる。何があった?」



 私は、彼と向かい合うようにして置いてある横広の椅子に座った。



「大賢者のアンリ=ロイが……死亡した」



 彼の目が一気に見開かれる。



「死体は……確認したのか?」


「……背後からの強襲だったんだ……炎に包まれて、灰すら残らなかっ

たよ」



 私の手のひらは、アンリのローブの切れ端を握っていた。炎に焼かれた彼を……落としてしまった……とき辛うじて手に残ったもの。



「私、これからどうしていけばいいのかな……」



 涙があふれて止まらない。



 アンリと離れた数年間、私は彼の強さを知っていたし、会いに行こうと思えばいつでも行ける距離だったから、耐えることができていた。


 しかし今、魔法を扱えないまま、無惨にも彼は私の手が届かないところまで……行ってしまった。抵抗すらできず……どれだけ無念だっただろう。


 もう私は──襲い来る悲しみに耐えることができない。


 

「……しばらく自分と向き合って、気持ちを整理するといい。幸いにも、時間はたっぷりあるからな」


「そうだね……ありがとう……それじゃ、またね。リンも、君も、お元気で」



 そう言って報告を終えた私は、部屋を出た。涙で滲んだ空は、赤く燃えている。

 

 もうすぐに、幾度目かも分からない夜がやってくる……そしてアンリはこの世界にもう、いない。

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