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大賢者の魔法喪失  作者: 夜見風花
魔物たちとの邂逅編
28/33

衝撃

重複投稿しておりました!

申し訳ありません。

「ここが……イーウェス村か」


 そこはタガ村から近く、風魔法であっという間に着いた。


「のどかな場所だね……魔物のことすらも忘れてしまいそう」



 農作業をする村人、魔法で遊ぶ子どもたち……平和を具現化したような村だ。

 願わくば魔物の手が届かずにいてほしい、そう思う。



「ずっとあそこに魔力……かつてのお前の魔力を感じている。行こう」


 彼が指差した先は、外れにある一軒家だった。



「おや、旅人さんかい。ゆっくりしていくといい」


 道を行く人がすれ違いざま言った。


「ありがとうございます。用事が済むまで滞在させていただきますね」


 僕は会釈をして、二人の先を急いだ。

 

 心が躍る。魔力が取り戻せれば以前のように……! 

 魔物にももう遅れを取らない。


「アンリ……ふふ、嬉しいんだよね。私も楽しみだよ」


 少し後ろにいたマリーナが言う。

 


 一軒家が近づいてきた。


 その前に立ち、扉に近づこうとしたその瞬間──


「アンリ、だよね。待ってたよ……俺はロゾミゼ。魔力を俺から取り返しに来たんだろ?」


 扉が開く。


 そこには……僕より一回りか二回り大きな、ロゾミゼと名乗る青年がいた。


「……あなたが……!」


「おっと、誤解しないでくれ。家へどうぞ、ゆっくり話をしようじゃないか」



 彼の何かを知ったような様子……そしてやけに落ち着いたその振る舞いに僕たちは呆気にとられた。


 家に入ったそこは物が少なかった。一人暮らしのようだ。


「立ち話も何だし……ここへ」



 机と、それに向かい合うように置かれた一対三の椅子。それはまるで、僕たちがここへ来ることを知っていたような……。


 僕を中心に、僕たちは座った。


「始めに言っておくと、魔力を奪ったのは俺じゃない。俺はもともと無魔力者だった……魔才がなかったんだ。それがある日目覚めたらこれさ」


「この件について何か……知っていることは」


 ルセウスさんが切り出す。


「それが全く分からない。ただ分かるのは、俺が死ねば解決するということだけだ」


「死ぬなんてだめだよ! 何か方法があるはず……」


 マリーナが止める。一族虐殺の過去を持つ彼女は、生命を軽率に扱うことに敏感だった。


「はっ、まさか……。それより、アンリ。魔力と共に君の記憶が流れてきたよ……辛かったね。そのうえこんなことになって……本当に申し訳ない」


 ロゾミゼは深く頭を下げた。なるほど、僕の名前を知っている理由はその記憶が原因か。



「謝らないでください。誰が悪いわけでもないんだから……」


「……ありがとう。君の記憶が定期的に流れてくるんだ。だから分かる。魔物のことも、メルラスのことも。奴は止めなくちゃだめだ」



 そこまで知っていたとは意外だ。


「魔力を元に戻せる方法を探そうよ。時間がたくさんあるわけではないけど」


「それがいいな。メルラスが魔物を寄越すかもしれないが……その時はその時だ」


 両脇の二人は決意を固めたようだ。


「あなたは……魔力を元に戻してもいいんですか?」


「ああ、さっき言ったが俺には魔才が無い。宝の持ち腐れってやつさ……むしろ早く君に返したい。それほど奴らは危険な存在だ」


  

 四人の心は同じのようだ。


「じゃあ……よろしく、ロゾミゼ」


「こちらこそ、アンリ」


 僕たち二人は固い握手を交わした。



 それからしばらく魔力の移動に関する話をしていると、突然彼が言った。


「思い出した!」


「わっ、びっくりした……何を?」


「こんなことになる前の日、旅人が来たんだよ! 君たちのような……こいつは強いって、魔才がなくても肌でピリピリ感じるほどの。顔は覚えていないが……名前は覚えてる」



 ……! それは大きな手がかりになりそうだ。もし魔力移動が不可能だったら、そいつを探し出すことになるだろう。


 続けて彼が言ったのは……耳を疑う名前だった。


「確か……ゴーシャ」


「……! ゴーシャだって……!?」


 信じられない。どうしてその名が……? 僕に呪いをかけたのは……いや、そもそも生きていたのか?


「どうしたの、アンリ?」


「……の名前だ。僕の……父の名前だ」



 空気が凍りつく。マリーナは手で口を抑え、目を見開いていた。


「……どうして……アンリのお父さんがこの事件に関わっているとでも言うの……?」


「多分、そうだ。……彼が来た次の日だったよ、俺が魔力を得たのは」



 そんなの……嘘だ。その話が本当なら、父は……お父さんは僕に何の恨みがあるっていうんだ?


 あの日、僕の体に呪いをかけた人も……もしかしたら。


 僕の黒が差し込んだ暗い心とは対照的に、窓からは夕日が差し込んでいた。


 どちらももうすぐ真っ暗闇が訪れるという点では……その二つは、似たようなものかもしれない。

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