表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の魔法喪失  作者: 夜見風花
呪われた大賢者編
13/33

事後説明

「あー、何から話せばいいか……」


「初めから話してくれ。マリーナと再開した経緯から」



 僕は今、魔法局長室でルセウスさんと対面している。意外にも散らかった部屋で、少し親近感が湧いた。マリーナはというと、泣き疲れたのかうつらうつらとしている。



「なんというか、数日前から魔法が使えなくなったんです」


「そうしたらマリーナが駆けつけてくれて……彼女によると、魔力の問題だと」



 彼は頷きながら、真剣に話を聞いている。



「それで、マリーナの創造魔法……『魔力譲渡』を試してみました」


「無事魔法は使えたんですが、気が付くと僕は……別の場所に居たんです」


「……! そこからを詳しく聞きたい」



 ルセウスさんの真剣さが増した。椅子に座りながらも、身を乗り出すのを必死に堪えているように見える。


 彼もまた、好奇心に生きる者なのだろう。……気が合いそうだ。



「森の中、突然僕は襲われ、全身に熱を感じました。恐らくそれは……炎魔法。そして、転送されたんです。『謁見の間』に。」


「……『謁見の間』?」



「ああ、僕が勝手に言っているだけですけどね。王城の謁見の間に酷似したそこは、きらびやかなのに、とにかく暗く、重い雰囲気を漂わせていました」


「そして玉座には……女が、佇んでいたんです。その名は──メルラス・ファイラ。」



 僕は、メルラスの外見的特徴、会話の中で感じた性格を話した。そして──その不死性も。



「奴は……メルラスは、近いうちにこの大陸を滅ぼす、そう言いました。多分、宣戦布告のために僕を呼んだのだと思います。」


「ちょっと待て。さっき魔法が使えないと……そう言ったよな? じゃあどうやって、不死かどうかを──」


「使えたんです。その時だけは。」



 僕にも、よく分かっていない。身を蝕んでいくような、あの威圧感。


 ……恐らく……それに名前を付けるなら、『瘴気』を魔力に変換できたのだと……彼に伝えた。



「『瘴気』……魔力に変換……? 聞き慣れない言葉ばかりだな……。」



「……それも僕が勝手にそう呼んでいるだけです」


「ただ……その時だけは妙に調子が良かった。これまでの人生の中で、一番の絶好調でした。」


 

「その魔力で放った『炎弾』がメルラスを殺し、しかし奴は蘇った……そういうことか?」



「そうです。再び炎に包まれ、気づくと王国路上でマリーナに抱きしめられていました。」


「あと言い忘れていたのですが、僕を背後から襲った、魔法を使う赤いゴブリン……メルラスはそれを、『魔物』と呼んでいました。モンスターとは、似て非なるものです。」



「なるほどな……。詳しい説明に感謝する。」



 

 彼は顎に手を当て、少し考え出した。


 マリーナに目をやると、僕の肩に頭を乗せて眠っていた。……幼い子供のように、安心しきった様子で寝息を立てている。その髪も、ローブ越しに伝わる体温も、今は全てが愛おしい。



「うん……少し早いが、とりあえず今日はゆっくり休むといい。局を出て向かいの宿を取っておいた。名前を伝えれば宿泊できるはずだ。」



 彼はそう言って、僕に目を向けた。素晴らしく気の利く人だ。尊敬する。外はもう夕焼けが燃えて、赤く照らされている。



「お気遣いに感謝します。それでは失礼しま──」


「おっと、その娘も連れて行ってくれよ。」



 立ち上がろうとした僕に、ルセウスさんの人差し指が向けられる。



「宿までおぶっていけよ。重いなんて言ったら、失礼だぞ?」



 彼はニヤニヤしながら冗談交じりに言った。


 ──この人、こういう一面もあるのか……! ただ真面目な人間というわけではなさそうだ。……それにしても、体力の乏しく、魔法も使えない僕に彼女をおぶっていくことができるだろうか。



 そんな心配は、すぐに打ち消された。



 僕が彼女を起こさないよう、そっと抱きかかえると、全く重量を感じない。それも、彼女が軽いというか、僕の力が強まっているような……。ルセウスさんに目を向けると、彼は口角を上げて親指を立てていた。



 ──彼が僕に『身体強化』をかけてくれたんだ! 彼の人柄の良さ、その気遣いに思わず笑みが溢れる。



「今日はありがとうございました! それでは失礼します!」


「ああ、さようなら」


 


 僕は局長室を出て扉を閉めると、抱えていたマリーナを背中におぶった。彼女の手が僕の首に回される。うっすらながら、意識があるのだろうか、先程の僕のように。



 そして僕は、待合室を抜け、人の行き合う通りを横断し、向かいの宿に入った。道中人々の視線を感じたが、不思議と微塵も恥ずかしさを感じることはなかった。



「アンリ=ロイです。部屋が予約されているはずですが……」


「……アンリ=ロイ様ですね。突き当たり右の部屋へどうぞ。」



 受付でふくよかな体型の主人にそう伝え、部屋に入るとそこにはベッドが二つ並んでいた。ルセウスさんは僕とマリーナが泊まることを予想してこの部屋を予約してくれたのだろう。



 僕は、彼女をベッドに寝かせ、隣のベッドに座った。窓からは夕日が差し込んでいる。こんな時間だが……もう寝てしまおうか。



 マリーナはもう寝てしまったようだ。自分で言うのも何だが、僕が生きていたことに安心して、張り詰めていたのが開放されたことで眠気に襲われたのだろう。



 ……僕の背中にはまだ、彼女の胸の感触が残っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
是非☆☆☆☆☆→★★★★★&ブックマークお願いします!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ