08話 家づくり思案②
辺りに注意を払いながら森に着くと、俺はタブレットを木に向けた。
念のため、家の中にはスコップを持ったアランさんがいる。
大声を上げれば飛び出してくる手はずだ。
タブレットの還元画面ではマップ項目が背景に少し映っている。
マップ項目には変化があった。
これが赤くなれば範囲内に侵入者がいるということだが、アランさん一家がここに訪れた時から赤くなっていた枠線が、いつの間にか黒に変わっていたのだ。
侵入者から配下に変わったということだろうか。配下と言うのは失礼だろうが。
時間をかけている場合ではなく、周辺の木をどんどん還元していく。
間引きのように、還元するのはところどころのほうがいいかもしれないが、そこまでの余裕はない。
目標の2000ptまで、木をどんどん消していった。
ポイントを貯めた俺は、走って家の前に戻る。
タブレットを素早く操作して、建物の項目からあばら屋を選択した。
設置場所をマップ上で決定する。
『はい』を押すと、地面からズブズブと音を立てて、あばら屋が浮かび上がってきた。
この光景を見るのは2回目だが、相も変わらず不思議な現象だ。
1分間で1メートルほど盛り上がる。
3分も経てば、コピーしたようにまったく同じものが二棟並んで建っていた。
並ぶ壁に目を向ければ隙間はほとんどない。
設置場所の選択も、思い通りうまくできたようで安堵のため息を吐く。
だが、これで終わりではない。
指先を動かしタブレットを操作する。
目の前には、次から次に交換したものが出現する。
ノコギリ30pt、金槌10pt、木槌20pt、釘150本で45pt。
特大ネット50pt。
杭大30ptを8本で240pt。
6メートルの長さの板(幅100ミリ厚さ12ミリ) 30ptを32本 960pt。
交換したものが、地面に無造作に無造作に散らばっている。
ここまでで1855ptもかかってしまった。
用意したポイントは2040ptだ。それが残り185pt。なくなるのはほんの一瞬だ。
必要なポイントなのだから、惜しんでいる暇はない。
「この辺りに杭を打つか。それから……」
タブレットでマップを開きつつ、どの位置にどうするのかを想定する。
メジャー代わりに長板を置いて距離を測る。
「こんなもんかな」
おおよそ想定通りに造れそうだ。俺は満足して頷いた。
身がぶるりと震えた。
恐怖で震えたのではなく、単なる生理現象。すなわちマーキングだ。
いつものように、家の横にある木の根元に移動する。
「あっ……。トレイどうすんだ……」
すっかり忘れていた。
ここに住む人たちも生理現象はあるだろう。
よくウルもマーキングをしている。
俺一人なら問題ないが、数人で暮らすとなればトイレは必要になる。
もしいらないと言われても絶対作りたい。人間としての尊厳だ。
再び俺は森に走った。
家の前には交換した道具や木材が並ぶ。
追加で910ミリx1820ミリ厚さ12ミリの木板40ptを4枚で160pt。
ダンジョンのトップである落とし穴に300pt。
光の魔石極小を2つで400pt
合計で860pt。
森の一部がなくなってしまった。
環境破壊だが、森はまだまだ広い。必要なことだったと納得するしかない。
魔石はついでだ。その内に必要になるものだろうから、早めに交換しておいても損はない。
それにしても、トイレについては我ながら名案が浮かんだと思う。
ダンジョンのトラップである落とし穴を利用したのだ。
落とし穴は大、中、小、極大とサイズがあるものの、体積で換算している。
直径10センチほどの穴で、下にできるだけ伸ばしたものを作った。
いわゆるボットンである。
そこを板で囲ってトイレにすることにした。
光の魔石をポケットにしまい込んで家へと入る。
「すみません遅くなりました! これからやってもらうことを説明します」
各自に仕事を割り振って、この場所の改造を始める。
俺とアランさんは柵作り。
杭を地面に打ち込み、板を釘で打ちつける。
ハンナさんとエミィは畑の世話の担当。
水を撒き、雑草を取ってもらっている。
ウルは侵入者対策だ。
ダンジョン範囲内に入ったものを見つけてもらいたいのだが、本人は理解していないのだろう。
作業しているみんなの周りを、楽しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
そんなに時間がかかることはない。
余った材料で出入口を作るのに時間がかかったくらいで、夕方前にはすべての作業が終わる。
狭いながらも柵で囲まれた家。上からはネットがかかっている。
ネットの網目が荒いのが気になるが、これで害獣対策、鳥害対策は完了だ。
何か問題が起きてから対応していくしかない。
畑は順調そのもので、朝よりも大きく育っている野菜の苗が並ぶ。
成長が早すぎて、逆に不安なのだが。
俺の目の前には、アランさん一家とウルがいる。
アランさんも、ハンナさんも、エミィも服や顔を泥で汚していた。
頑張った証拠だ。
散歩していただけのウルが、誇らしい顔をしているのが気になるが、ウルはウルで頑張ったのだろう。
「考えた通りのものができました。みなさんのおかげです」
「何をおっしゃるのですか。すべてリョウさんの用意したものです」
「そうですよ。食べ物や水だけでなく、薬までもらってしまって」
突然こんな世界に迷い込んでしまったと気づいた時にはどうなるかと思ったが、今は順風満帆そのものだ。
今日はポイントを大盤振る舞いしたことだし、新しい門出の一日目。
たまにはこんな日もいいだろう。
「これから先、みなさんにはまだまだ働いてもらわないといけませんからね。今日のご飯は豪勢にいきましょう!」
狼の脅威から守るため、家の周りには集めた枝が多くある。
それを燃やしてみんなでたき火を囲む。
水で洗ってきれいにした枝に、謎肉を刺したものを遠火であぶる。
久々の肉だ。
豚バラっぽい見た目で、かぶりつくと肉汁が口に広がる。
味付けは塩のみだが、外で食べるとなおさらおいしく感じた。
友だちとキャンプなんてしたことはないが、アウトドアのBBQはこんな感じなのだろうか。
アランさんもハンナさんもエミィも笑っている。
俺もつられて自然と笑顔が零れてしまう。
「このお肉おいしいね!」
「わふっ!」
「ウルもまだ欲しいのか? 仕方がないな。ほら」
ここに来て、初めて俺は心の底から笑えた気がした。




