07話 家づくり思案①
扉を開けると、座っていたウルが起き上がり尻尾をブンブンと振る。
部屋の奥に移動した俺は壁にもたれかかって座った。
「あの……私たちはどうしたら?」
「すみません。ちょっとだけ待っててもらえますか?」
手持ちぶさたで居心地が悪いのだろう。
畑の世話でも頼みたいところであるが、今はまだ集団で行動すべきだと思う。
やってもらうことを割り振るためにもさっさと確認だ。
タブレットを開いて、家を建てるために必要な道具を探す。
鉄斧80pt、ノコギリ30pt、鉄釘10本で3pt、金槌10pt、木槌20pt。
カンナが欲しかったが、リストの中にはない。
さすがにダンジョンには不要な物らしい。
カンナはないが木材はある。それも種類が豊富だ。
木板に角材に丸材。 大中小の木杭なんてものも存在する。
道具や材料を考えた結果、家を造る手段は三つある。
一つ目は森の木を伐採して、木材を自分たちで用意する方法。
これだと初期費用は道具のポイントだけだ。
しかし問題がある。伐採した直後の生木は水分を多く含む。
乾燥するまで待たなければならないし、雨に濡れないように養生も必要になる。
二つ目は木材もポイントで交換してしまうことだ。
道具の初期費用に加え、木材のポイントまでかかってしまう。
木材の交換ポイントは高い。
910ミリ x 1820ミリ厚さ12ミリの木板が40ptもする。
柱として使えそうな木材は120ミリ x 120ミリの2400ミリで50pt。
高いのは加工費が入っているからだろうか。
三つ目は簡単だ。
この家と同じものを隣りに造ればいい。
道具も必要なく、500ptで建つあばら屋だ。
まだ周辺にはポイントに還元できる木がある。
それならば、あばら屋でも悪くない気がする。
俺は腕組みをして悩む。
候補の三つからどれを選択するかだ。
ポイントの振り分けを間違えると、後々に生活できなくなってしまう可能性もある。
もう少し考える時間が欲しいと、アランさんに聞きたかったことを質問する。
「アランさん、魔石って知ってますか?」
「え? はい知っていますが……。私も小さなものですが持ってますよ。クズの火の魔石ですが」
アランさんが布袋から小さな石を取り出した。
パチンコ玉よりも小さく、黒ずんだ石を手の平で転がした。
「それってどうやって使うのですか? 火の魔石ってことは、火を起こせるということですか?」
「魔石を知らないのですか?」
怪訝な顔を浮かべられる。
反応からみるに、魔石とは誰でも知っているようなものらしい。
勢いでごまかすしかない。
「私は魔法で色々とできるので、魔石を使ったことがないんですよ」
「なるほど! そうでしたか。これはこのように使います」
布袋の中からスズリのようなものが出てきた。
アランさんは墨をするように、魔石を手に持ってこする。
何度かこすっていると火花がバチバチと飛び出した。
「なんかすごいですね……熱くないですか?」
「慣れれば平気ですよ。もうちょっと程度のよい魔石であれば簡単なんですが」
アランさんが言うには、普通の魔石であれば手で触るだけで効果が発揮されるらしい。
それだと火の魔石は危ないので、専用の箱に入れるそうだ。
直接手で触れなくとも、金属の棒でつつけばいいとのこと。
それを聞くと非常に興味をそそられる。
魔石とは、まさに異世界のものだ。
タブレットで交換できる魔石は光、火、水、氷、風の5種類。
光と火、氷の魔石はあれば便利だろう。
氷の魔石はおそらく冷やす効果だ。箱の中にでも入れれば冷蔵庫の代わりになる。
極小サイズで各200ptなら何個か交換してみてもいいかもしれない。
交換という言葉で思い出した。
畑も鳥害から守るための柵を作らなければならないのだ。
タブレットの中からネットもを探す。
だんだん探すのも慣れてきたものだ。すぐにネットは見つけられた。
大きなもので10メートル四方のものがある。
ダンジョン内で侵入者に使うようのものだろう。
これでは畑には大きすぎるため、もう少し小さなネットにしようと思った時にひらめいた。
何も畑だけを囲う必要はない。
家の周りを柵で囲い、上からネットをかける。
これなら狼の脅威はぐっと減らせし、鳥害もある程度防げる。
柵は壊されるかもしれないが、補強していけばいいし、逃げるための数秒を稼げればいい。
後は必要なポイントの試算だ。
「アランさん、この家と同じようなものでもかまいませんか? 土間ですけど、それは追い追いやっていくってことで」
「もちろんこちらはかまいません」
方向性は決まった。
とりあえずポイントがまだ足りない。
木はまだあるし、1000ptになるまで還元してこようと立ち上がると、ウルが尻尾を振りながら飛びかかってきた。ぴょんぴょんと足元で跳ねている。
子犬のように人懐っこい。
ウルを持ち上げて抱っこした。前足を俺の肩に乗せると耳元でハッハッと息を吐き、尻尾をブンブンと荒らげた。
かわいいやつだ。
召喚して出てきたのがウルで、本当によかったと思う。
ウルを撫でていると、エミィが立ち上がって俺の足元へと寄ってきた。
エミィの背は小さく、俺のへそ辺りまでの身長しかない。
5歳らしいのでこんなものなのだろうか。
風邪薬で体調は戻ったようだ。少ないながらも食べ物をとったためか、元気そうに見える。
母親のハンナさんと同じ茶髪。ちなみにアランさんは少しくすんだ金髪だ。
今は二人とも痩せこけているが、アランさんは優男であるし、ハンナさんは誰が見ても美人だと言うだろう。
その二人からいいところを貰ったエミィの将来は有望そうだ。
「どうしたの?」
そう聞くと、エミィは両手を大きく広げる。
「ウルを抱っこしたいの?」
顔をぷるぷると左右に振ってから、ぴょんぴょんと跳ねる。
ここでエミィが望んでいることをようやく理解した。
事案である。
しかし両親の目の前なら大丈夫だろうと思い直す。
ウルを降ろした俺はエミィを抱っこした。
抱っこすると、エミィが両手を俺の首元に回す。
「お薬とご飯、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
かわいい子から感謝されれば、それだけで十分だ。
頭を撫で、地面にゆっくりと降ろす。
「エミィちゃん、ウルと遊んでてくれる? アランさん、すぐに戻ってきますから待ってください」
木を還元するために俺は家を出て、一人で森に向かった。




