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06話 ポイントの仕組み

 夜が明け、朝日が隙間から入ってくる。


 目が覚めた俺は部屋の隅にいるアランさんたちに目をやった。

 三人寄り添って布に包まっている。よほど疲れていたのか、まだぐっすりと眠っていた。


「ウル、外に行くぞ」

「わふっ」


 タブレットとコアを包んだ布を脇に抱え、地面に置かれているコップと皿を回収する。

 音を立てないよう静かに歩いて外へと出て、そのまま裏手に回ってタブレットを開いた。


「あれっ?」


 まずはポイントの確認をと、画面の右上を見ると247ptになっていた。

 昨日最後に見た時は242ptだったはず。それから5pt増えている。

 俺としては3pt増える予想をしていたのだ。

 増える分には嬉しいが、増えた理由がわからなければまずい気がする。


 壁にもたれかかり、悩む俺の隣りにウルが近づいてきた。

 かまって欲しいのか、腕の下から鼻頭をねじり込んでくる。

 わっしゃわっしゃとウルの頭を撫でつつ考える。


 実際には二日目からだが、夜が明けた一日目は1pt。二日目は2pt。三日目の今日は5pt。

 何が変わったのだろうか?

 4ptなら倍になったのだろうと予測もできるが、それは違う。


 考え込んでいると、いつの間にか手が止まっていたらしく、ウルが「わふっ!」と鳴いた。

 ぺろりと舌を出し、パタパタと尻尾を左右に振る。


「ああ、そうだ。朝ご飯を用意しないとな」


 生肉とリンゴを一つ交換する。


 昨日、アランさんたちは渡したリンゴを食べずに寝てしまった。

 食べることよりも眠りたかったのか、子供が寝ていたままだから食べなかったのかはわからないが。

 昨日のリンゴは朝食として食べてもらおう。

 5人分の朝食を用意するとなれば、それなりにポイントも消費してしまう。


「あれっ?」


 ふと頭をよぎった。


「もしかして……」


 最初は俺一人。次の日はウルとで二人。今日はアランさん一家とで五人。

 ダンジョン範囲内に生物がいれば、それがポイントとして換算されているのではないか。

 敵や味方の区別がどうなっているのかはわからないが、この考えは間違っていないように思える。


 これからやるべきことが見えた気がした。


 俺は交換したものを持って、家の扉を静かに開ける。中に入るとすでにアランさんたちは起きていた。

 薬を飲んだエミィは昨日に比べて顔色もよくなっていた。


「おはようございます。娘さんも元気になったみたいですね」

「おはようございます。すべてリョウさんのおかげです。色々とありがとうございました」


 座っていたアランさんとハンナさんが深く頭を下げる。エミィも同じように頭を下げた。

 俺は対面に座り、水の入ったコップを渡す。

 コップを受け取ったアランさんは申し訳なさそうに言う。


「何から何までありがとうございます。休息も取れました。すぐにここを出て行きますので」


 交渉しようかと思った矢先に先制パンチを食らってしまった。


「えっ? ちょ、ちょっと待ってください。これから先、行く当てはあるんですか?」

「ありませんが、このままお世話になるわけにもいきません」


 ここは大きな狼がうろついている森で、このまま出て行けば危険に晒されるかもしれない。

 半日ほどしか一緒にいないのだが、アランさんたちはいい人だ。

 アランさんたちが困っているのを見捨ててはおけない。

 それに俺はもっと情報が欲しいし、人がいればできることも増える。


「アランさん、提案があるのですが」

「提案ですか?」

「そうです。行く当てがないのならここに住みませんか? 食料なら少しくらい提供できます。少しの間住んでみて、気に入らなければ出て行ってもかまいませんから」


 アランさんたちは呆気にとられたような顔を浮かべていた。


「どうでしょうか? 俺一人だと色々と困ってまして――」


 騙すような真似はしたくない。

 困っているのは事実であり、かいつまんで現状を話す。

 最近ここに越してきたこと。

 この近くには大きな狼がうろついていること。

 食料確保のために畑をつくっているが、農業の知識が乏しいことを伝えた。


 家族内で話し合って決めるかと思っていたのだが、アランさんはハンナさんと目を合わしただけでこちらに顔を向けた。


「本当によろしいのですか? それなら是非ともお願いしたいのですが」

「あの……ご家族と話し合わなくともいいのですか?」

「えっ? 大丈夫ですが……」


 どうやら決定権はアランさんにあるらしい。


「宜しくお願いします」とアランさん一家が頭を下げる。

 慌てて俺も頭を下げた。


 とりあえず、一緒に生活していくことは決まった。

 これからどうしていくかをアランさんと話し合わねばならない。


「俺はまず、家を造りながら畑を作って自給自足を目指したいです」

「そうですね。それがいいと思います」


 ここは森に囲まれている。

 道具は交換できるし、材料はなんとかなりそうだ。


「その前に、狼をどうするかですね」


 不安なのはこれまでに何度か見た狼だ。

 マップは確認できるが、見れるのは家を中心として範囲は500メートル四方くらい。

 マップ端から家まで250メートルだとすると、狼が本気で走れば20秒とかからないだろう。


「この辺りに生息しているのであれば、グランドウルフだと思います。私は剣術を嗜んでいましたので、その……そこのスコップがあればなんとか戦えるかと」


 アランさんの視線の先には壁に立てかけられたスコップがあった。

 鉄製の剣先スコップだ。

 剣の要領で武器の代わりに扱えるのだろうか。

 疑問には思えるが、まったく何もできない俺よりはマシだろう。


 もう前に進み続けるしかない。

 やらなければ俺は帰ることができない。


「周辺を見て回りたいのですが、護衛をお願いしてもいいですか?」

「もちろんです」


「わふっ!」

「ん?」


 パタパタ尻尾を振るウルの視線の先には餌入れがあった。

 気が急いてしまっていた。

 少し恥ずかしい。


「先に朝食にしましょうか」



 朝食を終えた後、俺とスコップを持ったアランさんは家の外へと出た。

 まだ小さく足の遅いウルは留守番だ。


 俺はポケットにコアを入れ、手元にはタブレットを持つ。

 これから先、一緒に生活するのだ。タブレットのことを隠し通せる自信はない。

 それならばと、思い切って話すことにした。


「それが魔導書ですか……。初めて見ました。案外薄いものなのですね」


 話すといっても、タブレットでできることまでは話してない。

 タブレットの見た目は薄い本だ。それっぽく魔導書とだけ伝えた。


 タブレットでマップを表示させつつ、庭先に作った畑に歩み寄る。

 前にスコップを握りしめたアランさん。後ろに俺が続く。

 今日はまだ水やりをしてない。盛られた土は乾燥したのか白っぽくなっていた。


「あれっ!?」

「どうしたのですか!?」


 思わず声を上げてしまい、アランさんが慌てた様子で振り返る。


「な、なんでもないです。アランさん、聞きたいことがあるのですが、この時期だと野菜の種ってどのくらいで芽が出るか知ってます?」

「そうですね……。水の量にもよりますが、一週間もあれば発芽するかと」

「ですよね……」


 気温や森の状態からみるに、今は初夏くらい季節だろう。

 それであれば発芽は数日、かかって一週間くらいのものだ。


 目の前の畑には小さな緑の芽が、すくすくと育っている。

 四畝に四種植えたのだが、すべて一日と経たず芽吹いていた。


 畝に近寄ってしゃがみ込み、まじまじと芽を観察する。

 ちゃんと等間隔に植えた場所だ。雑草などではない。


「ここは森の中で鳥もいますから、何か対策したほうがいいかもしれませんね」

「そ、そうですね」


 こういう助言はありがたい。

 芽が出た後のことを考えてもいなかった。

 両親もよくぼやいていたものだ。

 畑は害獣によく荒らされる。イノシシや鹿、カラスにハクビシン。色々な動物が畑を荒らしに現れるのだ。


 交換できるものに電気柵はなかったが、ネットはあったはず。

 四隅に杭を打ち、網をかけるだけで効果はあるだろう。


 昨日植えたばかりで成長が早すぎるのが気になるが、魔法の種に魔法の水のせいだと思っておくことにした。

 とりあえず畑は順調そうだ。


「畑の確認は終わりました。次は森の方に行きましょう」


 俺は立ち上がって、森の方へと歩き出した。


 家から100メートルほど離れた場所の森。

 雑草はあまり生えていないが、木は密集して立っている。


 木を切り倒して木材に加工するには色々と道具が必要だ。

 必要なのは斧、ノコギリ、カンナ、釘、ハンマーくらいだろうか。

 残りは243pt。かなりギリギリに思える。


「まずは木を切り倒す道具が必要ですかね」

「あの……聞いても宜しいでしょうか?」

「なんですか?」

「家に道具はなかったように思えたのですが、魔法で道具を作り出すのですか?」

「え? ええ。まぁそんなものです……」

「魔法で木をどうにかできないのでしょうか?」

「木を魔法で? えっと……。ああっ!」


 ここで俺は気がついた。これができるなら素晴らしい発見になる。

 まずは一度試してみるべきだろう。

 アランさんには悪いが、まだタブレットの効果は見られたくない。


「すみません、魔法の範囲がよくわからないもので危ないかもしれません。家で待っててもらえませんか? 確認したらすぐ戻りますので」

「わかりました」


 家に戻るように伝え、一人っきりになった俺は森の前に立った。

 狼に襲われるかもしれない。さっさと試してみよう。


 ダンジョン範囲内にある木だ。できそうな気がする。


 一本の木を見据えて、還元ボタンを指先で押した。

 画面に文章が表示される。

『木を還元しますか? +30pt』『はい』『いいえ』


 思惑通りに進みすぎて指先が少し震えてしまう。

 俺はもちろん『はい』を押した。


 パッと一瞬で木が消えた。

 根までごっそり消えて、地面には穴だけが残っている。突然穴となった場所にパラパラと土や砂利が落ちていく。

 画面の右上は273ptとなった数字。


「こんなに簡単に増やせるなんてな」


 思わず笑みが零れてしまう。


 手当たり次第に還元していく。

 計10本の木を還元して、手持ちの合計は535ptになった。

 一本は30pt固定ではなく、27ptもあれば31ptもあった。木の大きさで微妙に違うようだ。

 意外につくりはしっかりとしたクソゲーだった。


 ダンジョン範囲内の木が還元できることはわかった。

 有限ではあるが、これで当面のポイントは気にしなくてもよくなったことに、ホッと胸を撫で下ろす。


 一人っきりでの長居は無用だと、家に向かって俺は走り出した。

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