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05話 訪問者②

「わかりました。でも、その棒だけはこちらに渡してもらえますか?」


「ありがとうございます」と男は木の棒をこちらに向かって投げ捨てた。

 警戒しながら近づき、俺は棒を拾い上げる。

 信じるといっても、武器となりそうなものを持ったままでは不安だ。当然の処置としておこう。

 ナイフなんかを隠し持っていたらどうしようもないが。


「どうぞこちらへ」


 俺は三人をあばら屋に案内した。


 タブレットとコアを布に包んで隠し、三人を家の中に通す。

 部屋の隅に木の棒を立てかけ、いつ襲われてもいいように、スコップの持ち手を強く握る。


「ありがとうございます」と男女が言うと、二人は土間にへたり込んだ。

 座った女の人は子供を腕に抱きかかえ、不安げに少女の顔を見つめている。

 三人とも頬はこけ、顔色もよくない。疲労困憊(ひろうこんぱい)という感じだ。


 不意打ちはなさそうだと、俺はそのまま部屋の隅に座って話しかけた。


「俺は大上……じゃなくて、リョウ・オオガミと言います」


 へたり込んでいた男が顔を上げる。


「先に名乗らせてしまってすみません。私はアランと言います。こちらが妻のハンナ。そして娘のエミィです」


 ハンナさんが会釈をする。

 腕の中の子供は寝たままだが、呼吸も荒く、額からは汗を流して苦しそうな顔をしていた。


「その子は病気……ですか?」

「風邪だと思います。ここまでの移動で体調を崩したようで。休ませてもらえれば明日にはよくなるかと」

「そうですか……」


 理由はわからないが、この世界の人とは言葉が通じる。

 もうすぐ日も落ちてしまうため、今のうちに色々と聞けることは聞いておこうと思う。

 この世界のことを、俺がまったく知らないとバレれば何かしら問題になるかもしれない。

 聞き返されないように注意して、俺はアランさんに質問していくことにした。


「アランさんたちは、なぜこんな場所に?」

「実は……」


 アランさんは口ごもりながら、これまでの経緯(いきさつ)を語った。

 ここより北の村から来たとのこと。

 王国のエルティス領が領地拡大のため、各地に村が作られ、その一つにアランさんたちは入植した。

 しかし、生活は苦しく、追い打ちをかけるように日照りでの不作が村を襲った。

 餓死者も出る中、残り少ない食料を巡り、殺し合いになりかねない雰囲気で逃げ出してきた。

 行く当てもなく、どこの国にも属していないらしいこの場所を目指して来たとのことだ。


「そうでしたか」


 ここに来るまで、ほとんど飲まず食わずさまよい歩いたのだろう。

 そんな話を聞いてしまえば、助けずにはいられない。

 この地がどこの国にも属していない場所だと聞けたお礼もかねてだ。

 少しくらいのポイントなら余裕はある。


「ちょっと待っててください」


 俺は布を持ち上げ、ウルと一緒に外に出る。

 家の裏手に回るとタブレットを開いた。


「肥料はないくせに、薬はあるんだよなぁ」


 小声でぼやく。


 現在のポイントは317pt。

 コップを3つで15pt、リンゴを4つで8pt、生肉を2pt、布を2枚で40pt、風邪薬を10ptで交換する。

 残りは242ptになってしまった。


 少なくなったポイントに肩を落とし、コップに水を入れていく。

 交換したものを持って、家の中に戻った。


 何を持ってきたのかと興味深そうにアランとハンナが見つめてくる。


「果物と水です。それとこれは薬です。半分に割って飲ませてください」

「く、薬ですか!? ありがたいのですが、手持ちのお金が……」

「かまいませんよ。そうですね……それじゃあ、お礼として知っている国や町のことを話してくれませんか? こんな辺境に住んでいるもので、俺は世間に疎いんですよ」


 そう告げて、二人にコップとリンゴを手渡した。


「ありがとうございます」


 アランさんとハンナさんはコップの中の水をまじまじと見つめていた。

 二人は顔を見合わせ、一気に喉へと流し込む。


「つ、冷たくてうまいっ!」


 目を見開いて驚いている。

 タブレットで交換する水は常温ではなく、少し冷たい程度のもの。

 ただの水でこんなに喜んでもらえるなら用意した俺も満足だ。


「水のおかわりがいるのでしたら、いくらでも用意できますので」

「い、いくらでもですか? もしかしてリョウ様は魔法使いなんでしょうか?」


 内心、しまったと焦る。

 いくらでも用意できると言ってしまったためか、それとも冷たい水だからなのか、疑問に思われてしまったようだ。


 魔法使いという言葉から、この世界には魔法使いが存在するのだろう。

 実際タブレットでできることは魔法のようなものだ。

 それで押し通すしかない。


「え、ええ。魔法の勉学のためにここに住んでいまして」


 家は隙間だらけのあばら家。本どころかテーブルさえない。

 一瞬でバレる嘘な気がする。


「リョウ様。ご高名な魔法使いであると存じます。私たちのような者を助けていただき、ありがとうございます」


 そう言ってアランさんとハンナさんは頭を深く下げた。

 簡単に信じてしまったようで、逆にこちらが反応に困る。

 信じてもらえたのなら、よしとしておこう。


「様づけなんてやめてください。リョウでいいですから。困っている時はお互い様ですよ」


 二人はようやく笑顔を見せる。


「薬は暗くなる前にあげてくださいね」


 ハンナさんは迷うことなく子供に薬を飲ませていた。

 謎の薬だが、魔法がある世界のもの。効果はありそうだ。



 日が沈み、夜が訪れる。

 火もなければ明かりもない。


 真っ暗な中、俺たちは布に包まり眠りについた。

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