04話 訪問者①
朝になり、目覚めた俺は行動を開始する。
昨日と変わらないあばら屋の中。隣りでは、ウルがふさふさの尻尾を左右に動かしている。
これは夢ではない。
もはや現実として受け入れるしかなかった。
起きてから真っ先にタブレットを確認すると、昨日と変わったことがあった。
この世界に来て二日目。昨日は残り325ptだったものが、朝起きれば327ptになっていた。
1日過ごすごとに1ポイント増えていくのだろうか。
そうであることを願うばかりだ。
1日1ポイント増えるなら、10日もすれば一人の食料分は確保できる。
そう、一人分だ。
俺の周りを子犬のように走り回るウルがいる。
召喚した魔物とはいえ、ウルも生きている。水も食料も必要だった。
餌入れと水入れに各3pt、食料に生肉2ptを交換した。
肉は謎生肉という名称だった。カップラーメンに入っているやつだろうか。
ウルはうまそうに喜び食べていた。
その内に火を使えるようになれば焼いて食べてみようと思う。
朝ごはんとしてリンゴを食べた俺は、クワを担ぐと外に出た。
「ウル! あまり離れるんじゃないぞ!」
「わふっ!」
「よし、いい返事だ」
ウルが俺の周りを飛び跳ねるように走り回っている。
太陽の光りが注ぐ明るいもとで見ると、やはり犬とは違う毛並みだった。
少し太い銀色に輝く毛色。端整な顔つき。目だけはくりくりとして大きく、かわいらしいものだ。
何にでも興味がある様子で、雑草の匂いを嗅いだり、掘り起こした土に穴を掘って鼻を突っ込んだり、とにかく忙しそうにしている。
そこだけ見れば子犬がはしゃいでいるようにしか思えない。
そんな様子を微笑ましく見つつ、クワを高く持ち上げて一気に振り下ろす。
ジャっと音を立て、クワ先が土の中にめり込んだ。
今は畑を作っている最中だ。
森に入れば食べられるものが見つかるかもしれないが、先に畑を作ることを優先することにした。
このままではポイントも尽きてしまうのだから、食料の確保が急務となる。
時間をかければ狼に襲われてしまうかもしれない。
一心不乱に俺はクワを振るい続けた。
「とりあえず、これで完成だ!」
額から滲む汗をぬぐう。
素人仕事にしては満足な出来に俺は頷いた。
種は各10粒の4種類。種類ごとにわけるため、畑は四畝作った。
指先で小さな穴を開けて種を落とし込み、上から土をかけていく。
植える時期などわからない。土の状態もわからない。
あれだけ多くの品がありながら肥料は見当たらなかったため、肥料なしでの育成となる。
どれかの種は無事に育ってくれることを祈るしかない。
水桶に水を溜め、ひしゃくで畑に撒いていく。
作業が終わり、俺とウルはあばら屋に戻った。
辺りの探索に出たい気持ちはあるが、いくら武器を持っていようともあの狼に勝てる気はしない。
ポイントが増えるのを待つべきだと、今は耐えることにした。
雑草で作った猫じゃらし的なオモチャでウルと遊ぶ。
ここには娯楽的なものが何もない。
遊ぼうと思えばポイントで何か交換すればいいが、現状での無駄遣いにはためらいしかない。
できることもなく、ひたすらウルと遊んで過ごした。
家の隙間から、赤みを帯びた光が入る。
たっぷりと遊んだウルは俺の横で丸まって小さな寝息を立てている。
小さな動物はかわいいものだ。俺はじっと寝顔を見ていた。
寝ていたウルが急に体を起こし、入口の方向を見つめて耳をぴんと立てる。
「どうした? もしかして……」
タブレットの画面に目をやると、ダンジョンの項目が赤い枠線に変わっていた。
範囲内に侵入者有りだ。
「まじかよ……」
マップを開くとそこには赤い点が重なって三つ。しかもその点は平地を通り、まっすぐこの家を目指している。
俺は立ち上がってスコップを手に取ると、扉に近づいた。
少しだけ扉を開けて外を窺う。
「狼じゃない……」
こちらに向かってくるのは人影だった。
人間だ。
若く見える男女。男が武器に長い棒を持ち、女が子供を背負っている。
髪の色は夕日に染まりよくわからないが、顔立ちは外国人のように彫りが深く見える。
「これ、どうしたらいいんだ?」
魔法のようなものが使えることから、ここは地球とは別の場所だと思っている。
そうなれば言葉が違うのは間違いない。
俺は日本語以外はまったく駄目だ。仮に英語を話せたところで通じないだろうが。
かといって、このままにしてもおけない。
スコップの柄を強く握りしめ、俺は扉を開けた。
100メートルほど先にいる人間と対峙する。
「そ、そこで止まれ!」
俺の後ろでウルもウゥーと唸る。小さな鳴き声だが心強い。
二人の人間が歩みを止めた。
言葉が通じているわけではないだろう。
突然知らない言葉を投げかけられれば、ほとんどの人が立ち止まると思う。
「ここへ何をしに来た!? なんの用だ!」
極力争いごとは避けたい。
スコップを後ろに隠すようにして声をかける。
男が口を開いた。
「突然のこと、申し訳ありません! 一晩だけでも休ませてもらえないでしょうか!?」
相手から見えているかわからないが、俺はひどく呆けた顔をしていただろう。
予想外に返ってきた言葉は日本語そのものだった。
「すみませんが、お断りさせていただきます!」
ボロボロのマントに麻のような服をまとった男女。
それを見れば、やはりここは地球でなさそうだ。
こっちはジャージ姿の異世界人だ。
この世界のことを何も知らないのに、現地の人と関わるのは問題があるように思えた。
「そこをどうか! 娘が体調を崩してしまい、休ませてあげたいのです」
言われてみれば、母親らしき人物が背負っている子供はぐったりとしているように見えた。
男は「どうか、どうか」と懇願するように何度も言う。
俺の心は揺らいだ。
見ず知らずの人を泊めるのには抵抗がある。
その言葉からは丁寧なものを感じるし、困っている人は助けたいという気持ちもある。
だが、ここは日本ではない。
寝首をかかれる可能性だって十分にある。
しかし言葉が通じるのであれば、この世界の情報を得ることもできるだろう。
子供の前で悪いことはしない。
ポジティブに考えるのだと思い直し、俺はこの人たちを信じることにした。




