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03話 初めての召喚

「まぶしっ!」


 俺は目を覚まし、手で光を遮った。

 隙間から入ってきた太陽の光りが顔に当たっていたようだ。


 目を見開き、周りを見渡して言葉を失った。


 足が震えてうまく立てない。

 壁に身を寄りかからせながら立ち上がる。

 ふらふらとした足取りで、そのまま家の外へと出た。


 朝日に照らされた森。

 遠くでは鳥たちのさえずりが聞こえてくる。


「まじかよ……」


 寝て起きれば、すべてが元に戻っているとばかり考えていたのに、目の前には昨日と同じ景色が広がっていた。


 ――これは夢でなく現実。


 本格的にやばい状況だと思い、飛び込むように家の中へと駆け込んだ。

 慌てて寝床の近くに置いていたタブレットを拾い上げる。


「何か説明はないのか!? 説明は!?」


 もし、これが現実ならば、誰かが俺にやらせていることだ。

 そうでなければ、こんなタブレットやコアを持たせるわけがない。

 ダンジョンを作らせるために、誰かが俺をここに呼んだのだ。


 タブレットが起動し、昨日はなかったものに目が行く。


「1回限定無料魔物召喚……」


 まるでソーシャルゲームのガチャだ。

 とりあえず無視して、何か情報を得られないか探す。


 設定集や用語説明なんかはあってもおかしくない。

 画面の隅から隅まで、つぶさに確認していく。

 ひたすらに、色んな場所をタップして隠しページ的なものがないかもチェックした。


「何かないのか? 何か……」



 数十分後、俺は壁にもたれかかって項垂れていた。

 昨日散々目を通したのだ。欲しい情報は見つからなかった。

 欲しい情報はなかったが、無料魔物召喚の他に変わってるものを二つ発見した。


 ひとつはダンジョンの項目が増えていた。

 ダンジョン範囲を決める時に、ダンジョン生成を決定したことで増えたのだろう。

 ダンジョン名は空欄になっているが、大上 亮(おおがみ りょう)とマスター名に記載されていた。

 もちろんこれは俺の名前だ。

 それからドットの地図が追加されていた。


 それからもうひとつ変わっていたこと。

 それはポイントだ。

 靴に20pt、家に500pt、布団代わりの布に20pt。合計540pt使い、昨日の残りは460ptだったはずだ。

 それが461ptになっていた。


「これはもしかして、1日に1pt増えるってことか?」


 明日になれば結果はわかるだろうが、ここは狼がうろつく土地で、いつ咬み殺されてもおかしくない。

 安全に暮らせていた日本とは違う。

 死んでしまえばどうなるのだろうか。

 死んで気づけば実家にいた、なんてことはないだろう。


 ごくりと固唾を飲んだ。


 唾が喉で引っかかる。

 体が干からびたように水を欲していた。


「喉が渇いたし、腹も減ったな……」


 もう一日ほど何も口にしていない。

 喉がカラカラに乾いているし、食べてないことに気がつけば、空腹感に襲われる。


 これからどうしたらいいのか。

 とりあえず、生活ができる環境にしていかなければならない。

 まずは食料と水の確保だ。


 周囲を窺いながらタブレットを持って家から出た。


「水……はいいけど、どうやって出るんだろう?」


 昨日調べていた際、雑貨/その他の中に水があるのを確認してた。

 水は無料で0ptだ。

 地下水なのか、カルキが入った水なのか、軟水なのか硬水なのか。まったく何も記載がなく『水』とだけ表記されている。


 そんなの気にしてもいられない。

 もともと0ptなのだ。交換して飲んでみなければわからない。

 水の項目を選び『はい』のボタンを押した。


 ボタンを押すと目の前に拳大の水の塊が現れ、バシャっと地面に落ちて土を濡らした。


「そうやって出るのかよ……」


 今は左手でタブレットを持ち、右手で操作しているのだ。

 水には間違いないが出方が酷い。


 もう一度水を交換し、すぐさま右手で水の塊をすくう。

 もちろんすべてはすくえず、手の平には少しだけ溜まった水。


「これっぽっちか……。これからずっとこの生活だったら、これを飲まなきゃ無理だしな」


 鼻に近づけ、臭いを嗅いでみる。

 臭いはなく無臭だ。

 舌先をちょっとだけ水につけて味を確かめてみる。腐ってもいないようだし、本当にただの水のようだ。

 舐めるように水を飲んだ。


 それにしても水を飲むのに効率が悪すぎる。


「これは仕方ないか……」


 コップを5ptで交換し、水の落ちてきた場所に置く。

 水を選択すると、コップに向かって水の塊が落ちた。


 零れはしたものの、コップの中には欲していた水がなみなみと入っている。

 コップを手に取り、傾けて一気に呷った。

 少し冷たい水が喉を通り、乾きが癒える。


「水ごときでこんなに嬉しいものなんて」


 無料だからと、何度もコップに水を注いでは喉を潤した。


 家の中に戻り、今度はリンゴを交換する。リンゴ2個で4ptだ。

 リンゴは水のように空中には出ず、土間にごろんと転がった。


 壁を背もたれに座り、しゃりしゃりとリンゴをかじりつつ、タブレットに目を通す。


 帰還の項目は交換の数値が見えない。まだロックされているということだろう。

 帰りたければ、ダンジョンでポイントを稼げということだろうか。

 他にもまだ条件があるかもしれないが。


 画面右上の持ちポイントを見る。

 確定ではないが1日1pt増えるようだ。

 微々たる数値。

 今のままでは食料に一日10ptほど使ってしまうため、このままだと確実にポイントが尽きてしまう。


「畑を作る必要があるか」


 まずは生活の基盤を作る必要がある。

 俺はその他の項目から、何が必要かを考えて選択していった。


 鉄のクワ30pt、鉄のスコップ30pt、水桶とひしゃく25pt。

 それにナスの種、トマトの種、キュウリの種、イモの種を計40ptで交換した。


 目の前には交換した道具と種が転がっている。

 農具と種で合計125ptを使用。残りは327ptとなった。

 並ぶ品を見る限り、ポイントは日本円換算で1ptが100円程度の価値だろう。

 昨日は1000ptあったのが、翌日には三分の一以下。痛い出費であるがやむを得ない。


 転がっている種を拾い集める。

 種イモから作るものだとばかり思っていたが、イモも種だった。

 農家の子供ながら、育て方、病気や種まき時期、土壌についてと農業に関する知識はほとんどない。

 試行錯誤でやっていくしかない。


 他に必要なものがないか再度チェックするために画面を見ると、ダンジョンの項目が赤い枠線になっていた。


「なんだこれ?」


 ダンジョン項目を押すとマップが開く。

 目測の距離だが、木を中心とした500メートル四方くらいがダンジョンとしての範囲なのだろう。

 その範囲の端に、二つの赤い点が動いている。


 思い当たるものがあり、俺はさっと入口扉に近づいて、少しだけ開けた隙間から外を窺う。

 動く赤い点は、ちょうど入口から見える方向だ。


「昨日のやつらか……?」


 視線の200メートルほど先、大きな狼が二匹連れ添って歩いている。


「畑は後からだな」


 あんなのに襲われてしまえば、とてもこの家では持ちそうにない。

 体当たりでもされると、こんな薄い木の壁は簡単に割られてしまう。


 赤い点が範囲外に出たようで、ふっと消えた。

 ダンジョン範囲内にいる生物は、赤点で表示されるのだろう。

 このことを知れたのは幸運だと言わざるを得ない。


 スコップを手に取った俺は注意深く辺りを見回しながら外へと出る。

 もちろん、タブレットでダンジョンマップを確認しながらだ。


 まず先に防衛強化が急務だと、森から木の枝を集めては家の周りに積み上げていく。

 心もとないがバリケードの代わりだ。

 額に汗を垂らしながら、俺は家と森とを何度も往復した。



 終わった頃には日が傾いていた。

 マップを確認しつつの作業は難航したが、なんとか形にはなったと思う。

 家の周りには、腰ほどの高さまで枝が積み上げられていた。


「それにしても疲れた……」


 数時間、緊張感を保ったままの作業。精神的、肉体的な疲労感が体を襲う。

 噴き出した汗で、服が体に張り付き気持ち悪い。


 コップに水を入れ、家に入る。

 水を飲み、抜けた水分を補給しつつ壁にもたれかかって座った。

 交換したリンゴをかじりながらタブレットの画面を見る。


 窓もない家の中は薄暗く、タブレットの光りだけが周囲を照らしていた。


「なんでこんなことになっているのだろう……」


 突然、まったく知らない場所にただ一人、放り出された状況。

 孤独、不安、野生動物に対する恐怖。様々な思いが頭を過る。

 胸が締め付けられる思いで、涙が出そうになる。


「そういえば!」


 タブレットの画面には、まだ無料魔物召喚の項目が出ている。

 出現内容までは載っておらず、何が出てくるのかがわからない。

 これを作ったやつに、クソゲーだと言ってやりたい気分だ。

 だが今の状況であれば、自分を守ってくれそうな魔物は是非とも欲しいところ。

 もちろん不安はあるが、呼び出した者が攻撃されることはないだろう。


 そっと指を伸ばして、召喚の項目を押した。


 一瞬、部屋の中が光る。

 無事に召喚できたらしい。

 暗くてよく見えず、タブレットの明かりをその方向に向けた。

 小さな獣がちょこんと座っていた。


「犬……? しかも子犬か……。いや、犬とはちょっと顔が違うな。もしかして狼か?」


 犬でいえば生後二、三ヵ月といったような小さな狼だ。

 毛がもふもふの獣がきょとんとした顔でこちらを見つめていた。


 俺は手を伸ばす。


「おいで」


 小さな狼はよろよろと立ち上がり、出した手に近寄ると、ふんふんと匂いを嗅いでいる。

 舌をぺろっと出して、指先を舐めた。

 タブレットを脇に置き、その狼を両手で抱きかかえた。


「お前は温かいな」


 抱かれ慣れていないためか、しばらく暴れていたが、俺に身を任せるかのように静かになった。

 頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。


「名前つけてやんないとな。何がいいだろう。狼……だから、ウルでどうだ?」

「わふっ!」


 気に入ったのかどうかはわからないが、反応は悪くないようだ。


 こうして、新たな相棒ができた。

 不安に押しつぶされそうになる中、俺はウルをぎゅっと抱きしめて眠りについた。

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