星を釣る人
6600万年前、地球にぶつかった小惑星もしくは彗星のかけらにより、恐竜は絶滅したそうです。同じようなことが起これば、再び地球は滅亡の危機を迎えるのかもしれませんね。
地球の滅亡を回避するために、また、一年の多幸を祈りながら、星を釣る人たちがいるそうです。
たくさんの星が流れる夜です。
たくさんの流れる星は、「流星群」と呼ばれます。
夜の海岸では、流れる星を釣る人が、五人揃いました。
「ではみなさん、よろしいですか」
五人の前には、長く白い髭のご老人が立っています。
「皆さんは、今年の大陸の代表です。それぞれの大陸の幸運は、皆さんの釣り上げにかかっています。頑張ってください」
ご老人がそう言うと同時に、早くも海の向こう、星が一つ流れました。
皆、星釣り用の長い竿を持ち、夜空を見つめます。
寄せては返す波の音以外、何も聞こえない夜です。
「あっ!」
中年とおぼしき釣り人が、声を上げます。
その人の釣り竿の先には、金平糖ほどの大きさの、星が付いていました。
「おめでとうございます! これであなたの大陸は、戦から守られます」
ご老人は、中年の人が釣った星を見つめて言いました。
「……ふむ。ただし、ちょっと小ぶりな星なので、幸運度も少ないですね。各国の首脳に、よく言い聞かせてください」
「おお!」
女性の釣り人が、星を釣り上げたようです。
ホタルイカのような形で、青白く光っています。
「おめでとうございます! これであなたの大陸も、水害から守られます」
ご老人は先ほどと同じように、女性が釣った星を見つめます。
「……ほお。青い光は知性の証。教育に、もっと力を入れるように、各国に連絡してください」
そうして、釣り人たちは次々と、星を釣っていきます。
そろそろ、流星群が消えかかる時間がやってきます。
まだ。
釣れていない人がひとり。
いずれかの大陸の代表で、一番若い男性です。
ご老人は男性の肩をぽんっと叩きます。
「力を抜いていきましょう。あなたの大陸のすべての人たちが、幸せになるよう思い浮かべてごらんなさい」
赤い頬の男性は、こくこくと頷きました。
みんなが幸せでありますように。
この地球すべてが、美しいままでありますように!
夜空は静かに呼吸します。
「ああっ!」
男性は釣り竿を思いきり握ります。
釣り竿は、がくんがくんと引っ張られています。
男性の腰を、腕を、他の大陸の釣り人達が支えます。
「よいしょ! よいしょ!」
がくんがくん。
「よいしょ! よいしょ!」
がくんがくん。
「やったああ!」
ようやく釣れた竿の先には、バレーボールよりも二回り大きい、丸い星が付いていました。
「これは! 素晴らしい! よくやりましたね。
この星は、あなたの大陸に、降るはずだった隕石ですよ」
若い男性は思わず、片手を空に突き出しました。
一緒に釣りしていた人たちも、バンザイをしています。
ご老人は言いました。
「これで、今年の星釣りは終了します。皆さん、仲良くお過ごしください」
ご老人は、すうっと、夜空に消えていきました。
それを合図に釣り人たちも、それぞれの地に帰ります。
釣り人たちの背中には、白い羽が生えました。
帰っていくその姿は、まるで天使のようでした。
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