第八章
あきゃきゃきゃきゃ
今朝、のぶくんのお家に行ってみた。
もう15年近く会ってないのに、もしまだ『のぶくん』って呼んでるの知ってたら、のぶくん怒るのかな?
というか、まだ私のこと覚えてるのかな…
あ、でもおばさんは私のことずっと覚えてているみたい。この前外ですれ違ったら、おばさんの方から声かけてきた。久しぶりだから、色々聞かされた。
昔を思い出して、また以前みたいに一緒に両家で食事に行きたいって。
嬉しかったけど、のぶくんのことを聞いたら、顔が突然曇り始めた。そして息を吐きながらのぶくんの近況を簡単に話してくれた。
のぶくん……
のぶくんは私にとってかけがえのない友達だし、ヒーローでもある。
引っ越した後も、辛くなった時、周りにいじめられた時、いつもあの日ののぶくん姿を思い出す。
結局あれ以来ずっと会えなかったけど、たとえ私が助けを呼んだ時にのぶくんが現れなかったとしても、あの姿は私を強くしてくれた。
だから、力になりたい。のぶくんの役に立ちたい。
そう思って、家訪ねていいかって、私はおばさんに聞いた。
おばさんは困りそうな顔しつつ、何とかOK出してくれた。
それが今朝に至る経緯。
私が訪ねていた時、のぶくんはまだ寝ているらしい。
正直、ちょっとがっかり。もし顔見れたらと思って、メイクもしてきたのに。あまり認めたくないが、久しぶりだから、今の顔を想像しつつドキドキしていた私がバカみたいだった。次に行く時は午後とかにした方がいいのかな…?
そして私は座っておばさんと色々話せた。のぶくんに関しても詳しく、ここ数年のことを聞けた。おばさんも外ではあまり喋りたくないみたいだけど、多分ずっと誰かに聞いて欲しかった。最初は冷たい表情で他人ごとのように話していたが、それも次第に苦しそうになって、加えてため息もし始めた。
……なんか、大変だったね、のぶくん。
私にできることあるのかって話を聞きながら考えていた。その時にもう一つの情報がおばさんの口から洩れた。
ここ一年間は部屋にいる時、『こばなちゃん』という人の配信をよく見るらしい。
一般民家の防音はそこまでよくないから(とはいえ私も普段一人で暮らしているから助かったけど)、パソコン本体のスピーカーで流すとどうしても音は漏れる。それだけではない、時々のぶくんの独り言でもよく「こばなちゃん可愛い」とか言ってたみたい。
この事を聞いた時、私の脳内で『カターン!』という音が響いた。
まさか現実でリスナーさんとの距離がこんなにも近いとは思わなかったし、よりにもよってそれがのぶくんなんて……
もし運命の神様がいたら、それはきっと悪戯が好きな性格で違いない。
でも、私がその「こばな」であることはおばさんには教えてはいない。教えたらもっとややこしいことになると何となく勘付いた。
のぶくんは知ってて見てるのかな?それともただの偶然か?さすがに私の声などは覚えていないと思う。この件に関しても、まだ考える時間が必要だ。
その後も暫くおばさんとお喋りしていたが、のぶくんは一向も起きる気配がないから、今日は諦めようと思って大人しく退去。
帰り道でも、ずっと思考を巡らせていた。
もし私がのぶくんの役に立てたら、もし小花がのぶくんの役に立てたら。
私が社会復帰を目指しているように、のぶくんにも元気づけて、一緒に頑張ればいいじゃないかって。
でもそしたら、『秋野小花』はどうすればいいの?『秋野小花』としての私はどうすればいいの?
のぶくんだってリスナーだし、一人にだけ明かして大丈夫なの?たとえそのことが他のリスナーさんが知らなくとも、私の中ではちゃんと容認できるの?
……色々考えたが、答えが出ない。
何となく歩いてたら、もう家の玄関前に着いた。
答えは出なかったが、思い付いたことなら一つある。
それはもしかしたら、自分とリスナーの距離感を壊すハメになりかねないが、のぶくんの心に踏み込むために、やらなきゃいけないと思った。
リスナーからのぶくんを特定しよう、私たちしかしらないことで。うまく行けば、のぶくんは自ら声かけてくれるかもしれない。
そうと思えば、準備をしないと。
私から、踏み出さなきゃ。
おぎゃぎゃぎゃぎゃ
作者ツイッター:https://twitter.com/OlympusTarbot
無関係つぶやき:沙花叉そ可愛い