第二章
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「樋山!お前何でこんなもん作ったんだ!」
僕は怖くて目線を部長の顔から逸らす。
「でも部長も先日OK出したでは…」
「いつそんなOK出したんだ。ダメじゃないか、嘘を言って。俺はそんなものにOK出すわけね゛ーだろ?!」
いつもこうなんだ、この人。
自分の言い出したことなのに、都合が悪かったら全て否定してくる。
「まぁいいから作り直せ。」
「……」
「お前、同期見てみろ。皆おめぇよりは出来ている。」
「……」
「てめぇなんざ他の会社行こうとしてもどこも要らねぇんだよ。うちだけだからな、感謝しろ。」
……
轟く叫び声、響く台パンの音。僕は鬱憤の中から目を覚ます。
悪い夢を見た。昔の夢だ。
まだちゃんと働いてた頃のこと。
出張の予算を全部事前でこまめに計算しても、結局自腹で行かされることは多々あった。
何か不満があったらすぐ子供みたいに音量を上げるし。
あの人、他人を貶し、自分のありがたみを誇示したかっただろう。
そんな人でも、退職と言い出したら、「おい、どうした。何か職場に不満あったのか?」「あれはあんたのためで言ってるんだよ」とか優しく振る舞おうとする。
多分脳内では自分は優しい上司だと格付けしているのだろう。一体どんな教育を受け、どんな子供時代を送ってきたら、こんな都合のいい脳味噌になるんだ、解せない。
目が覚めても、しばらくはそのまま寝転んでいた。
できるだけ嫌な夢の残留を、脳内から消し去ろうとした。
スマホを見る、11時14分。6時間しか寝てなかった。
外はとっくに晴れ渡っているが、紺色のカーテンを突き刺すことはどうやらお日様にもできなかったみたい。
僕がカーテンを開けない限り、この部屋はずっと夜のまま。
その暗さには安心する。
「…」
スマホを弄り出す。
小花ちゃんの新しいツイット、二次画像、昔の放送の切り抜きを見る。それが僕の日課。僕の一日はツイッターとyoutube動画で始まり、ツイッターとyoutube動画で終わる。
それを1時間2時間くらい見るのは常。むしろそれをせずに人生送れる気がしない。ニートの日常はいつも閑でありながら、ストレスに挟まれている。
幸い、時間だけはたっぷりある。起きれる気分になるまでスマホを弄ればいい。
うちのババアも昔は小言を言っていたが、今となってはすっかり諦めている。
だから起こしにくることも、飯で呼びにくることもなくなった。おかげで自由に寝て起きれる。
「ふ…」
今日も小花ちゃんの魔法のおかげで、やる気出てきた。一日何もしない人間だけど。
ようやく起きれる。
いくらニートと言っても、流石に部屋を半歩も出ずカビみたいに生えているわけではない。歯磨きはするし、家族との会話も…うぅ、極たま~にする。
ババアは僕を健常な人間に戻すの諦めたけど、別に僕という息子を産まれなかったことにはしていないみたい。
…ジジイは半ばそうしてるけど。
今考えれば無理もないことだ。ジジイは何かあったらすぐ正論を突き付けて来るし、僕も何か言われたらすぐ怒る。
…一体何が間違ってんだろう……
でもせっかく気分を回復したし、今はそんなことを考えるべきではない。
「おお、今日は随分起きるの早いじゃん。」
ババアはババアでそれなりに意地張っている、いつもみたいに冷やかしに来る。
「うう…せっかくだし、昼飯は外で食うわ。」
「ああ、じゃあ今作る。」
「適当でいいわ。」
「豪華なもん出す気元々ないよ。」
どれだけ喧嘩しただろう。今はお互い折り合いを付けて、痛い所に突かない言葉を選んでいる。
『カチッ。パシャ!パンパン』
厨房のざわつきを無視し、僕は今立っているリビングを見渡す。
日の当たりのいい所だ。暖かさに溢れるこの場所は、子供の時から見慣れていた。
ジジイはいつものように仕事に行ってる。この歳でよく頑張るなーって考えたら、それもそうか。
こんな息子じゃなきゃ、今二人は年金で老後生活を楽しめたのに。
笑える。
笑えないが、笑える。
「ほらよっ。」
野菜と卵を炒めた物が目の前に出された。
どんな感傷もババアの飯の前では無力だ。そう思えるうちに、どうやらニートで鬱病になって自殺するという結末は、まだ僕からは遠いみたいだ。
「炊飯器にご飯あるよ。」
「おぉ…」
ババアは僕の顔を覗き込む。
「後で干した服を畳むの手伝ってくれ。買い出しもあってあたしゃちょい忙しくってよ。」
「ああ、午後はちょっと時間あるからな、分かった。」ご飯を貪る最中、僕はさり気なく答える。
「ハァ…」ババアも椅子に座って、天井を眺めながらため息を吐く。
そしてまたこっちに目をやる。
「昔お隣の出川さん、」
「?」
何を言い出すのかと思って、僕も視線をババアに向ける。
「まだ覚えてる?」
「……
んんん…ちょっとだけ」
「またこの付近に引っ越して来たんだって。近所から聞いた。」
「ほお」
「あそこの娘さん、昔よく一緒に遊んでたじゃん。」
「…流石にそこまでは覚えていないよぉ。」
「場所分かったら挨拶しに行こうと思って。」
「僕は行かないよ。無理だよ。」
近所に息子を公開処刑させる気か。
「ああ、わかってるよ。言ってみるだけさ。」
もぐもぐ、僕の口は咀嚼を止めなかった。
「…ああ、もう」
そしてババアは、また天井を眺め始めた。
約束通り、夜に第二章更新!
勤勉な自分に拍手!ぱちぱちぱち。
明日第三章をアップする予定!(夜かも)