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記憶の魔女  作者: 如月蓮花
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CASE2春川美樹

朝、赤いリボンをした一羽のカラスがクーニャの自宅に向かっていた。

カラスの口には手紙が咥えられている。

窓枠に止まり、足でノックするとレイが窓を開けた。

「レイ、これクーニャ様に届けてくれる?」

レイを見ると、カラスは流暢に話し始めた。

彼女がそれに驚く事はなく、

「わかりました。いつもありがとうございます、ハナさん。」

と、慣れた様子でカラスに話しかけ手紙を受け取った。

カラスのハナはクーニャの使い魔で、普段は主人の暮らす町のカラスのリーダーをしているが、何かあった時や主人からの呼び出しにはキッチリ応える優秀なカラスだ。

ちなみに好物は牛肉で、いつも仕事の報酬として要求する。

「今日も牛肉お願いね〜!」

ハナは返事も聞かずに飛び立った。

「クーニャ様にお伝えしておきますー!!」

レイが彼女の背中に向けて叫ぶと返事の代わりに「カァー」と返ってきた。

レイはその手紙を持ってクーニャの所に行く。

途中で封も切って開け、軽く確認した。

「クーニャ様、また依頼が来ました。」

部屋のドアの前でノックをしながら伝えると、眠そうな声とアクビのセットで「今行く…。」と一言。

「クーニャ様のお好きなホイップたっぷりのパンケーキとホットココアをご用意しております。早くいらっしゃらないと、パンケーキのホイップが溶けてしまいますよ!」

二度寝しがちなクーニャに効果抜群の一言。

布団から勢いよく出る音が聞こえ、着替えと髪のセットを一分足らずで完了し、部屋から出てきた。

まだ彼女の銀色の髪から魔法のカケラがキラキラと光っている。

「おはようございます、クーニャ様。」

「おはよう、レイ。ホイップはまだ溶けてないだろうね?」

レイは少し呆れた顔をして、手紙を渡した。

「ホイップは大丈夫です。それと、依頼のお手紙が来てます。さっきハナさんが届けてくださったのですよ。」

リビングルームに向いながらクーニャは依頼の内容を確認する。

「依頼主は春川美樹(はるかわみき)16歳。親友と大喧嘩直後に親友が事故死。また日本か…。」

大きなため息をつきながら朝食をとる。

その様子をレイは心配そうに見ていた。

朝食の後は準備をしてまた日本へと飛んだ。


淡い水色で統一された部屋のベッドに少女は寝転び、ただ何時間も虚空を見つめていた。

部屋には写真立てがいくつかあるが、全部が伏せられていた。

部屋の中心にはローテーブルがあり、そのローテーブルに陣が描かれ、クーニャとレイが降り立つ。

「え、誰?」

少女は首だけを二人に向けて問う。

二人はローテーブルから下りる。

「私は記憶の魔女クーニャ。」

「私は記憶の魔女の従者、レイと申します。」

二人の自己紹介を聞いて少女は体を起こし、ベッドに座った。

「私は春川美樹、高一です。」

小さく、二人にかろうじて聞こえるような声だ。

クーニャは少し近づくと少女と同じ目線に屈む。

「さっそくで悪いけど、詳しい話を聞かせてもらえるかい?」

と、優しい声と柔らかな表情で言う。

少女は頷いて話し始めた。


私と友紀(ゆき)は中学に入ってすぐの頃から席が近くて、趣味も一緒で、気付けば部活も、体育祭も、文化祭も、修学旅行だってずっと一緒だった。

高校に一緒に受かった時、抱き合って泣きながら喜んだっけ。

でも、高校に入ってからも私達は同じ部活に入って、ずっと一緒って思ってた。

だからかな?好きな人まで一緒だったんだ。

部活の先輩で、落ち着いた感じの人で、いつもみんなを気にかけて、いつも的確なアドバイスをくれる先輩だった。

私も友紀も、先輩の好きなタイプを探ってみたり、おしゃれも頑張った。

そして私達は、一緒に告白した。

結果は友紀が選ばれた。

悔しくて悔しくて、その日は帰って一晩中泣いた。

翌日から、友紀は変わった。

私に対して何かとマウントを取ってくるようになった。

何日も何日も何日も何日も!!

私はもう我慢の限界で、学校帰りの交差点で友紀に何でそんなことするのか問い詰めたら、

「私、美樹の事ライバルとしか思ってなかったし、やっとライバルを蹴落とせたんだもの、私の方が上だって見せつけて当然でしょう?友達?私は美樹の事友達だなんて思った事一度もない。わかったら今から私に話しかけないで。」

って言われて、私、すごくみじめで、悲しくなって

「友紀なんて大キライ!!友紀なんて死んじゃえ!!」

言うだけ言って泣きながら逃げるように走って帰った。

その後しばらくして、友紀のお母さんから、友紀が事故で亡くなったって聞かされた。

後から聞いた話だけど、先輩には裏の顔があって、とんでもない暴力男だった。

だから友紀は私を近づけさせない為に、わざと嫌われてたって知ったの。

あの日も、私が走って帰ったあと、しばらくあの場所で泣いてたところに、居眠り運転のトラックが突っ込んできた。


「私、そんなつもりなかったのに、友紀にひどい事言っちゃった…私のせいで友紀が、友紀が!」

泣きじゃくり、嗚咽混じりで少女は語る。

レイが少女を抱きしめ、背中をさすっている。

「落ち着いてください。大丈夫です。ゆっくり呼吸してください。」

少女は目を閉じ、ゆっくりと深呼吸を始めた。

ある程度落ち着いたところで、クーニャは少女に告げる。

「今回の記憶消去には時間がかかる。だから美樹さんには眠ってもらう。」

クーニャは少女のおでこに手を当て、ゆっくりとベッドに寝かせる。

「安心して、次に目が覚めた時には全部楽になるから。」

クーニャが少女の瞼を閉ざし、彼女の手が光りだすと、少女は深い深い眠りについた。


翌日、少女は目を覚ますと視界がボーッとしていた。

なんだか体も怠く、喉も痛み、頭痛がひどい。

しばらくじっとしていると母が「美樹、ご飯食べられそう?」とお粥を持ってきた。

「ゆっくりでいいからね。」

母は少女の体を起こし、お粥を渡す。

少しずつ食べ始め、半分食べた所で母に満腹を伝えた。

その様子をクーニャは近くの家の屋根から見ている。

「心があれば選んだ記憶だけを抜くことができず、心が壊れていれば、選んだ記憶だけを抜き、書き換えられる。皮肉なものだね。心は人間の言動力なのにさ。」

朝焼けの空をぼんやり眺めながら、クーニャは抜き取った少女の記憶の玉を口に入れ、飴のように舐め始める。

口の中で溶ける度、少女の記憶が流れ込んでくる。

初めは抵抗があったが、今はもう何も思わない。

「藍、後悔と悲しみ、か…。」

しみじみと呟き、陣を描く。

「さあ帰ろう、レイが待ってる。」

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