♯3 カラクリ年賀状
今日は年賀状の日なので年賀状をテーマに書いてみました。
(誤字脱字や不可解な点もあるかもしれません…)
都内某所。
俺は数少ない友人に呼び出されテーブルを挟み座っていた。
友人の名は健。
金髪にピアス・・・いかにも陰キャとは言い難い男。
だがしかし、陰キャである。もう一度言う、陰キャである。
「俺をわざわざ呼び出して何の様だ?」
「実はさあ・・・」
彼の話をまとめると同じサークルに好きな人がいて年賀状を使って告白したいのだという。
ただどうすればいい感じになるかが分からないらしい。
その証拠に彼の手にはペン。そして傍に年賀状があった。
「ちなみに相手は?」
俺がそう聞くと微笑みながら健は俺と同じ高校を卒業した斎藤奏の名前をあげた。
高校を卒業して以来一度も聞いたことが無い名前だが進学先が同じだという事は以前から知っていた。
詰まるところ俺は彼女に関して大した情報を持っていない。
学校が同じだったという理由だけで俺を呼び出したのならとんだ無駄骨だと思った。
「ネットとかになんか模範的な書き方の一つや二つ落ちてるだろ…」
そう言ったが実際に調べてみると大した情報も無く、広まり切ってるネットの世界で某知恵袋すらヒットしなかった。
ネットの脆弱性を突つくこの金髪頭の中が気になって仕方がないものだが。
まあ、質問を投稿したとしてもこんなくだらない問に大した回答は期待できないだろう。
というか、健が既に確認済みでただコインだけが無情にも散っていったそうだ。
返信の内容は想像にお任せしろ、とまで健から言われた。
「ところで、、、何かいい情報でも見つかったか?」
やけにスマホを見つめていたので俺はつい疑問を投げかけた。
「いやいや、株のグラフ見てるんだ」
前髪をいじりながら僅かに下を向く様子は見た目と中身にそれ程の違いがあるかを物語っている。
「・・・お前、株なんてやってたのか?」
「おいおい、株なんてって失礼だなぁ。今の時代、株だって稼ぎ方の一つさ」
「・・・稼げてるのか?」
「大丈夫大丈夫、今日こそ一発当てれそうだから・・・今回はイケる!」
自慢気な顔を浮かべながらスマホを指で数回つつく仕草を取る。
表情はいかにも自分は時代の波に乗っている事をアピールする事に全力である。
だが、今日こそ、なんて言葉が出ている時点でコイツの勝率はいか程かなんて一瞬で分かる。
「それよりなにより、書くなんて言ってもどんなメッセージ送ればええかね?」
健の声には自分の事なのにも関わらずまるで他人事の様な雑な対応を取ってみせ俺は少しコイツのやる気を疑った。
「固くない文章でゆるく書けばいいじゃないか・・・素のお前らしく無理の無いように」
「そうか、俺らしさを出せばいいんだな」
「なるほどなるほど…」
大学に入って初めての冬。
クリスマスに(今のところ)予定の無い男がなけなしの金で買った紙切れ。
聖なる夜でも性なる夜でもない静なる夜になると(今のところ)言えよう。
自分も声を大にして言えたものでは無いが…。
そんな俺だが咄嗟にある事を閃いた。
「そうだ、お洒落に筆ペンなんかで書いてみるのはどうだ?」
そうして俺は筆ペンを持たせ試しに自分の名前を書かせてみた。
しかし言葉にできないほど絶望的な健の筆さばきに腰を抜かしかけた。
それからは元のペンで二人で一枚の年賀状を仕上げていきながら色々と一年を振り返った。
酒は無かったが中々に楽しめたし色んな話ができお互いを知り合えてより親睦を深めることができた。
俺に関する話が多かった気がしたがそれらをすべてを語るのはお預けにする。
ただ、今日もどうやら株で負けたようで目の前で大きなため息をつかれた。
結局、年賀状は住所以外はほぼ全て筆で比較的達筆な俺が筆で書くことになってしまったが。
内容は大した事無く、活字に浸っている俺たちにとってはどこか新鮮に感じられた。
「おお、いい感じじゃね?」
両手でその小さな便りを持ち口元を緩ませ高らかに掲げる。
その姿はまるで親からのプレゼントに喜ぶ子どもの様にも見えた。
これがクリスマスの前日の出来事、つまり彼が事故にあう前日の話だ。
連絡を受けた俺は直ぐに駆けつけた。
「おいおい、大丈夫なのか?」
某病院に担ぎ込まれた健は聞いたところによると自転車を運転中に電柱に激突したのだという。
足を骨折していたので足が吊り上げられた状態だった。
「まあ、なんとかな」
頭にまとわりついた包帯をさすって恥ずかしそうに微笑む。
パッと見ると大した事無いように見えた俺は胸をなでおろした。
それから事故の状況を聞くとあの後ポストに向かおうとした矢先に事故を起こしたそうだ。
なので健はまだ年賀状を出していないと思われた。
「今日が年賀状の締め日だから俺が変わりに出しといてやるよ。」
そう言いもって想いの詰まった便りを受け取り部屋を後にした。
無事に投函を済ませた俺は何か見舞いの品を買って行くのを忘れていた事にふと気づき近くのコンビニでスイーツの品定めをした。
適当なスイーツと午後だからという訳では無いが温かな紅茶を購入し病院へ戻った。
病院の受付を通り過ぎエレベーターに乗り目的の階で降り健の元に向かう道中見覚えのある女性に出会った。
「あれ、もしかして健くんの友達の・・・」
「あっ、そうです。前にお会いしましたよね」
俺は廊下で健のサークルの部長とばったり会った。
「今日は一人で来られたんですか?」
「いいや、大人数で来るのもアレだし、かと言って女一人で来るのもアレだから、斎藤さんにも同伴してもらった」
「えっ、奏さんも一緒に?」
「ああ…ってそんなに驚くことか?」
「いえいえ、別に・・・」
この時俺はけが人に対して羨ましさからくる負の感情を芽生えさせていた。
「でも、奏さんの姿が見えませんが・・・」
「お前、斎藤の事を下の名前で呼ぶって、もしかして・・・」
そう言うと俺の目の前で周囲に見えぬ様にそっと小指を立てた。
自分の意中の相手がお見舞いに来るなんて、しかもクリスマスの日に、そう思うと健に対して自動的に羨望の思いを禁じえなかった。
そして先輩に対しては誤解のない様に表だけ冷静に取り繕う事にした。
「いやいや、まさか・・・高校は同じでしたけど、卒業以来一度も会ってませんよ」
「へえー、じゃあ今彼女とかいないの?」
「…いたら、どうなんですか?」
「あっ、いないんだ・・・ふっふっ、コレコレ」
鼻で笑われた事を俺の耳は聞き逃さなかった。
そして再び小指をピンと立ててきた事にさらに俺の不快指数を上昇させた。
もはやその小指へし折ってやろうかとも思ったが何とか冷静さを保つのに精一杯だった。
「今笑いました?なんで笑ったんですか?」
濃縮還元した怒りをさらに薄めた怒りを込めて言い寄っていると奏さんが部屋から出てくるのが見えた。
同時にそれは俺の怒りを疑惑へと変えてしまった。
二人は一体部屋で何を話していたのか。
そちらの方に意識を持っていかれてしまった。
そうこう話をしているとこちらに顔を向ける事無く奏さんがやって来た。
久しぶりに会った彼女は以前と比べて大して変わっていなかった。
奏さんが来る事が分かると部長はサヨナラの挨拶をしてその場から去っていった。
この時、久しぶりなのにも関わらず俺とは一切目を合わせる事さえ無かった。
それから年が明けて直ぐに見知らぬ番号から俺に電話がかかって来た。
声の主は奏さんだった。
「私はいいですよ…」
何を言っているのか理解に苦しんだ。
「アレ、えっと、なっ何の事?」
この時の俺はどこか焦り出していた。
そこからしばらく彼女との会話をしていく内にある一つの結論にたどり着いた。
あの年賀状を通して告白したのは俺であるという結論に。
ありがとうございました。