#1
「テント立てたけど今からなにする?」
両手を焚き火の方へ伸ばし、暖を取りながら男子大学生が隣に座っている友人に話かける。
「魚釣り?それとも…マッチングアプリ?」
「こんな山奥で誰とマッチングするんだよ。家帰ってしろよ」
「えーっ、やってみなきゃわからんじゃん!もしかしたら良い人いるかもよ?」
「居るわけないよ…てかマジで暇だなぁ…スマホくらいしかないぞ…」
「山田ぁ、お前も暇ならやれよ…マッチングアプリ」
「お兄ちゃん達、暇なら僕達と遊んでよ」
声がする方へと二人が顔を向けるとそこには小学生くらいの子供が三人いた。 「おい子供がマッチングする機能とかあんのこれ?」
「無いだろそんなの…で君達は?」
彼らはどうやら三人兄弟らしく隣のテントで寝泊まりしている事が話しているうちにわかった。
「ねーねー鬼ごっこしよー」
兄弟の内の一人が斉藤の腕を引っ張り、おねだりする。
「おお、大賛成!鬼ごっこか…うーん」
そこから何かを考える様子を数秒程する。
「おし! なぁ山田ちょっとだけこいつらと遊んでやってくれ、俺行くとこあるから。頼むわ」
そう言い残すと斉藤は大急ぎでリュックを背負いキャンプ場の駐車場の方へとかけて行った。
「おい、斉藤!どこ行くんだよ!」
取り残された山田は一人子供達の相手をする。
相手は小学生だから軽く相手ができると思っていたが全くそうではなかった。
大学生になり3年目。
平日も休日も大した運動をしていない山田にとっては地獄であった。
「体力の衰え…半端…ねぇ」
白い息を吐きながら、己の体力の衰えを自覚する。
それから30分程して斉藤が帰ってこない事を気にしてテント前の机の上のスマホを手に取った瞬間ー。
「うおー、野生のシカだーー!」
男の子の声が聞こえる。
声がした方へ目をやると、そこには自分と同じくらいの体格をしたシカが男の子を見つめていた。
そしてシカの隣にはシカ、シカ、シカ、シカ…いわゆる数十頭ものシカの群れがいた。
その景色は山田にとってはとてつもないインパクト。
そして更にインパクトを与えたのが、男の子の前にいるシカの上に斉藤が乗っている事である。
「おお!山田!お待たせ!めっちゃマッチングしたわ」
「いや何とマッチングしてんだよ!」
「おし!じゃあシカと俺たちで鬼ごっこだ!」
「いや、しねーよー!!!」
山田の声が周囲に響き渡る。