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Alice...  作者: 離宮 愛琉
3/5

◆1/1*AM*11:30

鬱蒼とした森の中、そこに少し開けた場所があった。

日の光と共に降り注ぐ雨に打たれながら、そこに青年が立っていた。

深紅のシャツに黒のスーツを着崩したように身にまとい、紅い髪の間に猫の耳を生やしたその青年。切れ長の瞳に写るのは、横たわるもう一人の青年だった。

太陽の光りを写したような金色の髪を雨に濡らし、投げ出すような形で仰向けになっている彼は、木葉より降りかかった露を顔面に受け目を覚ました。

そうしてその蒼い瞳に捕らえた、目の前にいる青年に澄んだ低い声で問い掛ける。

「…お前、誰だ?」

問い掛けられた青年は、どこか含みを持った笑みを浮かべ、歌うような口調で逆に問い掛けた。

「君はただの物好きかい?それとも自分の事さえ分からない愚か者?」

その謎掛けのような言葉の意味をまるで理解できていない彼は、ただ自分を見下ろしている青年を見つめていた。

「……どうやら、後者のようだね。…アリス?」

「ア…リス?何の事だよ、俺は…?」

アリスと呼ばれた青年は言葉につまった。そして彼は勢いよく起き上がり、頭を抱えた。

そんな様子を見ていた青年は、クスクスと笑いながら話した。

「ほらね、君は何も分かっちゃいない…。愚かなアリスだ。」

その青年の言葉に、アリスは痺れを切らした。

「お前…なんなんだよ!!俺の事、何か知ってるのか!?」

アリスはかみ付くように言葉を吐いた。

そして、そんな彼を宥める事もなく、青年は言った。

「僕はチェシャ猫。お前の事なんて何も知らないし、知りたくもないね。でも、それがアリスとなったら話は別さ。」

「な…何の事だよ!!アリスって誰だよ!?」

そんなアリスの言葉に肩をすくめ、彼に対し背を向けたチェシャ猫は、辺りを見回しながら答える。

「アリスは残念ながら君みたいだよ。まぁ、『終わりのアリス』だけどね。君がいないとこの世界は成り立たないけど、君がいたってどうせ終わるしかない世界さ。さて…そろそろあいつが気付く頃かな?僕はもう消えるとしよう。」

チェシャ猫はそう言うと、足の方から徐々に姿を消していく。

「なっ…、お前!!」

「だからチェシャ猫だって…。あ、そうそう、優しい顔した奴には気をつけた方がいい、アリス…」

そうしてチェシャ猫が完全に消えた時、アリスの後ろから足音が近づいてきた。

そうして足音が止まり、低い声が響いた。

「君は…どこから来たんだ?」

振り返ると、そこには黒いえんび服に身を包んだ背の高い青年が立っていた。

彼は大きなシルクハットを目深に被り、表情は伺えないが、整った顔立ちをしている。

「どこ…って…ここはどこなんだよ!?」

その答えに青年は微笑んだ。

「ここをどこだか分かっていない…。それはいい。」

「は!?なにを…っ!?」

アリスは言いかけ、言葉を失った。

…青年の手に持たれた銃を見て。

森の中に轟音が響き渡り、弾丸がアリスのすぐ横を通過して行った。

「…白兎、まだ隠れているようなら遠慮なく撃ちますよ。」

まだ銃を構えたままの青年は森の中に向け、言葉を投げ掛けた。

そうして数秒の後、近くにあった木の影から人影が現れた。

「…なんだぁ、やっぱり気付いてたんだね、帽子屋?」

そう言って現れたのは10代半ばか、あるいはそれより下と思われる少年だった。

彼は白いシャツにカボチャパンツという出で立ちで、紅い瞳に銀の髪を携え、その頭に、白い兎の耳を生やしていた。

あどけない笑顔で自らが帽子屋と呼んだ青年に対し両手を上げた。

「…貴方の事は陛下から伺っています。妙な事、するもんじゃないですよ?」

「はーいはい!僕だって首は惜しいしね、大丈夫だって帽子屋!!ほら、銃下ろして?」

全く、と悪態をつきながらも帽子屋は銃を下ろした。

それを見た白兎と呼ばれた少年は跳ねるように帽子屋に近寄ってきた。

「ありがとう、帽子屋!でもねぇ…」

そう言いながら屈むような形で帽子屋の顔を覗き込んだ白兎は、一瞬だが大人びた笑顔を作り

「そんなに甘いと、僕より先に首が跳ぶよ?」

どこか鼻につくような言い方で言った。

その言葉を軽くかわし、帽子屋はシルクハットを被り直しながら答える。

「それはないかと思いますけどね?大体、彼女に私の首が落とせるとは思えませんが…」

「あはっ♪随分と自信たっぷりだね、帽子屋?」

「おいっ!!お前ら何なんだよ!?」

今まで事の成り行きを見ていたアリスは、突然声をあげた。

そんな彼を一瞥した白兎と帽子屋は互いに顔を見合わせた。

そうしてふっと表情を緩め、二人同時に、帽子屋は帽子を、白兎は手を胸の位置に当て、アリスへ向かい頭を下げた。

そうして顔を上げ、白兎が言う。

「ようこそ!不思議の国へ!!アリス?」

「城で陛下がお待ちです。どうぞ、迷わぬようついて来て下さいね?」


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