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「ねぇ……一夏……。」


「ん……。」


「え……?」

「あ……。」

「何これ……。」

 玲奈の手が膨らんでいる僕の股間部に触れてしまった。


 絶望だった。幸せな状況から一転し、まさに地獄。

 言葉を発しようと思っても何も出てこない。顔が真っ青になる。


 玲奈の方から感じる冷たい目線。


「どういうこと……?」

「ごめん……。」

 謝ることしかできなかった。


「男なの……?」

「ごめん……。実は。」

「そうなんだ……。」


 玲奈は冷静になったのかハッとして、自分の体を手で隠そうとする。

「見ないでくれる?」

「ごめん。」

「ちょっと服着てくるから。」

「うん……。」


 玲奈が着替えてる間は絶望の時間だった。僕はこれからどんな罵声を浴びせられるのだろうか。

 学校も終わりだろうなあ。それはしょうがないかな。自分の欲を全然我慢できなかった自分にしか非がないし。

 もっと上手にやれていたらな……。僕には後悔すらする権利はないかもしれないけど。


 服を着てきた玲奈が戻ってくる。

「説明して欲しいんだけど……。どういうこと?何でこの学校に居るの?」

「色々あって……。」

「説明できないの?」

「上手く説明できるか分からないけど……ここの学校の理事長と知り合いで頼まれて……。」

「理事長って羽月理事長?」

「うん……。」

「どういう関係なの?」

「実は僕のお祖父ちゃんで……。」

「え?!」

 何をそんなに驚いているんだろう……。僕的には驚くなら他の所だった気がするけど……。

「もしかしてなんだけど……。彩巴君なの……?」

「うん……。実は……。」

 コクリと頷く。


「その様子は私の事覚えてたの?」

「初日から気づいてた。それにしても理事長が僕のお祖父ちゃんってだけで、よく僕が彩巴って気づいたね……。」

「まあね……。それに彩巴君に似てるなって言うのは薄々思ってたことではあったから……。」

「そっか……。」


「色々騙しててごめん。」

「うん……。正直全然整理できてないけど……。ちょっと時間くれるかな。数日。」

「分かった……。」

 どうせ終わるならさっさと終わりたいけど、僕にそれを言う権利はない。これも罰なのかも。


 この日はまったく眠れなかった。自分を恨むことしかできなかった。








 全く寝れずに朝を迎える。

 玲奈の事は起こしてあげたほうがいいのだろうか。寝ているし起こさない訳にはいかないか。

 肩を軽く揺らして起こす。

「起きて。」

「え……?ああ……。おはよう……。」

「おはよう。起こしてごめん。一応朝だから……。」

 最初は僕の言ってる言葉の意味を出来てなさそうだったが、少し経つと理解できたみたいで少し警戒態勢に入っていた。

「起こしてくれてありがと……。着替えてくる。」

「うん……。」

 いつもと全然違う朝。気分が重い。この後どんな顔して皆に会ったものか……。

 いつも通り二人で食堂に向かう。この途中で大体二人と出会うはず。


「一夏ー!それに東雲さんもおはよっす!」

「お姉さまも東雲さんもおはよーございますー!」


 二人は相変わらず元気だ。

「おはよ。」

「二人ともおはよう。」


「なんか二人とも元気ないっすね?何かあったっすか?」

 僕は黙ってることしかできなかった。僕のせいで玲奈はひどい目にあってるのに、僕が何かあったなんて口が裂けても言えない。


「……。」

「一夏どうしたっすか?」

「ちょっと体調悪いみたい。」

「本当ですかお姉さま?!部屋で休んでた方がいいんじゃないですか?」

「大丈夫だよ。」

「何かあったら言ってくださいっす。東雲さんも。」

「ええ。分かったわ。ありがと。」


 食事の時も一切会話が無く、普段と違って静かだった。

「今日は静かっすね……。」

「そだね……。」

「ごめん。」

「いや、別に誰が悪いとかって言ってる訳じゃないっすけど……。」

「私今日は先言ってるね。」

 玲奈は一人で教室に向かってしまった。

「東雲さんと何かあったんすか?」

「お姉さま何かあったら私達に言ってください!協力しますよ!」


「ごめん……。私より玲奈の事助けてあげて。私は大丈夫だから。」

「ほんとっすか……?」

「うん。ごめん。ちょっと一人にさせて欲しいかな。」

「お姉さまがそう言うなら……。でも、気が変わったらすぐ言ってください!」

「ありがと。」

「そろそろ教室向かいましょうか!遅刻してもだめですし!」

「そうっすね!」

「いこっか。」


 ゆっくりと教室へと向かっていく。足がいつもの何倍も重たい。

 授業が始まっても一切耳に入ってこない。苦しい。


 そんな僕と玲奈を見てた人たちから、また新しい噂が生まれた。

 あのカップル別れたらしいよって。一夏さん狙い目じゃない?とか。

 勝手な事ばっか。


 そんな日々が三日も続いた時の事だった。

 玲奈から死刑宣告をされない日々は僕にとって死ぬほど苦しかった。だから、自分から逃げようと考えた。

 お昼休憩の時にふらっと教室を出ていく。


 目的先は勿論理事長室。お祖父ちゃんに会いに行って全部報告する。


 コンコンとドアをノックしドアを開ける。

「失礼します。」

「ん……?彩巴じゃないか……。どうした?」

「ここでは一夏って呼んで。」

「そうじゃったな。で、どうした?」

「先に言わないといけない事があるんだけど……ごめん。」

「何がじゃ……?何かあったか?」

「男ってバレちゃった……。」

「本当か……?」

 お祖父ちゃんはカッと目を開き僕に尋ねてくる。

「本当。ごめん。僕の不注意だった。」

「そうか……。でも、ワシの耳にはそんな事入ってきておらんがの……。」

「相手の人がまだ黙ってくれてるけど、時間の問題だと思う。」

「そうか……。」

「で、お祖父ちゃんにこんな事言うのもなんだけどさ……。僕の事退学にしてくれないかな。」

「……。そうか……。それは残念な事じゃがしょうがないかもしれんの。ワシにも勿論責任はある。退学後の事は少し任せて欲しい。」

「ありがと。それと今日からお祖父ちゃんとこ泊めてくれないかな。」

「それもそうじゃの。分かった。そういう事で話を進めて置こう。」


「ちょっと待ったー!」

 扉が勢いよく開かれる。

「む、誰じゃ?」

「柚……それに凜に玲奈……。」

「知り合いか?」

「うん……。」

「話は聞かせてもらってました!」


「話を進めるのはストップっす!」

「え……?」

「どういうことじゃ?」

「一夏に退学はさせないっす!」

「そうです!お姉さま!」


「二人は僕の正体知ってるの?」

「東雲さんから聞きました!」

「そっか……。なら僕がここにいるのがおかしいって分かってるってことだよね。余計にこの学校には居られないかな。」

「ダメですよお姉さま!」


「僕がっていうより、玲奈が一番僕の事を許せないんじゃないかな。二人がどうってより玲奈の気持ちが大事だよ。」

「いえ、東雲さんが一番そう思ってるっすよ!」

「え……?」

 どういう事だろう。玲奈が僕に学校に残って欲しいって思ってるはずがない。傷つけた張本人だから。


「私は一夏にこの学校を出ていってほしくないの。」

「なんで……?」

「大事な友達だからよ。」

「でも騙してたしさ……。傷つけちゃった張本人だから。」

「それでも……。残って欲しいの。もし、私とか月見さんと秋月さんの事を傷つけたと思ってるんなら学校に残って罪を償って欲しい。それが責任の取り方だって思うから。」

「でも……。」

 そんな事が許されていいのだろうか。


「三人は本当にそれで良いと思ってるのか?」

「はい!私はそう思ってます!」

「自分もっす!」

「私もそう思ってます。このまま退学はちょっとやるせないかなって。」

「ふむ……。なら、この三人の言う通りにするのが筋ってもんじゃろうな。な、一夏。」

「本当にそれでいいのかな……。」

「私達はお姉さまに居て欲しいって思ってるんです!私達の事を大事だと思ってくださってるのならそうしてほしいです!」

「そうっすよ。大事な友達には変わりないっす。」

「私にとっても一夏はとっても大事な存在よ。」

「皆……ごめん……。ありがと……。」


 想定外の出来事に涙が溢れ出してくる。罪を償うチャンスを与えてもらえるなんて思いもしなかった。


「良かったな一夏。ちゃんと良き友の為に頑張るんじゃぞ。」

「うん……。」

「三人はこの事実を黙認してくれるという事で構わんのじゃな?」


「ええ。」

「はい!」

「そうっすね!」

「うむ。なら分かった。この事は一夏だけに責任があるわけではない。事の発端はワシじゃ。だからワシからも頼む。一夏を頼む。」

「勿論です!」

「良かったっすね一夏!」

「皆ありがと……。凄く嬉しい……。」


「しばらくここの部屋で休んでいってもよい。次の授業に遅れんようにしてくれればよい。」


 そうして僕が少し落ち着くまで理事長室で休ませてもらった。

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