表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

1

 僕は今日から高校生だ。入学初日。普通なら皆夢と希望に溢れているだろう。新しい友達を作ったり部活を頑張ったり。新しい生活に対する希望が多いだろう。だけど僕は逆だ。不安しかない。友達が出来るか出来ないとか、勉強が不安とか、慣れない環境だからこそ不安になるとか。皆悩みも色々あるだろう。僕もそうだ。友達が出来れば良いなとか、良い学校生活を送れたら良いなって思ってる。月並には。当たり前だけど、嫌な生活を望むことなんてないだろう。出来れば良い生活をしたい、それが普通だ。僕だって友達を作って、勉強をして、何か打ち込めることを見つけたり、将来やりたいことを見つけたりしてみたい。"普通"の生活をしてみたいなんて思っている。

 でも僕が送ろうとしてる生活は普通じゃないだろう。だから不安なんだ。何が不安だって?それは遡ること数か月……。


「なぁ、彩巴頼みごとがあるんじゃが……。」

「どうしたのお祖父ちゃん?」

 お祖父ちゃんと話してる時の事だった。お祖父ちゃんが僕に頼みごとなんて珍しいな。僕が頼み事するときはあるけど、逆なんてほとんどなかった気がする。

 お祖父ちゃんは僕に対して凄く甘かった。何でも買ってくれるし、何でもしてくれる。だから僕はお祖父ちゃんが好きだったし、良く遊んでもらったりもしていた。だから、そんなお祖父ちゃんの頼み事だったら大体の事を受け入れるつもりだ。

「彩巴や……。ワシが理事長をしている学校に入ってきてくれんか……?一生の願いじゃ!頼む!」

「一生の願い……?そんな事ぐらいだったら別にいいけど……?」

 僕のお祖父ちゃんは高校の理事長をしている。あまり詳しい事は知らないけど、良いとこの学校だって事は聞いたことがある。

「本当か?良いのか?行きたい学校とかなかったか?」

「んー。別になかったかな。適当に近い高校にでも行こうと思ってたし。お祖父ちゃんが理事長をしている所ならなんか楽できそうだし。」

「楽をさせてやれるかは難しい話じゃが……。そうかそうか。なら良かった。」

「でも、それが頼み事?」

「うむ。うちの学校のな、事情を知りたいんじゃよ。内部的な話とか。ワシが先生とか下の者に聞いても、それが本当か判断するのには限界があるんじゃ。信用してる人物が居るとはいえ、その人物でも分からないことは沢山ある。学校の問題とかそういうのを放置しておくわけにはいかんからな。」

「学校思いなんだね。」

「ワシが理事長をやってる学校だからな。できれば皆にはすくすく成長して欲しいもんじゃ。」

「じゃあお祖父ちゃんは僕に学校でスパイのような事をしてきてほしいって事?」

「そうじゃな。学生にしか分からない事も多いじゃろう。学校なんてものは学生がメインじゃ。当の本人にしか分からない問題なんていっぱいあるだろう。学生にしか分からない情報をワシに伝えて欲しい。彩巴ならワシに無理に気を使う必要もないじゃろ。教師とかならワシに媚を売ろうとしたり、自分のミスを上司に隠したりもする。そういう事をする必要のない信頼できる人間を捜してたんじゃ。」

「ふーん。」

 信頼できる人間って言われて悪い気はしなかった。お祖父ちゃんの助けになれるなら喜んで協力するし、僕もお祖父ちゃんの学校なら興味がある。それに学校に知ってる人が居るって不思議な気分だ。それにスパイなんて楽しそうだ。目的を持ちつつ生活するって大事だからな。

「本当にいいか?」

「いいよ。楽しそうだし。」

「なら良かった。連絡とかはまた後日する。それで良いか?」

「分かった。」


 本来ならこのまま普通に高校に入学する予定だった。何も問題がないはずだった。

「はぁ……。着いちゃったな……。」

 元々住んでいた場所からは電車で二時間ほどの距離にある学園。僕は凄く気が重かった。僕だって入学初日からこんな重い気分で通いたくはない。じゃあなんでそんな風になってるんだって?

 それはここが女子校だから!僕は今日から女子校に通う事になってしまった……。何でこうなっちゃったんだろ。何でお祖父ちゃんの話を良く聞かずに承諾しちゃったんだろう……。

 

 後日連絡を貰った時に初めて知った。お祖父ちゃんが理事長をしている学校が女子校だってこと。僕が勝手に共学だと思ってたのも勿論あるんだけど、女子校に男子を入学させるなんて誰が思う?!僕の不注意だけじゃない気がする……。

 勿論僕だってお祖父ちゃんに苦情を入れた。当たり前だ。女子校に男子が入るのが普通な訳ない。



まず、僕は男なんだ。女子校に入るってどういうこと?って怒りながら聞いた。

「説明をしなかったワシも勿論悪いが、彩巴も説明を聞かずに承諾したじゃろう。悪い事をしたとは思っているが、許してくれ。」

「許すとかじゃなくてさ、女子校に男子が入るってのがそもそもおかしいことだよね。犯罪じゃないの?」

「ま、バレたらどうなるか分からんな。ワシは首じゃろうな。」

「いや、ボクも退学になっちゃうだろうけど……。」

「最悪その後の事はワシがどうにかする。もし、どうしようもなくなっても金の事ならワシが保証してやる。普通に生きるなら一生困らん程度にな。」

「うーん……。それはそれで有難い条件ではあるけど……。問題はそこじゃなくてさ、普通に僕が女子高入ったら男子ってバレると思うんだけど?」

「彩巴は昔にコスプレで女装してたことあったじゃろ。あれを見た限りじゃワシは大丈夫じゃと思うぞ。」

 確かにコスプレが好きで女装物のコスプレとかもしてたことはあった。女装して女子高に入るのと普通にコスプレで女装するのって全然違うと思うけど……。

女装って言うのはこの子は女の子になってんだなっていうのが空気で伝わってくる。でも、女子校に女装して入るのは周りからフラットな目で見られてしまうという事。素の感じを見られてしまうという事はコスプレしてる時みたいに補正が掛からないという事。それでバレないというのは、もう本当によっぽど自然に女の子になれてないと無理だろう。

「まだ聞きたいことは色々あるけど、一旦待ってもらっていい?」

「なんじゃ?」

「僕が女装してるのをお祖父ちゃんの前で色々な人に見てもらってさ、男ってバレなかったら入学するって約束する。一度承諾してることだから。でも、バレてしまったらこの話はなかった事にしてほしい。申し訳ない事ではあるんだけど、知り合いとか知らない人でもバレるっていうのはそういうことじゃん。」

「ふむ。なるほど。彩巴の言ってることはよう分かった。ワシが大丈夫じゃと思っておるが、確かに他人から見てバレバレな女装だったらすぐに問題になるじゃろうしな。じゃあ今度の土曜日にワシの知り合いと知り合いの娘さんに来てもらおう。その時に軽く話をしてバレなかったらOKという事でいいな?」

「わかった。僕に入学させるために予め話をしていたりしちゃだめだよ。」

「分かっておる。ばれたりしたらワシも困るからの。じゃあそれで。その結果次第で続きの話をしよう。」

「うん。」

 結果は驚くぐらいバレなかった。寧ろ相手の娘さんに女子力高いとまで言われる始末。お祖父ちゃんはその様子を見ながら終始ニヤニヤしていた。

「お祖父ちゃん……。僕の負けだ……。」

「ま、こうなることは分かっておったがな。ワシの目に狂いはなかった。昔見た時思ったんじゃ。女の子じゃんって。」

「本気でそう思ってるとは知らなかった……。」


 ってことで最後の望みを持って勝負した所負けて入学が決まってしまった。どうなっちゃんだろ……。





溜息をつきながら学校へと足を進めていく。外観はお嬢様学校ってな感じだった。お祖父ちゃんの学校は評判も良い、お嬢様学校だったらしい。偏差値も高く、スポーツも強い。僕と一緒に学校に向かっていく人はいかにもお嬢様って感じだった。

 こんな学校の理事をしてるなんてお祖父ちゃんて凄い人だったんだなって実感する。何となく凄い人ってのは分かってはいたけど、仲が良い分あまりそういうのを意識したことが無かった。だからこそ仲が良いってのはあるんだろうけど。あまり凄い人って意識しすぎてたら関わることも少なくなってたかもしれない。

 お祖父ちゃんもお祖父ちゃんで硬ぐるしい感じで接しないようにしてくれてたんだとは思う。でもそんな事を今の僕は恨んでいる。後悔している……。

そろそろ観念して足を進めないと……。まさか女装姿で入学式を迎える事になるなんて思ってもいなかったな……。それにしてもバレなきゃいいけどな……。

「はぁ……。」

 気分が重いな。


「あわわわわ……。ど、どこに行けばいいんだろう……。」

 あんな子でも凄くいいとこの子なんだろうな。それに勉強も出来て。可愛いしいうことないな。羨ましい。それより何してるんだろ……?

 迷ってるのかな?迷うも何もあるのかなって感じなんだけど……。看板を見て自分の名前と番号をチェックして教室に入っていくだけじゃなかったっけ……。凄いあたふたしてるし声だけでも掛けてあげようかな。僕の勘違いだったらそれで済む話だし。


「あの……?」


「はいっ?!?!?!」

 めちゃめちゃ驚かれてしまった。周囲から視線が集まる。恥ずかしい。別に悪い事してる訳じゃないんだけどな……。女装して女子校に入ってる時点で悪いことはしてるのかも。

「何か迷ってる?」


「えっ……。あっ……はい……。どこに行けば良いか分からなくて……。」

 予想通りだった。恩を売っておけばもしかしたら何か良いことに繋がるかも。

「多分あっちに行って自分がどこのクラスかとかを確認するんだと思うよ。一緒に行く?」

「いいんですか?!お願いしますお姉さま!」

 なにその呼び方……?僕って年上に見えるんだろうか?女装がバレてないなら、とりあえずは一安心だけど。

「お姉さま……?」

「えっ……。何か気に障ったでしょうか……?」

「いや、ぼ……私も一年だからさ。同学年じゃない?」

危なっ……。一瞬僕って言おうとしてしまった。僕っ娘って人種がいるから僕ぐらいじゃバレないかもしれないけど、できるだけの細工はしておきたい。


「そうだったんですか!あまりにも美しく立派な方と感じたので年上のお姉さまなのかと……。」

 よしっ……。男として良いのか分からないけど、男とは全然バレてないみたい。とりあえずは良かった。

 「あはは……。ありがとう。気持ちだけ貰っておこうかな。私の名前は久遠一夏っていうの。久遠でも一夏でも好きに呼んでくれていいよ。」

 "久遠一夏"これが僕がこの学校に入るのに使う名前。正直気を抜いてる時に名前を呼ばれても反応できる気がしない。

「一夏お姉さまでいいですか……?」

「お姉さまは付いちゃうんだ……?」

「その方がしっくりくるので……嫌ですか?」

「いや、好きに呼んでくれていいよ。そっちの名前は?」

 何故か同学年にお姉さまって呼ばれることになってしまった……。悪い気分はしない。この子話しやすいな……。相手が少し怖気づいてくれてるとこちらから話しやすいからやりやすいな。会話の主導権を握れてるから自分のペースで進むことができる。

 

 「あっ……。名乗り遅れました!私は秋月紬と申します!これからよろしくお願いします!」

「秋月紬さんね……。これからよろしく。紬さんって呼んでいい?」

「いえっ!」

 あれ……。思いっきり拒絶されてしまった。距離の詰め方間違えたかな。相手が名前で呼んできたからこっちも行けると思ったんだけどな……。

「あ……。ごめんなさい。秋月さんって呼んだ方がいい?」

「そういうことではなく!紬って呼び捨てにして欲しいです!」

そっちだったか……。急に呼び捨てって抵抗あるけど相手が望んでることだしな……。受け入れたほうが楽そうだ。


「ああ、そういう事……。じゃあ、これからよろしく。紬。」

「はい!一夏お姉さま!」

 何か可愛いペットでも飼い始めた気分なんだけど。僕に一生着いてきそう。


「柚は地元この辺?」

 この高校に通いに来る人って色々な人がいるらしいからな……。歩きながら色々な情報を集めておきたい。この周辺に知ってるかとかそうじゃないかとか。僕が色々な情報を知らなすぎるからな……。情報共有は凄く僕にとって必要な事だ。

「いえ……。上京してきました。ここの学校ってテニスが強くて、私テニスをずっとやってて、それで。それに良い評判を良く聞くので。」

やっぱ評判は良いんだな。一安心だ。

「そっかそっか。じゃあ寮に入るの?」

「そうです!」

「そっか。私も寮に入る予定だから一緒に慣れたらいいね。」

 この学校には寮があって家が遠い人とかは寮に入ることになってる。僕はリスクを取りたくないから、あまり入りたくなかった。ルームメイトが居るらしいから。でも、家からの距離を考えると寮に入るしか選択肢が無かった。どうせならルームメイトは仲良くなれそうな人がいい。

「そうなんですか?!はいっ!私も一緒に部屋に慣れたらいいなって思います!」

 可愛いなこの子……。この子とかだったら楽そうでとてもいい。

「柚はこの学校に知り合いとかいる?」

「あぅ……。いないです……。」

「私も居ないからそんな申し訳なさそうにしなくてもいいわよ。単純に柚の事知りたいから色々聞いてるだけよ。」

「そうだったんですか!何でも聞いてください!私に答えられることなら是非!」

 あー……。こういう時って何話すんだろ。女子の事ってあんまり分からないんだよな……。

「学校生活は楽しみ?」

「はい!勿論です!」

 それはそうだよね。

「一夏お姉さまは楽しみじゃないのですか?」

「んー。普通かな……。楽しい事があればいいな、ぐらい。」

「大人ですねー!私なんか新しい事が始まるって思ったらワクワクしちゃいますけどね?!」

 確かに普通だったらそうかも。僕も楽しみにするタイプだし。

「あ、一ついいかな?」

「はい!なんでしょう?」

「学校で噂とか不思議な出来事とか、何かあったら教えてくれないかな?」

「噂ですか……?」

「そうそう。」

「いいですけど……。この学校って何かあるんですか?」

「そうじゃないよ。何かあったら知っておきたいなって。不思議な出来事とか興味あるから。良い噂も悪い噂も、一応耳に入れて置きたいなって思って。」

「なるほど!一夏お姉さまの頼みなら勿論大丈夫ですよ!それほど良い情報が入るか分かりませんが……。」

「入らなかったら別に大丈夫だよ。何かあればで。水泳部に入るならそこで起きた事とか教えてくれれば大丈夫だから。」

「分かりました!」

 とりあえず、この学校に入るからにはお祖父ちゃんのためにも頑張って情報集めしてあげないとな。どうせなら僕もスパイとしての働きをしたいからな。



柚は私に聞きたい事とかある?」

「そうですね……。どうしたらお姉さまみたいに美しくなれますかねっ?!」

想定外の質問が来た。もっと好きな食べ物は何ですか~?みたいな質問が来ると思ってたのに。どうしたら美しくなれるかって、別に何もしてないんだよな……。男だし。

「特別な事は何もしてないよ……。柚と同じじゃないかな。」

「羨ましいです~!」

「柚は可愛くていいと思うけれど?自分に不満があるのかな?」

「私は綺麗なお姉さまに憧れるのです。一夏お姉さまは理想って感じです!」

その理想間違ってない?大丈夫?

「ありがとう。柚は可愛いからもっと自分の可愛さに自信を持った方がいいんじゃない?」

「そうですかね……?えへへ。ありがとうございます。」

適当に話をしてると番号を展示してある場所まで着いた。人も集まってるから多分間違いじゃないな。

「ここで番号を確認するんだと思うわ。学校から送られてきた番号の紙持ってる?」

「えっと……。あれっ……!ない……。あれれ……。どうしよう……。」

 え?!そんな事ある……?!いや、あるんだ。目の前で起きている。もしかして、とてつもないドジな感じの子だったのか。何かイメージが固まりつつあるな。柚のキャラを掴めつつある。

「私……。バカだ……。せっかく張り切って準備してきたのに……。うぅ……。」

 やばっ。泣きそうになってるじゃん……。ドジな割に結構反省しちゃうタイプの子かな……。そんな気にする事でもないだろうに……。とんでもないドジっ子の面倒を見ることになりそうだな。慌ててる子がいてくれると逆に落ち着けるから僕はいいけど。

「泣かないで泣かないで。大丈夫だから。これぐらいどうにかなるから。ほらっ、落ち着いて?」

「うぅ……。ごめんなさい……。」

 とりあえずハンカチを私で涙を拭いてもらった。ハンカチ何て普段使ってなかったのによく出せたな僕。妹に絶対にポケットに入れて置けって何回も言われたからな。女の子の嗜みらしい。僕の妹役に立つじゃん。ぐっじょぶ。

「ちょっと待ってて。」

「はい……。」

 自分の番号だけ先に確認しておこう。えっと……。Aクラスの6番か……。覚えておかないとな。

「お待たせ。行こうか。」

「えっと……。どこに……?」

「多分先生か誰かに聞いたら分かるわよ。私も一緒に行ってあげるから大丈夫。」

「ありがとうございます一夏お姉さま……。」

「ここで会ったのも何かの縁だろうから気にしないで。」

 暇そうな先生いないかな……。何回も色々な先生の所行くの面倒臭いから色々やってくれそうな人が良いんだけどな……。分からないし近くに居た暇そうな先生で良いか。

「あの、すいません。」

「なんでしょうか?」

「申し訳ないんですけど、学校から送られてきた紙を忘れてきてしまい番号確認できなくて。どこのクラスか分からないんですけど、先生の方で確認していただけませんか?」

「あらあら。それは大変ね。分かりました。名前は何ていうのかしら?」

「秋月紬です。」

「ちょっと確認してくるわね。」

 面倒くさかったので一人で全部やりとりやってしまった。僕が秋月柚って思われてしまったかもな。先生何ていっぱいいるし、もう会う事もないかもしれないしいいだろう。

「一夏お姉さま申し訳ないです……。全部やってもらってて……。」

「このぐらい大丈夫。慌てたり泣いちゃったりした時は他人を頼るといいよ。冷静に物事を判断できなくなってるから。困った時はお互い様よ。私が困った時は柚に助けてもらおうかな。」

「是非っ……!一夏お姉さまの役に立てるように頑張ります!」

 一生来なさそう。

 先生が小走りでこちらに向かってきている。問題ないと良いんだけど……。あれっ。躓いてこけてる……。この先生も、もしかしてバカか?

「大丈夫ですか先生……?」

 仕方ないからこちらから近づいていき手を差し出した。

「あらら……心配かけて申し訳ない……。私としたことが……。ありがとう、秋月さん。助かりました。」

「いや、困っていたのはこちらなので……。それに、私が秋月柚なわけではないので。」

 今がチャンスっぽいし訂正しておこう。後々面倒が起きても困る。

「あら、そうだったの?横の子が秋月さんかしら。」

「あっ……。はい!そうです!お手数かけて申し訳ないです!」

「いいのよー。生徒が困ってたら助けるのが先生ですもの。それで、秋月さんのクラスはAクラスで、番号は一番目ね。」

「ありがとうございます!」

Aクラス?一緒だ。良かった……。とりあえず一安心だな。クラスに一人知り合いがいるかいないかでは差が凄い。とりあえずクラスで二人集まれとか地獄の一言があっても、柚を誘えば何とかなりそう。

「はい。では気を付けてね~。」

「先生も。」

 助けてくれた先生に一言余計だったかな。悪気なく発言した一言だったんだけど、嫌味に取られてもおかしくないなって言ってから気づいた。

「あらあら。ありがとうございます。見っともないところを見せてしまったわね。しっかりしないと……。」

 大丈夫そうだった。

「じゃあ、柚行こうか?」

「はい!お姉さま!」






 柚と話しながら廊下を歩いていき、目的のクラスを見つける事が出来た。まだ予定の時間よりも早い事もあり、クラス全体がそわそわしてるといった感じだ。皆慣れない空間にいるって感じだろうか。

「着きましたね!」

「そうだね。柚は一番だから一番前の席だねー。」

「はい。いつもそうなんですー。あんまり好きじゃないです……。」

「私も自分が一番だったらちょっと嫌かも……。でも、柚の名前は良いと思うよ。私は好きだな。」

「本当ですか?!嬉しいです!少し自信を持てました!」

「あはは……。ならよかった。一番目は少し面倒な事が多そうだけど頑張ってね。」

「はい!」

 名簿が一番目だと辛そうだな。僕も今の名前だと早めの方ではあるけど。

 六番目だったけな……。運が良ければ柚と隣の席になれそうだけど、それだと一番前の席なんだよな。

 机の数を数えていく。一、二、三……どうやら一列六個の席があるみたい。一番後ろの席だ。これはラッキーだな。柚が隣にいないのは残念だけど、あたりの席だな。

「隣の席になれるかと思ってたけどなれなかったね。ちょっと残念。」

「私も残念ですー。でも、休憩時間とか遊びに行きます!」

「そうだね。暇だし来てくれると嬉しいかも。」

「はい!」

「それより段々と人が集まって来たねー。」

「そうですねー。もうすぐ集合時間になりますねー。」

「柚は大丈夫?」

「何がでしょう?」

「名簿が一番目だとさ、自己紹介とか一番目じゃない?考えとかなくて大丈夫?そういうのは慣れてる?」

「苦手です……。一番目じゃなくても嫌です……。」

「確かにそうかも。」

 僕も自己紹介とかあんまり好きじゃないな。でも、一番目は嫌だな……。

「いつもはどうしてるの?」

「名前を言って、好きな事を一つぐらい言って、後はよろしくお願いします!とかでしょうか?」

「なるほど。柚なら元気いっぱいに自己紹介したら皆仲よくしてくれると思うよ。」

「そうでしょうか……?だと良いんですが……。」

「可愛いんだから自信持って良いと思うよ。私が他の人の立場ならそう思うし。」

「本当ですか?!じゃあ、出来るだけ頑張ってみようと思います!友達は出来れば作りたいので……!」

「うんうん。」

 この子単純だな……。悪い子に騙されたりしなければ良いけど……。

 実際柚なら友達とか沢山作れそうだ。皆から愛されるキャラって感じ。この子のこの不安にしてる所とか、ペット感が周りからしたら愛くるしいと思うんだけどな。それとも過去に何かあったりしたんだろうか?あんまり踏み込み過ぎない方が良いのかもしれないけど……。

「まぁ、困ったことがあったら助けてあげるから。」

「ありがとうございます!一夏お姉さまがそう言ってくださると心強いです……!」

 せっかくの縁だ。柚の事は出来るだけ助けてあげよう。交友関係は大事にしないと。

 キーンコーンカーンコーン。

 予定時間になり、合図のベルがなる。

「そろそろ席戻った方がいいんじゃない?」

「はい!では、また!」

 小走りで席に戻っていった。危なっかしいな……。歩いて戻ればいいのに。その内足を躓いてこけたりしそうだ。怪我とかしないといいけど。

「あいたっ!」

 言わんこっちゃない……。さっそくこけている。しょうがない、助けに行ってあげるか。

「柚ー。だいじょ……。」

「大丈夫ですか?」

「はいっ!すいません!ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

 僕が行くまでもなく近くに居た人が助けてあげてくれた。どうやらこのクラスは良い人に恵まれてるかも。

 扉が開く音が聞こえ、先生が登場してくる。

「皆さんおはよう。」

「おはようございます!」

「私がAクラス担任の七海葵だ。よろしくー。」

 僕たちのクラスの担任だ。丁寧な感じはあまりしないが、悪い人ではなさそうだ。

「さて、会ってそうそうで悪いが、名簿順で一列になってくれ。そのまま体育館に向かうから。」

 そういえば始業式があるのか。学校始めだもんな、当たり前か……。

 体育館に移動して先生たちの話が始まる。

 おっ……?あれはお祖父ちゃんじゃないかな。理事長だもんな……。当たり前だけど挨拶とかするんだな……。

「風雲児女学院高等学校では……。」

 長々しい先生たちの話が終わり、クラスに戻っていく。


「改めて、皆よろしく。最初に言っとくがあまり問題行動は起こさないでくれよー。」

 問題行動があったら後始末をするのは先生たちだろうからな。大変そうだ。

「今日は授業とかがあるわけじゃなく、これからの説明とか準備とかがメインだ。まずは……自己紹介からでもしていくか。出席番号一番から順番に頼む。」

「はいっ!」

 柚は気合入りまくりな様子だった。失敗しなければいいけどな。

「皆さん初めまして。秋月紬と申します!えっと……テニス部に入る予定です!仲良くしてくれると嬉しいです!よろしくお願いします!」

 うん。悪くないんじゃないか?挨拶なんてあんなもんだよね。

 ついに僕の順番。

「初めまして。久遠一花と申します。よろしくお願いします。」

 柚みたいに趣味の一つでも添えたほうが良いのだろうが、何も思いつかなかった。趣味に釣られて誰かが寄ってきても面倒臭そうだし、まぁいいかな。

「東雲玲奈です。皆さんよろしくお願いします。」

 え……?ボーっと皆の自己紹介を聞いていた時、背筋に悪寒が走る。東雲玲奈って言ったか……?声の主の方をしっかりと見てみる。

 間違いない……。僕が知っている東雲玲奈だ……。幼馴染っていう存在だろうか。幼稚園、小学校は同じ所に通っていた。

 まさかこんな所で会うなんて……。引越したとかで関わりはなくなっていたが、昔仲良かったんだよな。良く遊んだりしていた。最悪だ。僕が女装しているなんて知られたらどうなる事か……。血の気が引いていくのを感じる。

 ヤバい……。普通に気分が悪くなってきた。保健室に休みに行こうかな……。

 とりあえず全員の自己紹介が終わるまで待とう。皆の邪魔をするのは悪いし……。

 自己紹介が終わったタイミングで先生の元へ寄っていき事情を説明する。

「少し気分が悪いので保健室で休んできてもいいでしょうか?」

「確かに顔色が少し悪いな。朝からか?」

「さきほどから急に。」

「んー。そうか。熱は……どうだろな……。」

 僕の額に先生の冷たい手がピタっと付く。気持ちいいな……。冷えピタみたい。先生に毎日こうされてたいなー。

「とりあえず保健室に行った方が良さそう

だな。場所は……分からないよな。私が連れていく。今日は大したこともあまりない日だからゆっくり休むと良い。」

「すいません。ありがとうございます。」

「皆、悪いが少し待っててくれ。適当に喋ったりしてるのも許可する。私が戻るまでな。」

「あ、あの一夏お姉様に何かあったんでしょうか……?」

 場所が近い事もあり少し心配してくれてるのだろう。学園開始良い子には遭遇出来たみたいだな。

「少し気分が悪いから保健室で世話になってくるよ。」

「体調悪かったんですか……?!私のせいかもしれないです……。」

「いや、柚は関係ないから大丈夫だよ。ま、ちょっと行ってくるね。」

「はい!ゆっくり休んで欲しいです……。」

  ザワザワする教室を出て行き、七海先生に案内していってもらう。

「大丈夫か?保健室までちと遠いが、歩けるか?お前軽そうだからおんぶしてやってもいいけど、どうする?」

 おんぶ……。女性の人にしてもらうのは気が引けるな……。しんどいけど、少しぐらい頑張らないとな。

「大丈夫だと思います……。倒れたらよろしくお願いします。」

「倒れたらって……。倒れないでくれよな。まぁ、少し頑張れ。」

「はい。」

 ゆっくり歩いていき、何とか保健室まで辿り着く。

「せんせー。この子見て欲しいんだけど、大丈夫か?」

「どうしたのー?あらあら、顔色悪いじゃない。」

「何か体調悪いみたいで、後はたのんます。」

「はいはい。」

「七海先生ありがとうございました。」

「ゆっくり休めよー。」

 七海先生はなんだかんだいい先生みたいだ。ああ見えて結構生徒思いなんだろう。意外と世話を焼いてしまうタイプなのかも。そんな感じがした。

「さて、どうしようかしらね。ベッドで寝てた方が良さそうね。」

「それでお願いします……。」

「そこのベッドで寝てくれてたらいいから。」

「ありがとうございます。」

 ダメだ……。もう限界かも。ベッドに入って横になった途端、眠りについてしまった。


 ん……?何だ……?今僕は何しているんだろ……。瞼が中々開こうとしてくれない。意識が朦朧としている。

 どこだっけ……。眠い……。瞼を擦りながらゆっくり目を開ける。

 眩しい……。ん……?

 あれっ……?!意識が急にハッとなる。眠るまでの事を一気に思いだした。

 ここは、保健室か……?ん。どうやらそうみたいだ。周りを見渡した感じ間違いない。あまりにも不注意な行動をしてしまっていた。もしかしたら、こんな所で寝ていて何かあって男性って事がバレたら大問題だ。気を抜き過ぎていたかもしれない……。

 今度から気を付けないとな……。僕は女子じゃないんだ。普通の人より気を使って生活しなければ。

 あれ?何かこのベッド温かくないか?何か不自然な温かさを感じる。おねしょをしたとかそういう事ではない。ベッド以外の温かさがある。何だろう……。この心地よい温かさ。昔家族と一緒に寝ていた時を思い出す。

「むにゃむやむにゃ……。」

 え……?

「わっ!!」

 びっくりした……。ベッドの横を見たら知らない人が寝ていた。だ、誰なんだ……。凄く可愛らしい人だ。女の子って近くに居ると本当に良い匂いがするな……。

 僕が思うお嬢様って感じの見た目をしている。綺麗な顔だな……。

 頬っぺたとか触ったら怒られるだろうか。男心を擽られる。勇気を出して頬っぺたを触ってみる。

 柔らかい。ぷにぷにしている。スベスベだ。女の子ってやっぱり凄いな……。

「んん……?何かしら……。」

 やばっ。頬っぺたを触ってたら目が覚めちゃったのかもしれない。すぐ様に手を放す。

「あら……?誰かしら……。初めまして……。」

 めちゃくちゃ眠そうにしながら挨拶をされた。誰かしらって僕のセリフなんだけど……。

「久遠一夏と申します。お名前は?」

「私は神楽茉子よ。ねむた……。もう少し寝ようかしら。貴方はどう思う?」

「はぁ……。眠たかったら寝たらいいんじゃないでしょうか……?」

「貴方もそう思うわよね。それなら一緒に寝ましょうか、一夏さん。」

 僕の体を力強く引き寄せ抱きしめてベッドの中に入れられる。体が凄い密着してる……!何て柔らかい感触なんだろう……。

「ちょ……!ちょっと待ってください!」

「何か問題だったかしら……。貴方可愛らしい顔をしてるから私は問題ないわよ。可愛い子と一緒に寝れるのなら私は嬉しいわ。恥ずかしがらなくてもいいわよ。」

 一緒に寝れるチャンス……!いやいや、ここで欲望に負けるわけにはいかない。こんな可愛い女の人と一緒に寝れるなんて夢みたいだが、そんなことをしている場合ではない。

「恥ずかしがってる訳じゃありません。少し寝たら気分が良くなったので、もう寝るつもりはありません。」

「あら、そうなの……。それは残念ね。」

「っていうか、私が先にここのベッドで寝てませんでしたっけ……?」

 僕がベッドに入った時は確かに誰も居なかったはず。間違えて入ってしまってたなら申し訳ないが、それはないだろう。

「そうだったかもしれないわね……。保健室に眠りに来たら誰かが寝ててびっくりしたわ。」

「そりゃ誰かが寝てることもあるでしょうね……。」

「ええ。顔をよく見てみたら可愛らしい顔をしているから、一緒に寝ようかなって思ったの。」

「そうですか……。」

 女の子からしたら普通の事なんだろうか?一緒に寝るなんて普通に恥ずかしいことな気がするけど……。

「どうしてもダメかしら……?」

「え?」

「一緒に寝て欲しいのだけれど……。」

 何故僕とそこまで寝たがる?!そこまで一緒に寝て欲しいなら寝るのもやぶさかではないけど……。断って悲しい顔をされるのもなんだか、やるせない気持ちになってしまうしな……。

 ガチャッと扉の開く音が聞こえる。足音がベッドの方へ近づいてきて声が聞こえてくる。

「久遠ー?どうだー?まだ寝てるかー?」

「一夏お姉さまは大丈夫でしょうか……?」

 七海先生と柚だ。僕の様子を見に来たんだろう。ってこれマズイ状況じゃないか……?どうしよう……。凄く不自然な状況だけど諦めるしかないか……。

「一夏お姉さま!」

「おー。久遠起きてたのか。体調はどうだ?」

「はい……。寝たら体調はずっと良くなりました。迷惑かけてすみません……。」

「体調の悪い日ぐらい誰にでもある。気にするな。倒れたりしたら大問題だからな……。ま、しんどくなったりしたらすぐに誰かに言うといい。」

「そうですよお姉さま!」

「分かりました……。」

 あれ……?僕の思ってた会話と何かが違う。いや、極普通の会話だし、こういう会話をする予定ではあった。僕の横に居るはずの人物の存在について一切触れられない。何で……?不思議に思い、先ほどまで隣に居た神楽さんの方を向いてみる。

「あれ……?居ない……。」

「居ない……?どうしたんだ?」

「ああっ!いえ。先ほどここから誰か出ていくのを見たりしませんでしたか?」

「いや……?」

「私たちは見てませんね。」

「そうですか……。何か私の勘違いみたいです。寝ぼけてたみたいで。ははは。」

 いつのまにかいなくなっていた。何だったんだろう。いつのまに居なくなったんだろう。まったく気づかなかったな。またいつか会えるだろうか。

「今何時でしょうか……?」

「今は十二時だ。今日の所はもう解散って流れだ。今日はこれからの学校での流れを説明したりしたぐらいで特に何もしてないから安心しろ。」

「分かりました。」

「久遠は寮に入るんだったよな?」

「はい、そうです。」

「なら荷物が寮に届いているはずだから、部屋に行って整理しておくといい。ルームメイトも居るだろうからな。」

「分かりました。」

「秋月が寮まで案内してやってくれ。私は職員室に戻る。何かあったら気軽に話に来るといい。」

「すいません。ありがとうございました。」

「気を付けろよ~。」

 先生は手を振りながら部屋を出ていった。

「一夏お姉さま本当に体調は大丈夫ですか?」

「うん。ちょっと寝たら大分良くなったかな。」

「良かったですぅ~!心配で心配で……。」

「大袈裟な……。」

 少し体調を崩すぐらい誰にでもあるし、そんなに心配する事じゃない気がするんだが……。少しオーバーだな……。

「体調は凄く大事な事なので、しんどくなったりしたらいつでも言ってください!」

「分かった。そうするよ。」

 何だかんだ慣れない環境で心配してくれる人が居るって言うのは良い事なんだろう。ありがたや。

「じゃあ、案内してくれるかな?場所知ってるんだよね?」

「はい!任せてください!」




 学園から少しした所にある寮まで柚が案内してくれる。学園から徒歩五分ぐらいの所に大きな建物があった。多分これが寮なんだろう……。流石お嬢様学校だ……。学園さながら綺麗で大きい。こんな所で生活出来るのは良い事だな。

「綺麗な所だねー。」

「そうなんですよねー!ウキウキしちゃいます!部屋も大きくて、色々な物があってびっくりしました!」

「そっか。部屋には一度行ってるんだっけ。」

「そうなんです。荷物の確認とかをする時間があって。残念ながら一夏お姉さまと一緒の部屋じゃなかったです~。」

「あっ、そうなんだ……。」

 正直ちょっと期待してたから残念だ。こればっかりはしょうがない。

「一緒の部屋が良かったです~。」

「私も。」

「えへへ。でも、今のルームメイトの人も良い人そうで良かったです。」

「仲良くなれそう?」

「今のところはそうですね!もっと仲良くなりたいです!」

「始まったばっかりだからね。ゆっくり仲良くなっていけばいいんじゃないかな。柚ならすぐだよ。」

「ありがとうございます!」

 僕もルームメイトと仲良くなれたらいいんだけどな。

「そのうち紹介してよ。」

「そうですね。良い人だと思うので、一夏お姉さまもすぐに仲良くなれると思います!」

「良い人ばかりそうで安心だね。」

「不良みたいな人がいたらどうしようーってドキドキしてたんですが、少し安心しました!」

「居るかもしれないけど、まぁ危ない人とは関わらないようにしたほうがいいかもね。」

「はい!」

 できるだけ問題行動に巻き込まれないようにしないとな。

「部屋の番号分かりますか?」

「うんー。紙に書いてたよね。えっと……これかな。」

「それですそれです。」

「じゃ、とりあえず部屋に行ってくるね。またねー。」

「はい!またです~!」

 ふー。深呼吸をしてからドアをノックする。

「はいー?!」

 ダダダダダと足音がドアまで近づいてくる。

「どうかしましたかー?あっ。」

「どうもー。今日からこの部屋にお世話になる予定の久遠一花です。よろしくお願いします。」

「どうもどうも。東雲玲奈って言います。これからよろしくー。」

 えっ……。下げてた頭を戻して驚愕する。本当なのか……?よりにもよって……玲奈と一緒の部屋になるなんて……。

「どうかした?」

 こちらの様子を不思議に思われたみたいだった。危ない。平常心を保たないと……。普通にしてたらバレないはずだ。

「あっ、もしかしてまだ体調悪いのかな?ごめんね?」

「それは大丈夫です。寝たら大分ましになったので。心配かけてすみません。」

 お人好しな部分も昔と変わってないな。相変わらず良い奴なのは昔と同じみたいだ。

「そっかそっか。もし、体調悪くなったりしたらすぐ私に言ってね?体力には自信あるし!元気は自信があるから!」

「はは。ありがとうございます。東雲さんの事は頼りにさせてもらいます。」

「うんうん。それでよいとも!」

「東雲さんも何かあれば私に言ってくださいね。」

「ありがと!」

 とりあえずは問題ない。僕がミスをしなければこのまま玲奈ともうまく関係を築けるはずだ。僕の事なんて忘れてるかもしれないしな……。僕の先走りだったかもしれない。大丈夫だ。

「さっ、部屋入りなよー!」

「どうもどうも。お邪魔しますー。」

「お邪魔しますじゃないよ。」

「え?」

「ただいまだよー!これからは私と一夏さんの部屋なんだから!」

「確かにそうなのかな。」

「はい!じゃあ、ただいま!」

「た、た……ただいま。少し照れるね。」

「確かにそうかも。ちょっと慣れるまであれかもねー。」


 机を前にして床に二人で座る。先に入ってた玲奈が気をきかせてくれて飲み物とお菓子を持ってきてくれる。

「はい、どうぞー。」

「ありがと。」

「一夏さんの荷物そっちのあれだからねー。」

「あ、はい。ありがとう。」

 段ボールひと箱に生活必需品諸々が入ってるのを確認する。出来るだけ物は少なくしてきたが、他の人はどんぐらい持ってきてるんだろうか。部屋を見渡してみると、段ボールが二個ほどあるのを確認できた。僕より少し多いぐらいだろうか。

「あ、そうそう。ベッドが二つあるんだけど、どっち側がいいとかある?」

「ベッドの位置か……。どうせなら奥側がいいけど、東雲さんはどっちが良いとかありますか?」

「うーん。じゃあ、私も奥が良い!」

「そうですか?譲りますよ。私は手前側でいいので。」

「え~?!」

「え?」

 今何か間違った事言ったかな……?

「そうじゃないでしょ!」

「何がですか……?」

「そこは何かして決めましょうよ!あっさりすぎる!」

「はぁ……。」

 昔と変わらずめんどくさい性格のままだな。それが良いところでもあるんだけどさ。

「東雲さんは本当はベッドの位置はどちらでもいいけど、私と勝負でもしたいということでいいですか?」

「そうね。私はせっかくなら一夏さんと仲良くなりたいしさ。」

「なるほど。そういうのもいいかもしれないですね。」

「で!どうせならもうちょっと気軽に話して欲しいかな!フランクな感じって言うのかな。例えば……名前とか!玲奈って呼んで欲しいかな。」




 勝負。昔から何回もしていた。何か物事を決めるときの僕たちのやり方だった。

「懐かしいわ、この感覚。さて、何で勝負するのかしら?」

「何でもいいですけど……。お手軽なジャンケンとかで決めますか?」

「良さそうね。何かを決めるときに手頃だもの!」

「ベッドの位置を賭けたじゃんけんということで。」

「うん。分かった。一回勝負だよね?」

「そうですね。一回勝負でいきましょう。」

「分かった。」

 両者じゃんけんの構えに入る。

「じゃんけん」

「「ぽんっ!」」

 結果、僕の勝ちだった。

「負けた~!」

「私の勝ちですね。では、奥のベッドは貰います。」

「悔しい~~!私も奥がよかったな~。」

 本当に奥が良かったのか。僕が言った後に言ってきたから、じゃれあってきただけかと思ってた。奥が良いなら僕が最初に手前でもいいですよって言った時に承諾しておけばよかったのに。相変わらずバカだな。でも、それほどルームメイトと仲良くしようとしてるんだろうな。そのフランクな性格は羨ましい。

「残念でしたね。私が譲った時に素直に受け取っておくべきでしたね。」

「う~。悔しい……。次は負けないわよ!」

「次は名前呼びを賭けますか?」

「私が勝ったらお互い呼び捨てにしたいけど、一夏さんが勝った場合はどうするの?」

「それは、東雲さんのお願いを私が聞くか聞かないかという勝負なので今の呼び名のままって事になりますね。」

「え~~~!?でも、そっかぁ。勝負だもんね……。仕方ないか……。」

 仲良くなるためには負けたほうが良さそうだけど、勝負事だからな。僕も負けてられない。深呼吸をしてから勝負に挑む。

「行きますよ。」

「どんと来いっ!」

「じゃーんけーん」

「「ぽんっ!」」

「やったー!買ったー!良かったー!」

 負けた……。玲奈と勝負して負ける事なんてほとんどなかったのにな。ショックだ……。悔しいな。

「私の負けですね。」

「はいっ!じゃあ、呼び方と接し方を変えてもらうから!」

「接し方もだっけ……?負けたし、しょうがないか。えっと……。じゃあ、これからよろしく、玲奈。」

「おっー!!!一夏さんの名前呼び捨て凄いドキドキするわ!」

「一夏さんじゃなくて、一夏でしょ。玲奈が変わらなくてどうするの?」

「そうだった!よろしく、一夏。えへへ。」

「どうしたの?にやけてるけど。」

「なんか嬉しくてさ。ちょっと不安だったんだよね。ルームメイトの人がどんな感じなのかとか、これからの生活とか。でも、一夏が居てくれたら楽しく過ごせそうだなって!不安が消し飛んじゃった!一夏ってば優しそうだし、初日から仲良くなれてよかったー!って思ったの。」

「なるほど。」

 玲奈でもそういうのって気にしたりするんだなー。フランクな性格もあえてそうしてるのかもしれない。相手を壁を作りにくいように、仲良くなれるように。コミュニケーションが上手な人って相手に壁を感じさせなくするのが上手だから、玲奈はそのタイプだろうな。

「それは私も助かったわ。玲奈みたいな元気一杯の良い人そうな人がルームメイトで。ルームメイトと初日から問題が起こったりでもしたら、これからしんどそうだしね。」

「だよねだよね~!」

 玲奈とルームメイトになったのは不幸中の幸いなんだろうか。知らない人より少し嫌な緊張感があるが、良い奴なのはわかってるから。

「それで、次の勝負は何を賭ける?何か賭けたい事があればなんでもいいけど。」

「どうしよっかな~。今すぐにどうこうしたいことってのはあんまりないけど……。」

「じゃあ、私と玲奈で何かを決めるときはじゃんけん、又は他の事で勝負して決めるって事にする?」

「それ楽しそう!」

 僕たちの中でのルールがさっそく一つ決まった。


「そういえば、今日ってこれから何もないんだよね?」

「んー?多分そうだと思うよ。夕食の時に学食が開くとか、後はお風呂の時間があるとか?」

「そういえばそうだったっけ……。」

 この寮は食堂があって、朝、昼、夜の時間開くようになっている。学生にとっては大助かりだ。部屋でも、料理が作れるようにキッチンや冷蔵庫がある。流石はお嬢様学校の寮だ。お風呂も大浴場があるらしい。僕は行く予定はないけど。部屋にもバスルームが付いており、僕はそこにお世話になるつもりだ。大浴場しかなかったら絶体絶命だからな……。バレない訳がない。

 いくら部屋にバスルームがあるといっても危険なのは変わらない。玲奈にバレないように気を付けないと。



「そろそろ食堂行こっか?私お腹空いてきたー!」

「もうそんな時間……?」

「そうだよー。」

 気づけば夜になっていた。玲奈と喋ったりしていたら一瞬だった。

「時間経つの早かったな。食堂行きましょうか。」

「行こう行こう!どんなメニューあるのか楽しみだな~!」

「確かに。美味しいご飯だといいね。」

「ねー!正直期待しちゃうな~。それに、色々なメニューがあると嬉しいかも。」

「そうだね。場所は知ってるの?」

「朝配られたプリントに書いてあったよー。一夏は保健室行ってたからその時見てなかったのかな?」

「確かにそうだった。先生からプリント沢山もらってたかも。」

 全然目を通してなかったな。後で見ておこう。

「私が分かるから大丈夫だよ。」

「ありがと、玲奈。」

「いえいえ~どういたしまして~。」

 玲奈はクルりと一回転してお辞儀をしている。かっこいいな、その動き。

「あっ!一夏お姉さま!」

 後ろから大きな声で名前を呼ばれる。柚だ。多分ルームメイトらしき人と一緒に居る。

「柚。」

 ダッシュで僕に抱き着いてきた。あんまり過激なスキンシップはやめてもらいたい。胸とか当たってるし……。

「あれから体調は大丈夫ですか?」

「心配かけてごめんね。大丈夫だよ。」

「一夏の知り合いー?」

「そうだよ。秋月柚って言うの。仲良くしてあげてね。」

「同じクラスなのは勿論知ってるよ。よろしくね、秋月さん!」

「むっ……。よろしくお願いしますです……。」

「どうしたの、柚?」

「何でもないです。」

 何か少し不機嫌な気がするけど……。気のせいかな?

「そう……?そちらの方が柚のクラスメート?」

「はい!そうです!」

「どーもどーも。月見凜って言うっす。どーぞ、これからよろしく。」

 握手を交わす。柚が良い人そうって言うだけあって、確かにそんな感じがした。

「よろしくー!」

 玲奈とも握手を交わし、とりあえず少し仲良くなったって所か。

「柚と月見さんもこれから食堂に行くの?」

「そうですそうです!一夏お姉さまもですか?!」

「そうだよー。」

「月見さんも秋月さんも、せっかくだし一緒に食べない?」

「私は全然いいっすよ。秋月さんは?」

「私も是非ご一緒させて頂きたいです~!」

「それなら皆で一緒に食べよっか。」

「よかったよかった。」

 四人で食堂に向かう事に。


「色々なメニューがあるねー。」

「何にしようかな……。」

「迷うです……。」

「どうするっすかね……。」

 四人とも中々晩御飯のメニューが決らない。美味しそうなメニューが沢山ある。何にしようかな……。オムライス……。オムライスにしようかな。何となく目についたこれにしよ。

「私は決まったけど皆は決まった? 」

「私も決まったかな……。」

「決まりました!」

「決まったっすね。」

「皆は席取っといてくれる?私が運んでいくよ。」

「えっ、流石に四人分の運ぶのは重いでしょ?私も運ぶ係に回るから、月見さんと秋月さんは席取っといてくれるかな?」

「了解っす!じゃ、これお願いしますっす。」

「はーい。」

 二人から食券を受け取り列に並ぶ。

「何かごめんね。気を遣わせてしまったかな。」

「別にこれくらい気にしないでよ。それにそんな大したことじゃないでしょ。」

「優しいね、玲奈は。」

「そうかな?へへ。一夏に言われると少し嬉しいかも。」

 少し照れた様子を見せる玲奈。

「はい、次の人ー!」

「これ、お願いします。」

「はいよー。」

 食堂の人に食券を渡す。二十秒もしない間に頼んだ品が出てきた。早い。

「はい、お待ち!」

「ありがとうございます。」

「それ、ちょっと貸して。」

 玲奈が頼んだ品を二つのお盆に分けてくれる。

「はい、一夏はこっちね。」

 玲奈は少し軽めの方を僕に渡してくれた。

「ごめんね、ありがと。」

「大丈夫大丈夫。さ、早く持って行こ!二人共お腹すかして待ってるよ!」

「そうだね、行こっか。」


 席のほうまで行き、二人がどこにいるか見渡す。どこだろ……。

「一夏お姉さまこっちですー!」

 どこからともなく、柚の声が聞こえてくる。見つけた。大きな声を出してくれたおかげで見つかった。

「柚、ありがと。恥ずかしくなかった?」

「何がですか?」

「いや、分かってないなら大丈夫だよ。待たせてごめんね。」

「とんでもないです!」

 人がそこそこ居る場所で大きな声で誰か呼ぶのって少し恥ずかしくないんだろうか?僕だったら周りの視線が少し気になっちゃうけどな……。行動自体が恥ずかしい事ということではないのだが……。凄いな、柚は。

「はい、カツ丼。これは月見さんかな?」

「そうっす!どもっす。」

「塩ラーメンが柚かな?」

「はい!ありがとうございますー!」

 僕はオムライスで、玲奈はカレーだった。どれを見ても美味しそうだった。これから毎日食事が楽しみだな。


「皆のご飯美味しそうだね。」

「どれも美味しそうだねー。一夏は私のやつ一口食べる?」

「え、いいの?」

 ちょっとカレーに興味があったんだよな。いずれ食べるつもりだったけど、一口だけ味見はしてみたかった。

「いいよいいよ。」

「ありがと。」

 玲奈のお皿から一口貰おうと思い、姿勢を変えようとしたところ玲奈がスプーン片手にこちらへ手を伸ばしてくる。

「あーん。」

「え?」

「はい、あーん。」

 女子の間では普通なのだろうか?僕は人生で自分がこんな状況になるのは初めてだから分からない。せっかく自分のご飯を分けてくれようとしてるわけだから、断るのも変なのだろうか。

「あーん……。」

 凄い緊張した。今の一瞬で凄い体力を使った気分……。

「美味しい?」

 玲奈は微笑みながら聞いてくる。

「美味しいよ。」

「えへへ。良かった。」

 本当は味なんてよくわからなかった。美味しい気はしたけど、凄く曖昧だった。

「一夏も私に一口食べさせてよ。オムライス食べてみたい。」

「え、ああ、うん。」

 当然と言えば当然なのかもしれないが、テンパっていて凄く挙動不審な反応をしてしまった。

「あーん……。」

「あーん。」

 玲奈の口へとスプーンを入れる。なんか少しいけないことをしてる気分だ……。

「このオムライス美味しいねー。今度頼んでみようかな。」

「そうだね……。」

「お姉さま……。」

「柚、どうしたの?」

「私にもお姉さまのオムライス一口食べさせてもらえませんか?!」

「お~。勇気あるっすね~。」

 そんなにオムライス食べたかったんだろうか?

「いいよ。はい、口開けて。あーん。」

「あーん……。」

 二回目ともあれば手慣れたもんだ。精神的にも動きも不自然なとこは無いだろう。余裕をもって行動に移れる。

「美味しいです!とても美味しいです!世界で一番美味しいですー!」

「そう……?柚の舌にはここの料理が絶妙に合うのかもね。よかったね。」

「あぅぅ……。そういうことではないのです……。」

「ちょっと残念だったっすね……。」

「……?」

 どういうことだろ……。その後も四人で適当に喋りながらご飯を食べた。




「うー。お腹いっぱいだー。見た目より全然ボリュームあった気がする……。」

「確かにそうだねー。私もお腹結構一杯かも。」

 玲奈はベッドに横になりながらグターってしてる。食べたり食べさせたり、色々あったな……。結局あの後月見さんも食べさせて欲しいっすとか言ってきて皆で食べさせ合いが始まったんだよな。楽しいと言えば楽しかったけど疲れたな。


「柚と月見さんもいい人そうだったよね。」

「そだねー。一夏は秋月さんと仲良さそうだったね。知り合いなの?」

「え?いや、今日知り合ったばっかりだよ。朝偶然に柚が迷ってるところを見つけて知り合ったって感じかな。それが偶然同じクラスで自然と仲良くなった感じ?」

「そうなの?!それにしては特別仲良いって感じがしたよねー。何かめちゃくちゃ好かれてるって感じ?」

「え?そうかな……?確かに柚はペットみたいな可愛さがあるけど……。誰でもすぐ仲良くなれるって感じがしたけどな。」

「まぁ、分からなくはないけど。私はなんかちょっと好かれてない感じがしたかな……。」

「え?玲奈と柚ならすぐ仲良くなれるんじゃない?」

「だといいけどな……。」

 柚と玲奈なんて二人共人と関わるの好きそうだし、コミュニケーションも上手そうだから相性めちゃくちゃ良いと思うんだけどな。仲良くなったりするのってタイミングが重要だったりもするし、時間の問題な気がするけどな。

「月見さんはどうだった?」

「月見さんは普通だったかな。仲良くなれそうって感じがしたかなー。いや、別に秋月さんと仲良くなれないとかそういう話ではないんだけど、二人とも良い人そうなのは間違いないし!せっかくなら二人共と仲良くなりたいな!」

「そうだよね。私も月見さんと仲良くなりたいし。出来るなら皆と仲良くなれたらいいな。」

「私もそうかもー。出来る事なら皆と仲良くなりたい!」

「それこそ玲奈みたいなタイプだったらすぐなんじゃない?人とのコミュニケーション上手そうで羨ましいかな。」

「えー?そうかなー?」

「逆に違うの?今まで違ったりした?」

「うーん……。」

 あれ……?僕が思ってたより何かある感じだ。僕が知ってる玲奈だったら「そうかも。」ぐらいで返してくれると思ってたんだけど……。

「苦手では無いと思うけど、正直分からないんだよね。」

「分からない?何が?」

「小学生の頃は色んな人と遊んだりもしてたし、仲よくしてもらってたんだけどさ。中学入った時ぐらいから人とあんまり関わらなくなっちゃたんだよね。」

「え……?何かあったとか?」

 深く入らないほうが良い話なのかもしれないけど、玲奈の過去なだけあって興味が湧いてしまう。何か困ってる事とかがあるなら助けてあげたい。

「誰にも言わないでほしいんだけどさ……。」

「うん。」

「中学入った時ぐらいから少しぐれちゃったんだよね。何か全部が嫌になっちゃってさ。学校にもろくに行かなかったし、周りの人とも関わるのめんどくさいなって。」

「え、そうなの?!」

「そうなんだよねー。色々あって高校からはちゃんとしなきゃなって思ってさ。」

「そっか。まぁ、いいんじゃない?今がやる気に満ち溢れてるなら。玲奈なら大丈夫だよ。もし、困ったことがあったり辛いことがあったら言ってよ。できるだけ助けてあげるからさ。」

「へへ。一夏は優しいね。ありがと。どうしようもなく辛くなったら助けてもらおうかな。」

「別にそんなに溜め込まなくても、ちょっと何かあったら言ってくれたらいいよ。ルームメイトだしさ。」

「ありがと。一夏がそう言ってくれたらなんか嬉しいな。」

「そう?」

 玲奈は僕の方を見つめながら微笑む。皆知らない間に色々な事を経験したりしてるんだな。まさか玲奈がそんな時を過ごしてたとは思いもしなかった。

「一夏みたいな人に出会えてよかった。私が困ったりしたら助けてね。」

「任せて。」

 玲奈はベッドから立ち上がり部屋の中を歩いていく。

「ちょっとシャワー浴びてくるねー!」

「わかった。」

 お風呂入ったりシャワー浴びる時間とかって家庭とか環境によって大分変ったりするよね。実家だったら6時過ぎには入ったりしてたな。他の家庭だと八時とか九時とか寝る前とかって聞くし。

 皆辛い事とか苦い事を経験してるもんなんだな……。僕は今おかしな生活をしてるけど、それ以外は気楽に過ごしてきた気がするな……。僕の目的は学校を良くするために皆を助ける事だからな。玲奈もそうだけど他にも困ってる人が居たら助けてあげないとな。

「一夏ー?!聞こえるー?」

 バスルームから大きな声で僕の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「玲奈ー?どうしたのー?」

「私その辺にタオル置いてない?忘れちゃったみたいなんだけど……。」

「ちょっと待ってねー!」

 タオル?どこに置いてるんだろ……。荷物の所らへんだろうか。うーん。見当たらないな……。とりあえず今日は僕が持ってきたタオルで我慢してもらおうか。

「玲奈ごめんー。見当たらなかったから僕のタオルで我慢してくれない?」

「私はいいけどー。一夏は良いのー?

「私は大丈夫だから。」

「じゃあ、それでお願いー!脱衣所に置いといてー!」

「分かったー。」

 自分の荷物からタオルを探して、出来るだけ綺麗そうなやつを用意する。脱衣所には玲奈が脱いだと思われる服とこれから着るパジャマが置いてあった。下着も。つい目線がそっちにいってしまう。ダメだ、気を付けないと。

「玲奈ー。ここにタオル置いておくからねー。」

「一夏ありがとー。」

「わわっ?!」

 タオルを置いたと同時に玲奈がお風呂場のドアを開けた。丸見えだ。勿論玲奈の裸が……。思わず目を背ける。

「どうしたの?」

「いや、丸見えだよ?!」

「え?いや、別に女性同士なら良くない?私が気にしなくても、一夏が気にするのか……。ごめんね?お粗末な物見せちゃって。」

 そうじゃない……。いや、僕は色々な意味で気にはなるけど……なんかこのまま肯定すると悲しませそうだし、困ったな……。

「ごめん、別にお粗末とかって思ったわけではないよ……。良い体してると思うし……。」

「目を逸らしながら言われても説得力ないな……。そんなにダメな体かな……。ちょっと自信持ってたんだけどな……。」

 ダメだ。全部が裏目っている。誰か助けてくれ……。玲奈の気持ちを尊重しながら僕の意見を伝える名案はないのか?!


「玲奈は本当に魅力的な体をしてると思うよ?!」

 見てすぐに目を背けたが、僕の目には玲奈の体がしっかりと記憶されている。思いだすだけで顔が熱くなりそうだ。

「えー?私の顔をちゃんと見て言ってよ~。そうしたら許してあげる。」

 何で僕が怒られる側なんだろ……。

 体を見ないように、出来るだけ顔を見て言うしかないか……。

「ほら~早く言ってよ~。」

「分かったよ……。」

 体を玲奈の方に向けて、視線を顔に。

「玲奈は良い体してるねって、ほら。」

「玲奈は……良い体してるね……。」

 最初は顔を見る事に集中していたのだが、気がついたらいつのまにか体を見ていた。

「なんか、マジっぽいね……。ちょっと照れちゃうな。」

「玲奈がそうしろって言ったんでしょ?!もう戻るからね!」

「タオルありがとねー。」


 女性の体をマジマジと見てしまった。それも幼馴染の。バレた時どうしたらいいんだろ。こっぴどく怒られそうだ。そのためにも、バレないように、男って気づかれないようにしなきゃな。

 それにしても、女性の体って凄いな……。僕には少し刺激が強いみたいだ。でも、女子校で生活するってなるとある程度なれないとダメなんだろうな……。今みたいに一々反応してると不自然がられるかもしれない。


 体を拭いた玲奈が浴室から出てくる。

「あははー。さっきはごめんねー?なんか一夏っぽくない反応だったから、つい。からかいたくなっちゃってさ。」

 玲奈は舌をペロっと出しながら謝ってきた。

「ちょっと予想外の出来事だったからびっくりしちゃったかな……。」

「でも、私そんなにおかしいことしてないわよね?」

「私が出た後にお風呂から上がってくるのが普通じゃない……?」

「そうかなー?後タオルさえあれば、体を拭いてお風呂から上がるって時だったからさー。タオルが来たら行くのもそんなにおかしな事じゃないと思うけどな~。」

 言われてみればそんなにおかしい事ではないのかもしれない。僕も同性相手で同じ状況だったら同じことしてるかも。

「私が悪かったわ。ごめん。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……。」

「そんなに謝られる事でもないけど……。私の体そんなにおかしくないよね?」

「え?綺麗な体してると思ったけど……。」

 さきほど見た体を思い出してしまう。成長してて、小さなとき見た体と全然違い驚いたな……。

「顔赤いよ?」

 ヤバい、思いだし過ぎてたかもしれない。。

「ごめんごめん。本当に魅力的な体だと思うよ。本当だから。」

「ありがと。そう言ってもらえると嬉しいわね。何だかんだ同性からの誉め言葉は凄く嬉しいもの。」

 そう。僕は同性なんだ。落ち着け。


「そ……そう!私は玲奈と違って胸とか全然無いから、現実を受け止められなくてさ!さっきは目を背けちゃったんだよね!」

 どうだ?これなら少し説得力あるんじゃないか?僕は当たり前だけど、男だから胸が無い。少し盛った方が自然かとも思ったのだが、無い方がで貫いたほうが楽かなって思って結局何もなしのままにした。


「あはは……。それは何かごめんね?私は一夏みたいな体も好きだけどな……。」

 凄い気を遣わせたコメントを言わせてしまったが、これはしょうがない。今はこれで納得してもらうしかないな。

「ありがと……。だから、本心だからね!」

「もう疑ってないわよ。私が一夏みたいな体が好きなのも本当よ?信じてくれる?」

「え?うん……。信じてみる……。」

 凄い励まされてるのだろうか?貧相な体をしてるから同情を駆っているのだろうか。

「じゃ、私もシャワー借りるね!」

「あ、うん……。」 

 少し元気がなさそうな玲奈を横目にバスルームに歩いていく。僕はちゃんと忘れ物しないようにしないとな。服と下着ちゃんとあるな、うん。


 今日は初日から色々と疲れる日だったな……。段々と慣れていくのだろうけど。初日の感想としては、女子校じゃなかったら凄く過ごしやすそうな学校だなって思っただけだったな。

 あー、シャワーが気持ちいいな。今日も悪くない日だったし、これから頑張らないとな。寧ろこれからの方が色々な事が待っているだろう。気を引き締めないと。

 それに友達も無事何人かは出来たし、それは本当に良かったな。幼馴染と同じ部屋になったのは不幸か幸か分からないけど、僕がミスをしなければ向こうの事は分かってるし上手くやっていけそうだ。

 この学園に問題なんてあるのだろうか。明日からは自分の事だけじゃなく、学園内の事も考えないとなー。


 シャワーを浴び終わり部屋に戻る。部屋に戻ると玲奈はテレビを見ていた。この寮凄いよな。部屋に一台テレビがあるなんて。それに特別小さいテレビとかな訳でもない。普通のサイズだ。


「あ、一夏。上がってきたのね。」

「うん。面白いテレビやってる?」

「どれも普通って感じかなー?なんかボーっとしながら見てるだけだからあんまり頭には入ってないかも。」

「そういう時あるよね。私もそんな時多いかも。」

「一夏……。その。」

「どうかした?」

 玲奈が凄く神妙な顔をしている。僕がシャワーを浴びている間に何かあったんだろうか。

「さっきはごめんね?」

「え?」

「私は自分の事しか考えてなかったけど、一夏が自分の体の事気にしてたんなら凄く申し訳ない事しちゃったかなって。」

 僕の発言のせいで玲奈は必要以上に自分を責めていたみたいだ。罪悪感が凄い……。

「本当に大丈夫だから!玲奈は気にしなくていいよ。全部私が悪いから。私も自分の体をそんなに気にしてる訳じゃないし。」

「それでも申し訳ない事言っちゃったかなって思って。私は一夏とは仲良くなりたいのよ。だから、悪い事したらそのままうやむやにしときたくないの!」

 玲奈って変に律儀な所があるんだよな……。当の本人の僕は一切気にしてないのだけど……。

「私は別にいいんだけど……。これから普通に接してくれたら。」

「私が嫌なの!モヤモヤするもん!」

 どうしたいんだ……?

「玲奈はどうしたら気が済むの……?」

「私の体を好きなだけ触ってくれないかな?!一夏は私の体嫌いじゃないんだよね?そう言ってたよね?」

「いや、そうは言ったけど……。」

 何がどうなったらそうなるんだ?!どういう思考回路してるんだよ……。

「お願い!そうしてくれないと私の気が済まないの!」

「えぇ……。」

 玲奈の気迫に引いてしまう。こんなとき僕はどういった選択肢を取ればいいんだろう……。

「胸とか!好きなだけ触ってくれていいから!他の所でも!」

 胸……。男としては凄く魅力的な提案だけど、普通の返答ってものが想像できない。触ってみたい気持ちは山々だが……。

「いや、でも……。」

 僕だって理性と戦ってるんだ。あまり甘い誘惑をしないで欲しい……。

「えい!ほら!」

 玲奈は僕の手を引っ張って自分の胸に押し付ける。

「何やってるの?!」

 手の平に玲奈の胸の感触が……。凄く柔らかい。これって……手に力を入れたりしてもいいものなんだろうか……。いや、だめだ……。我慢しないと……。

「どう?好きなだけ触ってくれていいから!遠慮しないで!」

 僕はもうダメかもしれない。欲望に負けて手に少し力を入れてしまう。

「あっ……。」

 無言で手を動かしてしまう。今までこんな手に神経を集中させたことがあっただろうか。最初は躊躇して全然手を動かさなかったのに、一度軽く揉んで相手の反応を見てまだいけると思った途端歯止めが効かなくなってきた。

「一夏……。どうかな?私の胸の感触。」

「凄く柔らかくて気持ち良い……。」

「そう……。良かった……。好きなだけ良いよ?」

 何だその上目遣いは……!男の心を掴むのが上手すぎるだろ……。

 ダメだ……。興奮してきて、ズボンの方に違和感を感じてきた。これはマズイ。この違和感に気づかれたら大問題だ……。

「も、もう大丈夫だから!」

 凄い気持ち良い感触だった……。女性の胸って凄いんだな……。これなら女性同士でも憧れてしまうかも。

「一夏顔真っ赤だよ?」

「流石に女性同士だからって、空気が空気だったから……。何か凄い緊張したんだよ……。」

「流れで触るのとはちょっと違ったからね……。私も普通に触られたりするのより気持ちよかったかも……。」

「ははは……。」

「いつでも好きなとき触ってくれていいよ?」

「ありがと……。気が向いたら触らせてもらうよ……。」

「うん!」

 玲奈の機嫌は大分良くなってた。僕は……凄く疲れた。このまま部屋に二人でいたら変な気になってしまいそうだ……。少し外で涼しい風でも浴びてこよう。冷静にならないと。

「ちょっと軽く散歩でもしてくるね……。」

「え?うん、分かった。あんまり長くなっちゃだめだよー?外も暗いから気を付けてね?」

「ありがと。じゃ、ちょっと行ってくるね。」




 はぁ……。外のの空気は気持ち良いな。少し冷静な判断が出来るようになってきた。僕は何やってたんだろ……。玲奈の胸を触るなんてな……。柔らかかったな……。でも、もうだめだ。気を付けないとな……。危ない事はしないようにしないと。僕は普通の生活をするのが大事なんだ。素性がバレないように気を付けないと。

 周りの道を知らないから、結局そんなに遠くに行くことも出来ず学校の近くをゆっくり散歩する。

 時間が時間なだけあって人が少ない。こういうのって女性とかだと怖かったりするんだろうな。

 今までしてこなかった思考が頭をよぎってそんな自分に驚いてしまう。

 女性目線で物事考えたりなんて今までなかったな……。こういう考え方の積み重ねが僕には必要なんだろうな……。

 それにしてもこの辺りは雰囲気が良いな。景色とかも僕好みだなぁ。もう少し遠くとかまで行ったら他にも良い景色とかがあるのだろうか。周りに何があるか良く知らないんだよな。気が向いたら休みの時にでも散歩に行ってみようか。

 ふぅ……。結構歩いたかな。遅くならないうちにそろそろ戻ることにしようか。


 あれ?ここどこだっけ……?寮から学校の近くに来て、あまり遠くまで行かないようにしてたんだけどな……。んん?

 後ろを見たら知らない景色で困惑してしまう。前に進むときと来た道を戻るときって違う景色だから全然雰囲気が違うんだよな。

 落ち着いてみたけど全然どこか分からないな。

 どうしよっかなこれ……。うーん……。周りは暗くて良く見えないな……。

 人が居る……!これは聞くしかない!このチャンスを逃したら一生人に会えない気がする!そんな気がする!

 最後の綱だ……。この人に場所を聞くしかない……。

「あのー、すみません……。」

「え?」

「あ、あれ?」

「久遠さんじゃないっすか?どうしたんすか?」

 偶然声を掛けた人物は柚のルームメイトの月見さんだった。僕はほっと一安心した。これで寮に帰れる……。

「良かったー!こんな所で月見さんに出会えるなんて!」

「え、え?」

「散歩してたら道迷っちゃって……。寮どこかなーって思ってたんだよね!いやー、良かった良かった。」

「あー、そういう事っすか。久遠さんって意外とお茶目な所あるんすね。」

「あはは……。自分でもこんな事になるなんて思いもしなかった……。初めてだったから。」

「もうちょっと散歩してからでいいっすか?外の空気が思ったより気持ちよくて。もうちょっと味わってたいんすよねー。」

「全然良いよ。その辺は月見さんに任せる。」

 僕はもう何でもいいかな。とりあえず寮に帰れるのが保証されてたら他は何でもいい。


「久遠さんも散歩してたんすか?」

「さん付けじゃなくて、呼び捨てでいいよ。久遠でも一夏でも。」

「本当っすか?急に呼び捨てとかになってたら、ルームメイトに怒られちゃいそうだな……。」

「え、なんで柚に怒られるの?」

「まぁ、ちょっと色々あるんすよ……。自分の思い違いかもしれないっすけどね。」

「そうなんだ……?」

 何があるんだろ……?僕関係の事なのかもしれないけど、あまり分からないな……。何だろ。

「私は本当に何て呼んでくれても構わないけど……。どうせなら仲良くなりたいし。」

「じゃ、じゃあ……。一夏。」

「うん。その方がしっくりくるかな。」

「どうせなら自分の事も呼び捨てで呼んで欲しいっす。自分が呼び捨てにしてるのに、さん付けで呼ばれるのはちょっと違うと思うっす。」

「そうかな……?呼ばせておいて、私がしないっていうのも可笑しな事かもしれないね。」

「そうっすそうっす。」

「凜、よろしくねー。」

「あはは……。よろしくっす。」


 よし。段々と距離を詰めれてるな。成長したな、僕。この調子で関わることを恐れず、友達を増やせたらいいな。


「で!一夏は散歩してたんすか?」

「そうそう。夜風でも浴びたいなーって。この辺りも知らないし、気分転換になるかなーって。」

「気分転換って何かあったんすか?」

「いや……。」

 本当の事は言えない。玲奈の胸を触って変な気持ちになってたなんて……。ここは誤魔化しておこう。

「何かあったわけじゃないよ。気分転換って言い方が悪かったかもしれないけど、ちょっと一人で夜風でも浴びようかなって。」

「まー、自分もその気持ちは分かるっすね。」

「凜も散歩してたんだよね?」

「そうっすね。部屋に常に誰か居るって今迄なかったっすから。ちょっと気を使ってしまうなーって。」

 そういう事もやっぱあるだろう。知らない人と一緒に過ごすわけだから。部屋に常に家族が居るってなってもちょっとしんどいかもしれない。それが赤の他人なのだから、あるだろうな。

「なるほどねー。」

 僕の場合幸いまだそういうのは感じてなかった。一人が好きだったり、一人に慣れてる人は一人の時間が減ったことに対して慣れるのが大変そうだな……。

「別に秋月さんが苦手とかそういう訳じゃないっすよ?」

「私も何となくは分かるよ。環境が変わると慣れるまでは大変だよね。」

「そんな感じっすね~。」

 誰しも悩みとかってあるもんなんだなー。凜の悩みは時間の問題な気もするけど。頑張って慣れてもらうしかないかな。


「一夏は随分秋月さんと仲が良いみたいっすね。それと、東雲さんとも。」

「え?そうかな?まぁ、二人共出合って初日っていう感じは確かにしないかも。」

「何か仲良くなるコツとかってあるもんなんすか?自分あんまり得意じゃないんすよねー。」

「そうなんだ?雰囲気見てると得意なのかな?って思っちゃってた。私は話しかけたりしやすい感じだなーって思うけどな。」

「そ、そうっすか?あんまりここに居ない人の話を出すのもあれかもしれないけど、柚もルームメイトの人良い人そうで良かったーって言ってたよ。」

「あはは……。それは良かったっす。」

 第一印象が僕と柚から見て良い人に見えるって言うのは、やっぱ良い事なんじゃないだろうか?良いってだけで他の人からしたら関わり易そうだけどな。周りが思うのと、自分で思うのは少し違うのかもしれないけど。

「凜は柚とも今以上仲良くなりたいんだよね?」

「ルームメートっすからね。これから一緒に生活していく以上仲良くなるに越したことはないんじゃないんすかね~。」

「それはそうかもね。」

「なんかいい方法ないっすかね?」

 仲良くなるのにいい方法って何なんだろう……。僕もいざ何かあるか?って言われたらあんまり出てこないな……。

「うーん。時間の問題な用な気もするけどなー。まだ出会って初日でしょ?」

「それはそうっすけど……。心構えとかないっすか?ちょっと不安なんすよね。」

「心構えか……。」

 心構えって何なんだろ。僕は何も考えてなかったな……。

「自然な感じにしとけばいいんじゃない?まずは自分が疲れすぎないようにとか。必要以上に考えすぎない方がいいような気もするけど……。」

「中々難しい事言うっすね……。自然な感じか……。」

「私からしたら二人共良い人って感じだから、時間さえあれば自然に仲良くなるんじゃないかなって思うんだけど。あんまり考えすぎない方が良さそうかなって。」

「なるほどっすね~。ちょっとそれを意識してやってみるっす。また相談とか乗ってくれると嬉しいっす。」

「それぐらいだったら全然構わないよ。」

 学校の問題を解決するのが僕の役目でもある。友達が困ってたら助けるのは当然だ。

「で、一夏にちょっと言いたい事があるんすけど……。」

 凜は少し困った表情を浮かべ僕の方を見てくる。

「何?どうかした?」

「ここどこっすかね……。」

「え?」

「話しながら歩いてたらどこか分からない所に来てたっす。」

「え~?!」

 僕と凜はこれからどうなっちゃうんだ……。無事帰れるのだろうか。






 それから迷いつつも何とか帰れた僕と凜は寮の管理人さんにこっぴどく叱られた。門限の時間を少し過ぎてしまっていたらしく、次やったら反省文を書かされるとの事。初日から反省文は何とか避けられた。そんな事になってらお祖父ちゃんに何を言われたか分かったもんじゃないし、本当に良かった。


 玲奈も帰りが少し遅かったから心配してたみたいで、少し迷惑を掛けてしまった。

 次からは迷子にならないように気を付けないとなって思わされた。ルームメイトぐらいには心配を掛けないようにしないと。



 うぅ……。朝だ……。今日から本格的な学校生活が始まる。何と言っても今日から授業が始まる。気を引き締めて挑まないとな。レベルが高いから頑張って置いて行かれないように努力しないとなー。初日から中々気を抜けない。

 ベッドから起き上がると玲奈は隣のベッドでぐっすり寝てるようだった。時計を見てみると起きようと思ってた時間よりも少し早めに起きてしまったみたいだった。

 さて、どうした物かな……。何して過ごそうか……。食堂へ行くにはまだ開いていないだろうしな……。知らない場所で空き時間を過ごすのって意外と難しいな。あんまりうるさくて玲奈を起こしても可哀そうだしな。

 とりあえずさっさと服を着替えて置こう。万が一着替える所を見られたりしたら大問題だ。これは明日からも取り入れれることだな……。今日早めに起きてよかったかも。早めに起きて着替える事を覚えておかなければ。

 一応の事を考えて浴室で着替えをすまし、脱いだ物は片付けて置いた。

 後は何しよう。何かこういう時間を潰す良い物探さないとな。


 結局この部屋に娯楽などテレビぐらいしかないから、玲奈を起こさないように音量を小さくして見て置く事にした。二度寝してもよかったかもしれないな。

 テレビを見てるとしばらくしてから玲奈が起きてきて、支度をして朝食を摂りに行くことに。

「ふぁぁあ~。」

「玲奈は眠そうだねー。あんまりちゃんと寝れなかった?」

「ん~。朝が苦手なだけかも。一夏は眠くないの~?」

「そうだねー。全然平気かな。ちゃんと寝てたしね。玲奈は朝いつもそんな感じなの?」

「そうかも。寝ても寝ても寝足りないかな。」

 そう考えると僕は朝得意な方なのだろうか。どちらかというと気が張っていただけなのかもしれないけど。一人じゃないからあんまりだらけている訳にもいかないしな。


「朝苦手なんだねー。朝苦手なら起こしてあげようか?私多分少し早めに起きるだろうし。」

「いいのー?どうしよっかな……。とりあえずお願いしてみようかな?」

「いいよ。分かった。明日からそうするね。」

 これで僕の方が早く起きる事になって朝の着替えは安全に行えそうだ。よしよし。

 こういう事の積み重ねが僕の安全な女子校生活を守ってくれるんだ。


「中々起きなかったら叩き起こしてくれて構わないからねー。」

「流石に叩いたりはしたくないけど……。どうなるかはやってみないと分からないね……。」

「私も起きれるようにならないとなー。一夏にあんまり手間掛けさせるわけにはいかないし。」

「今日ぐらいの感じで起きてくれたら別に大丈夫だよ?」

「眠い時ってどうなってるのか自分でも分からないのよね。今日は目が覚めてボーっとしてたら段々と状況が分かってきて、起きなきゃ!ってなったの。一夏が制服に着替えてて、もうそんな時間?!ってびっくりしたのよね。」

「そうだったんだ。」

「寝過ごしたかと思ってびっくりしたわよ~。」

「流石にそんな状況で私も玲奈を起こさずテレビ見てる訳ないでしょ。」

「それもそうかも。でも、朝って冷静に判断出来ないのよねー。」

 そんなもんなのかな。眠い時とかは確かに判断力が落ちるのかも。


「まぁ、明日からはとりあえず起こしてあげるから安心して寝てなよ。」

「そうさせてもらおっかな。一夏は今日何食べるの?」

「んー、どうしよっかな。まだ決まってないんだよねー。」

 朝食がどれも美味しそうってのも問題だな。朝からどれにしようか悩まされる。

「私も何にしよう……。まだ眠いし、軽めの物にしておこうかな。サンドイッチとかが丁度いいかも……。」

 うわー。凄い女子っぽい……。朝食にサンドイッチって本当に女の子だ……。僕もサンドイッチとかにしといた方が良いのかな?今まで朝食にサンドイッチなんて考えた事も無かったな……。女子力高い。


「私はカツ丼にしとこうかな。」

 自分のお腹の減りには嘘は付けなかった。朝からガツンとしたものを食べさせてもらいます。女子っぽくなくてごめんなさい。

「え~?朝からカツ丼?凄い元気だね……。」

「早く減ってお腹空いてたからね。それに昨日見てて美味しそうだったんだよねー。一口貰った時も凄く美味しかったし。」

「どれも美味しそうなのは確かに魅力的だよねー。」

「玲奈も早く起きたら朝からいっぱい食べれるんじゃない?」

「考えとく……。朝は出来たらゆっくりぎりぎりまで寝てたいかも。」

「朝から美味しい物食べたら一日中元気になれるかもしれないよ?」

「サンドイッチも美味しいよ、多分。」

「それはそうかも。」

 朝は出来るだけゆっくり過ごしたいみたいだ。ご飯の誘惑よりも睡眠欲の方が大きいらしい。

 食堂でご飯を受け取ってから席を捜しているとご飯を食べてる凜と柚を発見したので混ぜてもらう事に。

 少ししか見てないが、凜が柚と楽しそうに喋ってるのを見て一安心する。

 凜が思ってるより順調そうだな……。何も問題なさそうだ。


「昨日は迷惑かけて申し訳なかったっす。」

「あれは私の不注意でもあったから気にしないで……。」

「昨日二人に何かあったの?」

 そういえば玲奈には何も話してなかったな……。

「昨日の夜帰るの遅かったでしょ?散歩してたらちょっと迷子になっちゃってさ。」

「ええ?!一夏お姉さま大丈夫だったんですか?!」

「大丈夫だったからここにいるんだよ……。」


「月見さんが迷惑掛けたってどういうこと?」

 昨日起こったことを軽く説明する。

「で、凜に助けてもらおうと思ってたんだけど話してる内に二人共道が分からなくなっちゃってさ。」

「いつの間にか呼び捨てになってる?!」

「一夏お姉さまと月見さんに一晩でどんな事が起こったんですか?!」

 何故か必要以上に驚く二人。呼び捨てに変わるってそんなに重要な事なんだろうか?

「やっぱり……。」

 凜は軽く頭を抱えていた。何か悪い事しちゃったんだろうか……。

「今説明した事しかなかったよ?迷子の所を助けてもらって、さん付けも他人行儀すぎるかなって思って。私からお願いしたんだよね。柚のルームメートでクラスメートなら仲良くなりたいしさ。」

「そうっすね……。」

 僕の一言を聞いて少し微笑む凜。

「いやー、でも昨日は本当に良かった。凜と出会えてなかったら一人でずっと迷ってたと思うし。一人で迷ってた時心細くて凄い不安だったんだよね。凜がいてくれて本当に助かったよ。」

「それなら……。月見さんがお姉さまを助けてくれたんなら私から言う事は何もないですね。ぐっじょぶです!」

「ま、二人が安全に帰ってこれてよかったね、本当に。」


「いやー、自分も迷子になるって思わなかったっす。今度から気を付けるっす。」

「月見さんが帰ってこなくて心配してたんだから……。」

「それはほとんど私のせいだから……。多分凜も最初から最後まで一人だったら迷ってなかったよ……。柚にも迷惑掛けてごめんね?」

「お姉さまも気を付けてくださいね?多分東雲さんも心配してたでしょうし……。」

「そうよ?」

「ごめんごめん。次からは気を付けるよ。」

 凜が迷子になったのなんて本当に僕のせいでしかないからな。迷惑かけて本当に申し訳ない。僕のせいで凜が事件にでも巻き込まれちゃったら困ってしまうし。自分の行動に責任を持たないと。


「それにしても、一夏は朝からカツ丼なんてよく食べれるっすね……?」

「お姉さまは凄いです!一日の始まりは沢山のご飯から!ということでしょうか?」

 やっぱり朝からカツ丼は突っ込まれてしまうものなのか。周りが男だらけだったらこんな事もないんだろう。

「お腹空いてたから……。そんなに変かな?辞めた方が良い?」

「別に朝からカツ丼でもいいんじゃないっすか?自分は眠くて到底食べれないっすけど……。」

「私も朝からカツ丼はちょっとしんどいかもです……。」

 普通の女子たちは食べないみたいだ……。残念だ。

「そっか……。」

「一夏の個性って事でいいんじゃない?!別に太ってる訳でもないしさ!ほら、二人も励まして励まして!」

「自分が言いだしておいてあれっすけど、本当に別に良いと思うっすよ?」

「そうですそうです!お姉さまが元気なのが一番いいと思います!」

「ほら!二人もこう言ってるじゃない!別に気にしなくていいと思うわよ。」

「皆……ありがと……。」

 僕は明日からも朝食はいっぱい食べよう。少し元気が出た。僕は良い友達を持ったみたいだ。





 今日の授業は初日と言う事もあり、ほとんど説明ばかりだった。高校一日目から難しい内容をやるところは珍しいだろうが、とりあえず勉強面では問題なさそうだなって感じるぐらいだった。あとはさぼらず、普通にしておけば勉強面は問題なさそうだ。

 

 今日変わったことと言えば部活紹介があるらしい。午後から各部活の宣伝みたいなのが始まるとか何とか。

 いつもの四人で適当に見ていくことに。

「皆は部活とか入るのー?」

 とりあえず皆に聞いてみる。皆はやりたい事とかあるのだろうか?

「私はテニス部に入ろうかと思ってます!」

 柚はうちのテニス部に入るために来たんだっけか。強いらしいからな……。頑張れ、柚。

「テニス部入るんだ~?秋月さんってテニス強いの?」

「どうでしょう……?上には上がいますからね。中学の時はキャプテンを務めてましたけど、この高校では難しいと思います……。」

「テニス部キャプテンっすか!そりゃ凄いっすね~。応援するっすよ!」

「私も応援してるよ、柚!」

「ありがとうございます!」

「勿論私も応援してるわよー!頑張ってね~!」

「ありがとございますー!」

 皆で柚のテニスの試合とか応援に行けたら良いな。是非、頑張ってもらいたい。テニスとか難しそうだな~……。

「他の二人は?」

「自分は今の所入る予定ないっすね。運動系は特に。文化部で面白そうなのがあれば入ろうかな~って思ってるぐらいっすね。」

「いいねーそれ。私もそうしようかな?」

「そんな適当でいいんすか……。」

「え!じゃ、私もそうしよっと~!」

「ノリにもほどがありすぎるっすよ……。」

「わ、私も皆と同じ部活に行きます!」

 僕たちの変なノリのせいで柚の心が揺さぶられている……。柚はダメだ……。テニス部の期待の新人って事が頑張ってもらいたいから!

「このノリ終わり終わり!私のせいかもしれないけどダメ!終わり!」

「ノリとかじゃなくてさー、私本当に入ろうとしてた所なかったら面白そうだなって思ったんだよね。」

「自分も面白そうではあるっすけどね……。知り合いが居たほうが気が楽ですし……。」

 三人で柚に方を見つめる。

「くっ……。テニス部に入ろうと決めてた自分が憎らしい……。私も皆と同じ部活で遊びたかった……。」

「あはは……。柚はテニス頑張ってね。私達も部活に入るかすら決まってないんだから。」

「ま、そうっすねー。」

「面白そうなのがあればいいけどね~。」

「っていうかテニス部に入るならここに居る必要もないんじゃない?テニス部行ってなくて大丈夫……?」

 今更だが、これは部活は行ってない人の為にやってる訳で、部活入るって決まってる人はもう何かやってたりしないのだろうか?

「新入生が部活入るのは少し先の事らしいっすよー。見学期みたいなのがあって、その後に決めるみたいな?」

「なるほどね。別に柚はそういうのを忘れて一緒にいるわけじゃないんだね。ちょっとほっとしたよ。」

「流石に自分の部活のなので分かってますよ!大丈夫ですから!」


 そりゃそうだろう。柚だからといってあなどっていた。


「不思議で面白そうな部活があればいいっすけどね~。なければ自分は帰宅部になるっすね~。」

「私も帰宅部っすね~。」

「私も帰宅部っすね。」

 三人そろって柚の方を見る。

「三人の誘惑やめてくださいよ!誘惑に負けちゃったらどうすんですか!私だって皆と一緒にいたいですよ!」

「ははは。ごめんごめん。柚をからかうのが楽しくなっちゃってさ。柚のテニスの応援とか行きたいし頑張ってよねほんと。」

「一夏お姉さまがそういなら……。テニス全力で頑張ります!」


 これで柚のテニス部生活は無事に訪れそうだ。

「それにしても私たちが三人が帰宅部かそれ以外かってのはこれに掛かってるからね~何か面白い奴合ったら良いわね~」

「二人は中学も入ってなかったの?」

「私は陸上してわよー。」

「陸上かー!かっこいいね~。玲奈はイメージ通りって感じだ!」

「えへへ、そうかしら?!」

 昔っから走りまわってるの好きだったからな~。何かあったら走ってやがったからな。昔のイメージ通りのままだ。

「自分はバスケっすね~。」

「バスケやってたんだ~?私と一緒だねー。」

 僕も中学バスケやってたんだよな~。友達が入れ入れって言うから入ったのに、一番早く辞めてったていうね。僕は結局だらだらとバスケを続けていたけど。それでも嫌いじゃなかったな~。走ってること以外は好きかも。ワンオンワンとか友達とやる分には盛り上がって楽しいんだよな~!

「まじっすか?!これは奇遇っすね~!中学バスケやってた二人がまさか二人共バスケ部に入らないってのも奇遇っすね!これは運命感じるっす!これからは一夏だけ信じるっす!」

 勢いしか伝わってこなかったが、一緒だったことがそんなに嬉しかったんだろうか。

「そうだねー!私を信じてくれたらきっと勝てるわ!」

「お姉さまは何に勝とうとしてるんですか……?」

「分かんない。今日の発言何も考えてないかも。ノリだけで喋っちゃってたかも。気を付けないと。」

「私としてはどんどん一夏が打ち解けて言ってくれてるようで嬉しいけどね!やっぱこれから仲よくしないといけないのに、よそよそしいってのもなんかね!」

「それはそうっすね!一夏が言ってたのも今になって何か分かってきた気がするっす!」

「何か言ってたっけ……。ま、そういうことだよね!」

 ノリで喋ってたら何も分からなくなってしまった。いったん落ち着こう。


「で、今日は色んな部活を見学できるって事なんだよね?」

「そうっすね。」

「なんか行きたいところ見つかった?」

「私は何も考えてなかったー!皆に合わせようと思って!」

 玲奈っぽい考え方だ。

「自分は何か高校とかにしかないんだろうなーって部活がちょっと興味あったっすね。」

「あるよねー。確かにあーいうのって興味湧くよねー。茶道部とかだよね?」

「そういうやつっす!他にもオカルト部とか不思議な部活あるじゃないっすかー!」

「分かる分かる!興味そそられるよねー!」

 僕が思ってるより凜と僕は相性が良かったのかもしれないな。似てるような部分が多かった気がする。今までにも。


「ぐぬぬ……。二人が思った以上に仲良くなってて羨ましいい!」

「玲奈も仲良くなろーよ!」

 玲奈が仲良くなりたいって言うから玲奈と凜を僕がぎゅーっと抱き寄せる。

「これで二人も仲良しだね!何も問題ない!良かった良かった」

「ちょっと痛いっす……。」

「私も……一夏って思ってたより力強いのね。」

 男の名残が出てしまった。

「前までバスケとかやってたからねー。力は少しはあるかも。強い方ではないけどね。」

「確かにバスケってやってると自然と力つくっすよねー。」

「スポーツならどれもなりそうだけどね。テニスとかってどこの筋肉がつくものなの?」

「テニスは足と腕に筋肉ついてる人よく見ますねー。やっぱその辺をメインに使うからでしょうか?」

「確かに。それはそうかもね。テニスで一番使う所だもんねー。」

 

「陸上ってやっぱり足の筋肉が凄くなるものなの?」

「私はバランスを意識してたけど、やっぱり足がつきやすいわね。」

「やっぱ部活ごとに違う事ってあるんだねー。」

「そうですねー。」


「それで私達って結局どこの部活見に行くことになってた?私あんまり何話してたかも何話されてたかも覚えてなくて。」

 何も覚えてなかった。僕はどんなことを考えながら何を話してたんだろ。

「脳死会話してたっすもんね。この紙に書いてあるやつ適当に見て回った方が良さそうっすね。」

「それが良さそうね。今日の一夏は何か様子がおかしいみたいだし。」

「おかしいかな?」

「「「おかしいです。」」」

 僕はどうやらおかしいらしい。気を付けないと。もう少し落ち着いていた方が良いのかな。


四人で色々な部活の部活体験に行ってみたけど、結局どれに入ることもせず立ち去った。

「思ったより良さそうなのなかったね。二人は大丈夫?入りたいのあったりしたら全然言ってくれても良かったんだよ?」

「自分も大丈夫っす。」

「私もねー。中々乗り気になるほどものは……。」

「この四人での部活戦士は柚だけって事になるね。皆の意思を引き継いで頑張ってね!」

「応援してるっす!」

「頑張ってね~!」

「皆さんの意思を引き継いで頑張ります!」

 柚は僕たち三人帰宅部の希望の光だ。


「じゃ、私部屋戻るね~。またね~。」

「あ、じゃあ私も。二人共またね!」


 

「二人共またっす~。」

「一夏お姉さまも東雲さんもまた~!」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ